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92 クレアと散歩

その日の夜。

蒼士たちが話し合いを行っている頃。

城のある部屋でも話し合いが行われていた。


「久しぶりねパメラ。元気にしてた?」

「ええ、カルラも元気そうだね~。会うのは500年ぶりくらい?。あの小さかった子が大きくなったもんだよ。」


そう言ってパメラは昔を思い出す様にカルラを見つめる。


「そうね。でも前回里に行った時は驚いたわ。まさかあなた達の国で私の事が本になってるなんてね。」


カルラは苦笑を浮かべその時の事を思い出し軽く溜息を吐く。


「まあ、アンタはあの時の魔王を倒すため、同胞と共に命を賭けてくれたんだ。口伝じゃなく、ちゃんと語り繋がないと失礼ってもんだよ。それに話を書いた奴があんたの大ファンでね。本人曰く、人生最大の力作らしいよ。」


そしてパメラは「ククク」と意地悪婆さんの様に笑うと急に真面目な顔になる。


「それで、昔話をしに来たわけじゃないんだろ。」

「ええ、あなたは今回の勇者にも誰かを共に付けるの?」


するとパメラは悲しそうな表情を浮かべ横にある寝室へと目を向ける。

そこには会議にも出席をしていた孫のクレアが眠っている。


「ああ、今回も同行させるよ。これはエルフ全体の総意だからね。」

「それで、今回選ばれたのはやっぱりあそこに来ていたに来てたあの子なのね。」

「そうだよ。私の孫のクレアが選ばれた。まだ若い子だけど才能があって冒険者ランクもSランクまで上がっているよ。心配だけど今代の勇者は歴代でも最強かもしれないから、安心して送り出せる。」


しかし、パメラはそう言っているがその表情から本音は違うようだ。

その顔を見てカルラは一つの提案を持ちかける。


「それなら昔みたいに私が一緒に行ってあげるわ。」


するとパメラの表情は変わり驚きの顔を向ける。


「それはありがたいけど、もしかして契約もするって言うのかい?」


パメラの言葉にカルラは頷いて答えた。

するとパメラは大きな溜息を吐きだし今度はカルラに心配そうな目を向ける。


「確かにあの時のアイツは魔王の攻撃からあんたを庇って死んだ。でも、それはアイツが自分の意思でしたことだよ。それを気にしての事なら悪いけどあんたのする事を許可できないね。」


するとパメラに過去の事を指摘されたカルラは過去の出来事を思い出し顔を歪める。

実際あの時死ぬのはエルフの戦士ではなく自分のはずだった。

それを攻撃が当たる直前にエルフの戦士が庇う事でカルラは命が助かり、エルフの戦士はその攻撃に耐えられず彼女の目の前で命を落とした。

しかし、しれが事実でも関係ない。

カルラはあの時誓ったのだ。

契約に、そして彼に、何を置いても自分の心に。

共に歩み、助けると。

だが、その後悔は今もカルラを苦しめているが彼女の中では今回の事は全く別の話である。

何故かパメラの孫のクレアを見ていると助けてあげたくなるのだ。

そしてパメラはこの数百年、感じる事のなかった感情、思い、心の叫び、その全てに突き動かされて今ここで話をしている。


「確かにそれも無いとは言わないけど、なんだか嫌な予感がするの。それにクレアを死なせたくない思いは本物よ。」


するとカルラは真剣な目でパメラを見つめる。

パメラはその目を見て考え、悩み、そして最後に納得する。

そして大きな溜息と共に頷きを返した。


「分かったよ。それに嫌な予感がしてるのは私も同じだからねえ。でも、驚いたよ。里に来た時はあんなに現実主義者で、あいつが死んだあとは残党狩りに明け暮れてたアンタがクレアを心配して予感なんて言うとはね。」


そしてパメラは先ほどの様に「ククク」と笑った。

するとカルラは恥ずかしそうに一度睨むとそっぽを向いてしまう。


「いいでしょ。私も少しは変わったのよ。あなたは逆に会った時と全く変わらないじゃない。」

「そんなの当たり前だよ。私が何年生きてると思ってるんだい。アンタの生きてる時間なんて私の4分の1程度じゃないか。重みも厚みも違うんだよ。」


するとカルラはニヤリと笑い二の腕で胸を挟み強調する様に見せつけた。


「そうね。でも、ここの厚みと重みは昔と違って私が完全勝利みたいだけどね。」


するとパメラは顔を真っ赤にして「この偽乳がー」と叫び声を上げた。

その叫びはもし部屋に結界を張っていなければ静かな城の広範囲に響き渡った事だろう。

そしてカルラは意趣返しも終わり了承も得たので今日の所は自分に割り当てられた部屋へと帰る事にした。


「それじゃ、そろそろ戻るわ。また明日会いましょう。」

「そうしな。クレアにはこちらから伝えとくけど結局選ぶのはあの子だからね。説明はするけど説得は自分でしな。」


そして二人は分かれカルラは自分の部屋へ、パメラは寝室へと入って行った。


そして、次の日の朝。

クレアは前日に早く寝た事もあり城の誰よりも早く目が覚めた。

窓を見れば白んではきているが、日の出まではまだ時間がありそうだ。

そのためクレアは朝の散歩をする為に装備を整え町へとくり出した。


クレアはここ数年、この町に住んでいる姉のララに会うために何度も訪れた事があるため道に迷う事無く散歩をしている。

それに、何度か前に来た時はエルフに対して町の扱いはそれほど良くなかったがここ1年ほどの間に大きく改善をされている。

そのため、こんな人気がない時間に歩いていても襲われる心配はなくなっていた。


そしてクレアが朝の気持ちのいい空気を吸いながら歩いていると前方の家から覚えのある気配を感じ取った。


(この気配は勇者と一緒にいた男。確か名前を蒼士と言ってたわね。)


そして、気配に従って歩いていると、ちょうど家から蒼士が出てくる所にでくわした。


「それじゃ、冬花、カグツチ。言って来る。遅くても昼までには帰って来るけど今日は自由にしててくれ。」

「分かったわ。丁度お隣のノエルさんともお話があるからもしかしたらそっちに居るかも。」

「ああ分かった。それじゃ行ってきます。」

「はい、行ってらっしゃい。」


そう言って二人は新婚の夫婦の様に軽いキスを交わした。

そして横のカグツチも蒼士の方へと赤い顔で、チラチラと視線を向ける。


「ああ、分かってるよ。カグツチも気を付けてな。それじゃいてきます。」

「ああ、行ってらっしゃい。」


そしてカグツチともキスをすると蒼士は背中を向けて歩き出した。

その様子をクレアは離れた家の傍から見つめ頬を赤く染めた。

するとその直後クレアは何者かの視線を感じ取る。

そしてフと冬花たちに視線を向けると一瞬目が合ったかと思えば何食わぬ顔で家へと入って行った。

すると次の瞬間、今度は背中から伸びて来た手に肩を掴まれクレアは悲鳴を上げそうになった。


「ヒャア。だ、誰!?」


そして言葉と共にクレアは前に飛び出し振り返りざまに衝撃波を作り出して打ち出した。

この時点でもし、これが一般人に行われたとすると相手は大怪我をする事だろう。

しかし、まだエルフとしては若いと言ってもクレアはSランクの冒険者である。

その辺の人間に背中を取られる事などありはしない。

そのためクレアは警戒から一般人なら死なない程度の威力に抑えた攻撃を牽制に使ったのだ。

しかし、放った先の相手は避けるどころか動く気配すら見せない。

そのため、クレアの頭に一瞬不安がよぎる。


(まさか本当に一般人が・・・。)


しかし、その心配は攻撃が当たると共に霧散する。

代わりにクレアの顔には驚愕が浮かび、その人物を凝視した。

何故なら先ほど別の方向に歩いて行った俺が立っており、魔法を受けたにも関わらず小動もせずにその場に立ち続けているからだ。


「お前は!な、なんで私の後ろにいるのよ。さっきはあっちに歩いて行ってたわよね!?」


するとクレアは驚きからか自然と声のボリュームが上がり、問い詰める様な感じになっている。

しかし、俺はそれを笑い、何でもない様に返した。


「何言ってるんだ?当然お前を驚かせるために気配を消して回り道をして来たに決まってるだろ。」


するとクレアは油断してしまった事と後ろを取られた事。

そして揶揄われた事で頭に血が上り、顔を真っ赤にして怒り始めた。


「何よそれ。馬鹿にしないで。私はこう見えてもあんたより年上のお姉さんなのよ。」


しかし、それでも俺の表情は変わらず話を続ける。

そこにクレアの話を聞くとか、敬うなどの様子は一切ない。


「そう言えばクレアはSランクだろ。俺はこれから少し用事があって町から出るんだが、よければ一緒に行かないか?どうせ暇なんだろ。」


するとクレアは俺の変化の無さに苛立ち地団太を踏み始める。

その姿は年は別にして姿通りの子供のようだ。

そして記憶と変わらぬクレアの性格と行動に笑みを深める。


「もう、何なのよ。昨日来たばっかりのくせにどうして私の事知ってるのよ。」


しかし、ここでクレアの頭にある閃きが起きる。


(そうだわ、ここは一緒に行動して私が大人の出来る女だってこいつに見せつけてやればいいのよ!)


そしてクレアは見事に乗せられ、一緒に出かける事が決まった。

しかし俺が最初に冒険者ギルドに立ち寄る事を決めクレアにもその理由を伝える。


「冒険者ギルドに何か用があるの?」

「ああ、そこで騎竜を借りないとお前が大変だろ。目的地までは馬車でも数時間はかかるからな。」


するとクレアは納得して頷いた。

しかしこの時の俺は自分が走る事は告げず、もう一つの目的も伝えることは無かった。


「そうね。あんたは前衛の戦士系だから問題ないでしょうけど私は後衛の魔術師だから肉体労働は苦手ね。まあ、この見た目だから気を使ってくれた事には感謝するわ。」


クレアは素直に礼を告げるとぎこちない笑顔を向けてくる。

しかし、その笑顔の裏でクレアは自分の中に疑問が生まれていた。


(そう言えば何でこいつとは普通に話せるんだろ。いつもはもっと緊張して声を出すのも大変なのに・・・。なんだか友達みたいな感じ?なんだかちょっと違うかも・・・。)


その後、冒険者ギルドに到着すると俺とクレアは真直ぐ受付へと向かって行く。

そしてクレアはギルドカードを取り出しそれを受付に居たジェシカに見せた。


「ああ、こんにちはクレアさん。最近よく来られますね。それで今日はどういった要件ですか?」


ジェシカはギルドカードを軽く見て確認すると親し気にクレアに話しかけた。

どうやら彼女も今までと変わらず高ランクの冒険者に人気があるようだ。

それに以前の時よりも対応が自然でとても親しそうだな。


「ええ、少し騎竜を貸してくれない。この男と一緒に町の外へ行かないと行けないの。」


するとジェシカは「分かりました。」と答えて書類を取り出した。


「それではこちらにお名前をお願いします。お二人と言う事なので2頭でいいですか?」


ジェシカは俺に視線を向けその外見を確認した後クレアに問いかけた。

しかし、ジェシカの問いに俺は真っ先に否定の声を上げる。


「いや、1頭で充分だ。騎竜もこちらで選ばせてもらう。」


するとジェシカは目を鋭くして俺を睨みつけてくる。


「お言葉ですが、非常時以外での騎竜の二人乗りは禁止されています。それともこんな可愛らしい女性を走らせるつもりですか。」


ジェシカは棘のある言い方で俺へと注意をするが、それは勘違いなのでジェシカの間違いを正す。


「いや、そっちじゃない。俺が走るんだ。乗るのはクレアだけだから安心してくれ。」


すると今度は疑いの視線が俺に突き刺さる。

この辺も以前と変わらないけどこれだから新人が逃げるんだよな。

そう言えば映像は外にだけ写し出したからここからは見えなかったのか。

ギルド内にはいろいろと価値のある物やお金なんかもあるからジェシカがここで留守番をしていたのかもしれな。

アレを見ていれば俺の事も知っていそうだからもう少しは対応が良いはずだ。


するとそこで俺の強さを知るクレアが間に割って入った。


「本当なのよ。こいつはギルドに登録はしていないけどかなりの強さがあるの。ここは私を信じて穏便に頼むわ。」


するとジェシカはクレアと俺を交互に見つめ溜息をついた後にやっと頷いた。


(まあ強いのは知っていますが、これだけきつく言っておけば悪ふざけで二人乗りはしないでしょう。)

「分かりました。二人乗りはしないと言う事ですのでここは納得しましょう。それでは書類も出来たのでこちらへどうぞ。騎竜を選びたいと言う事なので獣舎に案内します。」


そして俺達はジェシカに案内されて獣舎へとやってきた。

するとそこには数頭の騎竜の他、馬やダチョウの様な騎獣も並んでいた。


「こちらが当ギルドで貸し出せる騎竜になります。どれにされますか。」


ジェシカの言葉に促され俺は頷いて動き出した。

しかし、その方向は騎竜ではなくクレアの背後だ。

そして後ろからクレアの腋に手を入れ持ち上げると何食わぬ顔で騎竜へと歩み寄った。


「ちょ、何してんの蒼士。恥ずかしいから離して。それになんで騎竜に私を近づけるのよ。選ぶのはアンタでしょ。」


クレアは焦りなが声を掛けて来るが、俺は迷いのない足取りで一匹の騎竜に近寄って行く。


「なに言ってるんだ。相性は大事だろ。乗るのはお前なんだからしっかし確認しないとな。」


そう言って笑顔を浮かべるとクレアも「それもそうね」と一瞬納得する。

しかし、次第に近づく騎竜の顔を見てクレアは俺の言っている事がおかしい事に気付いた。


「ちょっと!よく考えてみれば別に持ち上げなくてもいいじゃない。待って、止まって、近い近い近いーーー。」


だが、クレアは気付くのが数秒遅かった。

気付いた時には既に騎竜の顔は目の前まで迫っており騎竜はその口を大きく開けた。


「あ、ダメよ。私は美味しくな・・・・・。」

『ペロペロペロ・・・』


そして次の瞬間。

クレアは目の前の騎竜に顔を舐め回され、地面に下ろされた時には既に涎でドロドロになっていた。

地面に下りたクレアは無言のまま魔法で水を作り出し顔を洗い流す。

そしてタオルを取り出すとそれでしっかりと顔を拭いた。

クレアはサッパリしてタオルを仕舞うと今度は打って変わって不機嫌な顔になり俺を睨みつける。


「それで、もしかしてこの子が私の騎竜なの?」

「そうだが何か不満か?何処からどう見ても相性ばっちりだろ。ジェシカ、こいつで頼む。すぐに出発するから準備も頼むな。」


するとジェシカはクレアの方をチラリラ見ながら何か言いたそうにしているがクレアが何も言わないので仕方なく係の者に指示を出し準備を始めた。

そして数分で準備を終えた騎竜は獣舎から出ると外で待つクレアに嬉しそうに駆け寄った。


「ちょ、またなの。そんなに舐めても何も出ないわよ!・・・もう~ダメって言ったのに。」

『ペロペロペロ・・・。』


しかし、今回は先ほどの事を反省したのかドロドロになる前に舐めるのを止め、頭を擦り付ける様に甘える仕草を見せた。

するとその姿を見て獣舎のスタッフはクレアへと声を掛ける。


「此奴がここまで懐くのは珍しいな。いつもはどんな相手にも素っ気ないんだが。まあ、大事に乗ってやってくれ。」


そしてクレアは騎竜に跨りギルドを後にした。

その横を俺も歩き、クレアはギルドカードを、こちらは国が発行した身分証を見せて外に出る。

そして目的の場所まで一気に走り始めた。


「あ、待って蒼士。」

「ははは、騎竜に乗ってて人間に負けたらちょっと笑えるなー。」


そう言って俺は騎竜とクレアを挑発する。

すると両方が挑発に乗り、次第にスピードを上げていく。

そして走っている間にも俺は町での変化を思い出して口元に笑みを浮かべた。


(そう言えば、俺の記憶だとクレアは街中では常にフードをしていたけど今はしていないな。それにギルドの雰囲気もかなり良くなっている。これもあいつらが頑張ったおかげって事か。)


そして、馬車で数時間の場所へ一時間もかけずに到着するとお約束通り騎竜は限界を迎えその場に倒れ込んだ。


「大丈夫!無理するからよ、もう~。ほら、回復してあげるから元気出して。」


そう言って無理をさせたクレア本人は責任を騎竜に丸投げし、やさしい声と共に回復魔法を掛ける。

すると騎竜はみるみる回復し、立ち上がると感謝の気持ちを込めてクレアの顔を再び涎まみれにした。

これは純粋な感謝の気持ちであって間違っても責任転嫁の意趣返しではない・・・はずである。


そしてこの日、クレアは二枚目のタオルを使用し洗った顔を拭くと俺へと視線を向けた。


「久々に早駆けしたから気持ち良かったわ。それで、目的の物はあの家にあるの?」


すると俺は首を横に振り「違うぞ」と答えた。


「あの家自体が目的の物だ。置いておいて荒らされたくないからな。アイテムボックスに仕舞っておくために取りに来たんだ。」


そう言ってクレアの前で魔法を使い家の地面を土魔法で切り取る。

そして、基礎がある地面と一緒にアイテムボックスへと家を収納した。


「まあ、商人には凄い容量のアイテムボックスを持つ者もいるって聞いてるからそれほど驚かないけど、いきなり家が消えるとちょっと非常識感が凄いわね。それにしても本当にあんたらは規格外ね。私もSランク冒険者なのに自信が無くなっちゃうわ。」


そう言ってクレアは家が消えた場所を見て溜息を吐いた。

そして作業が終わると俺はクレアに振り向き声を掛ける。


「目的も終わったから帰るか。帰りは時間があるから少しのんびり帰るか?」


するとクレアは一瞬悩むがすぐに首を横に振った。


「いえ、お婆ちゃんに何も言って無いから少し早く帰りたいわ。さっきみたいに速く走らなくても昼には帰れるでしょ。」

「分かった。それじゃ遅れるなよ。」


すると俺は先ほどではないがかなりの速度で走り始めた。


「待ちなさいよ。それが早いって言ってるの!こら、少しは聞きなさい!」


そして俺たちが門に辿り着いた時、騎竜はかなり疲労しており、再びクレアの魔法のお世話になったのは言うまでもない。

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