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笑顔でいれば  作者: 安芸 晃次
第一章 転落
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第八話 見えていない何か

 美香と結婚してから十年間ほぼ毎週土曜の夜は家族で実家へ行き、一緒に食事をしていた。

 半年ほど前から父が一緒に食べない日が多くなり変だとは思っていた。


 母に聞くといつも同じ答え。


「お父さんは大丈夫だよ。里志は美香ちゃんと子供の事を心配しなさい」



 七月頭からは斎藤エンジニアリング入社で営業車通勤ができるようになった。

 父に借りていた軽四トラックのマフラーがグラグラ揺れていたので、スタンドで応急処置をして実家へ返しに行く。


「マフラー修理しといたから二千五百円ある?」


 冗談で言ってみると、


「余計な事しやがって!」


 父が血相を変えて怒っているのを見て驚いた。


「冗談だからさ」



「今は細かいのが無い。今度払う」


 父は猫背で悲しそうに自分の部屋へ入って行った。



 しばらくして亡くなった伯父さんの四十九日法要に父と同行する。

 会食の後、外に出て車で父を待っていると雨の中で父と伯母さんが何やら口論している。傘を持って父の元へ行き、しばらく隣りで話しを聞いていた。


「百万は俺の分だ」


「そんなお金はどこにも無いから」


 それ以外はよく聞き取れない。



 何を話していたのか車内で何度も聞くと、父はしぶしぶ話し始めた。


 七年前に亡くなった父方の祖父の遺産が兄弟五人に各百万円あり、父と伯父さんは家が近くにあるので、二人分の遺産がまとめて伯父さんの口座に振り込まれたらしい。その遺産を父はまだ受け取っていないと言う。


「なんで七年も放置したの? 伯父さんが使い込んでもう無いんじゃないの?」


「うるさい! お前に何が分かる」



 父は故郷の長野で中学を出るとすぐに名古屋で木工の修行をし、自分が五歳の時に名古屋を離れて田舎町で独立。腕が良く、いつもやりきれないほどの仕事量で毎日のように残業していた。

 自分が中学三年の時、工場横の敷地内に立派な家を建ててくれた。建物は工場も含めて父の名義だが土地は借りている。父のお陰で関東の私立大学に行き、毎月六万円の仕送りもしてもらった。


 職人なので見栄っ張りで金使いも粗くおまけに大酒飲みだが、「父さんは絶対に自分のお金だけは絶やさずに持っている人だから」と母は常々言い続けていて、自分もどこかで昔から父を見ている母の言葉を信用していた。


 家族のために今まで必死で働き続けた父。仕事関係の事に口出しをすると父の機嫌が悪くなるので、母は家計や書類の手続きなどの全てを自営の父に任せっきりだった。


 母と自分は父の近くに居たが、父の体の事、そして水原の実家の事も全く見えていなかった。

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