第2話 我、勇者飼います
前回のあらすじ
疲労でおかしくなった魔王軍は
「勇者のレベルが上がってない時にやっちゃお!」
というプライドのかけらもない判断をくだし、勇者の召喚に成功!しかしその勇者…めちゃくちゃ強かった!
「「赤ん坊…!?」」
シュルクとマハルハは声を揃えてそう叫ぶ。
魔方陣に現れたのは紙オムツをはいた赤ん坊だった。
「ちょ、ちょっとまちーな!もう勇者は魔王退治に行けるような年齢のはずやろ?」
代々勇者は魔王が生まれた年で17才になる、今までの勇者も皆そうだった。
ベルガナたちがあわてふためくなか赤ん坊がよちよちと魔王のもとへはいはいする、そしてたどり着くと
「パァパ!!」
満面の笑みを浮かべていう。
「えっ…?ちょっ…」
魔王は慌てた。赤ん坊がパパといったこともあるが、なにより赤ん坊の後ろに見えるまるで軽蔑したかのような二人の目線があったからだ。
「魔王様…今お生まれになったばかりですのに…。」
「流石にそれはあかんでベルガナ様…」
「ちょっとまってくれ!そ、そうだ!ほら!この瞳を見よ!」
そういってベルガナは赤ん坊の瞳を見せた、二人がその瞳を覗き込むと、そこには伝承と同じ金色のダイヤの瞳があった。
「…どうやら、本当に勇者のようですね…。」
「んー、そうみたいやな…でも、ほなら何でベルガナ様のことパパっていったんやろ?」
「…我もわからん。」
そういって、三人で頭を悩ましていたが、それ以前に
『え、この勇者を倒すの…?』
そう、ただでさえこの作戦は良心とプライドを捨てたものだったのに、ましてやその相手が赤ん坊で、その赤ん坊の勇者を姑息な手で倒したとなれば一躍くそ魔王集団として有名になるだろう。
『…しかも…』
「…うぅ?」
三人を見て首をひねらす。
『勇者がめっちゃ可愛い…!』
「と、とりあえず魔王様のことをパパと呼んでるくらいなついてるんですから、いっそのこと手なずけてしまっては?」
「意義なしやわ、それでええやんベルガナ様!」
「うん、我もいいと思う。」
満場一致で勇者を手なずけることになった。
勇者のことで連日徹夜していたとはいえ、魔王城の者は皆正常な判断をくだせなくなっていた。
『勇者といっても赤ん坊…流石にいじめたらあかんよなぁ…』
そういいつつSっけのあるマハルハは怪しい笑みを浮かべて勇者を呼ぶ。
「勇者様~こっちへおい…どはぁぁ!!」
すると、言い終わる前に何者かの打撃によりマハルハの頭が地面に埋まる。
「「…え……?」」
ベルガナと、シュルクは見ていた、その何者かの正体を。
「りょいぜ!!」
勇者がそう叫ぶ。魔方陣から離れたマハルハの近くで。
『え?なに?なになに?あれ勇者がやったの?え?むりぃ?我魔王だよ?え?勇者がみえなかったんだけど?』
ベルガナは焦る、二人は思考停止していた。
少したってからシュルクが口を開いた。
「ロイゼ?」
すると勇者は満面の笑顔を浮かべてシュルクのほうへはいはいした。
「…名前を呼んでほしかったみたいですね。」
シュルクは寄ってきたロイゼを抱えて話す。
マハルハは地面に手をつき頭を引っこ抜き一言
「…死ぬ…」
と涙目で声をもらした。
シュルクは考えていた。マハルマは生まれつき魔力量が魔王並みに多く、天才児だと言われていたが、不器用さと知力の低さで高度な魔法が使えない。その鬱憤から肉体を磨き、最後には完璧な運動神経と多大な魔力の身体強化により、肉弾戦なら魔王軍にマハルマ以上の実力者はいなくなった。
そんな奴が今目の前で瞬殺された、しかも赤ん坊に。
そしてその赤ん坊は魔王のことをパパと呼んでいる…。
『あー…魔神様…ありがとうございます。我らにこんな逸材を…ありがとうごさいますぅ…。』
と心の中で涙を流すのであった。