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十六ページ目

 数時間ほど閉じ込められていた詰め所を出て、空を見上げる。古都で目覚めて以来初となる文明を前にして、気が狂わんばかりに焦らされた時間ではあったが、我慢した甲斐あってようやく自由の身となった。

 初の生身の人間との邂逅ということもあり、言葉の心配があったのだがそれは何とかなりそうだ。というのも、砦で出会った異形の魔物、【涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケル】の素材から作り出した、【反神生命ホムンクルス】に分類される【人飼の鎖竜】という物品を使って、この街に来る前に言葉を覚えていたためだ。【人飼の鎖竜】がなければ、おそらくこの街の住人とは意思疎通すらできなかっただろう。小竜と男の肉体がセットになったこの物品のことは、生成以来”竜飼い”と呼んでいる。


 まずは様子を見るため、竜飼いに衛兵との会話や諸々の手続きを任せた結果、ようやく街に滞在する許可を得ることができたという訳である。早速街の探索をしたいところだが、その前に詰所に入れられたときに一時没収された【エスカ式自動軍馬人形】と【エリオン式自動軍馬人形】、そして【カイゼンの木製馬車】を取りに行くことにする。

 といっても、馬車は詰所の裏にある倉庫のような建物の中に置かれているだけなので、すぐに見つけることができた。近くに誰もいなければ全書で回収してしまうつもりだったのだが、馬車の近くには見覚えのある男が立っている。

 先ほど街に入る際にひと悶着あったその男は、こっちに気づくや否や足早に近づきながら何事かを捲し立ててきた。だが、まだ慣れない言語を早口で聞いても何を言っているのか分からないので、竜飼いに相手をさせることにした。竜飼いはこの世界の言葉が分かり、さらにこちらの言葉も理解できるため、通訳としても大変有用に働いてくれる。


 竜飼いが男の相手をしている間に馬人形たちと馬車の状態を確認するが、預けている間に分解されたり傷つけられたりはしていないようだ。調べているうちに、男はこの場から去ったようだったので、それらを全書で回収してから街を歩いてみることにする。別に全書のことを無理に隠したいわけではないのだが、この街の常識が分からない以上、目を引く可能性があるものはおいそれとひけらかさない方がいいだろう。

 この”ガイネベリア”という街は、防壁で囲まれた城塞都市のような造りをしており、種々様々な建物や物が押し込まれているような印象を受ける。ただ、雑多というよりは多様な文化が共存しているように感じられた。


 しかしそんなことよりも気になるのは、街で売られている様々な物品だ。街の中でもひときわ広い大通りには、屋台や露店が所狭しと並んでおり、たくさんの食料品や生活用品などが売られているようである。実に多様で興味深い物品を見ていると、やはり胸の奥で物欲が燃え盛る。

 だが、早速購入しよう、と思った瞬間にとある問題に思い至った。


 先立つもの、すなわち金銭を持っていないのである。物欲に従うだけならば、力づくでもなんでもほしいものを奪ってしまえばいいのだが、それをやってしまうと今ここにあるものしか手に入らなくなってしまうし、なにより主義に反する……気がする。

 そのため、まずは金銭を得る手段を探したところ、”素材屋”なる店があることが分かった。基本的に業者向けの素材を取り扱っている店らしく、ここでなら【揺らぐ時森】や【揺蕩う澱窪】で手に入れたいくつかの素材を換金できそうだ。魔物素材の他に、【揺らぐ時森】で見つけた植物素材や、【揺蕩う澱窪】で手に入れた【霊回水】などの特有の素材もある。いくらかの小遣いにはなるかとあまり期待せずに訪問したのだが、その予想はいい意味で裏切られることとなった。

 素材屋の店主はこちらが出した素材を見るなり、素材に向かって何やら呟きながら念じ始めた。そして、突然目を見開いて驚愕し、代金はいくらでも出すからあるだけの素材を譲ってほしいといってきたのだ。無論すべてを売る気はないのだが、店主が提示してきた金額が金額だっただけに、当初の予定より多めに換金することとした。できるだけ多く売って金銭に変えたいという思いもあるが、【アベイル砦】からこの街までは、疲れ知らずの自動馬人形たちに昼夜を問わず馬車を引かせても約一ヶ月がかかっているのだ。素材がなくなったから明日戻るという訳にもいかないので、素材の残数にも気を付けなければならない。


 そういう訳で金は手に入ったので、いよいよ市場に繰り出すことにする。物品と引き換えにできる金銭を持ちながら改めて商品を眺めていると、先ほどよりもさらに欲しいという思いが強くなるから不思議なものである。

 市場にはそれほど高価なものは売っていないようで、一般人にも手が届くような金額のものがほとんどだ。多くは食料品であるものの、見たことがないそれらは是非手に入れたい。売り手にも買い手にも活気があり、その中に入ると言葉が完全に分からずとも、商品に興味が出て物欲が刺激されるのが分かった。時折、竜飼いに通訳をしてもらいながら、気になったものを片っ端から購入していく。


――――――――――

【ガイの実】を収集しました

【コンク鳥の胸肉】を収集しました

【コンク鳥の腿肉】を収集しました

【コンク鳥の翼腕先】を収集しました

【コンク鳥の白卵】を収集しました

【コンク鳥の黒卵】を収集しました

【白赤人参】を収集しました

【新芽キャベツ】を収集しました

【ラビエスの葉】を収集しました

【ラビエスの茎】を収集しました

【ガイネ印の白パン】を収集しました

【ガイネ印の堅焼き黒パン】を収集しました

【ガイネ印のシュガーブレッド】を収集しました

【ガイネ印のコンク鳥の串焼き】を収集しました

【ガイネスクエール】を収集しました

【ガイネスクワイン】を収集しました

【エンゴの着火棒】を収集しました

【エンゴの湧水壺】を収集しました

【エンゴの明夜灯】を収集しました

【ガイネ印の木製人形】を収集しました

【ガイネ印の木製犬人形】を収集しました

【ガイネ印の木製猫人形】を収集しました

【ガイネ印の白土平皿】を収集しました

【ガイネ印の白土深皿】を収集しました

【ガイネ印の白土杯】を収集しました

【紐麻のシャツ】を収集しました

【紐麻のズボン】を収集しました

【紐麻のロングローブ】を収集しました

――――――――――


 店は多いのだが、売っているものは似ているものも多く、主なものは大体買ってしまった。だがそれはこの屋台通りに限ったことで、街の別のところには武器屋や本屋なども店を構えているという。すぐにその店を訪問したいところだが、すでに日は落ちかけ、周囲の活気も徐々に落ち着いていっていることに気づく。

 買い物をしている間に、評判がいい宿屋の話を聞くことができたし、宿代に困ることもないだろう。久々に静かなところで寝たいとも思うし、今日は早めに宿に入って休むとしよう。

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