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86 ディエルの更生②

国王はノエルが来たことを知らされるとあれから一度も見に行っていない事に気付く。

そしてあれから丁度1週間ときりもよく、ノエルも来ていると言う事で国王はその足を塔へと向けた。

すると部屋に入るなり国王はディエルを見て思い出したように手を打った。


「おお、しまった。ディエルに治癒の腕輪を渡すのを忘れていおった。」


そう言って頭を掻く国王の姿はとても他人事のように見える。


(もしかしてワザと?)

(ワザとだな。さすが陛下。)

(ワザとか。あの時かなり怒ってたからな。)

(ワザとだろうな。まあ、あの時の姿を見ていると仕方がないか。)


そして、それを見たノエルを含む4人は声に出さずとも考えが一致する。

すると、不敬ではあるが4人は無意識に国王へと冷たい視線を送った。

その視線を浴び、国王もさすがに放置しすぎたと感じたのか視線を逸らす。

しかし、このままでは話が出来ないため咳ばらいをしてアイテムボックスから腕輪を取り出した。

そしてそれを兵士の一人に渡すと指示を出す。


「お前たちこれをあいつに嵌めてやれ。」

「分かりました。少しお待ちください。」


そして兵士は国王の前の為に外していたマスクを装着すると腕輪を持って隣の部屋へと入って行った。

その顔には安堵が浮いておりマスクを着けるとそちらの方が自然に見える。

どうやら彼らにとってマスクとは顔の一部になった様だ。

眼鏡と違い顔を全て覆っているのであまりファッション性は無いが異様性だけは抜群だ。


するとその兵士に反応してディエルは恐怖に染まった顔を向けて部屋の端へと逃げていく。

しかし兵士は逃がす事なく腕を掴むと腕輪をディエルへと無理やりはめた。

すると腕輪はディエルから強制的に魔力を吸い取りその体を癒していく。


ディエルは体の痛みが消えた事に気付くとその場に腰を落とし一つ息を吐いた。

兵士は一瞬、回復直後に暴れるかもしれないと身構えていたがディエルは大人しくしており、その後に兵士が出て行くのを見つめるだけであった。

その様子を見てノエルは次は何をするかを国王へ問いかける。


「それで、体は治ったけど心はかなり弱ってるわね。この後はどうする予定なの?」

「これから人としての教育を施そうと思っているがどのような教育をすればいいのか悩んでおる。上から押さえつけるだけでは恐らく身にはなるまい。」


そう言って国王は腕を組んでノエルに意見を求める。

実際、国王もこのような試みは初めてであるのでどうすれば息子が改心するかが分からなかった。

するとここでノエルは少し考えると思いついたことを国王へ伝える。


「それならディエルと関りのあるメイドを全員集めてくれない。年齢は問わないから。」


ノエルの提案に国王と兵士は何をするんだと首を傾げるがすぐに指示を出して過去の記録から多くのメイド達が呼び集められた。


そして、ノエルはその中からディエルに対して好感を持つ一人のメイドを選び出す。

しかし、肝心の幼少期に世話役をしていた人物たちからは適任者を見つける事が出来ず保留となった。

どうやら彼の異常な性格は幼少期の時代に問題があったようである。

それに彼の家族構成にも問題が少なからずあったようだ。

この国の王子である第1王子であるアデラールとディエルは第1王妃の子で第3王子であるアレクシスは第2王妃の子である。

しかし、第2王妃は存命だが第1王妃は彼が幼い時に病気で死亡している。

そのうえ国王は政務で忙しくそれほどの時間が取れず、第2王妃はディエルを叱る事が出来なかった。

その様な中で周りの世話役からよくない影響を受けた彼は歪んだ性格になってしまったようだ。


その結果、ノエルは仕方なくリーリンの元を訪れ誰か紹介してもらう事にした。


「リーリン。ディエルを教育するのにいい人材を紹介してくれない。」


しかし、ノエルの言葉にリーリンはあからさまに嫌な顔を向けると溜息をついた。


「探してみるけど期待はしないで。さすがにあれをなんとか出来そうな人材は思いつかないから。」


そう言ってリーリンは渋々資料を確認し始めた。

その姿にノエルは苦笑を浮かべ「確かにね。」と呟くと部屋を出て行く。


そんな中、別の場所では何も知らない百合子はある人物と再会していた。

そこは何処にでもある普通の宿屋だがその人物は娘と共にそこで働いているようだ。


百合子はこの数日はそこの食堂に向かい、昼食を取りながら観察を続けていた。


そしてその人物とは前回こちらに連れてこられた時にアリスの世話係をしていた女性の一人。

どうやら彼女はアリスがいない事で何らかの理由で城から追い出され、ここで仕事を得て働いているようだ。

そして、百合子は彼女の娘とは面識がないがその母親には色々と助けられた恩がある。

そのため話しかけるチャンスを待っているのだがそのチャンスに巡り合うことが出来ず今に至っている。

しかし、そんな百合子にもとうとうそのチャンスがやって来た。

この日は客が少なく手の空く時もあるため百合子は勇気を出して彼女に話しかけた。


「ねえ、あなた。ここは長いの?」


すると女性は子供へ向けるような笑顔を浮かべて首を横に振った。


「いいえ、最近娘と一緒にここで雇ってもらったの。」

「そうなのね。でもあまり元気がないように見えるけど何か困った事でもあったの?」


すると女性は少し困ったような顔を見せると溜息を吐いた。


「こんな小さい子に心配されるなんて顔に出てるのかしら。実はここの雇い主は娘だけを雇いたかったみたいなの。だからもう少ししたら私はここをクビになりそうなのよ。そうなったら新しい仕事先を見つけないといけないのだけど・・・。昔はお城でメイドをしてた時もあったんだけど、この歳になると貴族のお屋敷では働き口が無いから困ってるのよ。」


すると百合子は少し悩んだ後に彼女に一枚の紙を差し出した。


「もし本当にクビになったら迷わずこの紙に書いている場所まで来て。力になるから。」


そう言って食事を終えた百合子は席を立ち店から出て行った。

そしてその夜。百合子はこの事をノエルに相談する。

彼女にはああ言ったものの、百合子にはアイテムを作る以外にたいした力はない・・・と思っている。

本当は一声かければ町で多くの人が助けるために相談に乗ってくれるが、本人はそれに全く気付いていなかった。

なので人脈が広くこの手の事が得意なノエルへと相談したのである。

すると百合子の相談にノエルは激しく喰い付き、次の日にはその宿屋へと向かって行った。

そして宿に着くとそこからは言い争う声が聞こえて来る。


「どうして私だけよくてお母さんだけクビにするの!?それなら私も一緒にやめてやるわ!」


そう言って鼻息荒く一人の少女が店から飛び出して来た。

そしてその後ろにはその背中を困った顔で見つめる女性がついて出てくる。

すると丁度それを見たノエルは確認の為に百合子へと問いかけた。


「あの人たちで合ってるの?」

「そうだね。思ってたよりも早くクビになったみたい。これはチャンス?」


そう言って首を傾げる百合子にノエルは笑みを深め丁度こちらに大股で歩いて来る娘とそれを説得する女性に声を掛けた。


「ねえ。ちょっといいかしら。」


すると少女は立ち止まり周りを見回すと自分を指さして「私?」と問い返した。


「ええ、正確にはあなた達二人よ。ねえ、あなた達お城で働いた経験があるってホント?良ければ雇いたいのだけど話だけでも聞いてみない。」


すると少女と女性は互いに顔を見合わせて次に少し低い位置にある百合子の顔を見て声を上げた。


「あ、あなたは最近来てくれてた常連さん!」


そう言って百合子を指差すが百合子はそれに苦笑を浮かべるだけで何も言わない。

やはりと言うか、この世界でも子供が一人で店に入り食事をしているのは少なからず印象に残りやすいようだ。


「それで、どう。話を聞いてくれるなら少し移動しない。ちゃんとした所で話をしたいわ。」


すると少女は母親に視線を向けると互いに頷きあって「分かったわ。」と答えた。

しかし、この時点でノエルに二人を逃がすつもりは毛先ほどもなかった。

そのためノエルは彼女たちをある場所へと連れて行く。

その間にノエルは互いに自己紹介を済ませる事にした。


「私はノエル。この子は娘の友達で百合子と言うの。あなた達は?」

「私は娘のコレット。こちらは私のお母さんでミネルバ。いつもは優しいけど怒らせると怖いの。それにこう見えて凄く強いのよ。」


するとミネルバは顔を赤くしてコレットの頭を優しくはたいた。


「こら、要らない事を言わないの。もし、既に面接が始まっていたらどうするの。」


しかし、コレットは反省の色を見せる事無く叩かれた頭を摩って笑顔を浮かべた。


「いいじゃない。これ位で落とす様な所ならこちらからお断りよ。第一、お城でメイドを止める事になったのも、城にいた兵士が私にセクハラして、それをお母さんが素手でボコボコにしたのが理由でしょ。まあ、運よくこの国が攻めて来て奴隷にされてた私達はその混乱に乗じて逃げられたけど。」

「こら、また要らない事を言わないの。」


そう言ってミネルバは今度は素早くコレットの口を摘まんで塞ぐ。

その動きはとても鮮やかで力加減も絶妙である。

どうやらコレットの言う事も嘘ではないようであった。


そして彼らは下町を抜けて貴族エリアに入る。

すると、思っていたよりも長く歩いている事からコレットは心配そうな顔でノエルへと問いかけた。


「ねえ、まだつかないの。ここって貴族のエリアでしょ。私達みたいな余所者が来ても大丈夫なの?」


そしてコレットが心配していると目の前から2人の兵士が歩いて来た。

どうやら貴族エリアを定期的に巡回している兵士達のようだ。

兵士たちはノエルたちを見ると歩く方向を変えてこちらへと近づいて来る。


「ちょっと待ちなさい。もしや君たちは・・・。」


そう言って兵士は4人を見回し百合子へと視線を固定する。


「やっぱりそうですね。あなたは百合子さんですよね。あの時は助かりました。もし何か困った事があったら声を掛けてください。兵士一同全力で力になります。」


そう言って軽く敬礼するとそのまま歩き去って行った。

しかしコレットはその横で体を膠着させ緊張で頭がいっぱいであった。

それでも兵士たちが百合子に友好的な言葉をかけて去って行くと次第に思考が回復し気付いた時には百合子の肩を掴んでいた。


「どういう事。何なの今の対応は!あんな事を国の兵士から言われるなんて普通じゃないわよ。あんた何なの!?」


そう言って前後に揺すりながらまくし立てるが百合子は振り子のようにされるがままになるだけで何も答える事は無かった。

すると、それを見ていたミネルバは今度はコレットに拳を落とした。


「!!!。いったーーーーい!」


拳を落とされたコレットはその場に蹲り百合子から手を放して頭を両手で押さえた。


「落ち着きなさい。これでこの方々が私達を騙す様な相手ではないと分かったのです。そろそろ真面目になりなさい。」


そう言ったミネルバは先ほどとは雰囲気が変わりまるでメイドと言うよりも武人の様な雰囲気を纏う。


「娘が失礼しました。目的の場所まで案内を続けていただいてもいいでしょうか?」

「ええ、もう少しで着くから安心して。」


そう言って再びノエルたちは歩き始めた。

そして、最初は遠くに見えていた王城が既にかなり近くに見える様になっていた。

するとミネルバが予想していた通り、一行はとうとう王城に到着した。


ノエルは門の横にある兵士の詰め所に行き一人の兵士に封筒を渡すと兵士はそれを見て突然緊張したように敬礼した。

そしてそのままノエルたちを城の奥へと案内して行く。

すると、何度か案内の者が変わり奥の立派な扉の前まで連れてこられた。

兵士はノエルたちを見ると顔に笑顔を浮かべ中へと確認の声を飛ばす。


「陛下、ノエル様が来られました。入室してもよろしいでしょうか。」


(???陛下?おかしいわね私の記憶が間違っていなければこの国で一番偉い人と同じ呼ばれ方なのだけど。)


そんな事をコレットが考えていると中から許可の声が届き扉が開いて中へと案内される。


「よく来たな。それで、その者達がお前のが選んだ者達か?」

「ええ、この2人を含めた3人で元第2王子ディエルの再教育を行おうと思うわ。」


するとこの時、百合子を含み、ミネルバとコレットも驚愕に目を見開いた。


「聞いてないわよそんな事。それに話は?面接はどうなったのよ?」


コレットはここが何処だか忘れて混乱のままその声を張り上げる。

しかし、その横では既に平静に戻ったミネルバは恭しく一礼すると国王に真直ぐな視線を向けた。


「私はそのお話をお受けします。」


するとコレットは母親にバッと顔を向けた。


「本気お母さん。王子だよ。しかも元ってことは何かやらかしたヤバい奴だよ。絶対に危ないよ。」


コレットはそう言ってミネルバに止めるように説得する。

しかし、ミネルバの意思は固くその決断を覆す事は出来なかった。

そのためコレットも大きな溜息を吐いた後に了承すと、その日は服を支給されて契約内容を説明されるだけで終わった。

そして次の日から彼女たちは兵士に案内されディエルのいる塔へと入って行く。

そしてその頂上には3人の兵士が待機しておりディエルの今の状況や注意事項を説明された。

特に気付け薬Jに関してはレポートを見せながら入念な説明が行われ最悪な時は命の保証は出来ないと説明する。

その瞬間コレットは頭を抱え「聞いてないよーーー!」と叫んだがそれはここにいる誰もが同じであるため軽く聞き流された。

そして二人にもガスマスクが配られ二人ともそれを大事そうにアイテムボックスに仕舞った。

ちなみに二人にも百合子から強化と治癒の腕輪が支給されている。

しかし、コレットはそれを装着しているが母であるミネルバはいまだに装着していない。

しかも彼女は国王に頼みディエルの暴力を振るえない対象から外してもらっていた。

これによりディエルはミネルバにたいして遠慮なく拳を振るうことが出来る。

しかし、そんな事はお構いなしと彼女はディエルの部屋へと入って行った。


「こんにちはディエル様。私が今日からあなたのお世話をする事になったミネルバです。」


するとディエルは疲れ切った目をミネルバに向ける。


「父上から聞いたぞ。貴様は自ら奴隷紋の制限から除外されたらしいな。もしや俺が女に暴力を振るわないとでも思っているのか。」


そう言ってディエルは立ち上がると自分の間合いの位置までミネルバに近づく。

その瞬間、隣で見ていた兵士はいつでも部屋に駆け付けられるように身構えコレットはヤレヤレと溜息を吐いた。

そしてその直後から一方的な戦いが始まった。

ディエルはその鍛え上げられた右拳を振り上げミネルバへと振り下ろした。

しかし、それが当たる直前彼女はスカートを翻し左足を軸にして拳を左手で受け流すとその勢いを利用し体を回転させディエルのコメカミに回し蹴りを決めた。

その威力はすさまじくディエルのコメカミは陥没しその場に倒れる。

しかし、治癒の腕輪により強制的に回復したディエルは立ち上がり再び襲い掛かった。

するとミネルバはその攻撃を尽くかわし、ディエルへと完璧なカウンターをお見舞いする。

そして、それはディエルの魔力が尽きるまで続き最後には回復が出来なくなり地面に倒れ伏した。

ミネルバはその姿を見降ろし、優雅に一礼すると部屋を出て行った。


その光景を隣の部屋から見ていた兵士たちは開いた口を塞ぐのも忘れ唖然としている。

そんな中でミネルバは優しく兵士たちに微笑むと気付け薬Jを要求した。

そして薬を受け取るとミネルバはディエルの部屋に行きそれを遠慮する事無く原液のまま使用した。

するとディエルは数日ぶりに真の地獄を味わった。


しかし、今は体はすでにボロボロで動く事も出来ず、魔力が尽きているため回復も出来ない。

そして、ディエルは全ての限界を迎え死と言うレールに足を踏み入れた。

すると、それを見極めたようにミネルバは窓を解放し空気を入れ替える。

そして預かっていたポーションを使ってディエルを回復させそのまま眠りにつかせた。

現在のディエルの対処の権限はミネルバにある。

これは、今から行う教育の匙加減はとても難しいため現場での瞬間的な判断が求められると考えられたためである。

そしてミネルバはノエルからの推薦によりその権限を獲得していた。


そのためミネルバは一度完全にディエルを回復させる事を決意する。

実際はそれだけではないがこの辺の彼女の判断はとても的確であった。


そしてディエルはそのまま数日目を覚ます事もなく眠り続けた。

その間の世話は城内で決めた一人のメイドが行っている。

そしてその横ではミネルバとコレットが待機してディエルを見守っていた。

これだけ見ればコレットがサボっているように見えるがそれは彼女の役目が今ではないだけである。

彼女の役割はもう少し先の場所にあった。

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