表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/148

81 アルタ王国 VS バストル聖王国

国王は先ほどから入って来るあまりにも酷い現状に頭を抱えていた。


「何なのだ。この人を人とも思わぬ行いは!」


国王は拠点としている砦の椅子に座り机の上の報告書を見て更に顔を歪める。

そこにはここ数日にわたり占領した町や村の状況が書かれていた。

そこにはどの村にも大量の奴隷の死体があり、その殆どが子供や女性の死体だと書かれている。

また、生存している奴隷の状態も悪く女性の殆どが性奴隷。

子供は餓死寸前で殆どが意識不明となっている。

人種以外の奴隷もいるが彼らには必ず拷問を受けたような傷や部位欠損があるようだ。


「儂はなぜこのような国をのさばらせていたのだ。」


しかし、彼の後悔は意味のない物だ。

もし、今の様に準備が整う前に攻め込んでいれば確実にアルタ王国は負け、国民は例外なく奴隷にされ酷使されていた事だろう。

今だからこそ、こうして有利に進軍する事が出来ているのだ。

それが分かっていても国王の中には悲しみ、後悔、悔しさが湧き起こる。

しかし、そんな中でも一つの救いがあった。

彼らが耕す畑には何処も青々とした作物が実り占領さえできれば食料は各地域で賄えそうである。

もしこれが全て収穫、又は処分されていれば進軍し続けるのは難しかっただろう。

しかし、ここで準備にあまり時間を取られなかった事が大きな意味を持ってきていた。

こうして早く出陣出来たからこそ、聖王国側に準備の時間を与える事無く救えた命も多くなった。


そして、アルタ王国軍は外周から次第に占領を続けて行った。

それは調査の結果、この国は国境周辺の町や村の状況が最も悪い事がわかったからだ。

逆に中央にある聖都に近づくにつれ状況は改善されていく。

そのため、最も救う必要のあった外周部を制圧して行く形になったのだ。

しかし、通常ならこのような事をすれば周りの国も動いてもおかしくはない。

だが国王は事前に周りの国とも交渉を行い今回に関しては一切の手出しをしないと契約書を交わしている。

そして、次第に範囲を絞り聖都が近づいて来る。

すると、聖王国側もやっと準備が整ったのか聖都から大群が出陣してきた。

どうやら途中から町や村に兵士が居なくなったのは中央に集め出陣させるためだったようだ。

その数は約3万。

しかし、その殆どは民兵と思わしき者たちで構成されており、騎士と思えるものは1万もいないと報告を受けた。


「これはどういう事だ何故一般人がこんなにいる?」


会議の席で王は怒り、目の前の机を叩きつけると何処からともなく一人の男が現れた。

すると周りの者は驚きの表情を浮かべるが国王は気にする事無く話しかけた。


「ロックか。どうしたのだ?」

「大した事じゃない。今の疑問に答えようと思ってな。あの国は子供の時から有事の際は国民に死んでも聖王を護る様に教育されている。それにおそらく奴隷もかなり含まれているのだろう。そのため彼らはこちらを攻撃する事に戸惑いは無い。油断していると犠牲者が出るから気を付けてくれ。」


そう言ってロックは再び忽然と姿を消した。

するとロックの言葉を理解できた者達は顔を歪めていく。

しかし、その中で第2王子のディエルだけは手を口元に当て考えるような素振りを見せる。


(素晴らしい。これこそ俺が思っていた通りの国の在り方だ。)


すると手で押さえていても彼の口元は自然と吊り上がり笑みの形になる。

その様子を国王は一瞬向けた視線で見ると誰にも気づかれない様に小さなため息を吐いた。


(こいつはどうしてこんな育ち方をしてしまったのだ。儂は皆に平等の愛情を与え、同じ教育を行ったはずなのに。)


そして会議は進み、結局真っ向から相手を殲滅する事を決めた。

戦争をすれば犠牲が出る。

仕方のない事だと全員が感情を殺して割り切る事にしたのだ。


そして数日後、互いの軍は集結し、見晴らしのいい草原で互いに睨み合う形となった。


アルタ王国側は最前列の中央に強化された騎士を並べ、その両翼を冒険者たちで補っている。

さらにその後ろには国王の信頼の厚い者達が国宝の武器や防具で武装して待機していた。

数は1万程だがこれはアルタ王国にとっては全軍である。

そのため国にはほとんど兵士は残っていない状況であった。


それに比べ恐らくバストル聖王国側にはまだ十分な余力があると考えられる。

あの国が全軍を出せば兵士だけでももう1万は増えるはずだからだ。

そして聖王国側は前列に奴隷と思われる集団を並べその後ろに民兵が並ぶ。

そして一番後ろに騎士が並んでいる。

これはアルタ王国側から言えば色々な意味で最悪の布陣であった。

即ち聖王国は奴隷を捨て駒にして接近し民兵を盾として騎士が突撃する。

そんな、騎士道にあるまじき布陣を見てアルタ王国側の騎士は顔に怒りを浮かべた。

しかし、そんな事はお構いなしだという様に聖王国側の騎士は最前列に突撃を命令した。


「貴様ら突撃して死んで来い。生きていたら今後も神聖なる我が国の奴隷として働かせてやる。」


すると前列にいた奴隷たちは騎士に憎悪の籠った視線を向ける。

しかし、命令に逆らう事が出来ず、奴隷たちはボロボロの武器と、防具も着けていない格好で突撃をして来た。

その目には涙が浮かび必死の形相で相手を睨みつけている。

それを見た最前列の者達は奥歯を噛みしめるが剣を手に前に踏み出そうと足に力を入れた。


すると隊列の中央前方にスパーク光を纏った一人の少女が現れた。

その姿を見て騎士たちや冒険者たちに動揺が走る。


「なんだあの子は?」

「百合子さん、何してるんだ!」

「何で戦場に子供が居る。」

「すぐに下がれ、そこは危険だ。」


しかし、百合子はそんな声を無視して突撃してくる奴隷たちに魔法を放った。

そのイメージはスタンガンで電圧ボルトは高いが電流アンペアは低くしているので感電しても死なない様に調整されている。

この魔法は百合子がこの世界で絡まれるたびに使用され、人体実験・・・。

もとい防衛を重ねた上で完全に調整された非殺傷魔法である。


そのためそれを浴びた奴隷たちは魔法を受けるとその場で痙攣して倒れ意識を失った。

すると次第に数を減らし、数分後には奴隷は全滅して地面に倒れこんでいた。

そして、その光景を見ていたほぼ全員が無言のまま百合子に視線を集めた。

なにせ1万にもなろうかと言う人の群れを彼女は魔法だけで、しかも一人で片づけてしまったのだ。

しかし、彼女を知る者たちはそれを見ても動揺することは無かった。


それは特に冒険者たちに多く彼らはすぐに声を張り上げた。


「百合子さんがやってくれたぞ。俺達も続けーーーー。」

「生存者の確認をしろ。あの人の雷魔法なら生きている可能性が十分ある。」


そして冒険者が動き始めるとそれに気付いた騎士たちも動き始めた。

彼らも倒れている奴隷の元に走り生きている事を確認すると一人で何人も担いで後方に走って行く。

ここでは無駄な物を何も装備していないのが逆に奴隷たちを助けた。

また殆どの者がかなり痩せて軽いため強化された力を使い、1万人だろうと瞬く間に回収され後方へと運ばれて行く。


しかし、それを大人しく見ているほど聖王国軍も呆けていなかった。

彼らは今度は民兵を前進させ奴隷を運ぶ者達に攻撃する様に命令した。

すると奴隷たちと民兵の間に再び一人の少女が現れた。


「おい、また子供が現れたぞ。」

「今度は何をするんだ。」

「アリスさん。気を付けてください。」


彼らは手を止める事無くアリスを見ながら運搬作業を続ける。

すると今度はアリスが目の前に迫る民兵に魔法を行使した。

しかし、それは百合子の様に殺さないための魔法ではなかった。

それとは真逆の殺すための魔法。

彼女は民兵の前に炎の壁を作り出し、それを民兵たちへとぶつけた。


「ギャアアーーー。」

「助けてくれーーー。」

「火が、火がーーー。」


そしてその炎は広範囲に広がり民兵達を飲み込むと数分燃え続けた後に消えていった。

しかし、その後の光景はまさに地獄の様なものに変わっていった。

アリスと敵の騎士たちの間には約1万もの死体が転がっている。

しかも生きている者は誰もおらず、どの死体も表面が黒く炭化していた。


その光景に後ろで見ていた者たちは息を飲むが、誰も何も言わずその光景を目に焼き付けた。

しかし、そうして見ていると横から一匹の犬が現れトコトコとアリスへと近づいて行く。

その場違いな光景に皆が目を向けるとその犬は突然変身し三つ首の巨大な獣へと姿を変えた。


「主、ここの始末は我に任せろ。」


すると死体の下から腕が突き出し、焼け爛れた死体を地面へと飲み込んでいく。

そのこの世の物とも思えない光景を目にしてアリスを知らない騎士たちは恐怖に顔を染めていった。

そして、全ての死体が消え、ただの焼け野原になると獣は再びアリスへと言葉を発する。


「主、これで死んだ者たちは迷う事無く天に帰った。いつか浄化されこの世界に生まれてくるだろう。」


すると騎士たちはその言葉に恐怖を薄れさせ敵ではあるが、その場で彼らの冥福を祈る。

そして、この事は次第に広がり騎士たちは再整列し、アリスへ向けて敬礼をした。


「ありがとうございます。我らがしなければいけない戦いをあなたが変わりにしてくれた。ここからは我らにお任せください。」


するとアリスは初めて後ろを向いて兵士たちにその顔を見せた。

そして兵士たちは、アリスの表情を見て初めてその内心を感じ取る。

そこにはまだ幼さの残る顔に悲痛な感情が見て取れる。

それはアリスが好きで彼らを殺したわけではないという事が十分に感じ取れる物であった。

また、その顔を見て一瞬でもアリスに恐怖した者達は自らを恥、心の中で謝罪の言葉を送る。

しかし、そんな彼らにアリスは無理に笑顔を作って答えた。


「大丈夫です。まだ戦えますから。早くあれをどうにかして聖都に向かいましょう。」


そう言って剣を抜き聖王国の騎士へとその剣先を向けた。

すると騎士たちも剣を抜いて頷くとアリスを先頭にして走り始めた。

しかし、アリスを目にした敵の兵士は混乱し始め途端に隊列が乱れる。

そしてアリスは剣を構え一本の巨大な槍の様に突撃して行った。

その一撃を止められる者は誰もおらず、ある者は吹き飛び、またある者は血肉を散乱させて周りに降り注いだ。

するとそれだけで周りは恐慌状態となり、そこに更に騎士たちが襲い掛かる事で隊列は完全に崩壊した。

そんな中、冒険者たちは側面攻撃を仕掛け、更に逃げる者達を始末して行った。

皆、人を殺す事に心が痛まない訳ではないがアリスが最初にした行動を思えば大人の自分たちがもっと頑張らなければいけないと心を奮い立たせた。

それに冒険者には盗賊の討伐で人を殺した事のある者も多いため、戸惑う者も多くは無かったようだ。


そして次第に数を減らしていく聖王国軍も最後まで戦い抜いて全滅をした。

最後に残った指揮官はアリス達にこう言い残した。


「お前たちには神の、カティスエナ様からの天罰が落ちる。我らのしている事は神が許した行いだ。それに背いた貴様らは赤子から老人に至るまで惨たらしく死んでいくのだ。」


そこまで行った指揮官は怒りの形相を浮かべたアルベルトによって首を切られて死んだ。

しかし、未来を知るアリスは気にする事無く背中を向け本陣のある中央へと歩き始めた。

あそこでは恐らく計画の一つが進行している。

アリスは百合子と合流すると中央部へと進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ