第三話 よそ者
西村オクダ初日。今までと同じ事務所へと出勤する。
西村印刷社員の半数以上が退職を選び、西村オクダへ移ったのは営業五名と営業事務二名、経理一名の計八名。営業は自分以外に先輩二名、後輩二名で、先輩は四十代と五十代、後輩は二人とも二十代だ。入社以来ずっと一緒に頑張ってきた同期の野崎君と相川君は会社を去った。
オクダからは社長、営業部長、システム管理課長、経理部長の四名が配属され、計十二名で新会社は発足した。
午前中は例によって新社長の希望に満ちたスピーチ。その後システム課長からオクダの管理システムへの移行について詳しい説明があった。
午後からは社長、営業部長と我々営業五名で担当先の振り分けなどの会議に入った。
「今までの西村の得意先ぜ~んぶをお前ら五人で振り分けるだけや」
社長がそう言い放った途端、後輩の一人が驚いた顔で聞いた。
「オクダから営業さんの増員予定とかは無いのですか?」
社長が無表情で返す。
「来たらお前ら必要無くなるけど、それでもええの?」
今まで営業十名で担当していた客先数を五名でカバーするらしい。
「エリアが広すぎて無理です。訪問営業しないと客が逃げます」
その場の雰囲気で、つい本音が出てしまった。
「お前ら勘違いすなよ、西村の会議やないぞ。何とかせいや」
社長は薄笑いを浮かべながら鋭い視線でこっちを睨みつけた。
単純に五名が今までの倍の件数を担当するのかと想像したが、社長が決めた振り分けでは不思議なことに若手二名の担当先は少し減り、自分を含むベテラン三名の客先数が三倍近くに膨らんでいた。
先輩二人は言葉を飲み込むように何も言わず下を向いている。
よそ者に反論の余地は無いと知った。
結局初日は六時頃まで会議が続き、自分の席に戻ると机の真ん中に新品のパソコンがドーンと置いてある。西村印刷時代のデカいブラウン管ではなく薄い液晶タイプだ。
二百件を超える担当先リストを眺めながら途方に暮れていると、社長が我々のシマへ歩いてきた。
「若手の二人は暇やろ。メシ行くでぇ、ちょっと付き合えや」
申し訳なさそうに我々を横目で見ながら後輩の二人は社長、部長たちと一緒に事務所を出て行った。
残されたのはベテラン営業三人と営業事務の二人、そして目付け役のシステム課長が我々を睨むように監視している。
それまでの人生、どんなに困っても意外と切り抜けてこられた。今回もきっと大丈夫、一生懸命やっていれば何とかなるはずだ。そう自分に言い聞かせた。
平成十七年九月。残暑が厳しい年だった。