第1話 我、出会いました
昔、人を食い、町を荒らし、世界の平和を脅かす魔王がいた。人々は魔王や、その仲間の魔物達を大いに恐れたが、この中で魔王を倒す運命を背負った者がいた。皆はその者を『勇者』と呼び崇めた。勇者の瞳は黄金に輝き、ダイヤの形をした白い瞳孔があるという。
その勇者と悪戦苦闘を繰り返し、魔王は倒された、そしてそれからはや数百年…その間人間達はそれはそれは平和に暮らしていた。の、だが…
ゴロゴロ…ドシャァァァ!!
大きな落雷と共に新しく魔王が誕生した、いや転生したというべきか。
落雷が落ちた椅子には、艶々とした黒髪に禍々しくそまっている角をはやし、紅い瞳をした魔王が座っていた。
「皆の衆!!この『クライム』が戻ってきたぞ!!…いや、新しい名をつけようか…」
魔王は辺りを見渡すと、祝福のベルが左右にふれて音を鳴らしていた。
『ベルがなっている…はっ…!』
「我が新しき名は『ベルガナ·テール』!魔王ベルガナだ!!」
「おぉー!!魔王ベルガナ様ばんざーい!!」
「ベールガナ!!ベールガナ!!」
と、魔物達が歓声をあげているなか、白髪の淡麗な容姿で心の中を覗くことができるという心眼の持ち魔王の補佐官である『シュルク·オーザ』は思った。
『おい魔王様、もっと考えて名前つけろよ…!!』
と。
魔王はいつも気だるけで、ろくに仕事をしなかったが、そんな魔王でもやるときにはやるし、何よりこの補佐官がよく働き、そして賢く、シュルクが指揮をとればその軍に負けはないとされていた。
その他にも十魔鬼という魔王直属の最強の臣下もいた。しかし、やはり魔王には勇者がつきもの、先代の魔王達は全員それぞれの勇者に倒されてきた…。
「魔王様!」
魔王ベルガナの誕生際が終わるないなや、ベルガナのもとへそそくさとかけつける。
「どうしたシュルク。」
シュルクはその物静かな顔立ちからは想像もできないようなテンションで
「私思いつきました、いっそのこと勇者を魔王城へ召喚してしまえばいいのですよ!」
こう提案する。もう限界だったのだ、負けて負けて負け続けて…シュルクは魔王がいない間1人で任務をこなしていた。魔物不足で起こる食糧難、もう悪さをしてなくても討伐に来る騎士、シュルクは疲れていた。そしてそれがついにピークに達し目を回しながら考えた結果がこれだった。
「なんでわざわざよんで殺されなきゃならんのだ、我まだ産まれたばっかりだし死にたくないぞ。」
そういって頬をふくらますベルガナ
「その逆ですよ!一人でまだ覚醒していない勇者なら私だけでも倒せますよ!」
『お願いだ…この提案を受けてくれ…』
シュルクはここまで必死になることなどほとんどないのだが、寝ることすらできない日々が続いており、『いっそのこと勇者をもうやっちゃえ』という結論に至ったのであった。
『この提案…普通なら素晴らしい提案だが、結構魔王軍としてのプライドが傷つく…ここで簡単には頷いてくれないか…?』
シュルクはどうにか説得しようと頭をフル回転させていた。
「なるほど!その手があったか!」
が、魔王はあっさりと承諾し、シュルクは心の中でガッツポーズを決めつつ
『うわぁ魔王様プライドなさすぎだろ。』
と、ベルガナを少々馬鹿にしていた。
こうして、勇者を呼び出すことが決まり、もしもの時のために戦闘要員として十魔鬼のリーダーである『マハルハ·ガトル』をよんだ。褐色の肌で破天荒だが根は真面目な性格だ。
「まじかいな。」
だから今回のことを許さないかとシュルクは心配していたが。
「よくそんなこと思いついたな!これで魔王軍も安泰や!」
勇者にやられすぎているせいか、仕事の疲れか、正常な判断が出来ないらしい。あのドSでプライドの高いマハルハが了承した。
こうしてこの三人で『勇者を弱いうちにやっちゃおう作戦』が決行されることになった。
紫色の松明が散りばめられた、十角形の部屋の中央に巨大な魔方陣が描かれる。
「では始めてください魔王様!」
魔方陣を描き終えたシュルクが合図する
「うむ。」
『同じ運命を背負いし勇者よ、汝我が声に応じここに参上せよ。汝が守りたいもののため、汝が果たすべき使命のため、我の元へ誘われん。』
魔方陣が光り輝く。
「おぉ!勇者のおでましや!」
「これで…やっと休暇が…。」
辺り一面が光りに包まれる。
ー僕はこう思うんだ。
勇者と魔王は表裏一体、魔王を唯一倒せるのが勇者であるならば、魔王を唯一救えるのも勇者なんじゃないかってね。
だから『ロイゼ』…魔王をよろしくねー
光が薄くなり魔方陣の方を見る。
「「は?」」
シュルクとマハルハはめをまるくした。
魔方陣に現れたのは
「うぃ!!」
赤ん坊だった。