表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/148

89 勇者、現状を知る

俺がベルの傷を癒してから時間は流れ次第に出席者が揃い始めた。

その中で俺が知る者としてはクレア、ギルマス、ジェシカが加わる。

そして驚く事にここにはカルラが加わっており当然のように席へと座った。

その事を聞くとどうやら彼女は人間たちに友好的なドラゴンの代表だと言う。

そのためクレアとは契約はしておらず他人の様な顔で接している。

しかし、カルラ自身はクレアが気になるのか時々視線を向けているようだ。

もしかしたらクレアにはドラゴンに好かれる才能があるのかもしれない。


そして、最後の方には俺も初めて会う者達が入って来た。

その者は頭に耳があり、腰には尻尾を巻いている。

どうやら彼は獣人の代表のようだ。

入る時に国王と少し話をしていたが聞こえてくる声から獣人の名前はカミルというようだ。

そしてその横には身長は大きくないのに体が筋肉だけで出来ているのではと思う程の逞しい髭面の男が座っている。

そして周りの話を聞いているとどうやら彼はドワーフの国の国王で名をゲルトというらしい。

ただ物語とは違い彼はそばに座るエルフのパメラと親し気に話をしている。

これだけでは確証は持てないが、あの二人が仲がいいと言う事は国同士としても良好な関係を築いていそうだ。


そして出席者が集まったのか、アルタ国王は立ち上がり周りを見回すと会議が開催された。

すると、彼の後ろにいた女性が前に出て良く通る声で話し始める。


「皆様、よく来てくれました。知らない人もいると思いますが私の名前はノエル。こちらは夫のロックです。そしてあちらにいる子は私の娘のアリスに横にいるのは娘の友人の百合子。私達は約2年ほど前に聖王国によって召喚された異世界人です。」


すると初めてその事を知る者たちは驚いた顔をノエル達へと向ける。

しかし、その数は少なく、この中では獣人とドワーフが主に驚いていた。

そして、当然その事を初めて知った俺と冬花も同じように驚いた顔を向ける。

すると近くに座っていたアリスが俺たちの傍に寄ると小声で理由を教えてくれた。


「実は神のハーデスが何を企んでいるのか分からないけどパパとママをこちらに送ってくれたの。細かい事は後で教えるけどそのおかげで今回の召喚ではかなり助かったわ。でも、あとでアイツからどんな要求をされるのかと考えると次に会うのがちょっと怖いわね。」


そう言ってアリスはげんなりした表情を浮かべる。

そして、こちらでアリスと出会った時、記憶の中のアリスと比べ別人の様に雰囲気が違う理由も知る事が出来た。


(と言う事は、ハーデスはアリスの為に両親をこちらに送ったのか?)


そしてその考えがあっているのかを確認するために俺はカグツチへと念話を送った。


『カグツチはどう思う?これはハーデスの気まぐれか?』

『いや、あの方は死を司る神だがとても優しいらしい。きっと純粋にアリスを心配して

の事だろう。』

『そうか。でもこのアリスの反応からしたらそれを理解してないんだろうな。』

『恐らくな。しかし、あの方は優しいが素直でないと聞く。もしかしたらこれまでに二人の間で色々あったのかもしれん。藪を突くと面倒だからそっとしておこう。』

『それは俺も同感だ。でも、何があったかは面白そうだからそれとなく聞いてみよう。』


するとカグツチは溜息と共に苦笑を浮かべ念話を切った。

その間にも説明は進み話も続いている。


その内容も驚く事が多いがどれもおれの受け継いだ記憶とは大きく異なっている。

俺の記憶には百合子たちは奴隷にならず世界を旅していた事になっていた。

しかし、今回はアルタ王国を始め世界各地の闇ギルドを掌握し巨大な情報網を築いている。

更にバストル聖王国からの奴隷の開放など知らない事だらけであった。

特にノエルとロックがこの世界にいる事からして違う。

それに俺の記憶にはこんな会議は無かった。


俺の記憶にはこちらに来て直ぐに冒険者ギルドに登録しそこから百合子たちを探して出会う。

それまでの間に冬花たちを狙う有象無象を徹底的に殲滅していく記憶がある。

しかし、そこで俺はカグツチへと視線を向けた。

そして、考えてみれば自分たちですら初めから異なる点がある事を思い出す。

それは自分たちの横にカグツチがいる事だ。

先日カグツチが同行する事が決まった際、冬花が言っていたようにカグツチとこの世界を旅する事は初めての事になる。

しかし俺はノエルの話を聞いていて、いくつも疑問が湧き起こっていた。

それは俺が始末するはずの者達はどうなったのかである。

ハッキリ言ってその数は一般人だけでも100や200ではきかない。

それほどまでにこの世界の者達は呆れるほど冬花を手に入れようと狙ってきた。


(これは、後で確認しておかないとな。おそらくここでは出てきていない事がもっとたくさんあるはずだからな。)


そして、ノエルの説明が終わると各自ノエルに質問をぶつけていく。

その内容は主に闇ギルドの存在と天罰に集中した。


「それでは、カティスエナはこの地上の者全てを天罰の対象とする許可を出してしまったと?」

「ええ、しかし彼らの言う事が事実ならば天罰の対象はバストル聖王国に限られます。なのでもし、あちらに向かう者。又は向かってしまった者がいれば可能な限り早く対処してください。期限がかなり迫っています。」


そう言って説明に答えているのはノエルではなく神ベルファストである。

こと、この事に関しては異世界からきている余所者よりもこの世界の神の一人である彼女からの言葉の方が信用があると判断したためだ。

するとノエルの予想通り、ベルの話を聞いた人々は無条件で納得を示した。


そして、新生闇ギルドに関してだがこれは質問はあれど反発は無かった。

これは自国内で既に活動していた闇ギルドのメンバーが、その国で行われようとしていた聖王国の奴隷狩りを阻止し続けている事が高く評価された。

そのおかげで彼らの国はあの戦争以降、奴隷狩りを免れている。

そして、彼らはもし攫われればその結果がどうなるかをしっかりと理解していた。

そのためこれについては満場一致で支持する声が上がった。


そして会議は進み、今回の勇者である冬花とその横にいる俺とカグツチの話へと入った。


「それでは、説明も終わり質問も出尽くしたようなので。最後に勇者の紹介をしたいと思います。それではお願いします。」


するとノエルは俺たち3人に話を振って来た。

しかし、そんな気がしていたので少し緊張しながらも前に出て周りを見回した。


「あの、こんにちは。私が勇者の冬花です。生きて帰るために頑張って魔王を倒します。」

「俺の名前は蒼士だ。勇者ではないが命をかけて冬花を護り魔王を倒す。」

「私はカグツチという。二人は家族の様なものだから絶対に護りきって見せる。」


そして3人がそれぞれの名前と決意を告げると、部屋は静寂に包まれた。

しかし次の瞬間、静まり返っていた部屋に拍手が沸き起こる。

そして誰もが冬花に好意的な笑顔を向け一緒に頑張ろうと声をかけた。

しかし、そんな中でドワーフ王のゲルトは笑顔で提案をして来た。


「もしよければお前たちの実力を確かめたい。俺の護衛の一人と試合してもらえないか。」


するとその提案にアルタ国王は焦って声を上げる。


「ドワーフ王よ。さすがに来たばかりの勇者たちにそれは辛かろう。ここは穏便に話を終われせられないか?」


しかし、そんなアルタ国王の横に俺が歩み寄ると「問題ない。」と告げた。

その途端、国王はこちらの目を見てその真意を探ろうとする。

そしてアルタ国王はすぐに先ほどの回復魔法を使った時の事を思い出したようだ。

国王は俺に頷くと心配そうに再び椅子に着席する。


「分かった。本人たちがいいと言うなら儂からは何も言えん。それで何か準備する物はあるか?」

「場所だけでいい。ここでやると部屋を壊しそうだ。なにせ俺達は来たばかりでこの世界の金なんて持ってないからな。」


そうお道化て苦笑を浮かべるとアルタ国王は笑い出した。


「良かろう。もし勝てたらこの国が一番にお前たちに支援をしよう。期待しておるぞ。」


そしてアルタ国王は兵士を呼び、城にある訓練場の手配を指示した。


「畏まりました。準備が出来ましたら呼びに参ります。」


兵士はそう言って部屋を出て行き、部屋の者達はしばらく部屋で時間を潰した。

するとそれほど待つ事無く、先ほどの兵士が戻って来る。


「陛下、訓練場の準備が出来ました。ただアルベルト隊長が他の兵士と共に見学をしたいと言っております。どうされますか?」


すると国王は顎に手を当て少し悩んだ後に許可を出した。


「良かろう。アルベルトにも試合をする事を許可する。それと手の空いている兵士も見学する事を許可しよう。この事を城内に伝えよ。」


そして俺は再び国王の傍に行き声を掛けた。


「今から伝えて回ったら間に合わないだろう。俺が魔法で伝えよう。」

「うむ。それもそうだな。それならそなたに任せる。」


俺は城だけではなくこの王都中に届く規模の魔法を使い言葉を伝える。


「今から勇者が模擬戦を行う興味がある者は訓練場へ集まってくれ。」


そして伝え終わると国王は頷いて礼を述べ、兵士の案内で訓練場へと移動を開始した。

しかし、この時の魔法によりこの声を聞いたのはこの街に居る全員になる。

そのため、この後に大きな騒動が起きるがそれを知る者はまだ誰もいない。


アルタ国王たちは訓練場を見下ろす事が出来る貴賓席に入り席に着く。

すると訓練場では既にドワーフの戦士やアルベルトが戦う準備をしており、訓練場の外周には多くの兵士が集まっていた。

すると隣に座ったドワーフ王はアルタ国王に話しかけた。


「試合の事、感謝する。これで勇者の実力を皆に見せられそうだ。見る者が見ればわかるが奴らは途轍もなく強い。おそらく儂の護衛は手も足も出んだろう。しかしそれでいい。力を知る者が多ければそれだけ彼らを侮る者は減るからな。」


するとアルタ国王はこの試合が持つ本当の意味を知り目を見張って驚愕する。

そしてその顔を見たドワーフの王はニカリと笑い視線を前に戻した。


そしてアルタ国王も「ヤレヤレ、やれらたわい。」と言って視線を戻す。

すると突然後ろの扉が叩かれ、外から兵士の声が聞こえた。


「陛下大変です。城の外に民衆が集まって来ております。」

「何じゃと。どういう事だ。」


国王は急いで外の兵士を入室させると報告と共にその理由を問いかけた。


「それが、先ほどの魔法による声が王都中に広がってしまったらしいです。民衆は口々に勇者の闘いを見たいと叫んでおります。」


すると報告を聞いて国王は頭を抱え悩み始めた。

どう考えてもこの訓練場では民衆を入れるには狭すぎる。

だからと言って秘匿する訳にもいかず一部の物だけでは不満が爆発しかねない。


しかし悩んでいるアルタ国王の前に突然映像が浮かび上がる。

そしてそこを覗き込むとその中には蒼士の姿が映し出されていた。


「国王、事情は気配を感じて分かっている。そこは俺達がどうにかしよう。」

「どうにかとはどうするのだ。まさか追い返す訳にはいかんぞ。」


すると蒼士はニヤリと笑い説明を始めた。


「この映像はこの王都の範囲ならどこにでも、しかも大量に映し出す事が俺達には可能だ。これを使って外の者にも観戦してもらう。それに先程はこうなる事を想定して魔法の範囲を王都全域にしたんだ。だから民衆たちの対応も俺達に任せてくれ。」


しかし、国王にはそんな大規模の魔法が本当に可能なのかが分からなかった。

そのため国王は確認の為に魔法に長けたエルフのパメラへと視線を向ける。


「私には無理だね。それが本当にできるなら常識では考えられないほどの魔法制御能力と魔力量を保有してるってことだよ。」


しかしパメラからの答えはアルタ国王が欲しい物とは真逆の言葉だった。

そして、国王がさらに悩んでいるとそこにベルから声を掛ける。


「彼が出来るというのならそれを信じましょう。先程見せてくれた彼の力は本物です。それに、あの魔力量を掌に集中させて完全に操る魔法制御力。あれだけの事が出来るなら彼の言っている事も恐らく可能でしょう。」


すると、国王は蒼士に向かって頷き、任せる事に決めた。


(まあ、王都中は無理だったとしても城の周りだけでも収拾がつけば言い訳はしやすくなるからな。)


だが、そう考えていた国王は後に報告を聞きいて蒼士が言っていた事を実現させた事を知り、嬉しそうに笑ったのは数日後の事である。


そして、俺は魔法を行使し、王都中に訓練所の映像を映し出した。

すると城の前に詰めかけていた人々からどよめきが生まれ、それは次第に大きくなっていく。

そしてそれは範囲を拡大し、その声は王都中へと広がって行った。


「冬花、準備が出来たから始めても大丈夫だ。死なない限り相手の怪我はこちらでフォローするから怪我だけはしないようにな。」


そう言われ送り出される冬花は笑顔を浮かべて「任せて」と返事を返した。

俺はさすがに過保護だったかなと苦笑を浮かべカグツチの傍に移動する。


「カグツチはどうする。この世界で体を動かすのは初めてだろ。」

「そうだな。この戦闘用の体にも既になれているが、この世界は彼方と違う所が多い。慣らし運転も必要かもしれないな。」


カグツチはそう言ってチラリと自分の武器である剣に視線を落とす。

彼女はプールの事件から慢心や油断を失くし万全な状態を常に心がけている。

そのため日ごろは少し張り詰めた感じを纏っていたが、今では俺が傍にいる時だけは気持ちを緩めて普通の少女に戻っていた。

しかし、今は万全な状態と言うには程遠い。

そのためカグツチは先程から体を動かしたくてウズウズしているようだ。


すると丁度いい事にドワーフの戦士の後ろでもう一人準備をしている。

その人物は先ほどアルタ国王が許可をだしたアルベルトだ。

これで人数分の模擬戦相手が揃ったので遠慮なくやれそうだな。


「カグツチよかったな。もう一人獲物・・・じゃない試合の相手が出て来たからあっちはお前に任せる。あれはこの国でも上位の戦士らしいから少しは慣らしになるかもしれない。」


するとカグツチは嬉しそうに「任せろ」といいながら剣を抜いて素振りを始めた。

どうやらやる気満々のようだ。

しかし、あまり衝撃波を出していると相手が逃げるから素振りは程々にな。

俺はそんな事を思いながらその楽しそうな姿に優し気な笑顔を向けると冬花に視線を戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ