九ページ目
「イアアアア!!」
例の空き地での野営は非常に快適なものだった。特に眠りを妨げられることもなく目覚めると、空き地には夜のうちに自動人形たちが倒したのであろう、擦れる葉玉や備える森蜘蛛の素材が山積みされていたのは嬉しい誤算だった。
「ガエ……ジデ……!ガエジ……デ……!!」
ありがたく素材を回収し、早速森の奥へと進むことにした。道中の環境はこれまでの湿地帯からまた乾いた地面へと戻っていたが、拠点付近とはまた植生や生息する魔物の種類が異なるようだ。頭上から差し込む陽光さえより暖かく感じられるのは、周囲の景色が生命力に満ちているからだろうか。
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【捲れる樹皮の荒皮】を収集しました
【捲れる樹皮の樹脂】を収集しました
【粟立つ樹根の細尾】を収集しました
【粟立つ樹根の木鱗】を収集しました
【レイカヅル】を収集しました
【ナミイチゴ】を収集しました
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捲れる樹皮というのは森にある樹木の樹皮に擬態する魔物である。全書によると擬態に気づかない獲物に覆いかぶさり、絞殺する習性があるらしい。擬態する樹の種類に応じて表皮の質感を変えるという、なかなかに器用な魔物だ。
さらに粟立つ樹根という、またしても周囲の環境に溶け込んで身を隠す魔物も出現し始める。ただ、こちらが擬態するのは木の皮ではなく樹の根だった。体の構造は蛇そのもので、獲物に巻き付いて絞め殺し、丸呑みにして捕食するようだ。
とはいえ、どちらの魔物も金属製の全身鎧をどうにかするような力はなかったらしい。先導する自動人形にあっさりと粉砕され、素材の一部となった。
「ガエジデエエェェ!!!アアアアアッ!!」
さらに進むとこの森に入って二種類目となる人型の魔物、転打つ女蛇と遭遇した。とはいっても、最初に討伐した人型の魔物である鳴哭せし啜る怪蜘蛛と同様に辛うじて人の面影があるといった具合で、蛇の顔を無理やり人に似るように捻じ曲げ、奇妙に細長い腕をつけたような造形だ。
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【転打つ女蛇の鱗皮】を収集しました
【転打つ女蛇の蛇肉】を収集しました
【転打つ女蛇の鉤爪】を収集しました
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手に入れた素材によって、新たな生成候補も現れたのだが、その確認は時を改めてすることにしよう。そうして素材を集めながら森を進み続けると、やがてちょっとした大きさの湖に行きついた。休憩でもしようかとその湖のふちに近づいたところ、その場を守ろうとするかのように全長四メートルほどの半女半蛇が現れる。
そして現在、その半女半蛇を自動人形たちで迎え撃っているという訳である。
どういう訳か「返せ」と叫び続けるこの半女半蛇は、地面を滑るように移動し、自動人形たちに体当たりや鉤爪による攻撃を繰り出してきた。ジルラドをはじめとする自動人形たちはその速さと癖のある動きに少々手こずっているようだが、相手の攻撃による損傷などはほとんどないようなので、しばらくすればケリがつくだろう。
「ガエゼエエエ!!!」
そう楽観視していたのだが、半女半蛇がひときわ激しく叫んだ瞬間、自動人形たちの足元から突如木の根が飛び出してきた。木の根は自動人形の脚に絡みつくと、その場にすべての自動人形を釘付けにする。半女半蛇はその隙に最も近場にいた剣歩兵を激しく尻尾で打ち据えた。
さすがの剣歩兵もその衝撃に耐えられなかったようで、各部位がバラバラに四散しながら吹きとばされてしまった。だが、その間に他の自動人形たちは拘束から逃れ、再び半女半蛇に攻撃を加える。
一体が倒されたといっても今やこちらには十二体の自動人形と五体の【時森の怪軽兵】がいるのだ。それにたとえ損傷したとしても、一旦全書に収納してしまえば修復が可能なことも確認済みである。
特殊な能力に攻撃の手が止まることもあったが、それほど時間もかからずに討伐を終えることができた。戦闘の様子を観察していて気付いたのだが、どうやら半女半蛇は湖岸の一角を守るように立ちまわっていたようだ。そのあたりを確認してみると、大樹の根に隠れるようにして一体の白骨体と激しく損傷した壁盾が安置されていた。
何やら事情がありそうなので、ありがたく収集させてもらおう。
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【泣咽せし這う奇蛇の白髪】を収集しました
【泣咽せし這う奇蛇の毒肉】を収集しました
【泣咽せし這う奇蛇の黒血】を収集しました
【泣咽せし這う奇蛇の蛇骨】を収集しました
【泣咽せし這う奇蛇の腰鱗殻】を収集しました
【エスカ国宮廷魔導長の呪腕】を収集しました
【蒼妃の涙水】を収集しました
【壁剣将軍の白骨体】を収集しました
【エスカ軍式壁盾(劣化極大)】を収集しました
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なんと、ここでも”エスカ”と”壁剣将軍”の文字を見ることになった。さきほどの半女半蛇―泣咽せし這う奇蛇―が叫んでいた言葉もそれと関係があるのだろうか。
手に入れた物品を使って何かを生成することができればさらなる手掛かりが手に入りそうだが、残念ながら今持っている素材だけでは足りないようだ。
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【エスカ軍式壁盾】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
エスカ軍式長剣(劣化極大) 100%/100%
灰銅鉱 300%/100%
剛鉄鋼 0%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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【聳え立つ壁剣の威光】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
エスカ式自動重兵人形・壁剣将軍 100%/100%
壁剣将軍の白骨体 100%/100%
エスカ軍式壁盾 0%/100%
瘴気 120%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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【狂い合う死生杖】を生成します
以下の物品を消費する必要があります
エスカ軍魔導長の死形相 100%/100%
エスカ国宮廷魔導長の呪腕 100%/100%
鳴哭せし啜る怪蜘蛛の複魔眼 70%/100%
泣咽せし這う奇蛇の白髪 50%/100%
ガシアの古大樹 1500%/100%
物品が不足しているため、生成を行えません
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これらを生成するにはまだ発見していないものや手に入れてはいるもののより多くの素材が必要なようだ。気になるのはたった今倒した泣咽せし這う奇蛇や鳴哭せし啜る怪蜘蛛の素材が必要という点である。
これまでの探索結果から考えてみると、どうもこの二体は魔物たちの中でも特殊な種族のように思われる。他の魔物とは何回か遭遇しているのにもかかわらず、二体とは縄張りに入った時しか遭遇していないし、それに全書で確認できる名称の付き方も他とは違うように見受けられた。もしかしたらこの辺りの”ヌシ”とも言うべき珍しい魔物の可能性もあるので、追加の素材を手に入れることが難しいかもしれない。
もし二度と遭遇することができないとしたら非常に口惜しいところだ。生成物品が手に入らないだけでなくまだ見ぬ素材があったかもしれないと考えるだけで、震えるほどの焦燥感が体を駆け巡る。まったく我ながらがめついにもほどがあると思うのだが、この身から湧き上がる物欲は一向に収まりそうにないから困ったものだ。
とはいえ、今回の探索はこの辺りにしておいて、一旦拠点に戻るとしよう。これまでの探索で得た素材もかなりの量になったので、それを使った生成物品もいくつか作れそうだ。一度体制を整えて、次の探索でさらに新しい物品を手に入れるために力を蓄えるとしよう。




