十ページ目
乗馬というのはなかなか難しいものである。馬の動きに合わせて自分の身体を動かさないと乗っていられるものではないが、地面の起伏によってその馬の動きも変わる。ようやく慣れてきたと思ったら鞍から転げ落ちそうになるなどざらである。
それになにより、乗っているのが関節をガシャガシャと鳴らす全身金属の馬ならなおさらだ。鞍は革でできているものの、一日中金属の塊にどつかれているようなものである。
衝撃で全書を取り落とさないよう注意しながら、最近手に入れた物品を確認する。
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【エスカ式自動軍馬人形】
分類:自動機装・戦人形
等級:D+
権能:【自律】【軍馬】
詳細:魂核を動力として稼働する魔導人形。エスカ軍式の軍馬を素体としており、素体と同様の能力をもつ。
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【エスカ式自動重斧槍人形】
分類:自動機装・戦人形
等級:D+
権能:【自律】【重弧】
詳細:魂核を動力として稼働する魔導人形。 エスカ軍重斧槍兵と同様の戦力を持つ。
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【時森の葉麗衣】
分類:服飾・衣装
等級:D
権能:【命雫】
詳細:【揺らぐ時森】に生息する植性魔物の素材を使用したエンパイアドレス。色とりどりの葉から滴る露は周囲のものに活力を与える作用を持つ。
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【肉伝う蔓鞭】
分類:武器・戦鞭
等級:D
詳細:【粟立つ樹根】の外皮をそのまま利用した戦鞭。ささくれた樹皮が敵の皮膚に食い込み傷口をえぐる。
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森の探索を終えて古都に戻った後、【骨人形】や自動人形たちを使って再度古都の探索を行った。五日ほどかけたその探索の結果、なんとか【エスカ式自動軍馬人形】と【エスカ式自動重斧槍人形】を生成できるほどの素材を手に入れることができたのだ。だが、その探索でいよいよ古都に残っていた素材を回収し終えてしまったようだった。
それ以上の古都の探索はもはや不要と判断し、この森―【揺らぐ時森】という名称らしい―に拠点を移したのが今から十日ほど前のことだ。【揺らぐ時森】に存在するすべての素材を手に入れるべく、以前空き地に作った寝床を中心に探索を行っていた。
探索自体は順調に進んでいたものの、一番の目的だった【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】や【泣咽せし這う奇蛇】とはなかなか遭遇できず、また【揺らぐ時森】にある大方の素材も回収し終えてしまったようだった。
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【枯れる枝人の心材】を収集しました
【擦れる葉玉の葉核】を収集しました
【捻じれる根食蛇の腐毒牙】を収集しました
【捻じれる根食蛇の灰樹革】を収集しました
【捲れる樹皮の黒樹皮】を収集しました
【転打つ女蛇の蛇眼】を収集しました
【転打つ女蛇の艶髪】を収集しました
【転打つ女蛇の花鱗】を収集しました
【ガシアの浄白枝】を収集しました
【メイテイカの花弁】を収集しました
【メイテイカの毒露】を収集しました
【メイテイソウカの大花弁】を収集しました
【メイテイソウカの花蜜】を収集しました
【カブドウ】を収集しました
【モウトウダケ】を収集しました
【キヌムギ】を収集しました
【コクセンゴケ】を収集しました
【サイキンギョ】を収集しました
【カトリウオ】を収集しました
【アリアグイ】を収集しました
【コケイシカニ】を収集しました
【コケグイエビ】を収集しました
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探索の結果、【モウトウダケ】や【コケグイエビ】などの食料となる素材を手に入れることができたのは幸運だった。まだ古都で見つけた食料は豊富にあるものの、保存食ばかりではやはり辟易してしまう。
それに生成の素材となる物品も入手できた。もう少しで新たな物品も生成できそうである。
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【森霊の樹冠】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
ガシアの浄白枝 120%/100%
メイテイカの毒露 230%/100%
メイテイソウカの花蜜 150%/100%
擦れる葉玉の葉核 200%/100%
転打つ女蛇の花鱗 80%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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【睨み呪う蛇盾】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
ガシアの古代樹 900%/100%
捲れる樹皮の黒樹皮 230%/100%
捻じれる根食蛇の灰樹革 150%/100%
転打つ女蛇の蛇眼 440%/100%
泣咽せし這う奇蛇の呪眼 0%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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【踏み抉る蜘蛛槍】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
鳴哭せし啜る怪蜘蛛の怪脚 400%/100%
鳴哭せし啜る怪蜘蛛の黒糸 0%/100%
捻じれる根食蛇の腐毒牙 150%/100%
転打つ女蛇の艶髪 300%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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やはりネックとなるのは”ヌシ”のような存在の二体の魔物の素材だ。【森霊の樹冠】はまだ生成できないものの、足りないのは【転打つ女蛇】の素材だけなので、近いうちに生成ができそうである。
探索で得た素材を使ってこの数日で生成できた物品もたくさんある。先ほどの物品のほかにも色とりどりの葉を束ねたような見た目の【葉色の迷彩外套】や【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】の素材を使用した【怪殻の手甲】など、有用で珍しそうなものも手に入った。
初めてそれらを手に入れたときの高揚感に思いを馳せていると、前方を進んでいた自動人形たちの辺りが騒がしくなっていることに気づく。だがその騒音はすぐに収まり、軍馬人形がその場に着く頃には【枯れる枝人】や【備える森蜘蛛】の死骸を自動人形たちが囲っていた。
自分でやることといえば、軍馬から降りて魔物の死骸をありがたく回収することだけだ。そうすれば自動人形たちが先に進んでいくので、あとはひたすら尻部の痛みをこらえながらまた軍馬人形に揺られて進むのみである。
そんなことを十回ほど繰り返したころ、ようやく拠点としている空き地に着いた。その空き地は数日前に【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】と戦闘を繰り広げた場所である。あの時、夜を過ごすために作った簡易的な寝床をさらに整備し、【揺らぐ時森】で活動するための拠点としているのだ。
拠点には現在の最大戦力である【エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍】を駐在させており、自分が不在の間もジルラドを主力として探索を行わせている。そのため、拠点に何か起きるというのはかなり考えづらいのだが、その拠点から明らかな戦闘音が響いている。
なにかあったかと先を急がせた結果目にしたのは、大剣を振り回すジルラドとその剣技に身体を刻まれている【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】だった。
以前の戦闘の後、再び遭遇することがなかった【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】が同じ空き地に現れたということも驚きだが、何よりも目を引くのは空き地に聳え立つ【ガシアの古大樹】だ。前に存在していた【ガシアの古大樹】はすでに全書で収集済みだし、少なくとも一日前には大樹どころか芽すらも生えていなかった。
一体どういう訳で一日にしてこんな大樹が現れたのか……。そんなことを考えているうちにジルラドと怪蜘蛛の戦闘は終わってしまったようで、いくつかの部品にばらされてしまった怪蜘蛛の死骸が地面に転がっていた。
ジルラドを労いがてら、現場の確認と素材の回収をすることにしよう。
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【鳴哭せし啜る怪蜘蛛の黒糸】を収集しました
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新たな素材は一つしか手に入れることができなかった。だが、これで足りなかった【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】の素材をすべて収集できたため、新たに【踏み抉る蜘蛛槍】を生成することが可能になる。
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【踏み抉る蜘蛛槍】
分類:武器・長槍
等級:D+
権能:【怪毒】
詳細【鳴哭せし啜る怪蜘蛛】の脚部をそのまま武器に転用した毒槍。怪蜘蛛と根食蛇の毒素が獲物の身体から生気を奪い、内より腐らせる。
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説明にある通り、槍は蜘蛛の脚をそのまま切り出したような見た目だった。関節部分は糸でしっかりと補強されており、使っている途中に曲がってしまうということはなさそうだ。また、穂先には根食蛇の牙が輪を描くように設置されており、突くだけでなく薙ぎ払っても敵にダメージを与えられるだろう。
【ガシアの古大樹】にも近づいて様子を見てみるが、やはり数日前に収集したはずの【ガシアの古大樹】とまったく同じように見える。気のせいでなければ、生えている枝などの位置も奇妙なほど似通っているように感じられた。古大樹が今立っているところには【時森の毒蜜柵】等で作ったバリケードが設置されていたのだが、それは見るも無残に壊されている。まるで地面の下から生えてきた古大樹に弾き飛ばされたかのようだ。
俄かには信じられないが、やはりこの古大樹は一日で再び生えてきたらしい。一体どのような条件で怪蜘蛛や古大樹が復活したのかは分からないが、足りなかった素材を手に入れられたのは幸いだった。それに怪蜘蛛が再び現れたということは、【泣咽せし這う奇蛇】も復活しているかもしれない。
そう考え、毒蜜柵の残骸と古大樹を回収した後、ジルラドを引き連れて森の奥へと進む。道中に現れる魔物たちを順調に素材に変えながら目的地に向かったところ、やはりというべきか湖の近くで【泣咽せし這う奇蛇】と遭遇した。
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【泣咽せし這う奇蛇の呪眼】を収集しました
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やはり予想は正しく、奇蛇も復活していた。ここに来るまでの道中で手に入れたものと合わせてめでたく素材がそろい、目的だった物品を生成することができる。
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【森霊の樹冠】
分類:服飾・装飾
等級:D+
権能:【恵木】
詳細:【ガシアの浄白枝】を編みこんだティアラ。身に着けたものは自然と寄り添い、その助けを得ることができる。
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【睨み呪う蛇盾】
分類:防具・円盾
等級:D
権能:【縛震】
詳細:女蛇の絶叫が響いてくるような形相を縁取った盾。盾にあしらわれた四つの眼を見たものは、女蛇の悲嘆に呑まれ身動きができなくなる。
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さらにたった今生成した【森霊の樹冠】によって、ようやく【悲愛姫の樹骸】が生成できるようになった。
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【悲愛姫の樹骸】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
眠りし悲愛姫の樹棺 100%/100%
時森の葉麗衣 100%/100%
森霊の樹冠 100%/100%
瘴気 450%/100%
生成を行いますか?【はい/いいえ】
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せっかく作った【時森の葉麗衣】と【森霊の樹冠】を使ってしまうことになるが、それよりも新たな物品を生成できることに気が逸る。
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【悲愛姫の樹骸】
分類:外法遺骸・木像
等級:C-
権能:【瘴律】【浄境】【命雫】【恵木】
詳細:悠久の時と瘴気により木質化したエスカ国最後の王女。その目と口は閉ざされたままだが、その顔には柔らかな笑みが湛えられており、見ているだけで心に安寧が訪れる。
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なんと、【悲愛姫の樹骸】は【骨人形】などと同じ”外法遺骸”だった。だが、これまでのスケルトンや自動人形とは異なりその体形は実に女性的で、何も言われなければ精巧な木像のように見えるだろう。
さらにいろいろと試した結果、今所持している”外法遺骸”や”自動機装”と比べて、命令に対しての理解度がかなり高いということが分かった。概念的な言葉の意味も理解するし、複雑な命令も間違えず実行することができる。
全書の説明を見る限り、【時森の葉麗衣】と【森霊の樹冠】のものに加えて新たな”権能”と呼ばれる特殊な能力も持っているようなので、能力的にもかなり期待できるだろう。
さて、これでようやく【揺らぐ時森】で手に入ると思われる主な物品を収集することができた。いくつかの物品は素材として使ってしまったため、それについてはもう一度収集しなおすつもりだが、今はこの充足感に身を預けるとしよう。




