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95 女神の救出

その日ハーデスは言いようの無い不安を感じていた。

しかし、その理由が分からず仕方なく歩いていると偶然にも主神であるオーディンと出会い酒を飲む事となった。

するとオーディンは酒を飲みながら考え事をしているハーデスを見て理由を問いかけた。


「どうしたのだハーデス。お前が悩みとは珍しいな。」


そう言われたハーデスは苦笑を浮かべ、酒を一口飲むと手に持つ盃をテーブルに置いた。


「ああ、どうも先ほどから何か胸騒ぎがしてな。ただ理由が思いつかなくて困っているのだ。気のせいであればいいのだがどうも気になってな。」


するとオーディンは腕を組んでしばし無言で考え込むとフとある事が頭をよぎる。


「そう言えば、お前が珍しく気にかけていた人間の娘がいたではないか。せっかくあちらの世界を見れる権限を得たのだから一度は見てみたのか?」

「いや、まだだな。時々ケルベロスが報告に来るので話は聞いているが元気にしているらしいぞ。」


するとオーディンは深く大きな溜息を吐きだし呆れた目でハーデスを見た。


「お前のそう言う所は昔から変わらんな。どれ、少し覗いてみるか。」


そう言ってオーディンは手をかざすがそれをハーデスは止める。


「いや、無理に見る必要は無いだろう。どちらにしろあちらは夜だろうし見ても寝ているだろ。」


しかし、オーディンはその言葉を無視して神気を込め映像を映し出した。

それを見てハーデスは止めるのを諦め僅かな苦笑と共にオーディンが映し出した映像に視線を向ける。

すると映し出されたのは予想と違いアリスの寝顔ではなかった。

現在彼女は勇者たちと森を走り、何処かへと向かっている。

そして、ハーデスは映像を見た途端に先ほどまで感じていた不安が大きくなるのを感じた。


「すまない。ちょっとケルベロスに状況を確認するので待っていてくれ。」

(ケルベロス、今映像でお前たちの事を見ている。どういう状況なのか説明しろ。)


そう言ってハーデスはユノの主としての権限を使い念話を送る。

すると映像の中のユノは一瞬耳を動かして反応し念話に答えた。


(ハーデス様、先程新たな事実が判明し現在魔王の城に向かっております。詳しい事情は後程行おうと思っておりましたが、この機会にお伝えします。)


そしてユノは魔王の城に向かいながらハーデスたちに蒼士が得た情報等を説明した

するとそれを聞いたオーディンは激怒し酒を一気に煽ると拳をテーブルへと叩きつけた。

その衝撃は凄まじく叩きつけられたテーブルは跡形もなく吹き飛び彼らが住まう神殿を地震の様に揺るがした。


「ハーデスよ。儂はカティスエナを甘く見ていたようだ。よもやこれほどの馬鹿だとは思わなかった。もしこの事が真実ならば儂は鐘を鳴らすやもしれん。」


その言葉にハーデスは背中に冷や汗が流れる。

オーディンの言う鐘とはラグナロク発動を知らせる終焉の鐘の事を指す。

これが発動されれば、彼は自ら軍勢を率いてあの世界に攻め込みカティスエナを滅ぼすだろう。

しかし、今の様に怒りに任せて発動すれば、その時に起こる被害は甚大な物となり、あの世界を滅ぼし尽くしてしまうかもしれない。

そしてハーデスはそうなる前に自分が先に動く事を決断した。


しかし、ハーデスがそう決断した直後、あちらの世界から最悪な結果がもたらされる。

そこには玉座に無理やり束縛された女神が座らされており、ケルベロスの説明では魔王の玉座に間違いないそうだ。

そしてハーデスたちはその玉座の効果も既に知っており、それを見た瞬間オーディンから途轍もない怒りの波動が吹きあがった。


「あのクソ女神がーーーーー、儂自ら滅ぼしてくれるわーーーーー。」


そう言って立ち上がろうとしたオーディンをハーデスが止めに入る。


「待つのだオーディン。見た所まだ間に合いそうだ。ここは私が向かおう。」


するとオーディンは僅かに残っていた理性で怒りを捻じ伏せ椅子に座り直す。

そして怒りを息と共に吐き出すとハーデスに命令した。


「ハーデスよ。あの女神を絶対に助け出せ。それを阻む者はそれが誰であろうと容赦をする必要はない。それと奴らが拠点に帰ったら儂の依り代を用意させろ。一度あちらの世界に向かう。」


するとハーデスは念のために「あちらで暴れないなら」と付け加えた。

それに対してオーディンは頷いて答えるとハーデスも了承を返す。

そしてユノに指示を出し何か良い死体は無いかと問いかけた。


そして蒼士たちが女神を助け出そうと動き出した時、ユノから声が掛かった。


「少し待つのだ。今からハーデス様が女神を助け出すためにこちらに来られるようだ。そのため何か強力な魔物の死体は無いだろうか?ハーデス様はそれを依り代とし顕現なさる。」


すると俺は記憶を探り最適はドラゴン級の魔物だと知りアリス達へと視線を向ける。

彼女たちがこちらに来て約2年。

何らかの魔物を持っていてもおかしくはない。

そして、その予想は当たりあの時の事を見ていた百合子がドラゴンの死体を取り出し地面に置いた。

その大きさは5メートルほどだが魔石も心臓も取り出していない完璧な物であった。


「ユノ、これを使うと良い。私の記憶だと神が降臨するならこれ位は必要。ユノのご飯にしたかったけど我慢してね。」


するとそれを見て涎を垂らしていたユノだが諦めたようにガックリと肩を落とす。

しかし、ここでアリスがユノに声を掛けた。


「もしかしたらハーデスがご褒美くれるかもよ。私もお願いしてあげるからまずはハーデスを呼びましょ。」


アリスの言葉を聞いてユノは少しだけ元気を取り戻し尻尾を左右に振る。

そして準備が出来たためユノは念話をハーデスへと送った。


(ハーデス様。こちらのドラゴンの死体をお使いください。)


ユノがそう伝えると力を発動し門の様なゲートを作り出す。

すると次第に門が開いて行くと、そこからハーデスが現れた。

その途端、部屋の空気は一変し辺りは死の気配で包まれた。

そして、その存在を初めて感じたクレア達、この世界のメンバーは恐怖に顔を引き攣らせ、あまりのプレッシャーにその場で膝を付いた。

そしてハーデスはこの世界での肉体を得るためにドラゴンの死体に力を注ぎ自らの姿に形成していく。

そして出来上がった肉体に宿ると先ほどまで発せられていたプレッシャーが和らぎ部屋は静けさに包まれた。

しかしそんな中、アリスだけは気にする事無くハーデスに近寄ると開口一番に文句を口にした。


「ハーデス。あんたそれでなくても凄いプレッシャーなんだからもう少し・・・凄く抑える事を覚えなさいよ。じゃないと友達出来ないわよ。」


するとハーデスはアリスのその態度を見て「ククク」と笑い、なぜか笑顔でその頭を撫でた。


「善処しよう。元気なようで何よりだ。それよりも先に仕事がある。お前たちと話すのは後にしよう。」


すると子ども扱いされたのが嫌だったのか、それとも仕事を優先したのが嫌だったのかアリスは頭を撫でなれながらも子供の様に頬を膨らませた。


周りの者はそれを見て苦笑を浮かべたり焦りを浮かべたりと色々だがハーデスはそれらを無視してヘルディナの元へと歩み寄った。


「まずはこの悪趣味な玉座からだな。」


そう言ってハーデスが玉座に触れ神気を送り込むと玉座はそれに反応し神気を吸い取り始める。


しかし、ハーデスの権能は死その物である。

そのためその神気に触れた全ての物は風化し生き物は腐れ果てる。

そして玉座もその例外ではなく風に吹かれる砂丘の様に風化して消えていった。


そしてそこに座るヘルディナは支えを失いその場に倒れ込む。

しかし、いまだに呪縛に囚われている彼女は生きてはいるが動く事が出来ないでいた。

だが、もし動くことが出来ればハーデスの神気に恐怖し確実に逃げ出していただろう。


そしてハーデスは今度は呪縛を解くためにヘルディナの胸に手を置いた。

しかしその直後、ハーデスの手は水に浸けたように胸に埋まりその手からは膨大な神気が彼女に流れ込んだ。

すると彼女の姿は次第に変わっていき、アリスのよく知るヘルディナの姿となる。

その頃になると彼女は動かせるようになったか手で自分の胸に沈むハーデスの手を優しく抱きしめ、頬を朱に染めながら潤んだ瞳でハーデスを見つめていた。

それを見てアリスは「ム」っと声を漏らす。

しかしヘルディナの変化に目を奪われている周りの者たちに気付く気配は無く、アリス自身もまだ自分の気持ちに気付くことは無かった。


そして、神気の注入が終わりヘルディナから手を抜かれると彼女は残念そうに先ほどまで

ハーデスの手があった場所に手を添えた。

しかし、当のハーデスは気にする素振りを見せる事無く立ち上がるとアリス達の元へと向かった。

そしてベルの前に立つと今後の事を伝える。


「これで彼女が神気を失い消滅する事はしばらく無いだろう。しかし、このままこの世界に残して行けばまたお前たちの主神から命を狙われるかもしれん。しばらくは私の方で保護するので理解してもらいたい。」


するとそれを聞いたアリスはハーデスの後ろでボソリと声を漏らす。


「エッチな事しちゃだめよ。」


するとそれが聞こえたヘルディナは何かを妄想したように自身を抱いて腰をくねらせ、言われたハーデスはアリスへと苦笑いを向け、周りの者は温かい視線をアリスへと向ける。

そしてそんな視線を一斉に向けられたアリスは頬を赤くして顔を逸らした。


しかしこの時、この場所を覗いていたのはオーディンだけではなかった。

あの玉座にはカティスエナが仕掛けた通報機能があり、もし何かあれば即座に知らせが行くように作られていた。

その通報はハーデスが玉座に触れた瞬間に送られカティスエナはその一部始終を目撃している。


「ベルファストーーー!最近生意気な事言うと思ったけど裏切ってたのねーーー。あいつ、仕事ができるから今まで見逃してあげてたけどもういい。捕まえたら力を全て搾り取ってすぐに生贄にしてやるわ。それに私の信者を大量に殺したアルタの奴等。あそこも見せしめに滅ぼさないと気が済まない。」


そしてこの瞬間、カティスエナは彼らが住まうアルタ王国の全てを滅ぼす事を決めた。


その後、俺たちはベルの転移によりアルタ王国へと帰還する。

そしてハーデスはそのままヘルディナを連れてあちらの天界へと帰って行った。


家に到着すると一行は解散となりそれぞれ帰路につく。

しかし、俺たちの家は隣なので数分で到着する。

そして既に時間帯は深夜となっている為、パメラとベルに泊って行くように声を掛けた。


「二人とも今日はもう泊って行った方がいい。夜道は危ないからな。」


しかし、二人は遠慮しているのか首を横に振った。


「心配してくれるのはありがたいけどね~。城はすぐそこだよ。大丈夫さね。」

「私も大丈夫よ。少し距離はあるけどこの町は平和だから。」


すると俺は小さなため息をついて突然姿を消した。


「これは転移だね!まさか前準備もなしで使えるなんて驚きだよ。」


そしてパメラは俺が見せた転移に驚きと称賛を送っていると俺はすぐに戻って来た。

しかし、その時の俺は一人ではなく、何処から見ても普通の町人に見える男を連れている。

しかも、その男は既に腕の腱を切断され出血の為か顔は青白くなり始めていた。

それを見てベルは駆け寄ろうとするが彼女の動きを手を突き出して止める。


「いま、こんな感じで俺達を狙っている連中が町の中の至る所にいる。こんな時間に帰るのは危険だ。最低限、日が昇ってからにしろ。」

「でも、どうして急にこんなのが湧いたんだい。少し前までこんなのは居なかったけどね~。」


すると俺は苦笑を浮かべて男に近寄ると、躊躇の無い動きで男の膝を踏みつぶした。


「ぎゃあああーーー。この異教徒がーーーー。」


周りの者はその言葉を聞いて直感的にその男が何者なのかを理解した。

この世界でこんな事を言うのはバストル聖王国のみ。

そして、この男はおそらくあの国から派遣された者の一人なのだろう。

たとえ闇ギルドの情報網を使おうと、表向き犯罪を犯しておらず平和に暮らしている者は処分できない。

その穴をついて何人もの工作員をこの町に忍び込ませているようだ。

しかし、それでもなぜこのタイミングで仕掛けて来たのかはまだ分からない。

すると俺は表情を変える事無くパメラたちに先ほど気付いた事を告げた。


「ああ、おそらく俺達が魔王の城からヘルディナを救出したのがバレたからだな。あの玉座には異常があった時、それを知らせるための信号が出る様に作られたいたみたいだからな。お前らはハーデスの気配に当てられて気づかなかった様だがハーデスもノエルたちも気付いてたぞ。きっと今頃あちらも4人で話をしてるんじゃないか。」


俺にそう言われ彼女たちは先ほどの事を思い出す。

確かに自分たちはあの神に委縮し、周りが見えていなかった。

それを指摘され彼女たちは落ち込むが今は情報を得るために彼女たちの事は冬花に任せ、俺は男の首を掴んでノエルの元に戻って行った。

あそこには尋問に慣れた面子とアイテムが揃っているからな。

俺がやるよりも任せた方が効率よく確実に情報を聞き出せるだろう

それに今回の俺も敵に対して容赦するほど優しい性格ではないからな。


そして死なない程度に男を回復させるとノエルの家の扉を叩いた。

すると待ってましたと言う顔をしたノエルが扉を開けてくれる。


「お土産だ。」

「助かるわ。ちゃんと殺さずに連れて来てくれて。アリスちゃんたちの話だと敵に容赦しない性格だって聞いてたから灰にされてたらどうしようかと思ってたの。」


そう言ってノエルは笑い、男に視線を向ける。

しかしその明るい声とは裏腹に男に向ける目は冷たく抜身のナイフを思わせる鋭さを感じさせた。


「それじゃ、お話はこちらでしておくから蒼士は帰ってもいいわよ。家には大事な子達がいるでしょ。」


すると俺は「じゃあ任せる。」と言って男を渡すと背中を向けた。

その素直な行動にノエルは微笑むと男を掴み家へと入って行く。


そして男はこの日、今まで味わった事が無い程の地獄の苦しみを味わい全ての情報を吐き出すと国の兵士に引き渡され連行されていった。


「でも情報が断片的ね。まあ下っ端なんでしょうけど町の気配から考えてかなりの人数がいそうね。これは明日が楽しみだわ~。久しぶりに闇ギルド全力運転になりそうね。」


ノエルの顔と声はとても楽しそうでまるで遊園地に行く前の子供の様だ。

しかし、言っている事は物騒なので普通の人が聞けば耳を塞いでいただろう。

そして、彼女は明日の朝からの予定を決めると疲れを癒すために眠りについた。

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