9 結婚と慈善活動
俺達は再び手を繋いでギルドを出ると目的の教会に歩き出した。
そしてそこはジェシカの言う通りギルドに近く歩いて10分もしない内に到着する。
だがそこは予想よりも寂れた教会でステンドグラスは所々ひびが入り壁は崩れかけている。
そして中の神像は長年の手入れも虚しく、綺麗に拭かれてはいるがその顔が分からなくなるほどに表面が削れてしまっていた。
俺はその有様に気まずくなり、つい冬花に視線を向けてしまうほどだ。
しかし、冬花はそんな俺に笑顔を向けてつなぐ手に力を籠めてくれた。
「蒼君と一緒ならどこで結婚してもいいよ。私にとって重要なのは場所ではなくてアナタなんだから。」
俺は冬花のその思いに嬉しくなり空いている手で頭を優しく撫でた。
冬花もそれが嬉しかったのか目を細めてされるがままに受け入れてくれる。
しかし、それはただ甘えているだけに過ぎない。
そうならない為にも俺が持てる全ての能力を使い、後悔の無い結婚式場を準備して見せる。
「冬花の気持ちは嬉しいよ。でも少し待っていてくれ。すぐに終わるから。」
そう言って冬花の頭から手を放した俺は一人で教会に歩み寄って行く。
そして建物の前に立つと魔力を放出しイメージを浮かべて魔術を行使する。
するとひび割れた外壁が修復されていき綺麗な白い漆喰の壁が蘇る。
更にステンドガラスの罅も綺麗に修復され新品のような輝きを放ち始めた。
屋根の瓦で割れている所は綺麗に修復され足りない所は地面から新しく作り出された瓦が整列していく。
そして外が終わると俺は中へと入り更に修復を継続する。
それについて行くように冬花は出口から中を覗き込み様子を見詰めている。
それにどうやら作りは簡単なようで中には祭壇と女神像、それといくつかの長椅子があるだけのようだ。
俺は再び魔法を行使し祭壇を丁寧に作り上げていく。
特に女神像は写真のように細部まで作りこみ、その姿に誰をモデルにしたのか冬花が気にする程だ。
そのためかは不明だが女神像は若干、汗をかいているようにも見える。
そして修復はそこで終わり、朽ちかけた長椅子に視線を向ける。
困ったな。
他は土属性の魔法でどうにかなったが、これは魔法ではどうしようもない。
取り除くのは簡単だけど地球の記憶からこれがないと殺風景で寂しい結婚式になってしまう。
その為、俺の脳裏に寂しそうな顔をする冬花の姿が過る。
実際は蒼士がいれば満足すると分かっているが、自分の我儘を通したので冬花が少しでも満足できるように場を整えてあげたかった。
すると俺のスキルである天才がその思いに応えスキルを習得してくれた。
俺はなんとなく習得した事を感じ取りステータスを確認してみる。
するとそこには新たなスキル魔法建築と修復の文字が追加されていた。
そして俺はさっそく覚えたスキルを使い教会全体の修復を試みる。
すると魔力を消費しながら壊れていた長椅子が新品の様に直り、殺風景だった部屋に整列して行く。
それに直しきれていなかった建物自体も新築の様な美しい白壁に包まれ、元の世界で見た結婚式会場を思わせる美しい姿へと変える。
そして修復が終わると壁は太陽の光を反射し、色鮮やかなステンドグラスは色とりどりの光で室内を照らし出してくれる。
特にその光を浴びている女神像は幻想的な美しさを放ち今にも動き出しそうだ。
そして、いつの間にか傍に来ていた冬花に俺は笑顔を浮かべて振り返った。
しかし、その笑顔は一瞬にして固まってしまう事となり背中からは止める事の出来ない汗が流れ出る。
何故なら振り返った先の冬花は確かに笑顔を浮かべているはずなのに目がまったく笑っていないからだ。
その目は何故か俺の心臓を鷲掴みにし危機感を与えて来る。
(や、やばい・・・。これは絶対に怒ってる時の冬花だ。でも、いったい何がイケなかったんだ!?)
心の中で焦っていると冬花は俺に視線を向けたまま神像を指さした。
そして、地獄の底へと叩き落す様な冷たい声で問いを投げつけてくる。
「蒼君、あれは誰がモデルなのかな?私あんな人知らないんだけど?怒らないから素直に教えて欲しいな。」
しかし、その言葉で俺は冬花がなんで怒っていたのかを理解した。
どうやら俺の作った女神像を見てベルに嫉妬してるようだ。
それに俺達が離れていた時間はとても長い。
俺は彼女の記憶を見たから信じられるが冬花からすれば17年ぶりの再開になる。
その間に他の女の影を感じれば不安になってしまうのもしょうがない。
冬花の思いに気付いた俺は心を落ち着けて冬花の伸ばしている手を優しく握り締める。
そしてここに来る前に魔法に関して色々と教えてくれたベルの事を話し始めた。
「冬花。俺は彼女に魔法を習ったんだ。」
俺はまず誤解を解くためにベルとの関係を単刀直入に告げた。
しかし、突然告げられたことでそれが真実なのかの判断が出来ず冬花は首を傾げてしまう。
流石に互いの気持ちを伝えあい、信頼し合っていたとしてもこれだけでは納得しきれないだろう。
そのため、俺はまだ話していなかったこの1月の事を話し始めた。
「俺がこの世界に現れるのには冬花と1ヶ月のズレがあるのはもう知ってるな。」
「うん。」
すると、この一ヶ月の待ち遠しく寂しい時間を思い出した事でその表情が僅かに曇る。
その僅かな変化に気が付き、俺はそっと冬花を抱きしめると話を続けた。
「俺はその時間を利用して神様たちから修行を付けてもらえる事になった。そこで3人の神様から修行を受けたんだ。一人はその剣をくれたカグツチ。二人目はスサノオ。そしてもう一人がベルファスト。俺にはベルと言っていたけどおそらく彼女がここに祀られている神だと思う。そして、その像はその時に見た姿をそのまま石像にしたものなんだ。」
そこまで説明した所で冬花の怒りと悲しみが和らいできたのを感じる。
すると少し恥ずかしそうに顔を上げると上目遣いにこちらを見上げてきた。
「浮気してない?」
その呟きを聞き取った俺は自分の考えが当たっていた事を確信する。
そしてここでベルと交わした約束を伝える。
「もちろんだ。それに彼女は俺達の事をとても気にかけてくれていた。だからこれを俺達二人の結婚指輪にすると良いって言って渡してくれたんだ。」
俺はアイテムボックスから自分がつけている指輪と同じ物を取り出し冬花に見せた。
きっと剣の価値を見抜いた冬花ならこれの価値に気付くはずだ。
「これは神界のアイテムで通常は持ち出せないらしい。でも俺たちのために許可を取ってこの不懐属性が付いているペアリングを持って来てくれた。そして出来るなら結婚する所を見せてほしいと言われて俺は了承したんだ。」
そして言い終わると同時にようやく冬花の怒りが完全に消えたのを感じた。
しかし俺は冬花と離れていたこの長い時間を埋めるにはかなりの努力が必要だろうと確信を持つ。
「そうだったんだね。ごめんね、疑ったりして。」
「いや、俺ももう少し気を使うべきだった。神の外見には完成された美があるからな。おれは冬花以外は何とも思わないから失念していた。」
すると俺が真顔でそう言った途端に冬花は顔を真っ赤にして慌て始める。
(もう、狡いな蒼君はいつも不意撃ちでそんなこと言うんだから~。)
しかし、俺にとっては当たり前の事なので何処に慌てる要素があったのかが分からない。
やっぱり離れている時間が長かった為にこうして出会えた事で逆に情緒不安定になっているのだろうか。
そのため今度は俺が首を傾げるが冬花の機嫌が直ったので細かい事は気にしないことにする。
そして俺達は神像の前に立ち、向かい合うと互いに誓いの言葉を口にする。
「俺は永遠に君を愛すると、この命と指輪に誓う。」
「私もあなたを永遠に愛し命尽きるまで共に歩み続ける事を誓います。」
そして宣言が終わると互いに相手の左の薬指へと指輪をはめ、見つめ合って誓いのキスを交わした。
二人しかいない寂しい結婚式だが互いに一切の不満はない。
そして唇が離れると時間を忘れて互いに笑顔で見つめ合った。
『パチパチパチ・・・』
すると祭壇の方向から拍手の音が響き、突然の出来事に視線を向る。
そして敵意は感じないが油断なく冬花を背中へと庇い剣へと手を伸ばす。
するとそこには驚くべき光景があり、なんと俺が修復した神像が動き出し拍手をしていた。
そして、次第に石像の石の肌に色が付き、その姿は先日別れたベルそのものへとなると聞き覚えのある声音で話しかけてくる。
「ありがとう蒼士。約束を守ってくれて嬉しいわ。それにいい結婚式だったわよ。」
ベルはそう言って満面の笑みで拍手をしながら近づいてくる。
そして拍手を止めて手を下ろすと冬花に視線を向けた。
その顔には何処となく申し訳なさが滲み出ているが、先ほどの事を見ていたのなら仕方がない。
単純な擦れ違いだとしても喧嘩の原因が自分だと思えば落ち込みもするだろう
「ごめんね勘違いさせちゃって。でも大丈夫よ。蒼士はあなたにしか興味が無いから。」
しかし冬花も申し訳なさそうな表情を浮かべると素直に頭を下げた。
「先ほどは失礼しました。それとこの指輪をありがとうございます。」
するとベルの顔に笑顔が戻り、それと同時に冬花にも笑顔が戻ってくる。
しかし、冬花はすぐに顔を曇らせ心配そうに声を掛けた。
「でも蒼君から聞きましたが貴方は神様ですよね。地上に下りてきても大丈夫なのですか?」
こうして心配しているのも冬花がこの世界に来て神と会った事があるのが1度しかないからだ。
その1度もこの世界に勇者としてして呼ばれた時にあの主神と言われている女神1人だけになる。
恐らくは俺と同じ様に何度も会う機会があっただろうに、あの女神は最後まで冬花と話そうとはしなかった。
それどころかあんなスキルを無理やり与えてその後もずっと本人任せだ。
あんなやり方でやる気が出るはずがない。
そして、ベルの方はそんな冬花の心配を払拭する様に手をヒラヒラと横に振りながら苦笑を返す。
「いいのいいの。時々神託とかを与えるために地上には下りてきてるから。」
「そうだったんですね。この世界に来て長いのに初めて知りました。」
どうやら冬花は神についてあまり知らなかったようだが、それも仕方ないと言うしかない。
この世界に来た冬花は頻繁にトラブルに見舞われ、回避しても別のトラブルが襲ってくるのが日常だった。
そんな状態では一般常識的な情報を集めるのは難しいだろう。
それに少し前まではただ死ぬのを待っていた人生を送り、周りとの繋がりさえも拒んでいたので教えてくれる人も居なかったからな。
するとベルは次にストレッチをする様に手足を捻ったり伸ばしたりし、それが終わると鏡を出して自分の顔を色々な角度から確認し始める。
「でもこの神像は凄いわね。私そっくりだわ。」
そう言ってベルは全体を確認して子供が服を自慢する様に楽しそうな笑顔でクルクルと回る。
それによって長い髪がフワリと広がり、トーガの裾が広がって長い脚が膝上まで見えてしまう。
どうやら外見に気を配るあまり、製作の過程で服を薄く作り過ぎた様だ
しかしその見た目は何処から見てもお姉さんのキャラなのに意外と幼い所も持ち合わせているようでそれさえも楽しいのかなかなか止まる様子がない。
そして、満足したように回転を止めると満足した表情を浮かべて話がを再会した。
「それに蒼士を最初に見た時は余裕がなさそうだったけど、今は大丈夫そうで安心したわ。きっとその子のおかげかしらね。」
「ああ、冬花は俺にとって最高の精神安定剤だからな。」
「そうみたいね。それとその指輪は渡す時にも行ったけど魔法を補助してくれるアイテムだから役立ててくれると嬉しいわ。きっとあなた達が進む道の手助けになると思う。」
しかし、そこまで言うと今度は苦笑を浮かべ、困ったような顔に変わる。
どうやら、ここに来たのは結婚のお祝いを言うためだけではなさそうだ。
「実は主神様がこの神像を見てとても羨ましがってて大変なの。もしよかったらあの我儘娘の象も作り直してあげて。もしかしたらいい事があるかもしれないわよ。」
そのお願いに俺は無意識に嫌な顔を向けるが相談したい事もあるのを思い出した。
そして仕方ないと大きな溜息をついて頷きを返す。
「わかった。実は少し話がしたいと思っていたから丁度いい。暇な時にでもやっておくよ。」
「ありがとう。それじゃお願いね。」
するとベルは重力を感じさせない動きでフワリと浮かび、元の位置に戻ると何やら幾つものポーズを取り始める。
その姿に流石の俺達でもイタい人物を見るように冷たい線を送る。
そして先ほどまでの姉の様に凛々しい姿は幻覚だったのかと思い始めた時、意を決してベルへと話しかけた。
「何をやってるんだ?」
「気にしないで。私が離れる時のポーズで石像が固まるからどんなのがいいか考えてるの。」
それを聞いた俺達は揃って呆れた視線をベルへと注ぐ。
もしかしてここで結婚式したのは間違いだったかと本気で考えるほどだ。
しかしあの女の所はもっと在り得ないと考えを改める。
「ほどほどにな。」
そう言って俺と冬花はベルを放置して教会を後にした。
その後この教会を訪れた時にはそこは人々で溢れ返り、彼女を崇拝する信者が増えていた事はまだしばらく後の話である。
ただし、俺が最初にさせていた聖母マリア像の様な大勢ではなく、何処かの美少女戦士がするような香ばしいポーズへと変わっていたのは言うまでも無いかもしれない。
そして俺たちは再びギルドに向かいカウンターに座って仕事をしているジェシカに声を掛けた。
「ジェシカありがとう。おかげで蒼君と無事、結婚式を挙げられたよ。」
冬花はそう言って満面の笑顔をジェシカに向ける。
それにつられてジェシカも笑顔になり祝福と拍手を返してくれる。
そして、ここを出る時に囲んでいた女性冒険者も同じように拍手で祝福してくれた。
どうやら、戻って来るとは伝えていなかったのにわざわざ待っていてくれたようだ。
「おめでとう。でも、あそこボロボロだったでしょ。」
その言葉で俺は一仕事終えてやり切った表情を浮かべながら説明を始める。
人はあまり来ないと小さな教会と言っても勝手に修復してしまったので紹介してくれたジェシカには伝えておく必要が有るだろう。
「実は勝手で悪いがこちらで手を加えさせてもらったんだ。だから今はそれなりに綺麗になってるからいつか見に行ってみると良い。」
「そうなの?それなら旦那と一緒に後で確認してみるわ。以前は倒壊の恐れもあって取り壊そうかって話も出てたから。」
(それにこの子達ってちょっと常識がないのよね。後で正式な調査委員を送る必要もありそう・・・。)
どうやらジェシカもこの二人の事を理解し始めたようで密かに調査を任せる人員を脳内で思い浮かべる。
しかしそんな事は一切表には出さずジェシカは笑顔で会話を続けた。
「でもあそこの神像はボロボロで酷かったでしょう。まさか自分の個性で勝手に作り変えてないわよね。そんな事をすると神様が怒って罰を与えられるかもしれないわよ。」
すると俺は不敵な笑顔を作り得意げにジェシカに告げる。
「フフフ、当然修復した。あれはなかなかにいい出来だったからな、見れば驚くぞ。」
するとジェシカは話が怪しくなってきたのを敏感に感じ取ったようだ。
そんな俺の姿にジェシカは少し引いて距離を取ると助けを求める様に冬花に視線を移した。
しかし、そんな事はお構いなしに冬花の方も知らずに爆弾を投下する。
「本人も喜んでくれてたから大丈夫だよ。それに凄く納得しててお礼まで言われちゃった。」
すると冬花の言葉にジェシカは油が切れた機械の様にギギギと首を傾け先程とは違う、作った様な満面の笑みを浮かべる。
その姿に今度は冬花が一歩下がるが逃げる訳にもいかないのでその場で踏み止まる。
しかし、俺の腕を取って抱き込むと体を寄せて半身を俺の背後に隠してしまう。
「もしかして・・・神が降臨したの?」
しかしその反応に困るように俺もしまったいう顔になる。
するとその反応を見たジェシカは見事な動きでカウンターを飛び越え、俺達の肩を掴むと逃走を封じた。
そしてそのまま奥の部屋へと連行され周囲からは哀れみの籠った視線を向けられる。
こういう時のジェシカには有無を言わせぬ凄みがあり、こうなってしまうと誰も逃げられない。
実はこれが新人が寄り付かない原因の一つとなっているが誰もジェシカへ教えようとはしなかった。
触らぬ神に祟り無しと誰も見ないフリをしかつて自分も通た道だと諦めている。
そして二人を奥の部屋に入れるとジェシカは顔だけを部屋の外から覗かせ明確に告げた。
「この部屋で少し待っているように。逃げると懸賞金を掛けてでも探し出すので覚悟してください。」
そしてジェシカが出て行くと俺と冬花は揃って溜息を吐き出した。
まさかあんな一面があるとは俺は知らず、この様子では冬花も同じなのだろう。
「またやってしまったな。ベルはよくある事だと言っていたがこの反応からしたらかなりの大事じゃないのか?」
「そうだね。私もその辺の知識が無かったからつい洩らしちゃったけど、この後どうなるんだろう。」
「まあ、いざとなれば魔王が世界を滅ぼしてくれるからそれまで逃げ続ければ大丈夫だろう。」
「う~ん。でもそれだとせっかく知り合った人たちを見捨てる事になるよね。やっぱりそれは嫌だな。」
「「は~~~。」」
そして最後に再び大きな溜息を吐くと揃って肩を落とす。
そうして30分ほど話していると扉からノックの音が響き、返事をしていないのに扉が勢い良く開かれた。
「やあ、君たちやってくれたね。」
するとそこには昨日世話になったギルドマスターが立っていた。
彼はジェシカと共に部屋に入ると扉を閉め鍵をしただけでなく風の結界を張ってこの部屋を密室にした。
そして、こちらもジェシカ同様に作った様な笑みを浮かべているが修行が足りないのか目元が引き攣っている。
「私がここに来るまでにとてもありがたい栄誉を賜った所だ。それが何かわかるかね?」
その問いかけに俺達はなんとなく分かっていながら首を横に振った。
しかし、やはりこちらも修行が足りていない様で表情筋がぎこちなくなっているのが分かる。
「そうか、なら教えてあげよう。私はある人から神が近くの教会に降臨したという情報を得てね。その確認のため教会に行ったのだが、そこには何やら色々なポーズを決めている人物を発見したんだ。」
そうやら、あの時点でもそれなりに時間が経過していたのに、まだそんな事をやっていたようだ。
そうなると一体どんなポーズ固まっているのか逆に気になてくるな。
「しかしその存在はとても強い神気を宿しているようでね。念のために話しかけてみるとなんと自分をベルファストだと名乗ったんだ。面白いだろ。ハハハ!」
まるで面白くない冗句を言いながら下の者に笑えとパワハラをする上司のようだ。
昨日は思慮深く毅然としたギルマスだと思っていたのにアレは幻想だったのか?
そして、俺はそんなギルマスから視線を逸らすと、何も分かりませんよと言う風よ装って言葉を返した。
「そうですね・・・。きっとその方は変わった人だっただけでしょう。」
それでも頬が無意識に痙攣するのを感じ、なんとか絞る出すように答える。
しかし、真実を見ているどころか、仲良く会話までした俺達は揃って斜め下を向いて絶対にギルマスと目を合わせようとはしなかい。
しかし次には正面からギルマスの優しい声が聞こえてきた。
「どうしたんだい君たち。人と話す時は相手を見て話さないといけないよ。」
しかし、気配から分かるが声とは裏腹に今のギルマスからは刺す様な視線が伝わってくる。
恐らくは2日連続でトラブルを起こした俺達を見極めようとしているのだろう。
するとその時、ジェシカが4人分のお茶のセットを机に置きコップにいい匂いのするお茶を注いだ。
そして、全員に配るとギルドマスターの横にゆっくりと腰を下ろす。
ギルドマスターはそのお茶を一口飲むとジェシカに笑顔を向けた。
「君のお茶はいつも最高だね。荒んだ心が洗われるようだよ。」
「もうあなたったら~。」
すると二人は先ほどまでの深刻な様子が嘘のように消えて笑顔で語り合いを始めた。
しかし再びこちらへ視線を向けた時、その空気は再び緊張したものに変わった。
「話がそれてしまったね。それで彼女は少しだけ君たちの事を教えてくれたよ。冬花さん。あなたは本当に勇者だったんだね。」
そう言って先ほどとは違い優しい瞳で冬花を見る。
ジェシカはこの時初めて聞いたようで驚いた表情を浮かべ冬花へと視線を送る。
そして今度は蒼士へと視線を移し話を続ける。
「それと蒼士君。君も彼女に負けないほどの力を持っているようだ。これは神の信託として国に報告しなければならない。それとだが・・・。」
ギルドマスターは少し言い難そうに頭を掻いて言い淀む。
そして俺が知る範囲でこの男がこんな行動をすると言う事はとても言い難い事なのだろうと予想する。
なにせスキルを証明するために躊躇なく自分の手をナイフで突き刺す男なのだ。
しかし、ギルドマスターも仕事だと割り切ったのか、しばらく悩んだ末に口を開いた。
「恐らくだが君たちは国の推薦でSランクに昇格するだろう。そのためにいくつか試験を受けてもらうようになる。すまないが準備と覚悟はしておいてくれ。」
そう言って再びお茶を飲んだギルドマスターは深い溜息を吐いた。
それはまるで死刑宣告を言っている様で表情もとても暗い。
俺達は互いに顔を見合わせるとまだ知らないその内容に内心で警戒を強めた。




