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笑顔でいれば  作者: 安芸 晃次
第一章 転落
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第六話 幸せの夕陽

 平成十八年に入り、さっそく転職活動を開始。雑誌で目に付いた二社へ面接に行った。


 すぐに内定の連絡が来たが二社とも決め手がなく断った。四十歳直前という事もあり失敗は二度としたくない。焦ってはいけないという気持ちが強かった。


 毎日暇だったが失業中なのであまりお金は使えない。西村印刷時代に得意先のピザ屋で一週間だけチラシ配りのバイトをした事を思い出したが、失業手当を受給しているので無理かもしれない。

 ピザ屋に行って店長に事情を話してみた。


「奥さんをメインにして手伝えば? 履歴書を持っていつでもおいで」


 名義を美香の名前にして夫婦でバイトを始めた。



 家ではテレビより新品のノートパソコンでネットに明け暮れる日々。野崎君に教えてもらった沢山の「お小遣いサイト」に会員登録して夜中までクリックし続けた。

 その頃はネットの株取引がブームだったので証券会社の口座も開設し、美香から四十万円借りて株もやり始めた。株式市場は一月のライブドアショックから落ち着きを取り戻した頃だった。


 この時、株式トレードと出会ったお陰で今の自分が正常な神経を保っていると言っても過言ではない。


 ピザ屋のチラシ配りとお小遣いサイトは美香と一緒に仲良くやった。失業している旦那のアルバイトを一生懸命に手伝ってくれる美香をとても愛おしく感じ、この子と結婚して本当に良かったと改めて感じていた。


 その頃住んでいたアパートから実家までは車で二十分程度の距離。暇な事もあり、高齢になってきた両親の顔を毎日のように見に行った。


 会社の営業車が使えなくなり、家の車は美香が使っている。

 駅や交通手段の少ない田舎の町で電車やバスの移動は不便なので、車を二台持っていた父がほとんど乗らなくなっていた軽四トラックを借りて乗っていた。


 父は自営で木工の仕事をしていたが、職人手作りの特注品よりも大量生産の安価な既製品が好まれる時代になり、以前に比べて仕事が急激に減っていた。そのせいか、この頃から父はどこか元気が無く、自分が実家を訪ねても部屋から出てこない事もあり心配していた。母は歳のせいだと笑っていたが……。



 自分が毎日家にいる事に最初は戸惑っていた子供たちは一ヶ月もすると慣れてきて、平日の夜は遅くまで、そして週末は朝から晩まで一緒に遊んだ。


 子供たちが大きくなった最近になって初めて最高に幸せだった時間に気づいた。



 近所の小学校で、日が暮れるまで一緒によくボール遊びをした。


「今日の晩ご飯を当てっこしよう!」


「パパはオムライス!」


「結花はスパゲティだと思う!」


 亮介は?


「……カデー」


「……」


「カレー?」


「カデー」


 大きな夕陽を背にしてアパートまで三人で歩いて帰る。


 まだ小さかった結花や亮介と走り回ったあの日々はもう二度と戻っては来ない。

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