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8 安らぎ

俺が男たちを殺した直後、外から慌ただしい足音が聞こえ衛兵が慌てた様に突入して来た。

しかし、目の前に広がる惨状を目の前にして足を止め、厳しい口調で周囲へと問いかける


「これはどういう事だ。目撃者は犯人を教えろ。」


その言葉に周囲に居る野次馬は一斉に俺へと視線を集める。

そして、兵士は剣を抜いて構えると警戒した目で睨みつけてくる。


「お前が犯人だな。大人しくこちらの指示に従え。逆らえば容赦はしないぞ」


しかし、俺は逆に警戒すること無く鞘に剣を収めた。

それを見計らったようにジェシカが連れてきた男は兵士へと声をかける。


「待ちなさい。これは完全な正当防衛だ。彼は数分間そこの男たちに殴られ続け、最後に剣で殺害されそうになった所で身を護って返り討ちにしただけだ。」


しかし兵士は俺の姿を確認して疑いの視線を向けてくる。

男の言う事が確かなら少なからず顔や手などの露出している所に傷や痣があるはずだろう。

しかしその様子は一切なく、それどころか服装すら乱れていないには流石にやり過ぎたかもしれない。


「嘘をつくな!まったく傷がないではないか。お前の供述は辻褄が合わんぞ。」

「それは彼が回復魔法が使えるからです。それを証明しましょう。」


すると男は既にその言葉を予想していたのか、即座に答えを返す。

そしてカウンターにあったナイフを手に持つと自分の手を躊躇なく突き刺した。

しかもナイフは掌を貫通するほどの重傷で刺した本人も痛みに顔を歪めている。

それを見た俺は男に近寄るとすぐに処置を始め、魔法で手を麻痺させ感覚を鈍らせてからナイフを引き抜いた。

そして回復魔法を使い一瞬で傷を治療すると、仕上げに麻痺を回復させてからナイフを男へと返す。

すると男は無事に治った掌を確認するとホッと息を吐いてそれを兵士へと見せる。

しかし、大胆な行動ではあるが今の様子から半分は賭けのようなものだったんだろう。

俺としても、もう少し考えた傷を作って欲しいところだ。


「これで信じてもらえましたか?」


しかし、それだけの事を行った効果はあった様で兵士はその行動と結果に言葉を失い立ちつくしている。

しかし後ろから新たな兵士が現れ冷静に会話に加わってきた。


「トラブルが起きたと聞いたが・・・これは酷いな。それでこれはどういう事だ?」

「た、隊長。実は・・・。」


先に来ていた兵士は隊長と呼んだ男に先ほど見た事を正確に伝えていく。

すると隊長は頷きを返すと視線を俺達へと移した。


「分かった。それならギルド内の諍いと言う事でこちらは処理しよう。」


そして隊長は兵士から情報を聞き終えると即座に決断を下しそれを周りへと伝える。

どうやらこちらはかなり話の分かる人物のようだ。


「それでいいなギルドマスター。」

「はい。ありがとうございます。死体はこちらで処理しますのでお構いなく。」

「ああ、助かる。それでは行くぞ。」

「は!それではみなさん何かありましたらまたお呼びください。」


そう言って二人の兵士は敬礼をするとギルドからそそくさと出て行ってしまった。

どうやらあの最初に来た兵士も威圧的だったのは仕事だからだったようだな。

まあ、治安を守る兵士だからあの光景を見れば仕方がないか。

そして俺はギルドマスターと呼ばれていた先程の男へと体を向けて頭を下げる。


「ありがとうございます。助かりました。」

「いや、話は妻から聞いたよ。君の特殊性もね。ギルドとしても貴重な人材を犯罪者にする訳にはいかない。それと今回の事は借りだと理解し、君には可能な範囲で絶対に返してもらう。それだけ分かってくれれば今回の事はこちらで処理をしておこう。」

「分かりました。返せる時を楽しみにしています。」


ギルドマスターは俺の言葉に頷くと再び奥へと戻って行った。

そして、俺は先程の男が言っていた奥さんが誰か分からず横に居る2人へと問いかける


「ところであの人の奥さんって誰なんだ?」


すると冬花はジェシカを指さし、ジェシカは自分を指さしている。

まさか夫婦で働いているとは思あなかったな。


「抜け目のない旦那だな。」

「彼はああ見えてとても優しいのよ。あなた達を見てると昔を思い出すわね~。」


ジェシカはそう言って顔を赤らめ、両手を頬に当ててクネクネし始める。

俺と冬花もそんなジェシカの惚気に苦笑を浮かべると緊張を解いて肩の力を抜く。


そして俺達はジェシカにも礼を言うと入って来た時と同じように互いに笑顔を見せあいながらギルドを出て行った。

その時には野次馬になっていた他の者達も自然と道を開けて俺達が通れるように道を開けてくれる。

しかしその視線にはある者は恐怖を宿し、又は羨望の感情を宿していた。

ちなみに恐怖は男性陣、羨望は女性陣からである。


男性陣の多くは冬花に冷たくあしらわれた者が多く居たため、いつか仕返ししてやろうと思っていた者が多くいた。

しかし、今後そのような事をすれば自分もあの男たちの二の舞になると想像してしまい恐怖を感じていたのだ。


そして今回の冬花は女性陣と良好な関係を築くのに成功していた。

さらに助けられた者も多いためその幸せを祝福し、いつか自分も彼女のような素敵な恋をしたいと思う者が殆どだった。


俺達は外に出ると門でタグを返却して宿に向かうことにした。

すると冬花はこの町の中央寄りにある高級宿に宿泊しているようで俺は案内される形でそちらへと向かって行く。

そして到着すると受付でもう一人分の料金を払い部屋へと入って行った。

しかし、二人分の料金を払おうとここは一人部屋。

部屋にはトイレ・シャワー室・寝室があるがベットは一つしかない。

俺は経験が無くて知らないかったがそこはまるでラブホのような部屋だと知るのはずっと先の話だ。

そして部屋に入るなり俺達は顔を赤らめて自然と互いに見つめ合う。


「蒼君、シャワー浴びる?」

「そうだな少し汗をかいたから先に使わせてもらうよ。」


俺は冬花に勧められるままにシャワー室に向かった。

シャワー室はちゃんと脱衣所とシャワー室とに分かれておりこの世界に来て初めて服を脱ぐとシャワー室に入り取っ手を捻る。

仕組みは分からないが温かいお湯が俺の体に降り注ぎ、体感的には数年ぶりに体を洗う事が出来た。


まあ、あそこでは魂だけの存在だったから汚れる事は無かったけど俺としてはこれでも嬉しいな。


そしてしばらくシャワーを浴びていると脱衣所の扉を開ける気配を感じた。

俺は気配から冬花の行動に気付いていたが何も言わずに彼女の好きにさせる。


そしてシャワー室の扉が開きそちらに視線を向けると一糸纏わぬ姿で立つ冬花の姿が目に入る。

俺はその姿に見惚れて言葉を失い視線が逸らせなくなり、その場で振り向いた体制のまま動けなくなった。


「あ、あの、蒼君。そんなに見られると恥ずかしい。」


冬花は顔を赤らめて恥ずかしそうに顔を伏せた。

それを見て俺ようやく今の状況を自覚し顔を赤らめて視線を逸らした。


「ごめん。あまりにも綺麗だったから視線が動かせなくて。」


そして冬花はそっと近づいて背中から抱き着くと首を左右に振った。


「ううん、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。」


互いにシャワーに濡れながら蒼士は冬花に向き直る。

そして蒼士も正面から冬花を抱きしめた。


「ああ、蒼君の匂いと体温を感じるよ。たったこれだけの事なのに私凄く幸せ。」

「俺もだ。でも俺は冬花が欲しい。俺の物にしたい。この我儘を許してくれるか?」


そして俺は狼になる決意をすると今の気持ちを偽りなく冬花にぶつけた。

すると人生で最も長く感じる数秒が訪れ、その数秒は何分にも何時間にも感じ心臓はうるさい程に強く打ち付ける。

冬花はその鼓動を聞いて優しく微笑むと首を縦に振って自分の言葉で伝える。


「私もあなたを独占したい。だから私に絆を頂戴。今までのどんな事より確かな絆を。」


そう言って互いの視線を絡ませると自然と顔が近づきキスを交わした。

二人は濡れた体も拭かずに寝室のベットへと向かう。

そこに体を預けると再びキスを交わした。

そして、俺達は互いに長い空白を埋める様に愛し合い眠りへと落ちて行った。



朝になると冬花は目を覚まし一瞬焦ったように目を見開き首を回した。

すると横に眠る蒼士の顔が視界に入り、自分の体に感じる痛みによって落ち着きを取り戻すと昨日の事が夢ではないと自覚する。

そして眠っている蒼士にそっと寄り添うと再び穏やかな寝息を立て始めた。

それを目を瞑ったまま感じていた俺は苦笑を浮かべてそっと冬花の頭を撫でる。


(こいつが落ち着くまでは別行動は控えた方がいいな。何より俺も離れたくない。)


蒼士は心の中で今後の事を考えるとそのまま冬花の寝顔を彼女が起きるまで見続けた。

そしてしばらくして冬花が目を覚ますと「おはよう」と笑顔で声をかける。

冬花も嬉しそうに笑顔で「おはよう蒼君」と返して互いに起き上がると一緒にシャワー室に入って行った。

昨日は結局そのまま寝てしまったため体中が汚れている。

しかし俺達はふざけ合いながらシャワーを浴びたため今日の目的を忘れてしまう所だった。そのため何とか楽しい時間を我慢をして終わらせると服を着て部屋を出ると、まずは1階の食堂に行き朝食を注文する。


「今日はどうするの?」

「そうだなまずは冬花に渡すものが二つある。」


俺の言葉に冬花はコテンと首を傾げる可愛い仕草を返して来る。


(やばい、昔からこういう冬花は可愛い過ぎる。今からもう一度部屋に・・・。いやいや、ここは我慢我慢。)


俺は深呼吸をするとアイテムボックスからカグツチから預かった剣を向かいに座る冬花に差し出した。

冬花はそれを手に取った途端、剣に宿る力を感じ取ったのか視線が俺と剣を行ったり来たりしている。


「蒼君どうしたのこれ。蒼君の剣も凄いけどこれも同じ位凄い力を感じるよ。」

「これはある神様から貰った剣なんだ。その神様が言うには俺の剣と対になる物らしい。俺の剣は求める物に導いてくれるんだ。この世界に来て冬花をすぐに見つける事が出来たのはこの剣のおかげだな。」


すると冬花は笑顔を浮かべて俺の腰にある剣に視線を向けた。

まあ見様によってはキューピット愛の弓。

または赤い糸が剣を通じて繋がっているとも取れるからな。


「じゃあ、その剣には感謝しないとね。私と蒼君を再会させてくれたんだから。」

「そうだな。」

「それでこれの対と言う事はこの剣は求めない物。すなわちその時に行ってはならない方向を指すはずだ。そしてこれをくれた神様はその剣が冬花の助けになるようにと俺に渡すように言ったんだ。だからそれは冬花の物だ。」


それを聞いて冬花は再び驚き手元の剣を見詰めた。

俺には剣の価値なんて分からないけどこの異世界での生活が長い冬花にはその価値が分かるようだ。


「それとこの二本の剣には不懐属性があるから魔王と倒すまで使えるだろうと言っていた。まあ、お揃いの剣だから大事に使おうぜ。」


すると冬花は少し顔を赤らめて二つの剣を見つめて言葉をこぼす。


「ゆ、夢にまで見たペアルックだね。」

「そうだな。」


そして、おれも冬花と一緒なので頬を赤らめて笑みを浮かべる。

しかし、17年前から互いに愛し合っていたと断言できるがあのまま結婚すればペアルックをしていたかは微妙な所だ。

良くも悪くもあの時は互いに若くて恥ずかしい気持ちからやらない事も多かった。

こうして考えると俺達も少しだけ変わったのかもしれないな。

そして今日はもう1つ、大事な物を渡さなければならない。

しかし、それはここではなく、もっと神聖な場面と場所でだ。


「それとこの世界で結婚ってどうなってるんだ?」


すると俺の突然の言葉に冬花は顔を真っ赤にして俯いてしまうが、なんとか小声で答えてくれた。


「何処でもいいから教会で神に誓いを立てるらしいよ。」


それだけ言って冬花は上目使いに顔を上げてこちらの様子を覗いてくる。

きっと俺が何故こんな事を聞いたのかに気付いているからだろう。

なので俺は前置きはせず、ストレートに目的を伝える事にした


「それなら今から結婚しにいかないか?出来たら魔法関連の神様がいいんだが。」

「う~ん・・・ジェシカに聞けば知ってるかも。今から行って聞いてみる?」


冬花は嬉しそうに更に顔を赤くしてモジモジし始めた。

既に互いの気持ちは確認しているので後は結婚をするだけだが、これならもう一つの約束も果たせそうだ。

あくまでついでとは言え、色々してもらい指輪も準備してくれた恩はしっかりと返しておかないとな。


「そうだな。今から急いで向かおうか。」


そう言って俺は立ち上がると冬花の手を取り立ち上がらせる。

そして手を繋いだまま今日もギルドへと向かって行く。


その後ギルドに到着するとすぐいジェシカを見つける事が出来た。

そして、いつもながらに彼女の前にはあまり人はいない。

しかし担当している者たちは皆がベテランと呼べるようで、昨日の野次馬共と違い独特の風格を持つ者ばかりだ。

他の者とは明らかに雰囲気が違い一種のオーラを纏っている。

そしてジェシカの手の空いたタイミングで彼女の前に向かい声を掛ける。


「ジェシカお疲れ。実は教えて欲しい事があるの。」

「どうしたの、このジェシカさんが知ってる事なら何でも教えちゃうわよ。魔物の生息地からデートスポットまで何でも聞いて頂戴。」


そう言ってジェシカはウインク付きの笑顔で冬花に答え左右の手にそれぞれの資料を取り出す。

前の時にはこんなに明るい感じでは無かったのに付き合い方一つで変わるもんだ。

それに以前は仕事の出来るキャリアウーマンのイメージだったけど、今はそこに世話焼きお姉さんが追加されている感じだな。

するとそんなジェシカに冬花は頬を赤く染めながら目的の場所を告げる


「実は魔法関係の神様を祀っている教会が知りたいの。知ってる?」


するとその問いを聞いてジェシカは口に手を当てるとニヤニヤし始める。

その顔はまさに玩具を見つけた猫のごとく、その目は片方づつで俺達二人をロックオンしていた。


「あらあら、もう式場選び?若いっていいわね。」


その言葉に冬花は真っ赤になって俯いてしまう。

しかし、冗談で言ったつもりが不発に終わり斜め上の反応にジェシカは慌て始めてしまう。


「え、あれ、冗談よね?もしかしてもう結婚するの!?」


すると冬花は首を小さく縦に振り肯定を示した。


「うん、今日にでも結婚するつもりだよ。」


すると周りで聞いていた男たちは一斉に視線を集め、その場にいた女性は祝福するために冬花に駆け寄った。


「おめでとう良かったわね。」

「彼と幸せになるのよ。」

「私ももうすぐ結婚だけどいきなり先を越されちゃったわね。」


皆は口々に冬花を祝福し今にも胴上げをしそうな勢いだ。

そして冬花はその事が嬉しかったのか瞳を涙で潤ませ周りに幸せそうな笑顔でお礼を言っている。

そしてそれが一段落するとジェシカは街の地図を取り出して教会の場所を教えてくれた。


「ここの近くにあるこれがその教会よ。たしか神の名前はベルファストね。それでいいの?」


ジェシカは確認のためにこちらへ視線を向けてくる。


(ベルファスト、もしかしてあいつ俺には最初から愛称で自己紹介したのか。まあ、あいつの性格なら有りそうだな。)


俺は少し考える素振りを見せたがすぐにジェシカへと頷いた。


「多分そこだな今から向かってみるよ。」

「う~ん、でもいいの?それほど有名な神様ではないわよ。それにこの世界の主神はカティスエナだから基本はそっちで誓いを立てるのが普通だけど。」


すると俺はジェシカの言葉に苦笑を浮かべて返す。

なんであんなクソ女神の前で大事な誓いをしないといけないんだ。

それならマイナーでもベルの所の方が計り知れない程マシに決まってる。

しかし、俺は本心は隠してどうとでも取れる答えを返すだけに止める。


「いや、いいんだ。約束だからな。」

「約束?それなら仕方がないわね。まあ冒険者なら約束を守るのは大事よ。」


そう言ってジェシカは納得し笑顔で俺達を送り出してくれた。。

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