表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/130

十五ページ目

 正直言って、この砦に来てから、というよりその道中も含めて不可解なことばかりだ。気づいたら牢屋に入れられているし、砦の中はひとりでに動く鎧が彷徨っているし、前に見かけた鉄人形はバラバラになって打ち捨てられている。

 だが、最上階の部屋で相対した存在は、それらをひっくるめても奇妙で、厄介な存在だった。外見はまあいい。人の身体から竜の翼のような翼腕が生えているのも、腹部から凶悪な形相の巨大なトカゲの頭が生えているのも、もとからあったであろう人間の頭部にある両目に何本も杭が刺されて潰されているのも、今まで見てきたものに比べたらまだマシだ。

 異常だったのはその狂気ともいえる、こちらへの執着だ。奴はこちらを認識した途端、すさまじい勢いでこちらに突撃してきた。無論、こちらも自動人形たちの大群を使って迎え撃ったのだが、奴は自動人形の存在など気づいていないような様子で、真っすぐこちらに迫ってきたのだ。

 厄介だったのは、奴の頑強さと膂力の強さである。生半可な攻撃では文字通り微動だにせず、人間部分の両手も翼腕も、振るうだけで自動人形をまとめて宙に放り投げるほどの馬鹿力だった。ジルラドや生成したばかりの【エリオン式自動重歩兵人形】を投入しても、その猛進を止めることはできず、さらに他の自動人形たちはトカゲの頭から放たれた火球によって薙ぎ払われ、奴は多少の傷を負った程度で樹姫の【浄境】によって守られたこちらの眼前にたどり着いたのだ。

 おそらく、そのままの調子で奴が攻撃を仕掛けていたら、樹姫の光の壁も破られ、何の抵抗もできないままミンチになっていただろう。だが、奴はこちらの顔を間近で認識すると、その場で狂ったように暴れはじめた。無論こちらを狙っているのだが、攻撃の方向性は一定ではなく、【狂い合う死生杖】や【再生する肉壁】、【反芻する凝肉】をうまく使えば何とか耐えられる威力だった。

 その間に、ジルラドや【エスカ式自動重斧槍人形】など、攻撃力に秀でた自動人形たちで奴の腕と翼腕を一本ずつ潰していったのだ。腕をつぶされたことで理性が戻ればまた話は違ったかもしれないが、結局奴は最後まで狂ったように暴れ続けた。その結果が、腕をなくし、首から上を切断され、トカゲの頭を潰された目の前の死骸である。

 

 終始、人の頭の方の口から息が漏れるような音が出ていたあたり、悲鳴か何かを口にしていたのだろうか。およそ意味のある言語であるとは思えなかったため、ここに誰がいようとその言葉が伝わることはなかっただろう。我ながら珍しく、僅かな切なさを感じながら、死骸をきれいに回収する。


――――――――――

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの自刺杭】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの竜腕】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの狂化体】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの黒狂鱗】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの炎嚢】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの浄魂晶】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの竜狂晶】を収集しました

涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケルの愛涙】を収集しました

――――――――――


 死骸を回収した後に、改めて部屋の様子を確認する。狂った半人半竜―涙呑せしティアク・廻り狂いのマグラ竜骸者ゴケル―との戦闘によりかなり荒れてしまったが、最上階の最も奥にあった部屋だったため、調度品はそれなりの品が使われているようだ。それに今まで製図室だけにしかなかった本も何冊か置いてあるので、中身を確認しなければならないだろう。

 早速本を回収しよう、そう思った瞬間、右目にまばゆい光が飛び込んできたので、何事かと目を細めてそちらに顔を向ける。光の正体は、地平線から登ってきた日の出だった。太陽の光により、今まで見えなかった砦の外、広々とした丘陵が露わになる。ここから見える限り、地平線まで目立った建物などはなく、まっさらな草地が続いているだけのようだ。

 だが、その景色を見て胸に湧き上がるのは、やはり目覚めた日から変わらずこの身を焦がす激しい物欲である。

 いったい、この景色の向こうにはどんなものがあるのか、そのすべてを手に入れたい、たとえこの身がどうなろうとも、この世界がどうなろうとも。今はただ、その物欲に身を任せて、登り切った太陽に照らされる世界を見つめるのだった。


ここでお話としてはいったん区切りとなります。

活動報告にて、今後の更新予定などをお知らせさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ