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98 ベルファスト①

そして冬花とカグツチに再び捕まったベルは、前日と同じように3人揃って浴槽に浸かっていた。


「はーーー。天界だと汚れないからお風呂に入る事なんて無かったけど、こうやって改めて入ると気持ちいいものね。」


すると日本に住む女性陣の二人がその言葉に食い付いた。


「ベルはもう少しそのあたりをしっかりした方がいいよ。しばらくここで過ごすのなら1日の終わりには必ずお風呂に入らないと。」

「そうだぞ。自分は綺麗なつもりでも地上では常に汚れ続けているんだ。そんな事ではあいつに嫌われるぞ。」


そう言って真面目な顔の二人に挟まれてベルは引き気味に二人へと頷きを返した。


「でも、蒼士はそんな事言うとは思わないんだけどなあ。」


すると二人は浴槽にもたれ掛かり天井に視線を移した。


「確かに、基本的には優しい蒼君はそんなこと言わないんだけどね。」

「そうだな。でも、あいつ時々笑顔で痛い所を突いて来るから気が抜けないんだ。」

「そうね、蒼君は稀に凄い意地悪になるからね。」

「まあ、そこも可愛いとこなんだがな。」


そして二人の蒼士の話は次第に惚気に変わりそれをベルは顔を赤くしながら聞いていた。

しかし、このままでは二人が蒼士との同衾した時の話まで始めそうなのでベルは話を変えるために今日の事を話し始める。


「そ、そう言えば今日はありがとね。二人のおかげでとても楽しかったわ。それにこんなに心が弾んだのも初めて。」


そう言ってベルは笑顔で背伸びをした。

その顔はとても華やいでいて昨日までの暗い雰囲気が嘘のように消えていた。


「それは良かったわ。それで、今日は何があったの?」


そして冬花は本題の今日の出来事をベルへと問いかけた。

今日の事で蒼士からは十分な答えを冬花は貰っている。

後はベルの気持ちが重要だと蒼士が言った以上、冬花とカグツチは確認せずにはいられなかった。

まあ、そのために逃げられないお風呂に連れ込んでこうして話をしているのだが。


「そうね。今日はドキドキの連続だったわ。きっとこの思いが好き・・・。なんだか違うわね。もっと暖かくて元気が湧いて来る感覚があったのよね。特に蒼士が守ってくれてるときはなんだか寒い日にフカフカの毛布に包まってる様な何とも言えない気持ちになったわ。」


ベルの話を聞いて、冬花はクスリと笑うとカグツチに視線を向ける。

するとその視線に気づいたカグツチは赤い顔をしてそっぽを向いてしまった。


「冬花の言いたい事は分かる。私も最初は似たような物だったからな。でも仕方ないだろ。人間と違って神には寿命がない。それでもなお、愛する相手が見つからない事が多いのだ。」


そしてカグツチは最後に「今は違うがな」と付け加えて笑みを浮かべた。

その顔から今はとても幸せなのだなとベルは感じ取る。


しかし、今の自分には恋愛に現を抜かす暇があるのだろうか?

その思いが常にベルの胸の中に湧き起こり素直に今の気持ちを受け止められずにいた。

現在のベルは恋愛不感症が確実に完治したと言える。

しかし、今まで行って来た事の癖で気持ちを押し殺してしまおうと考え始めた。

そう、全てはこの世界の安寧のために。

そして、ベルはその事を冬花たちへと告げる。


「でも、まずはこの世界を安定させないとね。好きな人が出来たのは嬉しいけど、きっと時間が経てばこの気持ちも落ち着いてくれるわ。だから二人ともありがとね。」


そう言ってベルは逃げる様に浴室から出て行った。

そして体もろくに拭かず借りている自分の部屋へと転移して消えていく。

その後ろ姿に冬花は苦笑を浮かべて見送り、カグツチは心配そうな顔で見送る。


「カグツチはどう思う?」

「確実に無理をしているな。あのままだと神の性質上あまりよくない。」


即ちカグツチはベルが我慢のしすぎで感情がマイナスに偏る事を心配している。

そして、その末路は彼方も此方も同じで、邪神に堕ちてしまう事を意味していた。


「そうか・・・。でもベルは個人に愛情を持ったのは初めてだから仕方がないかな。それならもう少し私達で助けてあげようか。」


そうして、ベルを素直にさせるための作戦か開始された。

そして、それはその日の夜から始まる事となった。


そしてベルはその日いつも通りの顔でご飯をみんなで食べ、普通に会話し部屋へと戻っていた。


しかし、昼間に蒼士と楽しい時間を過ごした彼女には何処か物足りない。


(は~。なんだか昼間はあんなに気分が良かったのに今は逆に胸が痛い。どうしちゃったのかな私。)


そして、次第に夜も深まって来たのでベルはベットに潜ると明かりを消した。


(神だから寝る必要はないけど、寝てる間はこの胸の痛みも感じないから少し眠りましょ。)


そして、眠りについたベルは聞こえて来たノックの音で目を覚ました。


(誰かしら・・・。)


しかし、寝ぼけた頭で起き上がると壁の向こうから声が聞こえる。

その事からノックされたのは自分の部屋ではなく、隣の部屋である事に気付いた。


(でも、この家は思っていたより壁が薄いのかしら。耳を澄ましたら会話まで聞き取れそうね。)


そして目を覚ましたベルは一度起き上がり声のする方へと視線を向けた。

すると、そこには壁から漏れ出る一条の光がある事にベルは気付き、ベットから立ち上がると静かに寄って行く。


(初めて気づいたけどこんな所に穴が開いてたのね。これは塞いでおかないといけないかな。)


そしてベルが穴を塞ごうとすると隣で話す声が誰の物かに気が付く。

そのためベルの中に小さな好奇心が生まれ、気が付くと穴を覗き込んでいた。


(何してるのかしら。ちょっと覗くぐらいならバレないわよね。)


するとそこでは蒼士と冬花が愛を育んでいた。

ベルはそれを一部始終目撃し顔を真っ赤にしてその場から離れ自分のベットに逃げる様に潜り込む。

そして、気付けばそのまま眠っており何か夢を見ていた様な気分になる。


そしてベルは先ほど湯船で冬花たちと話した事を思い出した。

しかし、体が寝汗をかいて濡れている事に気付くとベットから起き上がる。


(流石にこれで人前には出れないわよね。)


ベルは苦笑を浮かべ、まずはお風呂場へと向かって行った。

すると、そこでバッタリと冬花と鉢合わせになりベルは罪悪感はあるが覗いていた事がバレたくない一心で笑顔を浮かべた。

しかし、その笑顔はいつものそれとは違い少しぎこちなく見える。

そして冬花はそんなベルに満ち足りた様な顔を向けた。

その顔は今のベルにはする事の出来ない女の顔である。

すると冬花はベルへと顔を近づけワザと鼻を鳴らす様にクンクン嗅いだ。


「どうしたのベル、寝汗が凄いわよ。」


こう言っているが、冬花にはベルにいつもとは違う笑みを向ける。

そして冬花はベルの腕を掴むとこのまま人前に出れないと判断し一緒に脱衣所へと入って行った。

そして服を脱ぐと冬花はいつものように「ピュア」の魔法を使い二人分の服を綺麗にする。

この魔法のおかげでこの家の洗い物全般がとても楽になっていた。

そしてベルの服はシルクの様に滑らかな生地の為、冬花はそれをハンガーにかけ手から軽い温風を出しながら撫でて皺の入ってしまった服を綺麗に整える。


「そういえば、パジャマも買わないといけないかな。」


そして、服が終わると冬花はベルの待つ浴室へと入って行った。

そこでは既に新しいお湯がベルにより入れられタオルを巻いたベルが冬花を待っていた。


「先に入っててもよかったんだよ。」


そう言って苦笑を浮かべる冬花にベルも苦笑で返す。


「流石に私の服を整えるのに外にいた冬花を待たないで先に入るわけにはいきません。それに服を整えてくれてありがと。ああいう事は初めてなのでとても勉強になりました。私から見ても変わった魔法を使えるのね。でも、見せてくれたおかげで次からは自分でどうにか出来そうです。」


そして二人は湯船につかり揃って息を吐く。

すると互いにその事が面白かったのか「フフ」と笑いあった。


「そう言えば、ベルもここで寝泊まりするなら服をどうにかしないとね。最低限、寝間着は準備しないと毎日の準備が大変だよ。今日はこっちで別の服を用意するからそれで寝るといいよ。」


その後、二人はいくつかの事を話しあい部屋へと帰って行った。

そして次の日の夜にベルが部屋で待っていると冬花が寝間着の代わりの服を持って現れた。


「ごめんねベル。あなたに合う服は蒼君の服しかなかったの。今日は悪いけどこれで我慢して。それじゃお休み。」


そう言って冬花は自分の部屋ではなく蒼士の部屋へと入って行った。

その後ろ姿にベルは今の自分に虚しさを感じる。

しかし部屋の扉を閉めて服を着替えるとベルは何故だか蒼士が傍にいる様な気分になり布団に入ると自然と心が安らぎ眠りに落ちて行った。

その様子を隣の部屋から冬花が見ているとも知らずに。

当然の事だがベルから見えると言う事は、冬花からもベルが見えると言う事である。

そのためベルが冬花の一部始終を見ていたように冬花も全てを見ていたのだ。


そして眠りについたベルはその日夢を見た。

それは蒼士に愛され体を重ねると言う人なら一度は見るであろう夢。

しかし、その様な物を初めて見たベルは最後の肝心な所で目を覚まし悶々とした気持ちで朝を迎えた。


そして布団をはがすとそこには世界地図が描かれておりベルは頭が真っ白になり固まってしまった。

そんな時、外から扉をノックする者が現れた。


「ベル~朝ごはんだよ~。起きてる~。」


そう声を掛けたのは朝ごはんに呼びに来た冬花である。

そして、その瞬間ベルは昨日の事を思い出し自分に「ピュア」の魔法を掛ける。

すると服もベットも綺麗になりベルはホッと胸を撫で下ろした。


「お、起きています。すぐに下りますね。」


そう言ってベルは急いで服を着替える。

そして、蒼士の服に手を掛けた時、ベルはとても名残惜しそうな顔で服を脱いだ。

その後、綺麗にたたんでベットの上に置くと急いで1階へと下りて行った。

そしてテーブルを見ると既に美味しそうな料理が並び、席にはベル以外の全員が揃っていた。

どうやらベルはかなり寝過ごしてしまったようだ。


「ごめんなさい。待たせてしまって。」


そう言ってベルも席について謝罪を口にする。

すると蒼士がベルへと顔を向けると声を掛けた。


「気にするなベル。誰でもよくある事だ。」


そう言われたベルは以前までとはまるで違う嬉しさが胸に溢れた。

しかも、それは昨日の夜に味わった胸の痛みを消し、心地の良い幸福感をベルに与えてくれる。


そして食事を食べ始めると冬花はベルへと声を掛けた。


「ベル。昨日言ったように今日はあなたの服を買いに行くわね。お金は国が出してくれるから遠慮することは無いわ。あなたは神としてそれ以上の恩恵を人々に与えているのだから。」


すると、ベルは冬花の言葉に納得し、頷いて答えた。

実際、スキルを神の加護無しで獲得するのはかなり困難である。

その苦労を祈るだけで解消されるのならばそれは計り知れない程大きなことであった。


そして予定が決まり片付けを終えるとベルたちは出かけて行った。

しかし、ベルはそこで蒼士も加わる事を知り顔を赤らめながら驚いた表情を浮かべる。


「ベル。私達もいくつか買いたい物があるから蒼君も一緒よ。」


そう言って冬花は蒼士の右に、カグツチは左の腕に抱き付いた。

するとベルの胸にチクリと棘が刺さったような感覚が湧き起こり、ベルは力なく視線を落とした。

それを冬花もカグツチも気付いてはいるが何も言わず4人は町へと歩き出していった。

ちなみに向かうのはジョセフの店である。

あそこならここから近く素材から服にいたるまでかなりの品質の物が揃っているのだ。

それに、あそこまでなら市場などの人ごみを通る必要が無いため蒼士と腕を絡めたまま歩く事が出来る。


そして、その姿を後ろで付いて行きながら見ていたベルは先日の事を思い出していた。


(私もあんなに幸せそうだったのかな?)


するとベルは蒼士と繋いだ手を握り締めその温かさを思い出していた。

そしてしばらくすると店に着いた蒼士たちは、店員に案内され奥のベル専用の部屋へと通される。


「こちらで少しお待ちください。」


そう言って店員はお茶の手配をして下がって行った。

どうやらジョセフたちを呼びに行ったようだ。


そして少しするとジョセフ、ミランダ、ララが落ち着いた足取りで部屋に現れ席に着く。

すると、丁度見計らったように給仕の者がお茶を全員の前に準備した。


「それで、今日はどうされました?」


ミランダは1人1人の顔を確認するとベルへと声を掛けた。


「ええ、実はしばらくこちらに滞在するので替えの服が必要になりました。それをお願いするために来たのです。」

「そうですか。それなら当店でもおすすめの服を用意します。それで、買われるのはベルファスト様お一人ですか?」


そう言ってミランダは冬花とカグツチに視線を向ける。


「私達もいくつか買いたいのでお願いします。それと最後に何か小物が欲しいので見せてもらえますか?」


するとミランダは頷いて後ろに控えるララに商品をこちらに運ぶように指示を出した。

これはもしベルが店内を自由に歩き回っていると周りから多くの視線を集め、それは互いにとっていい事とは限らない。

それに、こういう時の為にこの部屋には試着などが出来るスペースもちゃんと準備されている。


そうなるとジョセフは自分は邪魔だろうと考え、席を立って部屋を出て行った。

蒼士も今回はベルが居るのでそれに続こうと立ち上がるがそれを冬花が素早く止めて再び席に座らせた。


「蒼君には服を選んでもらうんだからこのままここにいて。」


そして、それを見たベルは頬を赤く染め何やら期待の籠った目を蒼士へと向ける。

すると、通常は追い出すべきと考えるミランダもベルの顔から状況を飲み込み蒼士へと声を掛けた。


「蒼士と言ったね。女の服を選ぶのも男の甲斐性だよ。服のコーディネートはこっちでしてあげるから君は彼女たちに感想を言っておあげ。」


そう言うとミランダは自分から部屋を出て服を選びに向かった。

どうやらベルの顔を見て彼女に火が付いたようだ。


しばらくすると部屋に大量の服を抱えたミランダとララが戻ってくる。

そして、ベルを着せ替え人形にしたファッションショーが始まった。

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