94 驚くべき真実
俺はまず、ケルベロスのユノへと顔を向け一つの確認を取る。
「ユノ、この部屋を一時的に隔離できるか。無理なら声が洩れない様にするだけでもいい。」
「空間を一時隔離する事は可能だ。」
そしてユノは頷くと足元に魔法陣が浮かぶ。
すると、周りの空間が歪み先程迄感じていた外の気配の全てが消え失せた。
「この部屋の空間をこの世界から空間の狭間にずらした。周りの景色はそのままだが実際は何もない。部屋からも出れないから気を付けてくれ。」
それに皆が頷きを返すと俺は念のために感覚を広げ綻びが無いかを確認する。
(問題なさそうだな。)
そして、まずはこの計画のカギとなるベルへと視線を移した。
「ベル、確認だが、魔王の居場所を知っているか?」
するとベルは悩み始めたが肩を落とし力なく頷いた。
「知ってるわ。でも決まりで教えてはいけない事になってるの。ごめんなさい。」
「いや、それは良いんだ。俺と冬花は既に場所を知っている。ここから北東にある魔王の城だろ。」
すると俺と冬花、カグツチを退く全員が驚愕し視線が集まる。
俺はそんな皆の疑問を晴らすために1つの真実を明かした。
「俺は未来の自分と融合する事で魔王についての記憶を手に入れている。これはアリスと百合子は理解できると思うがそこはどうでもいい。問題なのは魔王の城の位置だ。未来の俺の記憶では一切の情報がなく、何ヶ月も探し回ってやっと見つけた。しかし、中に入った時に気付いたがそこには古い戦いの後があった。もしかして魔王はいつも同じ場所に現れるんじゃないのか?」
するとベルは今度も同じように頷いて答える。
しかし、今度は反応したのは1人ではなかった。
「そうだよ。今思えば勇者たちが魔王を倒して帰って来る方角はいつも同じだったよ!」
「そうね、私も何度か行った事があるのに毎回忘れているわ!」
そう言って顔をしかめているのはパメラとカルラである。
「どうやら思考誘導はここにもあったみたいだな。」
「でも何でそんな事をする必要があるんだい。魔王を早く倒せばそれだけ世界の危機は早くなくなるんだよ。または魔王の城の前に大軍を準備してもいい。なぜカティスエナはこのような意味のない事をするんだね。」
すると俺は一言「時間稼ぎ」と答えた。
「時間稼ぎ?」
「ああ、冬花、俺達が魔王の前に立った時、玉座を鑑定したか?」
すると冬花は思い出す様に考え込むと「したよ」と頷いた。
「あんな何かありそうな玉座、鑑定しておかないと後でどんな仕掛けがあるか分からないから。確か魔王の玉座。魔道具の一種で効果は・・・あれ思い出せない。」
すると俺はそれで納得したように頷くと冬花の頭に手を置いた。
「いや、それでいい。あの時の冬花はカティスエナの加護による誘導を受けていたから記憶を消されてるんだろう。でも俺は魔王を倒して神殺しのスキルを得た事でその影響も完全に受けなくなった。そして、魔王を倒した後に鑑定した結果も覚えている。魔王の玉座、その効果は堕天。神を魔王に、すなわち邪神にするアイテムだ。」
するとその場にいる全員が初めて知る事実に驚愕し目を見開く。
しかし、そこで一番驚いているのは誰でもない神であるベルであった。
「そんな、どうしてそんな物が・・・。」
そしてベルは顔を歪めその目には涙が浮かび始める。
それは今まで知らなかった事とは言え何者かが仲間を落としめ、それを利用していた事を示していた。
するとカグツチは立ち上がりベルを横から優しく抱きしめる。
恐らく今のベルの気持ちを理解できるのは同じ神であるカグツチだけだろう。
「それで俺は事実を知った時ある事が頭によぎった。これを企てられる奴は一人しかいないと。」
そして周りを見回すと全員が既に与えられた情報から結論を出しているようだ。
皆一様に顔色が悪く、特にこの世界の者は冷や汗まで流している。
「どうやら分かったみたいだな。俺はこの惨劇の首謀者を主神であるカティスエナが仕組んでいる事だと考えた。それなら魔王の城の場所を隠す時間稼ぎ、地上の者への意識誘導。そして神を堕天させる程の魔王の玉座。それ以上に神をその玉座に縛り付ける力。その全てが可能なのはこの世界で一人しかいないからな。」
俺が結論を口にするとその場は静寂で静まり返る。
そして、俺は今も涙を流すベルへと視線を向けた。
「これでベルに相談がある。俺達を魔王の城に送ってくれないか?俺達がこの世界に来て数日。まだ間に合うかもしれない。そこで泣いて何もしないより規則を破ってでも仲間を助けたいと思わないか?」
するとベルは涙に濡れた顔を上げこちらに視線を向けて来る。
そしてベルは袖で涙を拭きとると迷う事無く頷いた。
「その通りね。それに真実を知った私を彼女が放っておくとも思えないわ。」
「巻き込んで悪いな。もしもの時はベルもしっかり守るから勘弁してくれ。」
するとベルは今度は恥ずかしそうに頬を赤く染めると俯いてしまう。
その姿に冬花とカグツチは鋭い視線を向けるが今は計画を進めるために何も言わない。
「それじゃちょっと魔王城に乗り込むか。行きたい奴は誰だ?」
そう言ってまずは希望者を募る。
それはまるでコンビニに行くからと同行者を募る様に軽い雰囲気に近い。
すると異世界組はユノを含め全員が参加を示した。
そしてこの世界の者はベルは当然としてカルラとパメラが強い意志を込めた瞳で参加を表明した。
しかし、最後にただ一人。クレアだけは不安を瞳に宿し悩み続けている。
その姿に俺は苦笑を浮かべて声を掛けた。
「クレア・・・。」
その寂しそうな俺の声にクレアはハッと顔を上げて顔を向けてくる。
(そんな、もしかして失望されちゃった。)
しかし、クレアの心配をよそに俺は突然雰囲気を変え彼女に告げた。。
「ふふふ、クレア、大人の威厳が台無しだな。やはり子供用カレーが大好きなお前は、見た目相応の子供だったと言う事だな。」
するとその言葉に一瞬パメラまで反応するが今は我慢して俺のセリフを流してくれたようだ。
しかし、クレアには俺の言葉は聞き逃せない部類に入るらしく、椅子から勢いよく立ち上がるとない胸を逸らして叫んだ。
「何言ってるかな蒼士は!お姉さんは別にあなたがどうしてもって言うのならついて行ってもいいんだよ。」
「じゃあ、どうしても来てくれ。お前が必要だ。」
するとクレアは鼓動を跳ねさせ蒼士に視線を向ける。
しかし、目が合うと頬を赤くして視線をあちらこちらに動かした。
そして混乱のしたすえにクレアは頷くと
「う、うん。それなら仕方ないから一緒に行ってあげる。」
と恥ずかしそうな顔で返した。
そしてクレアが頷くと俺の視線はカルラに向かう。
「それで、お前はやらないといけない事があるだろ。」
するとカルラとパメラは驚きの顔を見せるが俺が未来の記憶がある事を思い出し互いに頷くとクレアの傍に向かった。
そして視線を合わせる様に膝を付いて座るとクレアの目を真剣に見つめる。
「クレア、私がドラゴンであるのは知っているな。」
カルラの確認にクレアは頷いて答える。
「パメラから聞いた。今回のエルフの代表として勇者に同行するのはお前らしいな。なら私と契約をしないか。私はどうもお前が気に入ったようなのだ。」
するとクレアは昔読んだエルフの戦士の物語を思い出した。
あの戦士も旅の途中で出会ったドラゴンと契約し最後の瞬間まで旅をしていた。
そしてクレアは不意にパメラへと視線を向ける。
すると既に話し合いは終わっている為か、パメラは頷きを返した。
しかし、クレアは自分が物語の主人公のように強くもなく、かっこよくもない。
その事を自覚するクレアはその事をカルラに話した。
するとカルラは笑い出し真実を教えた。
「あれは悪い所を全部省いた物語なんだ。アイツも最初は私の上から何度も落ちたし失敗も数えられないほどした。だからあいつと比較することは無い。アイツは戦士としては確かに強かったが魔術師としてはお前に劣るくらいだ。それに近距離の敵は私の爪と牙がある。だから私達はきっといい相棒になれる。」
するとクレアは少し不安そうにしながらも頷いて返した。
「分かったわ契約して一緒に戦いましょう。」
そして二人はその場で契約を結ぶ為にカルラはクレアの前で契約の言葉を告げる。
「我、白の龍王はクレアを護り共に助け合う事を誓う。」
そしてカルラは美しい歌声を奏で契約魔法を発動する。
すると二人の間に繋がりが生まれ契約が完了した。
しかし、終了してもクレアに動く気配は無く茫然とした顔をカルラへと向ける。
するとカルラは何かあったのかとクレアの肩に手を置いて声を掛けた。
「大丈夫かクレア?」
「ハ!いきなりの事実に動転してたみたい。ちょっと聞くけどあなた龍王だったの?」
「パメラから何も聞いてないのか?私は白のドラゴンを統べる龍王だ。知っていると思ったが知らなかったのか。」
そのとたん、クレアはパメラへと視線を移し睨むように見つめる。
するとパメラは急に腰を摩りだし「イタタタ」と言い出した。
「いやー、年を取ると物忘れが激しくて困るわい。」
そして少女の顔に似合わない言い訳を行いクレアからさらに冷たい視線を浴びる。
すると周りから笑い声が生まれその場を和ませた。
「まあ、契約が出来てよかったな。それとカルラ。今日クレアが騎竜を購入したんだ。頼めるか?」
するとカルラは一瞬クレアに視線を向けて頷いた。
「分かったわ。その子と話して方向性を決めてからだから少し後になるわね。」
「ああそれでいい。頼んだぞ。」
するとそれを横で聞いていたクレアは頭に「?」を浮かべる。
「何の事を話し合ってるの?」
「ん~?家にいる騎竜の将来の話だ。細かい事は後でカルラに聞け。こいつなら必ずあの騎竜を一人前にしてくれるからな。」
そして、話がまとまったところで俺は立ち上がり周りへと声を掛ける。
「それじゃあ早速今夜にでも夜襲を掛けるぞ。目的は神の救出だ。」
すると異世界組は慣れたもので装備を取り出すとそれを身につけて行く。
しかし、パメラやカルラですら驚いた顔を俺へと向け声を掛けた。
「ちょっと急ぎすぎじゃないかい。もっと慎重に行くべきだと思うけどね。」
「そうね。それとも急ぐ理由があるの?」
その質問に俺は先程までの軽い感じを脱ぎ捨てて真面目な顔になると二人にこれから更に起きる事を伝えた。
「あと一月もしない内に魔族の攻勢が始まる。その際、この国は1万の魔物の群れに襲われることになる。その後、各地でそう言う事が断続的に起き俺達の行動は制限されてしまうんだ。だから可能な限り急ぎたい。それに空を飛べる戦力が足りていないのも大きい。相手には大量のドラゴンまでいるからな。」
すると3人も納得したのかそれぞれに準備を始める。
そしてクレアとパメラは百合子から強化と治癒の腕輪を受け取りそれを腕に嵌めた。
「それじゃベル。転移を頼む。出来れば魔王城から少し離れた所に転移してくれ。」
「分かったわ。それじゃ近くの山の中に転移するわ。そこからは走って行きましょう。」
そして、ベルに連れられ俺達は転移して行った。
転移後、そこはベルが言った通り深い森の中であった。
しかし、周りには多くの魔物の気配が感じられ敵地の真ん中である事を実感させる。
「よし、陣形は俺が先頭をする。左右を冬花とカグツチ、一番後ろをノエルとロックで頼む。」
そして、ここでは一番足の遅いパメラとクレアの二人に速度を合わせて進む事になった。
それでも腕輪のおかげで速度はかなり早く疲れも見えない。
そして進行方向の邪魔な魔物は俺が音も立てずに瞬時に始末し、余裕があればアリスが始末する形を取った。
ちなみにアリスは武器を変更し今は槍の様な物を装備している。
これは元々彼女の得意武器は剣ではなく槍らしいのだがその形は変わっており何処となくなぎなたの様な形をしていた。
しかし、見ていると少し使い難そうな感じを受けるのでこれは後でカグツチに相談した方がいいかもしれない。
そう考えているとさっそくカグツチがアリスへと声を掛けていた。
「アリス、その武器はバランスが悪いようだ。こっちを使ってみてくれ。」
そう言ってアリスに渡したのは青龍刀の様な武器だ。
アリスはそれを何度か振って確認すると納得したのか武器を変更していた。
そして次の魔物を試し切りしたところ、先ほどまでぎこちなさが消え、相手を一刀両断に切り捨てていた。
これはおそらくカグツチの渡した武器もいいのだろうがアリスと武器の相性も良かったのだろう。
そして倒した敵をアイテムボックスに回収し、次へと向かって行った。
そして城に辿り着くと今度はノエルとロックが前に出る。
二人は潜入が専門の為、こういう未知の場所を得意としていた。
進む途中にある罠などを事前に発見してくれるので戦闘が得意でない者が入っている今のパーティーではとても助かる。
「それにしても。やはり敵の数が少ないな。」
俺は先程まで倒した魔物の数を考慮して判断する。
しかし、それでも倒した数は50匹は下らない。
それにその魔物の強さも通常のAランク冒険者なら6人パーティーで倒すような相手ばかりだ。
しかし、この中でそれを気に止める者はクレアくらいだろう。
「きっと国を攻めに行ってるんじゃないかな。ほら、群れを指揮してるのはいつも魔族だったし。」
そう言って冬花は予想を口にするがそれでも少ない事が気になり俺は警戒を強める。
そして、しばらく進むと記憶の中にある因縁の場所に到着した。
「皆、この中に魔王がいる。配置はさっき言った通り俺、冬花、カグツチが前衛だ。魔王は神だから神殺しのスキルが無いと攻撃の効きが悪いからな。そして中衛にアリス、百合子。後衛にパメラ、クレア、カルラ、ベルだ。ベルは決まりがあるだろうから無理はするなよ。自分の身を護る事を優先してくれ。それとカルラは不測の事態に備えて後衛の守りを頼む。そしてノエルとロックは遊撃だ。それじゃ行くぞ。」
そう言って俺は巨大な扉を押し開けた。
するとそこには一人の女神が魔王の玉座に座り苦悶の表情を浮かべていた。
それを見た途端ベルはその神物が誰なのかを特定する。
「ヘルディナ!」
そう言って駆けだそうとするベルを横にいるカルラが腕を掴んで止めた。
そして俺たちは周りを警戒しながらもヘルディナへと近寄って行く。
この時、アリスも名前を聞いて反応はするが彼女の知るヘルディナとは見た目がかけ離れている為ベルほどの反応は見せなかった。
しかしそんな中、俺と冬花は疑問を感じ互いに視線を交わす。
すると冬花は首を振り俺と同じである事を伝えた。
そして俺は頷いてここで自分の記憶との違いを周りへと伝える
「みんな聞いてくれ。この女神は俺達の記憶の魔王と違う。恐らく何かの理由で歴史が変わった結果だと思うがどう思う。」
するとそこでノエルが気付いたことがあるようですぐに手が上がった。
「もしかして私達が教会を再建して信仰が戻ったから除外されたんじゃないかしら。良ければその魔王の顔とか分かる?もしかしたら資料で見た事があるかもしれないわ。」
すると俺は頷いて魔法で顔の彫刻を作り出す。
するとベルとノエルは二人そろって反応を返した。
「その神なら分かるわ。私達が戦争に備えて真っ先に再建した教会の神よ。確か豊穣を司るとされる神でシャルキレムだったかしら。」
「そうです。それに彼女は前主神でそれが魔王になってしまったらとんでもない事に・・・。」
そう言って体を震わせるベルの言葉に俺は納得する。
ハッキリ言ってあの時戦った魔王は強すぎた。
実際、今でも犠牲を出さずに倒せるかと言われれば確率は50パーセントほどしかないだろう。
しかし、前回は0パーセントだったことを考えればかなり高くなったものである。
そして、今の神ならたとえ邪神になっても100パーセント無傷で勝つ自信が俺にはあった。
しかし思考を切り替え次にヘルディナへと視線を移す。
見るとどうやら意識はあるようだが声も出せず体も拘束されている訳でもないのに動かせないようだ。
そして、力の流れがあからさまに変な事に気が付いた。
玉座に座るヘルディナからは常に神気が吸い取られ玉座へと流れだしている。
そしてその力はどうやら別の場所に送られているようだ。
しかし、調べようにも既にヘルディナから感じられる神気は残り少ない。
そのため救出するならば急いだほうがいいと俺は結論を出し行動に移る事にした。




