97 ネズミ狩り②
そしてベルが笑顔で案内を続け魚屋へと到着した。
するとそこには初めて見る魚から自分の世界でもよく見る様な見た目の魚まで色々な物が並んでいた。
そしてベルは先ほどと同じように気楽に店に入るとそこにいる人物に話しかけた。
「オズワードさんこんにちは。」
「おお、ベルファスト様ではないですか。どうかされましたか?」
ベルに声を掛けられた30代ほどの男、オズワルドは嬉しそう立ち上がり言葉を返した。
すると店の奥から一人の少女が飛び出し、ベルの服へとしがみ付いた。
「こんにちわ、ベルファスト様。」
そう言って笑顔でベルを見上げて挨拶を口にする。
するとベルは少女の頭に優しく手を乗せて撫でると同じように笑顔を返す。
「こんにちわマーヤ。今日はお魚を買いに来たのよ。けど名前だけでどんな魚か分からないから教えてくれる?。」
するとマーヤと言われた少女は「任せて」と頷くとベルの手を見て首を傾げた。
「ところでベルファスト様。この方はどなたですか?旦那さん?」
マーヤは純粋な瞳をベルへと向けると穢れなない心で問いかけた。
するとベルは不意を突かれた質問に動揺し顔を真っ赤にして慌て始める。
しかし、手を放す気配は無くそれを見たオズワルドは顎に手を当てニヤニヤした顔をベルへと向けた。
「これは面白い。ベルファスト様にも春が来たって事か。それじゃ今日は縁起のいい魚でもうんとサービスしようかねー。それで、目的の魚は何ですかい?」
そう言ってベルへと問いかけると、彼女は耳まで真っ赤にした顔でメモ用紙を両手で突き出す様に渡した。
そして、その名前を見るとオズワードは大声で笑い出した。
「ははははは、こりゃ傑作だ。ベルファスト様。もしかしてこれは誰かの頼まれ物ですかい?」
「ええ。ちょっと問題が起きて今この人の家に住まわせてもらってるの。それでその家の他の人から買い物を頼まれてね。それで町を周ってるのよ。」
するとオズワルドの表情が固まり俺へと顔を向けた。
どうやら彼はベルの中途半端な説明で何か勘違いしたようだ。
しかし、別にベルは相手のミスリードを誘うためにこの様な言い回しをした訳ではない。
彼女なりに冬花の事に気を使ってあえてぼかしただけだろう。
だが、何も知らない者が聞けば、それは同棲しているのに他ならない。
そして、その事実はこの中で最も無垢な物から告げられる。
「わー、ベルファスト様。このお兄ちゃんと同棲してるんだ。私も大きくなったら素敵な人と結婚してこの店をもっと大きくするんだ。これもベルファスト様が私達に魔法を使えるようにしてくれたからだよ。」
すると、その時やっとベルは自分の失態に気付き俺と視線を交わす。
そして、それは周りからは見つめ合っているように見える為マーヤまで顔を赤くした。
そうしていると奥から今度は女性が現れベルへと声を掛けた。
「いらっしゃいベルファスト様。」
すると止まっていた時間が動き出す様に全員が女性へと視線を向ける。
「こ、こんにちわハリエットさん。」
そしてハリエットと呼ばれた女性はベルと俺を見つめ何より繋いでいる手を見て全てを悟ったような顔を向けた。
「そうかい、ベルファスト様にもとうとう春が来たんだね。それで今日はあいさつ回りかい。」
「ち、違います!ちょっと頼まれてお魚を買いに来ただけです。」
そしてその瞬間、ベルはやっとつないだ手を放し否定の声を上げる。
しかし、手を放した瞬間「あ・・・」と名残惜しそうな声が出た事が全てを台無しにしてしまう。
そして、俺はと言えば先ほどから苦笑が絶えないでいた。
どうやらここの家族は皆、似た者同士のようで話のループが止まらない。
(は~、早く次に行きたい。)
そして、当然似たもの夫婦の為、メモ用紙を見て大笑いをし始める。
しかしその後、ハリエットの号令ですぐに魚は用意されていく。
「そう言えばあんたはアイテムボックスはあるのかい。」
「ああ、持っている。」
するとハリエットは木箱に藁を入れそこに魔法で作った氷をギッシリ入れるとそれを俺へと渡した。
「荷物は男が持つもんだからね。」
そして先ほどの野菜屋で言われた事と同じことを言われ魚を受け取り仕舞った。
ちなみに箱に入れる時に見た魚の姿は俺がよく知る物に似ていた。
その姿はローシーサーバスはのどぐろに似ており。
シーブリームは鯛に似ており。
ホワイトシラゴはキスに似ていた。
邪推をしないのならば全てカグツチが好きな魚なのだが鯛は祝い事でよく食べられ、キスは漢字で喜びの魚、鱚と書かれる。
邪推をするなと言うのが無理な話であった。
しかし、これは俺の世界の常識であるためベルは知らないようだ。
だが、この世界には勇者により幾つもの知識や伝統なども持ち込まれている。
そのためどうやら魚屋の夫婦はこの事を知っているようだ。
そして、さすがに限界に来たのかベルは挨拶もそこそこに外へと飛び出して行ってしまった。
その際、俺の手を握る事を忘れていないため背中からは「今日は猛暑だね~。」という声が聞こえて来る。
しばらく歩いているとベルは道の端に寄り、次の目的地を確認する。
そしてメモ用紙を二人で覗き込むとそこにはアイスクリームと書かれていた。
すると、ベルは子供の様に喜んでこいらへと顔を向けた。
しかし、二人で小さな紙を覗き込んでいたためベルが顔を上げると俺の顔が思いのほか近くにありベルは笑顔で見つめたまま動きが止まってしまう。
俺はそんなベルに苦笑を浮かべると顔を少し離してベルの頬っぺたを摘まんだ。
「!!!痛いです?」
そしてベルが現実に戻ると「は!」と何かを思い出した様に再び顔を赤く染め誤魔化すようん歩き出した。
「そ、その場所なら信者の方に聞いた事があります。甘くて冷たくてとても美味しいそうなので前から食べたいと思っていました。」
そして、ベルに引かれて行くとそこには暖簾にアイスクリームと書かれており、数組のカップルが並んでいた。
どうやら店舗内には席は無く、買ったら近くの噴水やベンチに座って食べるようだ。
そして、器は店の横にある返却口へと返すか、自分で器を持ってくるシステムのようだ。
俺とベルは早速列に並び順番を待つ。
すると有名神のベルは自然と視線を集めてしまいその横にいる俺も噂の的になった。
しかし、トラブルらしい事は何も起きず店主の前でアイスを頼んだ。
(どうやら、種類はまだミルク一択のようだな。)
俺がそう思っていると店主はベルの顔を見て大慌てで外に出て来て跪いた。
「ベルファスト様。わざわざ来ていただきありがとうございます。当店がこうして店を開けたのもあなた様が魔法の恩恵を下さったからに他なりません。そのおかげで家の牧場も助かり、多くの者たちも路頭に迷う事を避けられました。今日は好きなだけ食べて行ってください。」
するとベルは笑顔を浮かべると首を横へと振った。
「そのお気持ちだけで充分です。この新たな味と美味しさを多くの人に分け与えてください。私達は必要な量だけいただいて行きます。」
そう言ってベルは俺から入れ物を受け取り店主へと渡した。
すると店主は入れ物を魔法で冷やし、それを氷の入れ物に入れると更に木箱に入れて返してくれる。
「お前さんも男ならしっかりこの方をお守りしろよ。」
そして、サービスとして二人分のアイスを木の器に入れて渡して来た。
「これはサービスです。これ位はお許しください。」
するとベルはそれを笑顔で「ありがとうございます。」と言って受け取った。
そしてアイスを食べる事になった俺達は噴水に腰を下ろしアイスにスプーンを立てた。
「聞いてた通り甘くておいしい。ミルクの濃厚な味が堪りません。これならもっと早くに頑張って魔法を広げればよかったかもしれません。」
そう言ってベルは笑顔でアイスを食べる。
しかし、それをしていれば恐らくベルは今頃無事ではなかっただろうという考えが頭によぎる。
それにおそらく、そんな事をした場合、ベルは真っ先にバストル聖王国の排除対象になり教会は全て壊されていた事だろう。
そうすれば彼女の未来は魔王に落ちて消えるかそのまま消えるか。
そうなれば俺も彼女に出会う事は出来ず、こちらで頼る神も失い戦いはもっと厳しいものになっていたかもしれない。
そう考えると俺はベルへの感謝が湧いて来る。
そしてよくよく考えれば最初から今に至るまで必ずベルに助けられている事に気付いた。
そして、思考がまとまろうとしている所に1人の邪魔者が現れる。
「おい、そこのガキ。死にたくなかったらそいつをこちらに寄越して消えな。」
するとその声に反応した周りの者たちは一斉にその者へと視線を向けた。
そして、その者が何者なのかを知る者が声にして話しているのを俺は聞き取った。
「おい、あれはSランク冒険者のアークじゃないのか?」
「あの竜殺しのアークか!確か10メートル級のドラゴンを倒したとかいう。」
「しかし、あいつがSランクの認定を受けたのはバストル聖王国だろ。なんでここにいるんだ。」
俺は周りの声を聞き目の前の男の目的をおおよそ理解することが出来た。
どうやら聖王国は本気でベルを始末したいようだ。
するとアークはアイテムボックスから巨大な剣を取り出しベルへと構えをとる。
そして、俺はすかさずその剣を鑑定するとオリハルコン製である事がわかった。
あの剣ならミスリル性のベルの体を破壊することが出来る。
そして、もしそうなった場合ベルは依り代を失い天界に帰らなければならなくなるだろう。
(まあ、そうなった場合は俺が修復するか新しく作ればいいんだが・・・。)
しかし、その剣にはもう一つ大きな問題があった。
それは剣からカティスエナの神気を感じる事である。
もしあの剣にベルが切られた場合、どれほどのダメージを受けるのか想像もできない。
(でも、もしここでベルが死んでしまったら俺はどうするんだ?)
そんな疑問が浮かんだ時、アークは隣に座る俺を無視してベルへと剣を振るった。
その速さはさすがSランクと言うだけの事はありかなりの速さがある。
そしてその実力は同じランクのクレアを大きく凌駕していた。
しかし、俺は神殺しのスキルを発動すると手に持つ木の匙に魔纏いを発動しオリハルコンの大剣を苦もなく受け止めた。
「き、貴様何をした!?」
それを見たアークは俺に向かって叫んだが考え事に忙しいため何も答えない。
すると無視されたことに腹を立てたのか、怒りに燃えた目を向け後ろに下がって距離を取った。
そして手に嵌めた腕輪に魔力を流すと体を強化し今度は俺に向かって剣を構えた。
どうやら俺の事も排除対象と認識したようだ。
「馬鹿なガキだ。貴様が誰か知らんが出しゃばらなければ苦痛なく死ねたものを。しかし、この神から授かりし聖剣の最初の獲物になれる事を光栄に思え。」
するとベルは俺の背中の服を掴み不安で泣きそうな顔を向ける。
そして俺の背中にはベルの微かな震えが伝わって来た。
(どうやら俺は大馬鹿者だったようだな。答えなんてベルを護りたいと思った瞬間に出ているだろうに。)
その途端に俺の悩みは解消されベルの頬に手を添えると優しく微笑み、額に触れるだけのキスをした。
しかし、それだけでベルの震えは止まり頬を染めてボーっとした顔で見上げて来る。
そして俺は立ち上がるとアイスをベルに預け剣を抜いた。
「どうやらお前にはお仕置がいりそうだな。」
するとアークは更に怒りを募らせ俺に向けて剣を振り下ろした。
「この邪教徒がーーー!」
アークは上段から剣を全力で振り下ろし俺は下段から剣を振り上げる。
その瞬間、アークは口元に笑みを浮かべ勝ちを確信した。
しかし、その確信は次の瞬間には打ち砕かれることになる。
「なにーーー!」
アークは振り下ろした力よりも遥かに強い力で剣を弾かれ、剣と共に後方へと弾き飛ばされる。
しかし、さすがはSと言うべきか、あれだけの衝撃を受けても剣を手放す事は無かった。
(まあ、あれだけ手加減すれば当然か。)
そして、アークは力負けし吹き飛ばされた事よりも互いの剣を見て驚愕する。
俺の剣はいまだに新品の様な輝きを放ち歯零れすら確認できない。
恐らく刃の上に紙が触れればその紙は抵抗なく切断されて落ちて行くだろう。
しかし、アークの自慢の聖剣は今の一撃を受け歯零れを起こし歪みまで感じられる。
しかし、妄信的にカティスエナを信奉するアークは目の前の事が信じられず再び剣を構えた。
そして、猛牛の様な力任せな連撃をくり出し激しく打ち込んでくる。
その攻撃を俺は完全に見切り、剣の側面を軽く押す様に軌道を逸らして行く。
それに周りから見れば俺は手以外は一切動かしてはいない様に見えるだろう。
それどころかアークの振るう剣が俺を避けているように見えているかもしれない。
しかし、いまだに実力差を理解できないアークは血走った目で吐き捨てる様に告げて来る。
「おのれーー。死ねー、死ねーーー。貴様らが死ぬことは神が決めた運命。逆らう事は許されん。大人しく俺に切られて地獄に落ちろ!」
そう言って狂ったように剣を振り続けるアークに俺は次第に冷たい目を向けて行く。
そしてアークは言ってはいけない言葉を投げつける。
「どうせお前に守れるものなど何もないのだ。お前達の死は絶対神であるカティスエナ様が決められたのだからな。天命に従い死ねーーーー。」
その瞬間、俺の中で怒りが爆発する。
そしてそれは覚醒に繋がり、剣速はアークの認識できるレベルを大きく上回った。
その結果、手加減が出来くなり大剣をミリ単位に切り裂いた後にアークの腕と大腿部を切り落とした。
しかし、切り取られてもあまりの鋭さにアークは切られた事に気付かず倒れたまま茫然とする。
だが、手足を失った事を目で確認するとその痛みが一気にアークへと襲い掛かった。
「ぎゃああーーーー。お、俺の腕ーーー。あ、足がーーー。」
そしてアークは芋虫の様に地面をもがき周り血を撒き散らした。
しかし、覚醒した俺はそこでは止まらず剣を手にしたままアークへと止めを刺しに向かう。
そしてアークの前で剣を上段に構え振り下ろそうとした瞬間、後ろからベルに抱きしめられ動きを止めた。
「蒼士、これ以上はダメ。その人が死んでしまう。」
そう言って涙を流し必死にしがみ付くベルを見て俺は次第に正気に戻って行く。
そして自分の気持ちを確信し覚醒を解除するとベルの涙を拭きとり優しく抱きしめた。
するとベルは突然の事でアークの治療も忘れ「へ・・・?」と間抜けな声を出して抱きしめられたまま動きを止める。
しかし、離れて見ていた闇ギルドの者たちがアークを治療し、手足の無い彼を担いでどこかに消えていった。
その様子から、彼らは何かの理由からアークを対処をこちらへと回したのだろう。
しかし、その理由も戦ってみれば分かると言う物だった。
アークは俺にとっては雑魚と変わらない相手だがSランクに相応しい実力は持っていた。
しかも神の加護を受けた正体不明の武器を所持していたと考えればこちらに対処を任せたのはただしい判断だと思える。
そして俺はしばらくベルを抱きしめてから解放するとその手を取って立たせた。
「ありがとうベル。お前が止めてくれなければやり過ぎてしまう所だった。」
そう言ってベルの頬に優しく手を添えると視線を交差させて微笑みかける。
そしてまだ混乱気味のベルの肩を抱くとそのまま自宅へと転移で消えていった。
そして自宅の前に着くと俺は扉を開けてベルと共に中へと入って行く。
すると帰って来た事に気付いた冬花とカグツチが奥から現れ笑顔で出迎えた。
「お帰り蒼君。今日はどうだった?」
すると俺はその時の冬花を見て、雰囲気に覚えがある事から苦笑で返した。
ちなみにこの時の冬花の雰囲気は俺がカグツチへの気持ちに気付いた時にとてもよく似ている。
そして今回も再び冬花に乗せられ、自分の中にある気持ちに気付かされた事を知った。
しかし、俺に冬花を攻める気持ちはない。
俺にとっては自分以上に自分の事を知り、常に何も言わず手助けしてくれている冬花に対して感謝が尽きないからだ。
「ん~・・。そうだな。まあ新たに自分の思いを発見したとだけ言っとくよ。後で荷物を渡すから今日の事はベルに聞いてくれ。あいつ自身もかなり戸惑ってるみたいだからな。」
そう言って俺は冬花とカグツチをそれぞれ優しく抱きしめ「ありがとな」と軽いキスをした後に自室へと戻って行った。
そして、それを後ろから顔を赤らめながらも羨ましそうに見ているベルに二人は気付いた。
すると前日同様、冬花たちは左右からベルの腕を掴み浴室へと連行して行く。
そして、ベルを含めた第2次女子会が強制的に執り行われるのだった。




