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笑顔でいれば  作者: 安芸 晃次
第一章 転落
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第七話 父の異変

 四月の誕生日で三十九歳となり、美香の態度も変わってきたので少し焦り始めた。


 ガス屋、お菓子メーカー、損保営業など体験入社もしてみたが、なぜかしっくり来ない。


 その日は斎藤エンジニアリングという会社の面接が入っていた。

 父の軽四トラックで家を出て三十分程で到着したが、事業内容がよく判らない会社だったのであまり期待していなかった。面接は会長、社長の親子経営者と自分の三人で行い、約三時間ほとんど一人で過去の自慢話を続ける会長を唖然としながら見ているだけだった。


 最後に会長から一言。


「水原君を気に入った。七月頭から来て欲しい」


 ――自分はほとんど何も話してないのにその場で決めてしまった。その時何故か会長の懐の大きさを感じた。


「考える時間をください」


 面接が終わり家へ帰る途中、すでに自分の中で結果は出ていた。決め手は会長の不思議な人柄と営業車を通勤で使用できること。


「ここに決めよう。美香も喜ぶかな」


 この日の会長との出会いによって、その後何度も救われる事になる。



「七月三日の月曜からお世話になります」


 面接の三日後に電話でそう伝えた。平成十八年五月末のことだ。


「就職まであと一ヶ月もあるし、バイトを頑張るか」



 そう思っていた矢先に従妹の絵里から電話が入る。


「ウチのお父さんが今朝亡くなって、明日がお通夜で明後日に告別式だから……」


 父のお兄さんで父と毎週飲んでいた伯父さんが亡くなった。

 伯父さんは自分たち夫婦の仲人でもある。急いで父に連絡してお通夜に同行することにした。


 翌日の夕方、父を迎えに実家へ行くと喪服に着替えた父が二階の部屋に立っている。


「そろそろ行こうか」


 自分は先に一階へ降りて玄関で待っていたが、父はなかなか降りて来ない。


「遅れるぞー!」


 階段の下から見上げるとガリガリに痩せ細った父が手摺りにつかまり、一段ずつ必死に階段を下りている。


「昨日の晩は眠れなかったから、足がフラフラだ」


 違うと思った。明らかに様子がおかしい。


 お通夜の式場に着いてもゆっくりしか歩けない。

 そして、いつ頃からこんなに痩せてしまったのか思い出せない。


 会社を辞めてから半年あまり、毎日のように実家に通った自分は一体何を見ていたのか。こんな異変にどうして気がつかなかったのか。


 この時、父は六十七歳、母は七十三歳。


 生まれて初めて自分の将来への不安感が、期待感を超えようとしていた。

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