十四ページ目
目の前で数えきれない数の武器が寄り集まり、刃の鱗をまとった大蛇が鎌首を擡げた。周囲に散らばっていた剣や槍、果ては兜や鎧までもを取り込みながら、大蛇はその身の高さを増していく。眼球に見立てた兜が金属が擦れる音を響かせながら蠢き、鋭い槍が束ねられて作られた舌を出し入れする様子は、まさしく獲物を見定める蛇のようだ。
その蛇の攻撃力はまさに苛烈の一言で、武器で構成された身体は字のごとく地を削りながらこちらに襲い掛かってくる。ここまでの道中で生成した【エリオン式自動剣歩兵人形】や【エリオン式自動槍歩兵人形】を使ってなんとか大蛇の進路を逸らしたものの、巻き込まれた自動人形たちは全身が金属でできているにも拘らずずたずたに引き裂かれてしまった。
このままでは大事なコレクションが八つ裂きにされ続けるだけなので、【腐解せし撓む呪人塊】の素材を使って生成した新たな物品、【反芻する凝肉】を使うことにする。生成した際の印象から”肉男”と呼んでいるそれは、巨人の皮を残らずはがしたような見た目の、人型の外法遺骸である。
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【反芻する凝肉】
分類:偽造変命・肉人形
等級:C-
権能:【湧肉】【腐染】【偏筋】
詳細:霊回水の湧口から発生した有機体から作られた悍ましい人形。霊回水が染みこんだその肉は何度死に腐ろうと盛り上がり続け、ただの肉塊となっても目的もなく脈動し続ける。
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ジルラドをしても隣に立てば見上げるほどの背丈を誇る【反芻する凝肉】は、両手を広げて大蛇の突撃を受け止めた。その威力により【反芻する凝肉】は大きく後ろに後退し、肉片が周囲に飛び散るが、ひるむことなく大蛇の頭を押さえつけついにその動きを止める。
蛇は自由を取り戻そうと激しく身をよじるが、肉男の体は傷を負った傍から肉が盛り上がり再生する。そのため、大蛇はいつまでたっても肉男の拘束から逃れることはできず、そうしているうちに他の自動人形たちが大蛇の頭部に攻撃を始めた。
大蛇の反撃により何体かが損傷を負うも、結局大蛇は肉男に捕まえられたまま自動人形たちの攻撃に耐えられずもとの武器の山となった。
あとに残された武器の山に小躍りしながら、戦果を回収していく。なにやら大蛇に由来する特別そうな物品も見つかり、戦果は上々といったところだ。
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【エリオン軍式角盾】を収集しました
【エリオン軍式輝士剣】を収集しました
【エリオン軍式輝士槍】を収集しました
【エリオン軍式輝士盾】を収集しました
【エリオン軍式輝士銀兜】を収集しました
【エリオン軍式輝士甲冑】を収集しました
【鉄砕の銀剣】を収集しました
【壁魔の盾剣】を収集しました
【十鬼抜き】を収集しました
【カイサリエの金剛棒】を収集しました
【輝銀の破魔鎧】を収集しました
【鳴り響く剣鱗蛇の舌穂先】を収集しました
【鳴り響く剣鱗蛇の刃歯】を収集しました
【鳴り響く剣鱗蛇の銀脱皮】を収集しました
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収集が終わった途端、視界がゆがみ足から力が抜ける。何とか倒れる前に態勢を戻すが、思っていた以上に疲労が溜まっていたようだ。片目と片腕がなくなり、碌に治療もしないまま動き回っていたので当然といえば当然だが、ここらで一度休憩をすることにしよう。
先ほど本を見つけた部屋を後にした後、廊下を進んで追っ手、【備える幽冑】から逃げていたのだが、この建物は軍事施設ゆえか内部の構造が非常に複雑だということが分かった。各階は不規則に作られた壁により先がふさがれており、まるでアリの巣の中に迷い込んだような印象さえ受ける。追っ手こそそれほど強くはない【備える幽冑】たちであり、逃げながらその素材を使って逆に戦力を増やすことができたので良かったものの、いくら逃げども追跡の手が緩まることはない。
そうして逃げているうちにこの演習場のような広場にたどり着いたのだ。入った途端に先ほどの大蛇、【鳴り響く剣鱗蛇】に襲われて肝が冷えたが、奴さえ倒してしまえばここは拓けているし、周りを自動人形たちに守らせれば少しの間休むことくらいできるだろう。
幸い、すでに五十体ほどの【エリオン式自動人形】を生成済みだ。それらに囲まれながら、腰を下ろして一息つく。樹姫に治療をさせれば、数分でまた動けるようになるだろう。
自動人形たちが【備える幽冑】と奏でる剣戟の音に耳を傾けながら横になっていると、十分ほどしてようやく活力がわいてきた。樹姫の肩を借りながら立ち上がり、休んでいた間に周りに積みあがった【備える幽冑】の素材を回収していると、広場の片隅にそれらとは趣が異なる金属の残骸が転がっていることに気づく。
近づいて確認してみると、どうやらこれも金属で構成された人型のなにかだったらしい。打ち捨てられた残骸の中身を精査してみると、四肢と思しきパーツの中に、ほぼ損傷がない頭部が埋もれていた。その見覚えがある顔を見て記憶を遡ったところ、この砦で目を覚ます前、腕を斬られて気を失う直前の記憶が蘇る。
そう、今目の前にある物言わぬ金属のがらくたは、【揺蕩う澱窪】で気を失う前に目にした鉄人形であった。前に見た時と同じような無表情を張り付けた顔をよく見てみると、その顔もやはり金属で作られており、その上から人に似せたお面のような皮を被せているようだ。
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【ノアの残骸】
分類:部品・進精魂機
詳細:秘匿された技術により生み出された、魂を宿した金属人形。この世に生じて初めて感じた感情に突き動かされ行動したが、庇護もない存在は物言わぬ残骸となった。
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【躍心の鉄童】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
ノアの残骸 100%/100%
澱んだ泥形代 20%/100%
霊回水 0%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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残骸を収集してみると、なかなか面白そうな情報が分かった。特に初めて目にする【進精魂機】という言葉が気になるところだが、今はまだ【躍心の鉄童】を生成することはできないようだ。だが、素材となるものの心当たりはあるので、落ち着いた後に素材を集めることにしよう。
気を取り直して、広場を出て砦の中の探索を再開する。今いる広場は一階部分にあたるようなので、とりあえず上を目指して進んでみる。砦内を進むうちに追っ手として現れる【備える幽冑】の数もかなり少なくなっており、状況を確認する余裕も出てきた。
どうやら階層により現れる魔物の種類が変わるようで、一階や二階には【備える幽冑】を中心として、体中にランタンをぶら下げた【眩い案兵】や長槍を握ってこちらを貫こうと突撃してくる【駆ける軽槍】などが現れた。
一方で上階に進むほど、能力が高くトリッキーな敵が出現するようだ。特に両手に巨大なタワーシールドを構えた【引きずる重塞】と全身が鉄で作られた【跳ねる鉄犬】は自動人形だけで相手をするにはなかなか強力で、ジルラドや樹姫も戦わせながら先へ進む。
砦の中をさまよって半日ほどが経っただろうか。そろそろ最上階に近い階層まで来たように思われるので、この辺でここまで手に入れた素材と、それを使って生成できそうな物品を確認しておくことにしよう。この砦に現れる魔物は兵士や武器をモチーフにしたものが多く、それに伴って手に入る素材も直接戦闘に使えるようなものも多い。
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【エリオン軍式跳鎧】
分類:防具・鎧
等級:D-
詳細:エリオン軍の突撃槍兵隊に支給された装備。鎧を着たまま飛び跳ねられるほど軽いことからこの名で呼ばれた。
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【エリオン軍式大鉄盾】
分類:防具・盾
等級:D-
詳細:エリオン軍の重装歩兵隊に支給された装備。規格外なほどに分厚い鉄で作られており、正面から防御を破るのは困難を極める。
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【エリオン軍式二重兜】
分類:防具・兜
等級:D-
詳細:エリオン軍の重装歩兵隊に支給された装備。通常の兜を二重にしたような構造になっており、頑強な分相応の重さを誇る。
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【エリオン軍式二重鎧】
分類:防具・鎧
等級:D-
詳細:エリオン軍の重装歩兵隊に支給された装備。訓練を受けていない人間が着れば身動きができないほど重く、この鎧を身につけられることが重装歩兵隊に入る第一の条件だった。
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【エリオン軍用ランタンⅡ型】
分類:魔具・照明
等級:D
権能:【淡光】
詳細:エリオン軍で軍用魔具として作られたランタン。衝撃に強い構造になっている。
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【灯縛りの錆鎖】
分類:拘束具・鎖
等級:D
権能:【苦縛】
詳細:戦場での灯役は得てして標的とされやすく、真っ先に命を落とすことが多かった。そのため、奴隷の身体に灯を巻き付け、生ける照明として使ったという。
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【戦犬の首輪】
分類:拘束具・首輪
等級:D
権能:【獣飼】
詳細:軍用犬に使用された特殊な首輪。獣を隷属させやすくする効果があるが、それに反して首輪をつけた獣は凶暴性を増すため、短命かつ発狂する獣が多かった。
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【メイのドッグタグ】
分類:拘束具・名札
等級:D-
詳細:メイと名付けられた軍用犬のドッグタグ。その名前は、どこか愛嬌を感じる丸みを帯びた文字で書かれている。
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【跳ねる鉄犬の鉄爪】
分類:魔物素材・爪
詳細:短いが、分厚く硬い鉄犬の四肢に生えた爪。金属でできているにも拘らず、常に少しずつ成長を続けている。
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【エリオン式自動重歩兵人形】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
エリオン軍式二重兜 150%/100%
エリオン軍式二重鎧 150%/100%
エリオン軍式大鉄盾 100%/100%
瘴気 4000%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【幽郭の灯篭】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
エリオン軍用ランタンⅡ型 180%/100%
灯縛りの錆鎖 180%/100%
擦れる葉玉の葉核 430%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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【エンズの獣操輪】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
戦犬の首輪 100%/100%
灯縛りの錆鎖 210%/100%
鳴り響く剣鱗蛇の銀脱皮 330%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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とりあえず生成できる物品を一つずつ作っておく。それぞれが有用な物品のようだが、中でも有難かったのは【幽郭の灯篭】だ。この魔具はパッと見ただけではただの古めかしいランタンなのだが、念じながら下部にあるコックをひねると、ひとりでに明かりがともると同時にふわりと浮かび上がるのだ。浮かび上がった【幽郭の灯篭】は、こちらから適度な距離をおいてついてきてくれるため、これがあるだけで一気に視界の確保が楽になった。
さらに生成した物品の確認をしようとしたのだが、それを遮るように背後から調子外れのラッパの音が響く。振り向くと、小柄な鎧姿の何かが兜に開いた口のような隙間にラッパの吹き口を突っ込んでいる。さらにそれは身体中に取り付けられた太鼓や鈴などを片っ端から鳴らし始めた。
その姿だけを見ると踊っているように見えなくもないが、それにより発生している音量はすさまじい大きさだ。必然的にその音は周囲の魔物を引き付ける。というより、この小柄な金属鎧はそうして魔物たちを呼んでいるのだろう。
ろくに準備する暇もなく、周囲から魔物たちの気配が近づいてくるのが分かる。面倒、とは思わない。魔物が来るということは新たな素材が手に入るということだ。張り切って素材集めにいそしむとしよう。




