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1-1 思いがけない事態にとる自らの行動

初めて小説を書きます。

隙の多い作品かとは思いますが、温かい目で読んでいただけたら幸いです。

 『突然の事態にとってしまう行動こそが、本当の自分だ』という話を聞いたことがある。


 それはつまり突然の事態においての自分の行動が異常だったりした場合、自分は異常な人間ということになるのだろうか。


 だけれど、『突然のことに思いがけない行動をとってしまった』というのも見聞する話だし、その両論を加味すると『突然の事態に思いがけない自分に会ってしまう』ということになる。


 言葉尻だけなら、まるで見たら死ぬと言われる自分と見た目がそっくりな存在、ドッペルゲンガーに会った話に見えなくもないが、もちろん違う。


 そもそもドッペルゲンガーに会うことこそが突然の事態だ。そのことによりもう一人ドッペルゲンガーが現れたりするのだろうか。


 そしてドッペルゲンガー自身もドッペルゲンガーが増えたことに驚いて、またドッペルゲンガーを生んでしまう。ドッペルゲンガースパイラルだ。


 どうしよう、このままではこの世が僕そっくりの人間で溢れてしまう。バイバ〇ンをかけた饅頭のように宇宙に捨てて来なければならない。


 だが八人目ぐらいになると、さすがの僕もどうせまたドッペルゲンガーが出るんでしょとマンネリしてしまうかもしれない、これでは突然の事態にはならない。


 人間とは慣れる生き物だ。環境に適応していく。


 それに世界には自分にそっくりな人間が三人いると言うわけだし、ドッペルゲンガーは結局、三人くらいで打ち止めなのかもしれない。


 だけれど安心してはならない、そもそも一人目のドッペルゲンガーに会った時点で僕は死んでしまうことが決定してる。


 三人もドッペルゲンガーに会ってしまったら三回は死ぬのだ。これはもう泣きっ面に蜂どころの騒ぎではない。もうなんと言えばいいのか、僕が可哀想だ。


 何を話していたんだっけ?そう突然の事態、つまり刺激だ。新しい自分を見つけることが出来るなんてやはり刺激こそが人生には重要なのだろう。


 せっかく入った企業を辞めて自分探しの為に世界を放浪するバックパッカーになる、よく聞く話だ。刺激を求めることで新しい自分を見つけられることを彼らは知っているのだ。


 羨ましい話である。バックパッカー、僕の真逆の存在だ。


 僕はこの家から出ることは出来ない。誤解を招くことを覚悟して端的に言うと、言ってしまうと、僕はヒキコモリなのだ。


 これでは刺激による新しい自分が見つけることが出来ないのは当たり前だ。


 ヒキコモリというとネガティブなイメージしかない。


 ヒキコモリのことを「家に捉われた男」と言ってみるのはどうだろう?カッコいいだろうか?自分で言っておいてなんだけど、僕はカッコいいとは思わない。


 じゃあ何故僕がそんなことを言ったのかというと、ただの思いつきで他意は無い。


 これは僕の尊厳を守る為に言っておくが、僕は僕の自由意志によってヒキコモリをしているのではない。かといって誰かの意思で監禁されているというわけでもない。軟禁、軟々禁ぐらいならされているかもしれない。


 「一体誰に軟禁されてるの?」と問われれば、「自分に」と答えるしかない。自由意志では無いが、自らヒキコモっているのだ。まあ我ながら酷く矛盾した話だと思う。


 例えば、「世界が滅びるのを防ぐには君がヒキコモらなければならない」と言われたらどうするだろうか?僕ならそいつを病院に連れて行く。


 じゃあ「世界が滅びていってるのは君が外出してる所為だ」と確固とした証拠を突き出されながら言われたらどうだろう?僕はそれなら仕方ないと家に戻り暇を潰す算段でも練るだろう。


 僕が何を言いたいのかをまとめると、こうやって思考がズレにズレ脱線していく状態こそが僕の突然の事態にとってしまう行動なのかもしれないということだ。


 ヒキコモリの僕にも新しい自分を見つけることが出来たのだ。やったね。


「どうも、おはようございます。探偵をやってる芦ノ谷ノヅチという者です。今、ある事件を調べていて、この家の前が犯人の逃走経路なんだ。昨日の晩、怪しい人物を見ませんでしたか?」


 朝早くに玄関の扉を乱暴にノックされて起こされ、イライラしながらドアを開けた途端、こんな事を言われたら普通はどうするのだろうか。


 「知らねーよ!」と怒鳴りつけたり、「昨日は見てないけど今、目の前に居るよ」と皮肉を言ったり、ただ黙って我関せずとドアを閉めたり、または素直に受け答えしたりするのだろうか?


 だけれど、その発言をしたのがブレザーの制服に身を包んだ女子高生だったらどうだろう?

 しかも黒髪が印象的で目鼻立ちが整った美人でスタイルも抜群で堂々と凛々しい表情で僕の顔を見ていたら?


 僕の場合は、さっきのような思考の脱線事故だった。というか現実逃避だった。


 一体、彼女は何なのか。いま出揃っている情報は『探偵をやっている』女子高生。名は芦ノ谷ノヅチ。


 怪しい。普通、女子高生は探偵をやらない。


 顔を見るつもりで、彼女と目を合わせてしまう。彼女は少年的ともとれる挑戦的で自信ありげな笑みをこちらに向ける。


 僕からの返答を待っているようだ。


 僕は目を背ける。こんな意味の分からないことを訪ねるときは、普通の人ならもう少し弱気な顔をするものだろう。


 どうしてそんな自信満々な顔をしているのか。ますます怪しい。


 だけど僕は怪しいと訝しむ感情以上に彼女が美人でドキドキしている。


 美人。僕は美人という枠組みをどう捉えているのだろう。


 美人とは顔が統計学的に平均な顔の作りの主に女性のことを指すというらしいが、それは本当なのだろうか?


 「あの人は美人だね」などと周囲から言われる人間を見て、「言うほど美人じゃないな」と疑問に思うことなどよくある。


 生物学的には自分の短所を補ってくれる相手と子孫を残したくなるというらしい、それが統計学的美人と自分の感覚との差異になるのだろう。


 自覚的短所、つまりコンプレックス。僕の顔のコンプレックスというのはなんだろう?


 小学生の頃に不機嫌そうだ言われたことがある、それは幼少の僕にとってかなり心に来たものだ。


 なんせ遠足の昼食の時間、ビニールシートを皆で囲んでお弁当を食べている時に「大山君、不機嫌そうだね」と言われたのだ。


 僕は凄く楽しいと思っていた。そのことは未だに僕の心に嫌なものを築いている。


 ならば僕の顔のコンプレックスは不機嫌そうな表情ということになる。


 もう一度、女子高生の顔を見る。まだ笑顔だった。


『この家は客を呼ぶよ、しかもとびきり変な客がね。君は誰かを呼ぶことをしてはいけないが、呼んでもない客が呼ばれてくるんだ、といっても招かれざる客じゃない。神社に参拝客はつきものさ』


 一年前にフリーライターを自称する怪しい僕の恩人が言ったこの言葉を思い出す。


 これもそうなのだろうか?


 変な客。珍客。


「あの?」


 随分と長い間、黙っていたものだから、相手がしびれを切らして伺ってきた。顔を見ると、強気な表情が陰り、すこし弱気な表情に変わっている。悪いことをしてしまった。


「えっと探偵さん?」

「はい!芦ノ谷ノヅチと申します!」


 最初の凛々しい表情に戻る。


 ハキハキとした口調によく通る声、そして整った目鼻立ち、この人は第一印象が高いタイプの人だろう。探偵などと名乗らなければだが。


 まあ「知りません」と言って扉を閉じても良いのだが、僕は生憎、ヒキコモリで人と喋る事に飢えている。


 僕はヒキコモリのステロタイプ、コミュニケーションが苦手で自分の世界に閉じこもっているタイプではない。


 元来はお喋りが好きで、そんな僕が一年間まともに人と会話を出来ていないのだ。


 面倒ごとは簡便だが、ただ話を聞くだけなら問題ないだろう。


 事件と言ったって、刑事事件にはならない程度の喧嘩とかだろう。大きな事件なら探偵ではなく警察だ。


 いや、もうごちゃごちゃ言い訳を考えずにに自分の下心を認めてしまおう。


 僕はこの美人と話したい!


 この美人と一秒でも長く話したい!


 ここに行き着くまで随分と思考が迷子になっていた。


「どうもご丁寧に芦ノ谷さん、昨日の晩は早く寝たものだからわからないのだけど、どんな事件なんですか?近所で何かあったのでしょうか?」

「おお!」


 芦ノ谷さんは嬉しそうな顔をする。なにが『おお!』なのかは解らないが、情報を集まらなかった事を探偵なら悔やむべきじゃないのか?


「実はですね。昨日の夜、九時頃、ここからまっすぐ南に行った所にある交通公園で刺殺された死体が発見されました。鑑定の結果、被害者の死亡時刻は昨日の晩6時から8時までの間だと判明したんです。凶器は刃渡り十センチほどのナイフでした。第一発見者は近所に住むジョギング中のサラリーマン。私はたまたま、こちらの管轄の捜査一課の警部殿と以前私が捜査した事件の話をしながら会食をしていたんですが、警部殿の携帯にこの事件の報告がありまして同行させてもらったんですよ。現場に残っていた足跡からこちらに逃げた算段が高いと思いまして、この辺の民家を訪ねているのですが、なぜかみんな話を聞いてくれないのです」


 この人は何を言ってるのだろう。

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