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87 ディエルの更生③

ディエルが眠って数日が過ぎてようやくは目を覚ました。

そして横に座るミネルバを見てその顔を恐怖に染める。

しかしディエルのその姿を見てもミネルバは顔色を一つ変えずに問いかけた。


「どうですか。少しはあなたが奴隷に落とした者の苦しみを理解できましたか。彼らは今のあなたの何倍も苦しみ死んでいったのですよ。」


するとその時初めてディエルは苦しみと自分の死を目の当たりにして体が震え始めた。


「俺はこのような事を多くの者に与えていたのか。」


死に直面した者はその時の体験から性格が激変し人格が変わる事はよくある事である。

今回はそれが一度でいい方向に作用したためディエルは他人の苦しみを生まれて初めて理解できるようになった。

しかし、ミネルバはこれだけで終わらせるほど優しい性格はしていない。


「やっと理解できたみたいですね。それでは次のステップに移ります。」


するとディエルにすれば眠る前、すなわち一瞬前まで地獄を見ていたためその体は自然と震え出し顔から血の気が引いて行った。


「な、何が始まるのだ。またあの地獄の日々が始まるのか?」


すると扉がノックされディエルはびくりと肩を跳ねさせる。

そして扉は開き一人の少女が部屋に訪れた。


「それじゃディエル様。さっそく行きましょうか。」


そう言って部屋に訪れたのはメイド服を着たコレット、ではなく。

農家の娘の様な格好をしたコレットである。

彼女は遠慮なくディエルに歩み寄るとその手を取り立たせた。


「ちょっと待て。俺は奴隷紋のせいでこの部屋からは出れん。」


しかし、そんな事はお構いなしにコレットはディエルの腕を引いてそのまま部屋の外に出た。

その瞬間、ディエルは訪れるであろう痛みに身を竦ませ胸を押さえる。

しかし、一向に痛みは訪れず、ディエルは少しずつ肩の力を抜いた。


「どうなっているんだ?」


その零れた言葉に真っ先に答えたのは先ほど手を引いていたコレットである。


「あなたの奴隷権の一部を私とお母さんが所持してるの。ちなみに私が移動権でお母さんが行動権。そして陛下は権利の全てを最上位権限で持ってるわ。」


すると、ディエルは納得して少し不貞腐れた顔でコレットに顔を向けた。


「それなら先に言ってくれ。お前は知らないだろう奴隷紋の苦痛は半端ないんだぞ。」


するとコレットは寂しそうに笑うと「知ってるよ。」と答えた。


その声にディエルは「え」っと声を出しコレットに視線を落とす。


「私達も少しの間だけど聖王国で奴隷にされてたからね。その苦しさは知ってる。あの国にとって奴隷なんて替えの利く使い捨ての道具だからね。あんたも王族ならあの国の奴隷の扱い位は知ってるでしょ。」


するとディエルは聖都までの道のりで見て来た事が頭の中で蘇る。

そしてそれは今のディエルにとってはとても不快な事に感じられた。


「ああ、知っている。見て来たからな。」


しかし、ディエルにも一部は自分の責任であるとまでは言えなかった。

ただ胸を穿たれたような強い罪悪感だけが心を満たしている。


「そう。まあ、今はこの国で仕事も出来たした楽しく働けてるからいいんだけどね、それより行くよ。あんたには今から畑仕事をしてもらうんだからね。」


そう言ってコレットは力任せにディエルを引っ張って行く。

そして城の日当たりのいい場所に行くとそこには荒れた庭が広がっていた。


「なんだここは。この城にこんな所があったのか。」


ディエルが周りを見回していると彼の後ろから突然声が掛けられた。


「来たかディエル。」

「父上、なぜここに。」


そう言ってディエルが振り向いた先にはなぜか作業服姿の国王が立っていた。


「何故と言われてもここは元々儂が野菜を作るのに作っていた土地だ。昔はここで取れた野菜をみんなで食べていたものだ。お前はまだ幼かったから忘れたかもしれんがな。」


国王に言われ、ディエルは過去の自分を思い出す。

そして微かではあるが母が生きていた頃にそんな事をしたような記憶がある事を思い出した。


(あの頃は何をしても楽しかった。そう言えば母上が亡くなられてからあまりいい思い出がない気がする。なぜだ?)


ディエルは幼いころの記憶を思い出しながら楽しかった事と同時に疑問が湧いて来る。

しかし、それは仕方のない事でもある。

彼の周りの世話役はディエルの心を曲げてしまう程に偏った知識を植え付け始めた時期である。

それはその時のディエルには苦痛であったであろうが今となってはそれを自覚する事は出来なくなっていた。


「それで、もしかして父上も畑仕事をするのか?」

「そうじゃよ。最近アデラールが仕事をよく覚えてくれてな。押し付け・・・。国の為によく頑張ってくれるのだ。」


するとディエルは呆れた視線を国王に送り溜息を吐いた。


「父上、本音が出かかっているぞ。まあいい、あいつも優秀だがほどほどにしてやるんだな。それに婚約者も早く決めてやらないと国王となってからだと大変だろう。」


すると国王はいまのディエルの言葉に驚き自分の耳を疑う。

そして耳を穿って掃除をすると「今何と言ったのだ」と聞き返した。

するとディエルは仕方がないかと小さく溜息をつくと苦笑を浮かべた。


「まあ、俺も死にかけて考えが変わったんだよ。国のトップに立つ事に意味を感じられなくなったんだ。それに自分でも驚くくらいに少し前までの自分が愚か者に見える。もう手遅れだが馬鹿な事をしたものだと感じてるよ。」


すると荒れ地の方から元気にディエルを呼ぶ声が聞こえ始めた。


「ねえ、急ぎましょ。これだけ広いと草刈だけで何日もかかっちゃうわよ。」

「ああ、今行くから待っていてくれ。」


ディエルはコレットにそう叫ぶと国王へと視線を戻した。


「父上も無理はするなよ。若くないんだから。」


すると国王はその言葉に目頭が熱くなるのを感じた。

ディエルが自分をいたわってくれたのは忘れそうな程にずっと昔の事だからだ。

しかし、国王もまだまだ息子に負けるわけにはいかない。

そのため袖をまくるとディエルへと言い返した。


「ははは、何日も幽閉されて訛った体でよく言うわ。儂はこの治癒の腕輪を付けてから体が若返ったように好調じゃ。お前には負けんぞ。」


そう言って二人は揃って農具を手に持ちコレットの元へと向かって行く。

そしてミネルバはその様子を少し離れた所から見つめ、もう一人のメイドは休憩用のスペースの準備を行っている。


そしてこの後もディエルはミネルバから出される幾つもの試練を乗り越え心も体も磨いていった。

その姿にメイドも密かに恋焦がれていたディエルと良い中になり国王公認のもと婚約者となる。

そして、コレットとは友達の様な関係を継続するがその姿は仲のいい下町の夫婦のようであるため国王は密かに婚約の機会を狙っていた。


そして、ミネルバ自身はこの時の手腕が認められ闇ギルドの教育時の相談役兼指導員として多くの者達から慕われるようになる。



そして現在では、アルタ王国の各所で教会の修繕が行われていた。


「よーし。国からの依頼通りこの教会は終了だな。」


そう言って作業を指揮した男は教会を見回し確認する

しかし、その最も大事な神像を見つめて大きな溜息を吐いた。


「しかし・・・。こいつは修復不可能だな。ここの神は確かベルファストとか言ったか。魔法の加護をくれるらしいがここまで傷んでいると面影すら掴めねえな。」

「そうですね。これは国が資料を発見してくれるのを待つしかないですかね。」


そう話していると後ろから一人の少女が現れ何も言わずに神像に近づいて行った。

そして台の上にある神像をアイテムボックスに仕舞って撤去するとそこに青銀に光り輝く神像を設置した。

しかもその姿は今にも動き出しそうな程の美しさを放ち見る者を引き付けた。


しかし、彼らもプロのはしくれとしてその神像の輝きを見て一発で素材を言い当てる。


「お、おい。嬢ちゃん。まさかそれはミスリル製の神像か。」

「そうだよ。何か問題がある?」

「馬鹿野郎。そんなの置いておいたらあっという間に盗まれちまうぞ!」


しかし、少女は首を傾げて「大丈夫」と答えた。

少女は銅像に向かい手を合わせ普通の者には見えない者達に願った。


(あなた達、ベルファストをここに呼んできて。)


するとその存在達は空間に消えていくと次の瞬間、銅像に神気が宿る。

そして銅像の色が変わりそこには美しい女神の姿が顕現した


「あら、あなた珍しく私の加護をいっぱい受けてるわね。でもこの大きさは今の私には無理なはずなんだけど・・・。」


ベルファストは「う~~~」と頭をグリグリしながら悩み百合子を見詰める。

その姿に百合子は少しだけ表情を緩めると彼女の手を取って歩き出した。


「ちょっと何処に行くの、ってこの体もしかしてミスリルで出来てるの?私と凄く相性がいいんだけど。それにこの外見。私そっくり。この世界でエルフ以外に私の事覚えてる子がまだいたのね。」


そしてベルファストは少し嬉しそうに周りを見回し大きな変化に気付く。


「あれ、ここ私の教会?少し前まで廃墟だったのに。」


ベルファストは目の前をすれ違う二人の男に問いかけた。


「もしかしてあなた達が直してくれたの?」


その途端、男二人は顔を赤く染めて無言で首を何度も上下に振った。

するとベルファストは花が咲いたような満面の笑みを浮かべ二人へと向ける。


「ありがとう。とっても嬉しいわ。」


すると男二人はその場で膝を付き、ベルファストに祈りを捧げ始めた。

そしてこの時二人は自分たちが信じる神が一人増えた事を確信する。


その後も百合子は町を歩きベルファストを見た街の人々はその姿に心奪われる。

そして中央に到着すると百合子はベルファストにマイクの様な魔道具を渡すと「一曲歌って」と言った。


するとベルファストは少し悩んだが一曲だけならと歌う事にした。


「それじゃ一曲だけよ。」


そう言った途端、百合子は魔道具を操作する。

するとマイクからバックミュージックが流れ魔道具はその機能により広場全体へとその音を広げた。

そして周りの視線が一斉にベルファストに集まると、彼女は緊張の中で歌い始めた。

しかし、緊張していても神であるベルファストの声は美しく、その澄み渡るようね声音は人々の心を掴んだ。

そして歌い終わると何故か広場で活動していた音楽家たちが集まりその後ろで準備を始める。


「な、なに?私は歌うのは一曲だけって・・・。」


しかし、その声は虚しく目の前の民衆からの「もう一曲」の声にかき消され誰にも届かない。

そして準備を終えた音楽家たちが驚くほど短い打ち合わせを終えて曲を奏で始めた。


しかし、この時ベルファストは気付いていなかったが、音楽家たちは全員が国が用意した音楽団で、民衆の中には闇ギルドが用意した先導者が紛れていた。


そして曲が流れ始めると「あ、これなら歌える。」と、そこから次第にヒートアップしていき何曲も歌う羽目となる。

しかしいつの間にか観客は激増し広場を埋め尽くすほどになっていた。

そして本当に最後の歌を歌い終わると百合子はマイクをベルファストから回収し、懐から大量のチラシを空に舞わせた。


「今日歌っていただいたのは魔法の神ベルファスト様。教会の位置はこの紙にあります。どうか清き祈りをお願いします。」


そう言うと百合子はベルファストに視線を向ける。


「それではベルファスト様。このままではどこにも行けないので飛んで行きましょう。」


するとベルファストは納得し魔法を使ってふわりと浮かび上がる。

百合子も持ち前の魔法で浮遊するとそのまま同じ方向へと飛んで行った。

その姿を見つめ多くの者は自然に祈りを捧げる。

そしてそれらの中からはこの時、魔法使いとしてのスキルを手に入れたものが多数現れた。

するとこの噂は瞬く間に広がりベルファストの信者は激増しはじめる。

また、教会前には大量の嘆願書が集められ、そのほとんどが次のコンサートの催促であった。


そして飛んで行った百合子たちは、予定通りジョセフの店の庭へと着地する。

するとそこには打合せ通りノエルたちが待機していた。


「こんにちはベルファスト様。」

「う~ん、面倒だからベルでいいわよ。それで私にこんな立派な神像をくれたって事は何か用があるんでしょ。あなた達のおかげで今も信者が急増してて力が増してるからお礼もかねて少しならお願いを聞いてあげられるわ。」


するとノエルは少し悩むとこの家の者にあなたの加護を与えてあげて欲しいとお願いした。


「それだけでいいの?別にそれなら教会で祈れば手に入るわよ。」

「ええ、でも今はあなたと面識が持てただけでも十分なんです。ただもし問題なければもう一つお願いを聞いてほしいのですが。」

「良いわよ。私に可能ならね。」

「ならこの世界から消えた神々を復活させる試みに御協力ください。」


その瞬間、ベルの表情は変わり警戒感を露わにする。


「何を知っているの?」

「色々と、例えばこの世界で魔王とは神が堕ちた姿であり、彼らが滅びると信仰がないため復活できないでいる事とか。」


するとベルはこの世界の神の真実を知る事を確信し警戒レベルを更に引き上げる。

しかし、そんなベルの前に1匹の子犬が現れた。


「待つのだこの世界の神よ。我々は敵ではない。」


そして子犬から発せられる野太い声を聞いてベルは一瞬で脱力しその場でずっこける。


「ちょっと何。この見た目でその声は反則でしょ。それに私には分かるわ。あなた何処かの神の眷属ね。しかも凄く強力な。そんなあなたがなぜこんな所にいるの?」

「それは今は語れぬ。しかし、彼女の提案はお前たちにも都合のいいものであろう。神と言っても人と同じように感情があり友もいよう。滅びたままではその友とも永遠に会えんぞ。しかし復活を果たせば再び共に在ることが出来る。悪い話ではないと思うが。」


するとベルは少し悩んだ末にユノへ向かって頷いた。


「それでどう助けてほしいの?私ではそんなに力はないわよ。」


するとノエルは笑顔を浮かべて計画を説明し始めた。


「即ち、私には信仰を失った神の情報。特に絵姿と得られるスキルが知りたいのね。」

「ええ、復活に信仰が必要ならそれは地上の者達が努力する事よ。でもそれは存在を知らないと始まらない。あなたにはその懸け橋になってほしいの。」

「分かったわ。それくらいなら簡単な事よ。」

「ありがとう。それじゃ分かった事はこのお店に伝えてちょうだい。よろしくね。」


そして打ち合わせが終わるとベルは再び浮き上がり教会へと帰って行った。

しかし、それを彼らの後ろから見ていたジョセフとティファは。


「お父さん。私、急に魔法が仕える様になったんだけど。」

「お前もか。私は前から少し使えたが今では火の玉でお手玉も出来るぞ。」


するとその姿を見てミランダは苦笑を浮かべる。

そして、これからの事を二人に伝えた。


「そんな事より。このお店はこのままだと神が常連客になるのよ。専用の部屋を用意したり店員に口止めしたりしないと大変な事になるわよ。」


すると二人はようやく事の重大性に気付き、自らの後ろに雷のエフェクトを発生させる。


(ホント、この二人はこういう所が親子でそっくりね。でも前から使えたジョセフはともかくティファは覚えたばかりの魔法を使いこなしてるわね。もしかして最初から才能があったのかしら。)


そしてジョセフの店では一部を大々的に改装し、ベルを迎える専用の部屋に変えた。

そして定員にはきつく口止めをしたが毎回表からやって来るベルの噂はあっという間に広がり王都では神御用達の店として不動の人気を勝ち取る事となる。


しかし、この時はまだ誰も気付いてはいなかった。

蒼士にもたらされた未来の記憶。

しかし、その中にノエルもロックも含まれてはいない事に。

そしてこの歯車のズレは最初の蒼士が思い描いていた形へと次第に収束していく事になる。

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