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83 闇ギルドの後継者

奴隷にされた人々の引き取りと治療が終わると、アルタ王国軍は彼らを数日休ませた。

たとえこの聖都がアルタ王国よりの場所にありとは言え、ここから国境までは10日はかかる。

そこまでの長い道のりをたとえ肉体が回復したとはいえ精神が疲弊した状態で行くには遠すぎると会議で判断されたからだ。

それに、運がいい事に食料に困ることは無く、ここに来るまでに殆どの魔物は既に駆除が済んでいる。

そのため急ぐ必要が無いため王国軍は余裕をもって行動を開始した。


そして、この数日を利用しノエルとロックを含む闇ギルドのメンバーはある噂を奴隷たちに流した。


「聞いたか。この軍に聖王国が召喚した異世界人の少女がいるらしいぞ。」

「ああ、俺も聞いた。どうも聖王と同じ髪の色をしている幼い少女らしいな。俺達を治療してくれた冒険者が話していた。」

「そうらしいな。しかも俺達に配られたポーションはその子が作ったらしいぞ。」

「なに、それはホントか。それなら一度会ってお礼がしたいものだな。」


そして、その噂は瞬く間に彼らの中で広がり多くの者が感謝を捧げた。

しかし、そんな中である集団は声を潜め別の話し合いをしていた。


「どうやら噂は真実らしい。確認したが聖下と同じ髪色の幼い少女を見つけた。しかも油断しているのかよく一人で出歩いているようだ。」

「そうか、それはチャンスだな。しかし、まずこの情報を聖下に報告しなければな。今夜にでも報告の者を聖都に向かわせよう。」


そしてその夜。

1人の男が集団を離れ聖都へと走った。


「馬鹿どもめ、油断してやがる。こんなザルの様な警備ならいくらでも出入りできるぜ。」


そして男は暗闇の中を聖都に向けて走って行った。

この場所は聖都からそれほど離れていないため走れば1時間とかからず到着できる。

しかし、そんな彼の元に忍び寄る影があった。

だが、男は走るのに夢中でその事には気付けず、男は後ろから不意の攻撃を受けて意識を失いその場に倒れる。


そして次に気付いた時には男は何処か分からない暗い部屋に身包みを剥がされ監禁されていた。


(ここは何処だ。俺はどうなっているんだ。)


すると目の前に一筋の光が走りそこからノエルが部屋に入って来た。


「こんにちはスパイさん。気分はどう?」

「(女か)・・・・・!」


男は女の声に答えようとしたが声が出ない事に気付く。

そしてこの状況は訓練で受けた奴隷状態に酷似していた。


「気付いた。あなたからは既にこの足環は回収しているわ。鑑定してビックリね。まさか奴隷状態を無効にするアイテムがあるなんて。これじゃ奴隷は嘘をつけないと思い込んでる者には絶対に判別できないわね。」


ちなみにこの足環は風呂を準備した時に密かに鑑定士を潜ませて確認させていた。

そのためある程度の特定は出来ていたが更に隠れた者が居ないかの確認のためにこの男は捕らえられ尋問を受けている。


するとノエルがクスリと笑う声が聞こえると男の肩に激しい痛みが走った。


「・・・・・!?」


男は叫び声も上げれないまま、暗闇に目を凝らし痛みの場所を確認する。

するとそこには黒く塗られたナイフが突き立っており、焼けるような痛みを男に伝えていた。


「どう、訓練されてても何時何処が攻撃されるか分からないと辛いでしょ。まあ、奴隷紋も機能してるみたいだし、ここは素直にあなたの自主性を尊重して言葉で語らいましょ。」


(何を言っているんだ。奴隷紋があれば命令すればいいだけだろう。)


すると、女は何やらマスクの様な物を被り懐から瓶を取り出した。

男からは見えないがその瓶には気付け薬Jと書かれたラベルが貼られている。

そしてノエルとしてはある意味ではこれの確認が本命だったりする。

あの痛みに対して異常な耐性を持ち、感情をあまり大手に出さない百合子が地獄のJを頭文字にする程の気付け薬だ。

個人的にもとても興味を駆り立てる代物だ。


「私の質問にだけ答える許可を出してあげるわ。それじゃ、あなたが知ってる潜入メンバーを話す気になったら教えてちょうだい。」


(なんだその命令はそんな聞き方で答える者がいる程、我らは温い訓練は受けていない。)


そしてノエルは瓶の蓋を開けてそれを男の足元に置いた途端、その五感を地獄の苦しみが襲った。


「あべぶでゅヴぃぐげご・・・・!」


そして男は訳の分からない事を口にし、目を真っ赤にしながらもがき、奴隷紋の拘束を振り切る勢いで陸に上がった魚の様に飛び跳ねた。


「ぎゃーーーー!」


そして更に悲鳴を上げ、言葉では表現できないような酷い有様をノエルの前に晒す。

その姿にさすがのノエルもドン引きし、薬の蓋を素早く閉めた。


「・・・これは永久封印した方が良いかもしれないわね。でもこれをアリスに使った事があるって聞いたけどあの子は大丈夫だったのかしら。それよりも何でこんなのを百合子が作ったのかが謎ね。」


しかし、瓶の蓋を閉めてもいまだに立ち込める刺激臭はスパイの男を苦しめていた。

その姿は哀れとしか言いようが無い。

男は目、鼻、口の激痛で意識を失えば、同じ激痛で意識を取り戻し、それを先ほどから何度も繰り返しループしている。

そのため、さすがにノエルもこのままでは話すら聞けないと判断し、部屋の空気を魔法で入れ替え男に水を掛けてやった。

しかし、ノエルはこの時気付く事は無かったが、この臭いを外に放出した際、近くにいた野鳥の群れはことごとく地面に墜落しその命を散らせていた。

恐ろしき百合子特性気付け薬J。

もしこれが先の戦いで使われていれば、アリスが焼き殺すよりも酷い惨状を戦場にさらした事は間違いないだろう。


しかし、ノエルも永久封印すると言っても何があるかは分からないので処分する事無くそっとアイテムボックスに仕舞い保管をした。


そして、次第に状態が回復してきた男は疲れ切って生気の感じれない虚ろな目をノエルへと向け、仲間の名前や特徴を素直に話し始めた。

どうやら彼の中で先ほどの苦しみは如何なる拷問をも凌ぐ効果を与えた様だ。

するとノエルは邪悪な笑みを浮かべて再び先ほどの瓶を取り出す。

それを見た男は「ひーーー」と悲鳴を上げて意識を失うがノエルは気にする事無く瓶を見つめた。


「これ、国王にプレゼントしようかしら。ディエルの再教育にうってつけかもしれないわね。」


そんな恐ろしい事を呟きながらノエルは新たな犠牲者を決定した。

そして、次の日の夜。

情報をもとに探し出しておいたスパイたちは、全て秘密裏に拘束されて行った。

そして、この日は気付け薬Jを的確に運用する実験台としてスパイたちは地獄の苦しみを味わう事となる。


そしてそのレポートをまとめたノエルは笑みを浮かべて国王へ本当に気付け薬Jを渡した。

それを見た国王はレポートと瓶を交互に見てノエルに問いかける。


「ノエルよ。なんじゃこれは。」


するとノエルは満面の笑顔でレポートを読むように勧め国王は仕方なくそれに目を通す。

するとその目は次第に真剣な物となり読み終えた後に国王は「フッ」と笑った。


「そなたの気持ちは確かに受け取った。ありがたく使わせてもらおう。ディエルには本当の意味でいい薬になるだろう。」


そう言って苦笑いを浮かべて薬とレポートをアイテムボックスにしまった。


そして、スパイの排除が終り数日後。

アルタ王国軍は自国へと向かい一斉に動き始めた。

隊列は前後を王国軍で挟み、中央に奴隷たちが。

そしてその左右を冒険者たちで囲む形を取られた。

そして移動中にはスパイの可能性が限りなく0に近い獣人やエルフなどの奴隷を解放して行き、奴隷商人たちは魔力の続く限り役目を果たした。


その甲斐あって国境に到着するころには彼ら全ての奴隷紋の解除が終了していた。

そして彼らは自分たちと同じ種族の冒険者に護衛されながら自分たちの国へと旅立って行った。


また、護衛を受けた冒険者たちには国王からの依頼と言う事で書状と親書が渡され、各種族の王や議員に説明と人間としての謝罪文が送られた。


これによりバストル聖王国は大量の人員を失い大きく力を失う事になる。

だが、この国は近い将来訪れる魔王出現に備え、力を残す事には成功した。

それに、奴隷は再び集めればいい。

そう考え、聖王はアルタ王国が去った後に再び動き始める。

しかし、その時には新生闇ギルドは更に拡大し、アルタ王国だけでは収まらなくなっていた。

彼らは既にアルタ王国周辺の国にも浸透し今では多国の裏を牛耳る巨大組織へと成長していたのだ。


そんなある日、ノエルとロックはある大きな決断を行った。


「アリス、百合子。そろそろ次の段階に入ろうと思うの。」


そう言ってノエルは二人に真剣な顔を向ける。


「候補は決まってるの?」

「ええ、先日自国に帰ったエルフたちに書状を持たせたわ。」


するとアリスはホッと胸を撫で下ろして窓の外へと視線を向ける。


「私達はずっとこの世界にいる訳じゃないし早ければ後1年くらいでいなくなるから闇ギルドを統括する後継者を決めないとね。人間に任すと、きっと遠くない未来にまた前の様に間違った事をし始めるから他種族。特に長命なエルフに任せるのが最適ね。」


そして、彼らが話をした数日後。

王都に5匹の飛竜が飛来した。

そして、その背にはエルフが一人ずつ乗っており、彼らはすぐに王城へと通された。

国王は突然の訪問に対応し謁見の間に向かうとそこには予想を上回る者たちが訪れていた。


「アルタ王国国王。お初にお目にかかる。私はエルフ国の議長をしているパメラ。こっちは娘のローゼにこっちの男はその夫のマルクス。二人とも一応議員として働いている。そしてこの子は孫のクレア。こう見えても国でSランクの冒険者でね。それとこっちは護衛のミスト。今日は同胞を救ってくれた事で感謝を伝えに来た。それとこれを読んどくれ。あんたに渡せばわかると書いてある。」


ちなみにミストは天罰の際に奴隷商館から娘のアリシアを救い出すために戦た指揮官である。

彼はこの時はまだ生きており、この後娘と二人旅をしている時に聖王国の奴隷狩りに遭遇して娘の前で殺されてしまう。

しかし、彼の知らない所でその運命は大きく変わる。


国王はパメラから手紙を受け取るとそれに目を通す。

すると国王はすぐに手元のペンを走らせそれをミランダへと届ける様に指示を出した。

そしてパメラたちに向き直ると笑顔を浮かべた。


「感謝の言葉は受け取りました。しかしあれは我らの同胞が起こした過ち。それを隣国として黙って見過ごすわけにはいかなかっただけです。気になさらないでください。それよりも遠い所から来られてお疲れでしょう。すぐに部屋を用意させますので今日の所はそちらで疲れを癒してください。後程使いの者を向かわせます。」


国王の言葉にパメラも納得を示して頷いた。


「それならお言葉に甘えようかね。5000年以上生きてると流石に飛竜での長旅は疲れるよ。」


その言葉に周りの重臣たちは皆が驚愕する。

知識としてはあっても、実際目の前の少女にしか見えない者が何千年も生きていると聞けば人間の尺度からすれば驚いてしまっても仕方がない。


そしてパメラたちは部屋から出て行くと横で待機していたメイドに案内され部屋へと向かって行った。

その後姿が見えなくなるのを確認して国王は大きく息を吐き出す。


「まさか議長が直接来るとは思わなかった。」


そう言った国王の顔には今の僅かな会話だけでかなりの疲労が見て取れる。

それは周りの重臣たちも同じであった。

そして最大の救いはここの重臣たちは彼らに対する偏見や差別意識がない事である。

もし、半年前のメンバーだったら確実に何かをしでかし、パメラの怒りをかったのは確実であった。

そうなれば場合によってはこの部屋が血に染まる可能性もあったのだ。

しかし、そうなったとしてもこの国の兵士で彼女に太刀打ちできる者は誰もいない。

そして彼女の中で感謝は怒りに変わり自国へと帰って行った事だろう。

しかし、ここで国王は念のために城の者に対して全員に厳命を下した。


「絶対に彼女たちに失礼のないようにな。これが守れない者は死罪もあり得ると皆に伝えておけ。彼女らの怒りをかって我が国にその者を庇う力は無いとな。」


そして部屋にいた者は急いで各部署や人員にその事を伝えるため散って行った。

すると国王は立ち上がりそのまま歩き始める。

そして、その足は先ほど見送ったパメラたちへと向いていた。


その頃、国王の手紙は無事にミランダへと届けられミランダはそれを更にノエルへと届けるために走り出した。

そして都合よく彼女の自宅で合流できノエルへと手紙を渡した。


「う~ん。早かったわね。」


そう言ってノエルは伸びをして椅子から立ち上がる。

そしてロック、アリス、百合子を連れて城へと向かって行った。

ミランダはさすがにエルフのお偉いさんは怖いらしく今回は辞退するそうだ。


そして城に着くと彼女たちは兵に案内されてパメラたちのもとに向かう。

どうやら事前に指示が出ていたようだ。

そして部屋の前に来ると兵士は部屋の前に立つミストに事情を話した。


「こちらの方々が陛下より呼ばれた方達です。ご確認ください。」

「分かった少し待っていてくれ。」


そう言ってミストは中に入り確認すると、すぐに出て来てノエルたちを中に案内する。

すると、中では国王がパメラと共にカップ片手にお茶をしていた。

そしてメンバーが揃った事で全員が椅子に座り会議を始めるのであった。

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