80 宣戦布告
あれから半年の時が過ぎた。
その間に幾度も話し合いが持たれノエル、ミランダ、リーリンの連合は滞りなく機能している。
ノエルたちは裏で積極的に行動し、この国を裏から監視する事で先の様な被害を未然に防いでいた。
その行動は迅速であり、相手が貴族だろうと容赦することは無かった。
そのため次第に馬鹿な考えをする者が減り、また恐怖から中央を離れる者も多く現れた。
しかし、それが理由で国王も自分の周りを誠実な者達で固める事に成功し、自然と国内の膿が取り除かれることに繋がった。
更に、そのような状況では第2王子も次第に力を失い、今では王都に言う事を聞く貴族は殆どいなくなっている。
しかし、まだ諦めきれていないのか王都の外の貴族に働きかけ無理やり計画を進めようとしているようだ。
だが、そんな行動を取れば闇ギルドには情報は筒抜けである。
そのためノエルはいつ第2王子を排除するかのタイミングを見計らっていた。
そしてリーリンはノエルが誘拐を阻止した者達の面倒を見ている。
中には人種以外の種族も多く彼らを無事に帰国させたり仕事を安全に世話したりしている。
そのための資金は全て闇ギルドから提供され、残る者には一時金が支給され去る者は護衛付きで自分の国へと帰って行った。
また、この護衛に付いた者の中には闇ギルドの構成員や彼らの訓練を受けて冒険者になった者が多く含まれる。
そしてミランダはジョセフと共に国王との仲を深め強固な信頼を勝ち取っている。
彼女はジョセフと共に個人的に国王と密会を繰り返し、現在の状況を報告していた。
それに国王は既に第2王子の企みを知ってため、その阻止に全力で取り組んでいる。
なにせ、もし阻止に失敗すれば自分の息子を自分の命令で死刑台に送らなければならない。
そのため国王は全面的にミランダ達に協力していた。
更に強力なアイテムを相場よりもかなり安い金額で購入出来る事が大きい。
特に身代わりのアイテムは国の内外問わず多くの王族や貴族が買い求めたため交渉は捗り、資金も充実していた。
それは即ちノエルの闇ギルドも適正な手段で資金を調達している事になり、目的のために着実にその準備を終わろうとしていた。
そして全てが整った今、彼らは一つの行動を開始した。
それは国王の宣言から始まる。
「皆、緊急の呼び出しによく集まってくれた。今日、集まってもらったのはある決断を皆に宣言するためだ。」
そう言って国王は言葉を切り周りを見回した。
周りにいるのは信頼のおける者達ばかり。
半年前なら今から行う事を言っても付いて来る者は殆どいなかっただろう。
下手をすれば乱心したと見なされ排除されていたかもしれない。
しかし、今は違う。
ここにいる重鎮たちは王を信じる者が大半を占めている。
そして国王は彼らを信じて宣言する。
「儂はバストル聖王国に宣戦布告する。あの国に攫われ、奴隷にされた人々を救い出し開放するのだ!」
「おおおおおおおーーーーーー!」
国王の宣言に周りの重臣と兵士たちが雄叫びを上げて答える。
そして、それが収まると国王は3人の息子たちに視線を向けた。
すると王は彼らにそれぞれ指示を出していく。
「アデラール。お前は儂に変わり国の内政を担当せよ。この度は儂自ら出陣する。国は任せたぞ。」
すると第1王子のアデラールは驚愕に目を見開くがすぐにその場に膝を付き礼を取る。
「承りました。」
「ディエル。お前は私と共に出陣する。おそらく儂が前線に立つ最後の機会であろう。しかとその目に焼き付けよ。」
するとディエルもその場に膝を付き礼と共に頭を下げる。
しかし、その顔は何かを思いついた様に口角が吊り上がっていた。
だが、その表情に気付いた者は誰もおらず、次に顔を上げた時には真剣な顔に戻っている。
「お言葉のままに。」
「そして、アレクシス。お前も城に残り兄であるアデラールの補佐を務めよ。お前もそろそろ兄の仕事を直に見て学ぶ時だ。アデラール、すまないが兄として弟をしっかり見てやってくれ。」
すると第3王子のアデラールも膝を付いて礼をした。
そして、国王は立ち上がり手を振りかざした。
「それでは各員準備に入れ。」
するとその声に答え全員が一斉に動き出す。
しかし、彼らは予定よりも遥かに早く準備を整えていった。
それは既に国王がミランダ達を通じて根回しを済ませていたためである。
冒険者ギルドでは既に人員が確保され編成まで済んでいる。
食料などの買い付けも闇ギルドが密かに行い後は現金と交換するだけになっていた。
しかも資金は充実しているため人も物も簡単に揃える事が出来る。
そして国王は一部の者達で密かに集めていた大量の強化のアイテムを兵士たちに貸し出した。
また国の宝物庫を開放し特に信頼の置ける兵士へとそれらを装備させた。
そしてアルベルトもその一人である。
彼は警備隊隊長であるが国王が強く推す事で今回の戦争に参加する事となった。
彼は町を守る者であるが冒険者に顔が知られており、彼らを知る者として指揮を取らせるのに適任であったからだ。
そして、当然アルベルトはミランダが闇ギルドの幹部になった事は知っている。
しかし、彼は今の新生闇ギルドの現状を知っているため彼らに協力し、現在では王都から大きな犯罪は消え失せていた。
そして彼には百合子から強力な強化のアイテムと治癒の腕輪が送られている。
これは幹部以上の者は全員持っているため、いつの間にかそれが幹部の証の様になっている。
そして、冒険者たちの中には当然ミランダやアリス達も加わっている。
しかし、ノエルとロックはここでは別行動を取っているため正規の人員にはいない。
だが、戦争には付いていく事になっているため何処かにはいるはずである。
そして、準備が整うと国王は馬車に乗り込み隊列を組んで動き出した。
その腕にはよく見れば強化と治癒の腕輪が装備されている。
そして隊列は進み、国境付近に到着するとそこにある砦に入った。
だが国王は既に宣戦布告の親書をバストル聖王国に送り付けているが、決戦の場所は指定していない。
そしてアルタ王国の目的が奴隷解放にある以上、ここで止まる事も考えられない。
国王はここでいったん進軍を停止し国境前にある砦を拠点とするとそこから聖王国側へと兵を進ませ近くの村や町を占拠して行った。
しかし、国王はここである命令を下す。
「いいか。村人には手を出すでないぞ。奴隷を所持している者には説明をし、聞き入れない時は一時的に拘束しろ。その後奴隷に事情を聴き不当な時には開放せよ。逆に犯罪奴隷はそのままで構わん。」
その指示のもと兵は散って行く。
そしてある村に彼らはやって来た。
「貴様ら何を勝手な事を言ってやがる。こいつを買うのにいくらしたと思っているんだ。」
「・・・・・。」
ある村で奴隷を見つけた兵士はその者へと説得を試みた。
しかし、主人である男はそれを拒否し、奴隷の少女は声を出さずに涙を流していた。
それは主人からの命令で声を奪われている証であった。
すると兵士は即座に男へと歩み寄り男と少女を分断する。
「残念です。手荒な事はしたくないのですが。」
そう言って兵士はそのまま男を拘束し連行して行った。
そして彼女の前には一人の男が立ち奴隷紋を操作していく。
「お前の奴隷紋を操作し声を出せるようにした。しかし、嘘はつけない。あちらで兵士に理由を話せ。問題なければその奴隷紋は解除してやる。」
そう言ったのは奴隷商館で働くリーリンの弟子の一人で名をカミル。
彼は約1年後、第2王子に加担し捕らえられる者の一人だが彼の歯車はここから大きく変わり始める。
「あ、ありがとうございます。」
そう言って少女は笑顔で涙を流しながら深く頭を下げて去って行った。
その様子を薄く笑みを浮かべて見送るカミル。
彼はこれから多くの奴隷を開放し感謝と笑顔を向けられ心の影を払って行く。
そして、他の場所では痛ましい光景が広がっていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その村にはアルベルトとリーリンが冒険者を引き連れて訪れていた。
しかし、そこには無言で土を耕す子供たちが居るだけである。
そして彼らは今にも死にそうな程にやせ細り、それでも鍬を振るい続けていた。
その姿に最初に声を出したのはアルベルトである。
「こ、これはどういう事だ?」
するとそれに応えるようにリーリンが声を出した。
「恐らく奴隷にした子供たちをここで働かせているのね。きっと碌な食べ物も食べさせてもらってないのよ。」
そう言うとリーリンは子供たちへと駆け出し奴隷紋を解除して行った。
すると子供たちはその場に倒れ眠る様に意識を失う。
それに危機感を感じた彼女は即座に百合子を呼ぶように指示を出した。
「分かりました。すぐにお連れします。」
そう言って一人の伝令が馬に乗って走って行った。
(ここが最初の村でよかったわ。彼女から離れた場所だったら皆死んでたかもしれない。)
そうしていると村の反対側からバストル聖王国の兵士が現れこちらへ向けて剣を抜いた。
「貴様らーーー。神聖なるバストル聖王国の財産に手を出すとは何事だ。」
しかし、彼は大きく選択を誤った。
それは、今にも爆発寸前なリーリンの前に敵として立った事である。
「そう、あなたはこの光景を見て何も感じないのね。」
リーリンは立ち上がると手に巨大な炎の渦を生み出した。
そしてそれを敵の兵士に向けて怒りの形相で投げ放った。
「ギャアーー!」
すると兵士は炎の渦に呑まれ瞬く間に体を炭化させていく。
そして炎が消えた時。
そこには人だった炭だけが残された。
そして丁度その時、後ろから{バチバチッ}と言う音が聞こえ振り向くとそこには百合子が立っていた。
どうやら彼女は知らせを聞いて全力で駆けつけてくれたようだ。
百合子はアイテムボックスから薬を取り出すとそれをリーリンへと渡した。
「これは昔の経験から必要だと思って作っておいたポーションです。これは少しずつ効力が出る持続型だからこれを使えば何とかなると思います。」
そしてリーリンたちは手分けしてポーションを彼らに呑ませて行く。
「これで多分死ぬことは無いと思うけど、まずは何か食べさせないと始まりません。起きた子から少しずつ消化に良いものを与えてください。ポーションが利いてるので回復は早いはずです。」
すると百合子の元に再び伝令の馬が訪れて声を掛けた。
「百合子さん他でもこんな所が何カ所もあるらしいです。助けを呼ぶ声がいたる所から上がっています。」
そう言ったのは闇ギルドの構成員の男である。
そのため彼は百合子がどのような者かを知っており伝令に来たようだ。
すると百合子は先ほどと同じポーションを出して男に渡し、それを各村に届ける様に指示を出した。
「分かりました。」
それだけ言うと男は馬を操り走り去って行く。
そして百合子はこの時ある臭いに気が付いて顔をしかめた。
そこは村の外れにある何の変哲のない穴であるが臭いはそこから漂って来る。
そして、そこに行こうとした時、後ろから百合子の肩に手だ乗せる者が居た。
百合子は振り向いて確認するとそこにはアルベルトが悲痛な顔で百合子を見下ろしている。
「お前は見ない方がいい。」
そう言って百合子を置いて穴へと近寄って行く。
するとその中にはおびただしい数の子供の死体が投げ捨てられている光景が彼の目に飛び込んで来た。
その姿は皆が痩せ細り、骨と皮だけになっている。
それでも時間と共に腐り酷い腐臭を放っていた。
アルベルトは予想をしていたがその余りに酷い光景に涙を流すとそのまま百合子とリーリンが待つ場所まで下がる。
「リーリン、すまないが彼らを送ってやってくれ。」
するとリーリンは無言で頷くと炎を作り出し穴の中へと投下した。
そして炎は穴の中で急激に燃え広がって行く。
すると周りの者たちもまるで炎の華を投げ込むように魔法を放ち彼らが無事に天へ上る事を神に祈った。
しかしこの聖王国が祀るカティスエナに祈りを捧げる者は誰もいない。
彼らはそれぞれの信じる別の神へと祈りを捧げ炎を見ながら涙を流した。




