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笑顔でいれば  作者: 安芸 晃次
第一章 転落
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第五話 夕暮れ時

 自分と高木さんは十二月二十日付で会社を辞める事に決め、十一月末に退職届けを社長へ提出。


 もちろん事前に家で美香には何度も相談していた。


「病気しないうちに早く辞めた方がいいよ。もう三十八歳だからね」



 社長は動揺していた。


「お前らちょっと待てや、いきなり言われてもな」


 仕事の引き継ぎをしていないし、引き継ぐ人材も居ないからだろう。三日間ほど連日引き留められ、オクダ組の人たちから急に優しくされた。


 そこへ労務士先生から社長へ電話が入る。


 途中まで穏やかに話していた社長だが、しばらくして顔つきが変わった。


「もう分かった、勝手にせいや」


 電話を切った社長は怒りのあまり机を蹴り上げ、自分と高木さんを睨みつけた。



 労務士先生に言われたタイムカードのコピーは渡してある。

 我々が毎日七時間近く残業していることで注意を受けたのだろう。


 その日の夕方、先生に電話して社長との会話の内容を聞くと、


「電話の内容は言えませんが、お二人は会社都合で辞める形になりますので安心してください」


 翌日からは夜八時以降の残業が禁止となり、退職までの三週間程は社長をはじめオクダ組の人たちから完全に無視された。



 しばらくして先輩営業の二人、営業事務の二人と自分の五人で久々に居酒屋へ行った。つい四ヶ月前までは毎月のように西村印刷の飲み会があった事も遠い昔のように思える。我々二人が辞める事で、残った西村組の仕事が更に増えることが申し訳なかったが、「水原君たちが仇討ちしてくれて胸がスカッとしたぞ!」と言ってもらえた。もちろん気を遣ってくれての発言だが、長年の戦友からの言葉は嬉しいものだ。


 自分が抜けたところで時が経てば大勢に影響は無いことも分かっていた。



 そうして無事に会社を辞め、職安で失業の手続きをして年末を迎えた。


 まだスマホが無い時代だったので就職活動用にノートパソコンを購入し、西村時代の後輩である野崎君を家に呼びセットアップしてもらった。野崎君は結花や亮介とワイワイはしゃぎながら今の生活について楽しそうに語る。


 九月の西村印刷廃業と同時に退職した独身の野崎君は失業ライフを満喫していた。自分も焦らず後悔しないような転職先を探そう。八ヶ月あればきっと良い会社が見つかる。


 この時は()()不安よりも期待の方が大きかった。


 楽しそうに自分の将来を話す野崎君を見て、自分にもまた朝が来る、今は夜明け前なんだと思っていた。



 それが大きな勘違いだった事は意外と早く知ることになる。

 あの時の薄暗い景色は夜明け前ではなく人生の夕暮れ時だったのだ。


 いつも呑気な自分らしい生き方を通せた時代が終わろうとしていた。

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