大好きな彼女が可愛すぎるので別れを告げた。〜大好きな彼女が大好きな人は大好きな私のことを分かってない〜
ハッピーエンドです。安心してお読み下さい。
俺には大好きな彼女が居る。惚気になってしまうが聞いてほしい。最ッ高な彼女なんだ。
あんなにも可愛いしモテそうなのに、男性経験がほぼゼロらしく、何をするにしてもウブで可愛い。
初めてデートに行った時には本当に大変だった。無難に恋愛映画を見たんだけど、ラストシーンでボロ泣きして。映画終わった後に顔隠して固まっちゃって。だけど耳は真っ赤でさ。可愛かったなぁ。
その後もお昼ご飯食べてる時に映画の話で超盛り上がって、あのシーンでのあの表情が……!とか目キラッキラさせて話してて。でも急に我に帰ったかのように赤面して。それもまた可愛くて。付き合えて、告白してホント良かったなぁなんて思ってた。
初めて家デートした日も、何もしないって言ってるのに滅茶苦茶緊張してて、開口一番に「や、優しくして下さいね!」は普通に吹いた。可愛すぎた。
結局家でダラダラしながら2人でゲームしたり、ドラマとか見たりして過ごしてただけなんだけど、何するにしてもすっごい楽しそうに、幸せそうに笑うその姿を見て、本気で襲いたくなった。でも、それくらい好きだった。
そんなこんなで結局付き合って5ヶ月が経って、今ではもう、下の名前で呼び合うようなラブラブカップルになっている。あ?どこまで進んだか?だと?
……ハグまでしかしてません。ヘタレです。すみません。
……さて、本題に入ろう。俺がどれくらい彼女の事が大好きかは伝わったと思う。あと彼女がどれくらい可愛いかも伝わっただろう。
……伝わってない?ならあと2話分くらいの文字数で説明してやろう。(やめろ)
冗談はさておき、俺は深刻な問題に直面している。大学一年生でこんな幸せ真っ盛りな俺だったが、簡単かつ重大な問題に気がついた。
『彼女が可愛すぎて辛い』
ということだ。は?惚気?違うわ!
まぁ何がなんだか分からないとは思うが、よく聞いて欲しい。彼女が、可愛いすぎるのだ。
ここでの問題点は、俺にある。正直言って、一切釣り合ってないのだ。
想像して欲しい。彼女は、俺なんかには勿体なさ過ぎたのだ。彼女は大学内でも屈指の人気を誇る可愛さだ。それにあの性格。おっとりとして小動物のようなあの雰囲気。彼女にしたいランキングなら堂々の一位だろう。間違いない。
────それに比べて、どうだ。俺は。
成績は?普通。なんなら悪いくらいだ。そして顔。普通。家族からの評価は49点である。いや、普通以下であった。あ、あと1点……!
そして、運動…普通。可もなく不可もなくって感じだろうか。一応高校ではサッカー部だったのだが、マラソン大会で卓球部の早い子に負けた時に自信は喪失した。
性格も、普通。自分で言うが、全くもって面白いとは思えない。主人公力が足りていない。イベントでは必ず背景に徹するし、何よりコミュ症で女の子と喋れない。野郎どもと仲良くやってた高校生活だった。……泣いてねーし。(ぐすっ)
無論、彼女などできたことは無かった。できるわけがなかった。何故なら、いや、言うまでもない。俺が普通だったからだ。学校によくいる奴ランキングを作れば、堂々の一位だろう。THE・モブ。地域周辺に100人は居そうな顔。やめろ。泣くぞ。
さて、ここで問題が発生する。
Q.彼女と俺、付き合ったら、どうなると思う?
A. 劣等感に苛まれる。
簡単な話だった。たった5ヶ月という期間で痛感した。痛感させられた。
彼女に俺は、似合わない。
「世界に一つだけの花」という歌がある。ナンバーワンじゃなくても良い、オンリーワンなのだから。と。
しかし、俺は気づいた。俺は確かにオンリーワンだ。俺は俺しか居ないだろう。代わりなんて居ない。某ヤサイ人の王子様も認めてくれるだろう。お前はオンリーワンだ、と。
だが、俺には上位互換はいくらでもいる。
イケメンは勿論、ガリ勉。聖人。誰でもいいのだ。俺より優れている人は、いくらでも居た。
何処か、何処か俺に他の人は持っていない物があるはずだ。って、探したさ。全力で探した。
だが、そんなもの一つも無かった。
簡単な話だ。俺には彼女は勿体なさ過ぎた。何も、何も持っていない俺が、悔しかった。
この暗い、いや。どす黒い感情は、彼女と会うたびに増えていった。
焦燥感。不安。
俺は、俺はデートの後に彼女と別れると、すぐに鏡を見た。
鏡に写った俺の顔は、信じられないくらい醜くて、気持ち悪くて。……平凡だった。
彼女の可愛い、輝く笑顔を見てしまった後だったから、余計だろう。俺は、自分が酷く惨めに思えた。
会えば、会うほどに。彼女のことが好きになれば、なるほどに。俺は自分が自分で恐ろしく感じた。
何故、このような男が彼女に告白なんてしてしまったのだろう。
彼女の隣に立つべき人は、もっと、カッコよくて、優しくて、賢くて。彼女の事をもっと幸せにできる人だ。俺の持っていないものを持っている人だ。
───この感情は、止まらない。永遠に。
決意したのは、そう。あの時だ。添い寝。
彼女は、腕の中で俺の目を見つめて笑って言った。
「旭くん。大好きだよ。もう、絶対に離れたくないや」
と、彼女は恥ずかしかったのだろうか。俺の腕に顔を押し付けて隠した。……危なかった。
あの時、俺はどのような顔をしていただろう。きっと、きっと相当おぞましかったと思う。見られなくて良かった。本当に良かった。
黒い感情は、溢れて、溢れて、溢れて。全身を舐めるように染め上げた。ぞわっと鳥肌が立った。
そして、気づくと涙が出ていた。
「……え?旭くん?」
彼女は気づいたように、顔を上げた。見られただろうな。きっと。
俺は、初めて。初めて彼女を抱きしめた。
涙を見せないように。こんな俺を見せないように。
「……俺も、大好きだよ。真由香」
「………うん。大好き」
『離さないよ』とは言わなかった。もう、離れるつもりだったから。
俺は、別れる事を決意した。
彼女には、俺なんかよりもっと幸せにしてくれる人が居る。俺なんかじゃ、ダメだ。絶対に、ダメだ。
それなのに、わかっていたのに。
俺は彼女を抱きしめた。初めて、初めて抱きしめた。彼女の身体は思ってたより細くて、柔らかくて。あったかかった。
罪悪感。絶望感。それを勝る背徳感。幸せ。愛情。
相反する2つの感情に押しつぶされ、心はもうぺしゃんこだった。
彼女の幸せそうな顔だけを見つめて、泣いた。
俺は、すっかり眠ってしまった彼女に毛布をかけて、洗面台に行った。
鏡の自分は、思っていたよりも平凡だった。
思わず笑ってしまう。はははっ。
……そして、思いっきり自分の顔を二回殴った。
目の前の俺は、鼻から、口から。血を垂れ流していたが、何故か泣きながら笑っていた。なんと滑稽なことか。気持ち悪い。
罰だ。彼女の初めてのハグを。初めての彼氏を。初めてのデートを奪ってしまった自分への。
彼女の楽しそうな笑顔を思い出す。幸せそうな寝顔を。恥ずかしそうに笑うその赤くなった愛おしい表情を。
俺は、俺は1人で泣き続けた。声を殺して。
大学生にもなって、俺はまだまだガキだったのだ。
自分の立場を弁えることのできないガキだ。
泣いて泣いて、冷静になったところで、顔を洗った。
彼女が寝ているリビングへ行く。
すうすうと可愛い寝息を立てて眠っていた。見惚れてしまった。ゆっくりと彼女を揺らして起こすと、彼女は寝ぼけたように「おはよぉ、寝ちゃってた」と笑って言った。
「もう遅い時間だから、帰ろう。ほら、立って立って」
「んーん、まだ寝てたかったのに〜」
可愛らしくイヤイヤをして立った。それすら愛おしくて、離したくなくて。心を抉った。
「おはよう……って、旭くん顔! どうしたのそれ!?」
「あー、ちょっとぶつけちゃってさ。全くドジだよなぁ俺。あはは。まぁそれは良いから。ほら、帰る準備!早く早く!」
「う、お大事にね!絶対痛かったでしょ……ごめんね……!」
いつも通りの笑顔を作れただろうか。それは分からないけど。俺はその日、彼女を家まで送り届けて、帰った。
次のデートの終わり。俺は彼女に別れを告げた。
「真由香、別れよう。ごめん、俺じゃダメだ」
このままでは、いつか自分を自分で殺してしまうかもしれない。
俺の心はもう限界を迎えていた。彼女を想えば、これが1番だと決意した。離したくないし、真由香のことは大好きだ。だが、釣り合わなかった。それだけだ。
彼女は、泣いていた。胸に飛び込んで、ぎゅっと、抱いた。俺はずっと真由香の背中をさすった。
「……嫌だよ。…嫌だ。…別れたくなんて、ない」
「ごめん。……ごめん」
ぐすっ、ぐすっと彼女は無理して俯いて言った。俺は謝ることしかできなかった。全て、全て俺が悪い。
身分も自分の価値も分からないでに彼女を好きになってしまった責任だ。
「幸せになってね、真由香。俺なんかじゃ、ダメだ。絶対に、俺なんかよりもっと幸せにできる人がいるから」
笑ってやった。最後の別れだから、良いだろ?
俺は初めて彼女を引き離した。そして、振り返らずに歩いた。もう、会わない。もう、話さない。彼女が幸せになる為だ。だから、最後。
なのに。なったのに。彼女は、その日の夜に、また俺の前に現れた。
泣き跡で目が真っ赤になっている。馬鹿。美人が台無しだ。
「……こんばんは、旭くん?」
「……!?」
「あはは。目真っ赤じゃん。そんな目で玄関なんて出たら変な目で見られちゃうよ?って、私もか」
「な、なんで?俺は、」
「旭くん、別れを告げた側の人が振られた人より辛そうな顔してたら、ダメだよ」
「違う、俺は…」
「旭くんは、何も分かってないよ」
「……」
「まず、私が、私がどれだけ旭くんの事好きか分かってない」
「それに、私がどれだけ汚くて醜いかも分かってない」
「なっ!?」
「……そして、何より。私が見ている旭くんの事を、旭くんは知らない」
「旭くんが、どれだけカッコよくて、可愛くて。良い人か。分かって無いよ」
「俺は、俺なんか……」
「私から見た旭くんは、私なんかじゃずっと釣り合わないくらい、素晴らしい人なんだよ?」
「そんな訳無い!真由香は、こうして初めてだから錯覚してるだけなんだ!俺なんか、俺じゃ……」
「なーに言ってるの。旭くんだって女の子と付き合うの初めての癖に」
「そりゃ、そうだけどさ」
「もう一度言うね? 私は、旭くんが思ってる10倍くらい旭くんの事大好きで。私は、旭くんが思ってる100倍くらい醜い女だよ?」
「入れて?ほら、ずっとここじゃ寒いよ」
「あ、あぁ」
「はい、旭くんに問題。この前、2人でここで寝転んだ時。私はどう思ってたでしょうか!?」
「は、はぁ。幸せ、とかですかね?」
「むぅ、そんな風に映ってたかぁ。私。いや、そうなんだけどさぁ」
「と、言うと?」
「正解は、えっちしたいでした。残念」
「は、はぁ!?」
「それじゃ、その前に、デートした日。晩御飯一緒に食べた後に解散する時、どう思ってたか、分かる?」
「え、お腹いっぱいで幸せ?」
「はぁ。旭くんは純情過ぎるよ……」
「正解は、ホテルに連れ込んで欲しいな。です!」
「ごめんちょっと何言ってるかわかんない」
「そういう事だよ、引いたでしょ?」
「いや、引いたっていうか。予想外っていうか」
「全く、デートする度に勝負下着着てくる私の身にもなってよ……」
「な、なな!何言って……!?」
「まぁ、そういうところも好きなんだけどさぁ。でも、添い寝してもキス一つして来ないのは流石に男としてどうかと思いますよ? 旭くん!」
「ご、ごめんなさい……?」
「宜しい。じゃあ最後の問題。今、私がしたい事。分かる?」
「……思いっきりキスしたい?」
「ふふ、不正解。分かって無いねぇ、旭くんは。正解は……」
「思いっきり、求め合うえっちがしたい。です」
彼女は、俺をベッドに連れ込んで押し倒して、その柔らかい唇を押し付けた。どれくらいの時間が経っただろうか。長く、深いキスをした後。銀の糸を引いてやっと唇が離れた。
「どう? 嫌いになった?」
「まさか。じゃあ、今俺がどう思ってるか分かる?」
「早く、続きがしたい?」
「正解、叶わないな、真由香には」
そう笑って、もう一度唇を交わした。
黒い感情は、もう全て消え去っていた。
性癖が出てる?…何も言うまい。
感想書いてくださると、凄いモチベーションになります!!
良ければ!!是非!!(必死)