異譚~ニーニャの仕事~
石壁に凭れながら、レノマンはゆっくりと息を吐く。普段は裏通りにある館からあまり出ることがない彼にしてみれば、表通りにほど近い、今立っている場所は、どうにも空気が合わないように感じられた。
手持ち無沙汰なまま空を見上げる彼は、記憶に残る故郷の景色を思い浮かべる。もうその故郷は彼のものではないとはいえ、胸中をよぎる懐かしさは、ないはずの望郷の念を思い起こさせた。
その景色を今の自分が見たら、一体どんな感情が生まれるのか。そんな妄想に耽っていると、近づいてくる一人の女の気配に気づいた。今は人型とはいえ、狼獣人であるレノマンの感覚はただの人間に比べれば非常に鋭い。相手は気配を消しているつもりのようだったが、レノマンの五感の前では大声を上げながら歩いているようなものだった。
「遅いぞ。遅れるなら使いくらい寄越せ」
「……こっちも色々と忙しいのさ。よその国から流れ着いてきた難民の世話を見たりね」
建物の影から現れたのは、人間にしては背の高い女だった。豊かな朱い髪を背中に垂らした女―ニーニャ―は、主からの伝言を口にする。
「そういうわけだから、さっさと用件を済ませるよ。『今夜顔合わせをする』っていうのが社長からの連絡だ。本社に集まる手はずになってるから、あたしについてきな」
それだけ言うと、レノマンの返事を待つことすらなく、ニーニャは踵を返して歩き出した。ずいぶんとぶっきらぼうな態度だが、レマノンは文句も言わずその姿を追う。
「……顔合わせということは、お前以外の幹部も来るのか?」
「ああ。といっても、もちろん全員ではないけどね。あたしとあんたを除けば三人ってとこだと思う」
「そうか。やっと準備が整ったというわけだ」
レマノンの呟きを耳聡く聞き取ったニーニャは、深いため息をつく。
「確かにやっとだね。場所の選定から始まって、方々との契約交渉に候補地の地均し……だけど、その甲斐あってようやく先に進める」
「その苦労に見合う価値があればいいんだがな。話を聞いても、いまだに計画の意図がはっきりしない」
釈然としない様子のレマノンを見て、ニーニャは小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「そりゃあ、あんたみたいなごろつきには計画の真意なんざ見えてこないさ。でも、ここからなのは確かだ。あんたたちが暴れてるあの一角を確保すれば、一気に裏の区画を手中に納められる」
「ふん、あんな薄汚れた場所にそんな価値があるとは思えんな」
「分かってないねえ。あの立地が重要なのさ……ところで、あんたたちの仕事は順調なんだろうね?今夜は社長も来るんだ。下手な報告はできないよ?」
ニーニャはジロリとレマノンを睨み付けるが、その視線を受けた当人は視線を前に向けたまま言葉少なに答える。
「……すべて順調だ。あの場所にもう敵はいない。あそこで何をしようが、文句を言うやつはいないだろう」
それを聞いて、ニーニャは満足げに頷いた。
「それは重畳。何事も、まずは基盤を固めないと話にならないからね」
以降はお互いに聞くべきこともなくなったのか、二人して押し黙ったまま歩みだけを続ける。裏通りを抜けたあともその足が止まることはなく、二人は並んで表通りを進んでいく。時刻はすでに日暮れ近いが、通りを歩く人々の数は日中のそれと比べて遜色なく、そしてその表情は一人残らず晴れやかだ。自分の人生もこの国にもまったく憂いがない。そんな声が聞こえてきそうな人々の様子を見て、レマノンは思わず嘆息する。
「相変わらずだな。この辺りの住人たちは」
「それがこの国の決まりだからね。笑えるやつだけが"表"に住むのを許されて、それ以外のやつは"裏"に押し込む。そんで十六歳以上の働ける"裏"のやつは強制労働送りさ。あいつらも明日は我が身っていうことが分かってるんだか、分かってないんだか……」
そう言いながら住人たちを見るニーニャの視線はひどく険しい。過去、裏通りに住んでいたことがある彼女としては、色々と思うところがあるようだ。
そんなことを話しながら歩き続けた二人は、太陽が完全に沈むころ、ようやく目的地にたどり着いた。表通りに並ぶ建物のなかでも一際立派で堅牢なその屋敷が、ニーニャが所属する"ケンズ商会"の本社だ。正面入口には客人を出迎える男女の石像が一体ずつ配置されているが、ニーニャはそこではなく、わざわざ建物の裏手にある勝手口へと向かう。
「一応商会の人間はこっちから入ることになってるのさ。社長がこういうのにうるさくてね」
レマノンに説明しながら、ニーニャは扉を二回ノックした。しばらく中からの反応を待つニーニャだったがいくら待てども動きがないことに気づいて首を捻る。
「おかしいね。いつもだったらすぐに待機してる社員が出てくるのに」
「もう日も暮れたし帰ったんじゃないのか?話しは通ってるんだから、中に入っても問題あるまい」
「そういうわけにはいかないよ。この通り、裏口にはしっかり鍵が……」
そう言いながらニーニャが取っ手を回すと、扉は音もなく開いた。それを唖然として見つめるニーニャだったが、レマノンは自分の予想が当たったと知り満足げに息をつく。
「ほら見たことか。時間もないんだ。さっさと入るぞ」
「待ちな……なにか様子が変だ」
何者にも呼び止められることなく本社の中に踏み込んだ二人だったが、それと同時になにか普通ではない事態が起きていることに気づいた。
裏口を入ってすぐの場所には、来訪者のための受付を行う作業台が設置されているのだが、その上がひどく散らかっている。台の上を腕で凪払ったかのように何枚もの書類が散らばっており、こぼれたインクが台の縁から床へと滴り落ちている。さらによく見ると、受付奥の壁にはなにか大きなものがぶつかったような凹みができており、そのそばに配置されていたのであろう本棚が横倒しになっていた。その光景を見れば、どんなに鈍い者であっても、その場でなにか起きたと分かるだろう。
「これを見るに、お前たちの商会とやらに勤めている人間はよほど凶暴らしいな」
「そんなわけないだろう!?きっと侵入者かなにかがここで暴れたんだ……あんた!まさかとは思うけど、部下の手綱はちゃんと握ってるんだろうね!?」
睨み付けるニーニャに、レマノンは失笑を返す。
「ふん、ここに来るのは俺さえ初めてなんだぞ?ほかの奴らがこの場所を知るわけがないだろう。まだ強盗の可能性の方があるんじゃないか?」
「ちっ……」
舌打ちをしてから、ニーニャは恐る恐るではあるもののの、本社の奥へと進み始める。扉をくぐる度に室内の様子を確認するが、やはり人影は一つもなく、破壊の惨状だけが広がっている。時には壁や扉そのものが壊れて隣室に繋がっていたりと、巨大な獣が無理やりに室内を横切ったような有り様だ。進むごとに少しずつ大きくなっていく破壊の痕を見て、ニーニャの顔に焦りが浮かぶ。
「一体なにがあったっていうのさ……本社には用心棒もいたはずなのに……」
「この様子では、ただの人間が止められるものではなかったらしいな」
早足で進み続けるニーニャにははっきりとした目的地があるらしく、迷うこともなく部屋を通りすぎていく。だが、彼女とレマノンが進むにつれ、室内の破壊の痕跡も激しくなっていく。恐らく、侵入した何者かも同じ道順をたどりながら暴れたのだろう。
ということは、その侵入者もニーニャと同じ場所を目指していた可能性が高い。その事に気づいた彼女の歩みは、自然と早くなっていった。後ろに続いているはずのレマノンの存在などとうに忘れ、ニーニャは目的の部屋へと続く階段を駆け上がる。ところどころ崩れた床を踏み抜かないように注意しながら彼女がたどり着いたのは、最上階にある、屋敷のなかで最も広い部屋だった。彼女が"社長"と呼び敬愛する人物がオフィスとして使っているその部屋には頑丈な扉がついていたはずだが、それが今では侵入者に引きちぎられ、ゴミのように廊下の角に捨てられている。
「社長!ご無事ですか!?」
部屋に駆け込んだニーニャの第一声は自らの主人を案じる言葉だったが、それに応える声はなく、代わりに部屋の奥にいた三人と目が合う。
部屋のなかで立っているのはその三人だけであり、彼らとニーニャの間には何人もの人間が折り重なって倒れていた。ニーニャが見る限り、その全てが本社で働いていた商会の従業員たちだ。従業員たちの目は固く閉じられており、誰一人として意識を保っていない。さらに部屋の角には血溜まりと確実に息絶えているであろう死体が無造作に置かれている。損傷が酷いため見極めるのは難しいが、恐らくは商会が雇っていた用心棒たちであると思われた。
いまだ立ったまま動きがない三人にも一瞬だけ視線を送るが、ニーニャにはまったく見覚えがない。ただ自分を見つめるだけの三人に向けて、ニーニャは言葉を放った。
「あんたたち、強盗かなにかかい?まさかこの状況と無関係です、なんて言わないだろうね」
喋りながらも、ニーニャは素早く室内を確認し、"社長"の姿を探す。幸か不幸か目当ての人物の姿は見当たらなかったが、その事に安心する暇もなく、侵入者の一人が口を開いた。
「私たちは交渉のためにやってきたのです。無為に危害を加える意図はありません」
「その交渉の結果がこれだって言うのかい?とてもそんな風には見えないね」
不自然なほどに無表情の侵入者は、ニーニャに冷たい眼差しを向ける。
「先に襲ってきたのはそちらです。我々は自分たちの商売をしたかっただけなのに、交渉すらしようとせずに暴力に訴えてくるとは。それに、私は反撃をするつもりはなかったのに、気づいたらこうなっていたのです。いやはや、理解に苦しみます」
それはこっちのセリフだ、と呟きながら、ニーニャは冷静になろうと努める。敵は三人で、今しゃべっている無表情の男のほかに、屍人と思われる気弱そうな男が一人と、大柄な男すら越える身長を誇る女が一人だ。一見する限りはその三人が本社の従業員と用心棒をなんとかできるような腕っぷしを持っているようには見えないが、この惨状を作り出したのは間違いなく目の前の三人である。腕に覚えのないニーニャでは、ここから逃げ出すことすら難しいだろう。
となれば、彼女の頼みの綱は今も後ろで待機しているレマノンだけだ。幸いにも今の時刻は夜。獣化した狼獣人の怪力があれば、少なくとも時間稼ぎくらいはできるはずだ。
その考えに至ったニーニャは、三人を警戒しつつ背後に立つレマノンの様子を伺う。まずはここから脱出する意思があることをレマノンに伝えなくてはならない。侵入者たちはすぐに襲いかかってくる様子もないため、二言三言は喋る余裕があるだろう。
意を決してレマノンに声をかけようと息を吸った瞬間だった。突然、ニーニャの背中に強い衝撃が走り、彼女のからだが宙を舞う。
「なっ……ぐはっ!」
前方に投げ出されたニーニャは、山積みになっていた従業員たちの上に倒れる。背中の痛みに耐えながら身を起こそうとするニーニャだったが、背後からの攻撃はよほど強力だったらしく、からだが思うように動かない。やっとの思いで仰向けになったニーニャは、攻撃の主であろう狼獣人を睨み付けた。
「あんた、いったいなんのつもりさね……まさか、あたし一人を差し出して、自分だけ助かろうなどと考えているんじゃないだろうね」
それはまさに彼女が考えていた作戦だったのだが、まさか先手をとられるとは思っていなかったニーニャは苦虫を噛み潰したような表情でレマノンを見上げる。それに対してレマノンがなにかを言う前に、侵入者の一人が口を挟んできた。
「そろそろいいかしらあ。なんだか私、だんだんと飽きてきちゃったわ。どのみちあなたたちを返す気はないから、もう諦めてしまいなさいな」
今まで黙ったままだった巨躰の女が欠伸をしながら言った。優雅な仕草で手を口に当ててはいるが、その口調からは二人に対する些かの興味も感じられない。
万事休すか、と腹をくくるニーニャだったが、レマノンはなんら緊張した様子もない。
「私は早く孤児院に戻って、子供たちを愛でてあげたいの。ハリットには悪いけど、もううんざりだわ」
「あ、ちょっ!ちょっと待ってくだされ!」
ゾンビの制止を無視して、女はまだ身体を起こせないニーニャに向かって歩き出す。女が武器を持っているようには見えないが、彼女にとってはニーニャの命を奪うのには素手で十分らしい。近づいてくる女を見ていることしかできないニーニャは、いよいよと覚悟を決める。だが、女の動きはレマノンから発せられた一言により止まることとなった。
「待て、"ラミエナ"。そいつを殺されると俺が困る。"ナナシ"殿からの命令を果たせなくなるからな」
「……あら、なぜあなたがその名前を知ってるのかしらあ。わたしはなにも聞いていないけれど」
「それは当然だ。ナナシ殿もまさかお前たちがこんなところで派手に暴れているとは思っていないはずだからな。この合流は、いわば偶然の産物というやつだ」
話についていけないニーニャが倒れたまま二人を見るが、レマノンとラミエナの会話は終わらない。
「でも、わたしあなたなんて見たこともないわあ。キースたちもそうよね?」
「ええ、まったく見覚えがありませんな。いくら我が主のコレクションが多いといっても、これほど自由に意志疎通ができる自動人形を忘れることもないでしょう」
頷きあう二人を見て、レマノンは思い出したように自分の身体を見下ろす。
「ああ、そういえばこれは最近手に入れたんだったな。道理でお前らが見覚えがないはずだ」
その言葉と同時に、レマノンの全身が激しく泡立った。重い粘液が弾けるような生々しい破裂音が連続し、瞬く間にレマノンの身体が崩れていく。顔も服も皮も肉も溶け去ったあとに現れたのは、辛うじて人の形と分かる歪な肉塊の中に、金属の欠片を蠢かせる異形であった。
あまりに激しすぎる変貌を前にして、さすがのニーニャも息を止めてそれを見つめていることしかできない。だが、侵入者たちはその姿を見て、彼(?)の正体に合点がいったようだった。
「あらあ!あなた、"カリマ"じゃない!全然判らなかったわあ!」
「なるほど。我が主から説明だけは聞いていましたが、【巧みな機肉化師】の能力とはこういうものだったのですね」
感心する侵入者たちに対して、カリマと呼ばれた異形は何度か頷いた。そして、その胸元に浮かび上がってきたレマノンの顔が語る。
「このままでは会話もできなくてな。こいつの顔を奪ってようやく自由に喋れるようになった。口調とかは使ってる顔に引っ張られるんだが、あまり気にしないでくれ」
「ひっ……いやあああ!!!」
異形に張り付くようにして口だけを動かすレマノンの顔を見て、ニーニャはようやく自分の後ろを歩いていた存在の異様さに気づいたらしい。気が触れたような叫び声をあげて、なんとかその場を離れようとするが、動かない身体では、倒れたまま両腕を振り回すことしかできない。
それを見て、レマノンの顔は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「おい、ニーニャ。そんなに怯えることもないじゃないか。人を見かけで判断するものではないぞ?クックック……」
しばらくニーニャの怯える姿を見ていたレマノンの顔がラミエナたちへ向く。
「ところでここのボスはまだ生きてるのか?俺の一番の目的はそいつなんだが」
「それならここで寝ていますよ。まだ死んではないはずです」
そう言いながら、キースは自分の後ろに倒れていた小太りの男をカリマの前に放り投げる。男は気を失っており、床に投げ出されても目を覚ますことはない。だが、カリマにとってはその状態であっても支障はないようだった。レマノンの顔で舌舐めずりをしながら、カリマは倒れた男の隣に膝まづく。
「ば、化け物!社長にいったいなにをするつもりだ!?」
「まあ、そこで見てろ。すぐにお前の番が来る」
それだけ言うと、レマノンの顔がカリマの体内に沈んでいった。そしてそれに続いて、カリマの人型の顔とおぼしき場所から、半透明のゲル状の物質が現れる。太い管のように伸びるそれは未だ気絶したままの男の顔に向かうと、音もなく男の頭部を包み込んだ。
それに一拍遅れて、男が引き付けを起こしたように痙攣し、くぐもった叫び声を上げ始めた。どれ程の苦痛を感じているのか、その悲鳴はあまりにも痛々しい。
言葉もないままその光景を見つめるニーニャだったが、悲鳴が上がってから数秒ほど経つと、化け物と社長が繋がった管のなかをなにかが流れていることに気づいた。それは社長の目や鼻、耳から出てきており、その全てが化け物へと吸収されていく。
その正体がなんなのかと考えるニーニャだったが、すぐにそれが何なのかに思い至った。そして、思わず震える声で呟く。
「まさか……脳を……」
「話には聞いてたけど、実際にやるとこんな感じなのねえ。生きたまま頭の中身を吸い出されるなんて、どんな気分なのかしら」
徐々にカリマの全身が脈動するように動き始め、その動きが大きくなるごとに男の頭部から脳が流れ出す勢いも増していく。そして一分ほどが経ったころ、一際大きくカリマが獲物を吸い上げ、社長と呼ばれた男の身体は解放された。
それは力なく床に倒れ、顔をニーニャに向ける。だが、その顔を見たニーニャは、またしても恐怖の叫びを上げることとなった。
その顔には眼球が残っていなかった。まるで元から何もなかったかのように眼孔がぽっかりと空いているだけで、放心したかのように半開きになった口と相まり、悪夢に現れる亡者のようにその顔は虚ろだ。
思わずそれから離れようと後ずさりするニーニャだったが、そこでカリマに変化が現れた。小刻みに震えるカリマの身体がまたしても泡立ったかと思うと、全身が変形を始める。数秒ほどでその変化が終わると、カリマがそれまで立っていた場所にはニーニャがよく見知った人物がたたずんでいた。
「さて、ニーニャくん。この姿はどうかね。さっきよりは幾分か決まっているだろう?」
そこに立っていたのは、彼女がよく見慣れた社長ーケンナ・サイファリーそのものだった。その口調も、どこかもったいぶるような物言いも、余さず彼のものだ。実際に化け物が変身するところを見ていなければ、それが本人ではないと疑うこともないに違いない。
だが、その正体は人の形すらしていない化け物なのだ。
「あ、あ……うそ……いやあ……」
「ふむ、やはりナナシ殿の予想通り、この男は色々と知っているな。これだけの知識があれば、この国でもうまく動けそうだ」
「あなた、獲物の知識も奪えるのよね?それなら、後でハリットにもいくつか教えてあげてくれる?」
「ああ、もちろんだ。だが、その前に"食事"を済ませてしまわないとな」
そう言いながら、化け物は倒れたままの従業員たち、そしてその上に倒れるニーニャへと目を向ける。その言葉の意味を理解したニーニャは今度こそ、無我夢中でその場から逃げ出そうと床を這い進む。
「いや……誰か!誰か助けて!!」
「なあに、安心しろ。苦しいのは少しの間だけだし、残った身体は"デミス"あたりが有効活用してくれる。それに何より、お前は私の中で永遠に生き続けることになるんだ。こんな幸せなことはあるまい。なあ?」
そう嗤うケンナの顔は、人のものとは思えないほどに歪み、愉悦に染まっていたのだった。
【巧みな機肉化師】:六十五ページ目初登場




