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79 元冒険者たち

俺の名前は冒険者のシモン。

昔ドジっちまって片腕を失っちまった。

それでも俺は戦う事しか出来ない性格だ。

だから今でもなんとか冒険者を続けている。

今では隻腕のシモンと言われる程には名は売れているが、それでも腕を再生治療出来るほどの稼ぎは無い。

しかも最近値上げまでしやがって、今では再生治療が出来るのは貴族たち位だ。


(クソ、金の亡者共が!)


それに最近この仕事にも限界を感じ始めている。

歳はまだ問題ないが片腕のせいで受けた傷が体の動きを妨げているんだ。

治療も中途半端にしか受けられなかった時期の傷が筋肉や関節の動きを阻害している。

先日も動きが遅れて組んでいたパーティーを危険にさらした。

流石にそろそろ潮時かもしれない。

1人で仕事を受けて死ぬか、冒険者を止めるか。

しかし、片腕のない俺を雇ってくれる所なんて無い。

そう言う所は既に他の奴を雇っている。

それに、そんな善良な所には俺の様に腕ではなく足を失った奴らに譲ってやりたい。

アイツらはもう戦うどころか生活も困難だからな。


そんな事を考えていた時、俺にギルド職員が話しかけて来た。


「シモンさん。少しお話があるのですが。」


そう言って俺の前に立ったのはこのギルドの裏のボスとも言われるジェシカだ。

ギルマスの奥さんでとても厳しい人だが優秀なため、高ランクの冒険者からの支持が高い。

しかし、俺は知っている。

この人は時々限界が来た冒険者が無駄死にしない様に事前通告をする仕事をしている事を。

大半の者がその指示に従って仕事を変えたりするが、聞かなかった者は無理な仕事を続けて二度と戻らない奴もいる。

そして俺もとうとうその時が来たかと思い彼女に視線を合わせた。


「すみませんが今はまだ極秘なので奥の部屋に来てください。」


彼女はそう言って俺を奥の部屋に連れて行った。


(極秘?どういう事だ。)


そして奥の部屋に来た俺はソファーに座るとそこに1人の少女が現れた。


「あなたがシモンさん?」

「ああ。お前は?」

「今は秘密。」


そう言って俺の前に座ると何かの液体が入った瓶を投げて来た。

俺はそれを受け取り中を覗く。


「こりゃポーションか?今は怪我をしてないがくれるのか?」


すると目の前の少女は「うん」と頷いた。


「後で飲んでみて。きっといい事があるよ。」


それだけ言って少女は部屋から出て行った。

俺は瓶に視線を戻して鼻で笑った。


「何馬鹿なこと言ってんだ。何処から見ても普通のポーションだろ。まあ、子供の遊びに付き合うってことで試してやるか。」


そう言ってシモンは蓋を開けて瓶の中身を飲み干した。

するとその直後、シモンの体に劇的な変化が訪れる。


「な、何だ!・・・う、腕が!!」


シモンは失った左腕の違和感に気付きそちらに視線を向ける。

するとそこには次第に肉が盛り上がり腕が再生され始めた。


(どうなってんだ。俺は何を飲まされたんだよ。)


しかし、その心配をよそに腕は数分で再生され、忘れていた重みを肩に与えてくれる。

するとシモンは腕を見つめ腰の剣を抜いた。

そして室内ではあるが剣を振り腕の状態を確認する。


「間違いねえ。俺の腕だ。訛ってもいねえし昔の様に動く。だがしばらく無い状態だったから訓練しないといけないのは変わらないか。」


そう言って冷静に分析できたのはそこまでだった。

その直後彼は右手で手首を掴むとそのまま左手を額に当て大粒の涙を流す。


「戻った。戻ったぞ。」


そう言って泣きながら笑い、その場に立ち尽くした。

すると思い出したかのようにシモンは部屋を飛び出し先ほどの少女を探しはじめる。

しかし、その姿は何処にもなくシモンの姿を見たジェシカが話しかけた。


「どうやらあの薬の効力は本物のようですね。実験に付き合っていただきありがとうございます。」


(実験?俺で人体実験をしたのか!)


しかし、シモンの中に怒りは湧いてこなかった。

何も言われぬままされた事だが諦めていた腕は治った。

それだけでも十分お釣りがくる。

しかし、ジェシカはシモンに一枚の紙を差し出した。


「これは?」

「請求書です。あのポーションの。」


シモンはその途端に顔を青くし震える手で請求書を受け取った。

魔法の治療でも貴族にしか払えないほどの大金が必要になる。

それがポーションならいったいどれだけの金額になるのか。

シモンは額面を読むのが怖くてたまらなかったが勇気を出してそこに視線を向けた。


「・・・は?」


シモンは額面を見てその金額に驚愕する。

そこには5000Gと誰でも買えるポーションと同じ値段が記載されていた。


「もしかして揶揄ってんのか?」


シモンは間の抜けた顔のままにジェシカに視線を戻すが彼女は簡単に首を横に振りその考えを否定した。


「これはあの子が言った請求額です。今後もこの値段に変化はありません。」


その答えにシモンはアイテムボックスから財布を取り出しジェシカへと料金を払う。

すると支払いが終わったので請求書に判子を押され支払いの手続きが完了した。


するとジェシカは目の前のシモンに笑顔を向けると指名依頼を出した。


「シモンさん、こちらのリストの人をギルドに集めてください。」


そう言ってジェシカはシモンに数枚の紙束を渡した。

そこにはこの街に居る冒険者を引退した者の名前が書いてある。

しかも全員の居場所や身体的特徴も。

そしてシモンは身体的特徴を見た時に驚愕の顔をジェシカに向ける。

そこには欠損部位、腕、足、などと書き込まれ、その特徴を表していた。


「かなりの人数ですがポーションには十分な余裕があります。お願いできますか?」

「あ、ああ!任せておけ。依頼だが金は要らん。もし金のない奴が来たらそいつに当ててくれ。」


そう言ってシモンは背中を向けて走り出す。

そして彼はまず知り合いの足を失っている者たちの元へと向かった。


その後ろ姿を見てジェシカは数日前の事を思い出していた。

彼女は百合子の持つポーションの効力を目の当たりにした日から百合子にどう頼もうか考えていた。

しかし、そのタイミングがなかなか掴めずにもう何日も過ぎてしまっていた。

そんなある日、百合子と共に1人の女性がジェシカに話しかけて来た。


「ちょっと内密な話があるんだけどいいかしら。」


その女性は一瞬百合子に視線を向けジェシカに話の内容を仄めかすとその顔に苦笑を浮かべる。

するとジェシカも慣れたものですぐに話の内容を感じ取り百合子たちを連れて奥の部屋へと入って行った。

そしてソファーに座ると女性はすぐに話を切り出した。


「実はこの子の持ってるポーションの事なの。」


ジェシカはやはりと思ったが顔には出さず静かに話を聞き続ける。


「実は近い未来に戦力が要るのだけど、おそらくギルドからもかなりの人数を出してもらう予定なのよ。」


するとジェシカの頭の中に?マークが乱立する。

彼女の中でどうして突然、そう言う話になるのかが思いつかなかったのだ。


「あの。何の話をしているのですか?」

「え、戦争の話よ。バストル聖王国と戦争するの。あそこの奴隷を解放するためにね。」


すると途端にジェシカは遠い目をして天井を見上げた。


(何言ってるのかしらこの人。もしかして危険思想を持ってる人?あの国と戦争して勝てるはずないじゃない。)


しかし、女性は更に話を進めていく。


「国王とは既に話がついてるから心配なら聞いてみるといいわ。でも内密にね。この腕輪を付けて行けば話を聞いてくれるはずよ。」


そう言って女性は二組の腕輪を取り出した。


「一組はあなた。もう一組はここのギルドマスターに渡して。それとこれね。」


そう言って彼女は更に大量のポーションが入っているケースをいくつも取り出して机の上に並べた。


「これで戦える人間を増やして。急がないと間に合わないわよ。」


そう言って彼女たちは部屋を出て行った。

ジェシカはまず、置いて行かれた腕輪を鑑定員に言って鑑定させた。

そして腕輪は鑑定の結果とんでもない物だと判明し鑑定した者にはギルドマスターから厳しく口留めの指示が出される。

そしてポーションは鑑定の結果ただのポーションだと判明した。

ただし効果は特大。

普通にギルドなどで売っている物は効果が微や小であるが、その驚異的な鑑定結果に鑑定員はポーションを持つ手が震え始めた。

そして、さらに心配になった二人は腕輪を付けて国王に会いに行く事にする。

すると本当に国王の部屋に通され、彼の口から話を聞かされた。

それによりジェシカたちも強制的に計画に組み込まれ今に至る。


その頃シモンは町を走っていた。

そして目的の人物を見つけると走り寄りすぐに声を掛けた。


「アベル、俺の話を聞いてくれないか。」


するとアベルと呼ばれた松葉杖をついている男はシモンに振り返った。

そしてアベルはシモンの姿に目を見開きその左手を見る。


「お前、腕の治療が出来たのか。」

「ああ、それでお前に話を聞いてほしい。すぐに冒険者ギルドに行ってくれ。5000Gで治療がしてもらえる。」


するとアベルは苦笑を浮かべて「フ」っと笑った。


「そんな事あるわけないだろ。俺を馬鹿にしているのか。」


しかし、その信じられない話を聞いてアベルは拒絶する。

するとシモンは有無を言わせぬ動作でアベルを担ぎ上げるとそのまま走り出した。


「おい、俺の杖。シモン、ふざけるのも大概にしないと流石に殴るぞ。」


しかし、シモンは一向に話しを聞く気配は無い。

それどころか速度を上げ、これまで鍛えぬいてきた右腕と元に戻った左腕で100キロは有ろうかというアベルと抱えて走る。


「杖なんて要らなくなるんだ。俺を信じて黙って付いて来てくれ。」


その言葉にアベルは諦めてそのままギルドへと運ばれていった。

そしてギルドに入ると奥の部屋に通され、アベルの前には一つのポーションが置かれた。

するとアベルはそれを見て溜息を吐くとシモンを睨みつけた。


「やっぱり俺を馬鹿にしているんだな。これは市販のポーションだろ。これでどうやって俺の足を治すんだ。」

「まあ、飲めばわかる。それとこっちのズボンの縛りは解くぞ。再生の邪魔になったら大変だからな。」


しかし、アベルの言葉を気にする事無くシモンは勝手に準備を始めて行く。

その姿にアベルは再び溜息をついて仕方なく机の上にあるポーションを手に取り一気に飲み干した。


するとアベルは失った足に視線を向けるとその顔を驚きに染める。

そこにはズボンの中が次第に膨らんでいく様が目に飛び込んできたからだ。

そして数分先には、そこに失われたはずの自分の足がその存在を主張していた。


「お・・・おい・・・シモン。これはどういう事だ?」


そう言ってアベルはシモンに視線を向けるが彼は笑顔を浮かべたまま何も言わない。

するとアベルはソファーを支えにして少しずつ足に力を入れ立ち上がった。

そして彼は絶望の中から再び二本の足でその体を支え大地を踏みしめる

そして茫然と自分の足を見つめアベルは涙を流した。


「俺は今・・・自分で・・杖もなく立っている・・・。これでまた戦える。仕事ができるぞ!」


そう言ってここに無理やりに連れて来てくれたシモンに「ありがとう」と礼を言って抱き着いた。

そして今度は2人で手分けしてリストを手に取り町へと走り出しす。

すると2人が4人に、4人が8人になり次第に人の集まりに加速がかかる。

そしてまだ戦える者で店などで雇ってもらっていた者はお礼を伝え冒険者を再開し、戦えない者は戻った体でその穴を埋めたり恩を返すために仕事に力を注いだ。

そして、その事で苦労をしていた家族も笑顔を取り戻し、町の至る所で笑顔が花を咲かせ、

喜びの声が響き渡る。

その波は更に広がり、この国から生きている者で体を部位欠損した者は次第に消えていった。

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