78 国王の決断
私の名前はサーシャ。
数年前にウルフに襲われ腕を失い顔に大きな傷痕が残って醜い姿になってしまった。
そんな中、幼馴染のドラムは治療費を稼ぐために王都に行ってしまった。
本当はそんな所に行くよりも傍にいて欲しかったけど今の私は仕事も出来ずただの足手まとい。
止める事も出来ずにあれから年月だけが過ぎて行った。
定期的にお金が届くけどこれだけが彼が生きている証で私と彼との僅かに残った細い繋がり。
それに私はあれから一度も笑えていない。
両親でさえ最近では態度が冷たくなり、この家を追い出されるのも時間の問題に思っている。
そして、そんなある日のこと、彼からの仕送りがパッタリと止まった。
これは私と彼の繋がりが消えた事を意味する。
そして、これは彼の身に何かが起きた事を示していた。
私は居ても立ってもいられず彼の元に向かおうと考えた。
でも私は彼の正確な居場所も知らない。
もしかすると町で良い人が見つかって私は捨てられたのかもしれない。
そう考えるとなんだかすごく悲しいけど涙は出なかった。
私はドラムには幸せになってほしい。
その相手が私以外でも今の私の姿なら仕方がない事だった。
そんな事を考えていると次第に食欲も失せて味も分らなくなってきた。
そして毎日味のしない食事をただ命を繋ぐだけの目的で食べていると来客がやって来た。
私は痩せ衰えた体で扉を開け、死んだ魚のような目で問いかけた。
「あなたはどちら様?」
目の前には旅の格好をした12歳ほどの少女が立っている。
その姿はとても可愛らしく今の私には無い物をたくさん持っていた。
でも、私にはもう妬んだり羨ましいと言う事を思う程の感情が無い。
すると少女は何やら首を傾げて問いかけて来た。
「ここにドラムの幼馴染が済んでるって聞いたけど違った?」
その時、私は今までの沈んでいた思いが嘘のように消えて心臓が跳ねる。
そして気が付いたら彼女の肩に手を置いて詰め寄っていた。
「私がドラムの幼馴染のサーシャよ。彼は無事なの!?」
すると目の前の少女は苦笑して頷いた。
そしてアイテムボックスから何か薬を取り出し差し出して来る。
「私は百合子。ちょっと彼が来れないからこれをあなたに渡しに来たの。」
そう言って何かの液体が入った瓶を差し出して来る。
私は首を傾げ瓶を目の前に持ち上げると覗き込んだ。
「これは何?ポーションに見えるけど。」
すると百合子は頷いて「ポーションだよ」と答えた。
しかし、それが何だと言うのだろうか?
ポーションでは軽いケガは治っても私の傷には効果はない。
そんな事は素人の私でも知ってる。
しかし、そんな事を気にする事もなく百合子は私に向けて「飲んで」と言って来る。
すると少し警戒するが既に人生を諦めているので一瞬の躊躇の後に一気にポーションを飲み干した。
すると彼女の体に変化が訪れた。
あの時に受けた古傷は消え失われた腕が次第に生えてくる。
そしてしばらくするとそこには昔通りのサーシャの手があり、握ってみても問題なく動いた。
それを見た途端に私は自分の手を見て涙を流した。
すると百合子が今度は鏡を出して私に渡してくれる。
そしてそれを覗き込むと傷跡は消え去り顔も綺麗になっていた。
「綺麗に治ってよかったね。それじゃ行こうか。」
すると百合子は突然サーシャの手を取り歩き出した。
サーシャは突然の百合子の行動に理解が追いつかずに慌てて問いかける。
「ど、何処に行くの?」
「ドラムの所。彼は王都の近くの町に住んでる。でも事情が複雑でここにはしばらく帰れない。だからあなたから向かう。そうすれば万事解決。」
そして彼女に付いて行くとその先には既に馬車が準備されていた。
サーシャは一瞬悩んだがこの町での事を思い出し、持って行く物は何も無いと決断する。
今は一刻でも早くドラムに会いたい。
それだけが今の彼女の行動理念だった。
そして馬車に揺られて数日。
私は目的の街に到着した。
しかし百合子は地図を私に渡すと先に行ってしまう。
私は周りの人に聞きながらなんとか目的の場所に到着すると中から百合子が扉を開けてくれた。
ノックもしてないのに気づかれて少し驚いたけど中にいるドラムの姿を見てそんな事はどうでもよくなる。
私は彼に駆け寄りその胸に飛び込んだ。
なんだか子供がいたけどそれは後で聞けばいい事。
でもなんだか油断できない気がするのは女の勘だと思う。
それに付いても後で問い詰めないといけない。
そんなこんなで私は彼と再会し一緒に生活する事になった。
彼は私と再会したその日に今までの事を全て話してくれた。
私も彼に今までの事を話し互いに離れている間の溝を埋めた。
そしてその横のマーラと言う少女についても話し合った。
その結果、私達は3人で仲良く生活する事に決めた。
でも女の私には分かる。
このマーラって子は確実にドラムに恋をしている。
負けるつもりはないけど思いが一緒なら必ず仲良くなれるはず。
そして数日が過ぎた頃、百合子が現れていい仕事を紹介してくれた。
そこはこの国でも有数の商会で私はマーラと一緒にそこで店員として雇ってもらえることになった。
研修はとても大変だったけど、怪我をしていた頃に比べれば大した事じゃない。
マーラも同じのようで一緒に仕事を頑張っている。
そして夜になれば3人で仲良く夕飯。
彼と会ってから再び味覚が戻り自画自賛だけどご飯がとても美味しい。
この幸せを失くさない様に3人で協力して生きて行こうと決意する。
そして、厳しい再教育のキャンプを終えたノエルたちはリーリンとミランダを幹部に向かえ次の行動に移っていた。
次の目標は国王である。
だが、通常なら不可能と思えるこの相手だが今ならほぼ確実に仲間にすることが出来る。
その理由の一つは彼が賢王である事だが最大の理由は彼が一人の親であるからだ。
夜になるとノエルとロックは国王に会うために密かに城へと侵入し彼の寝室へと向かう。
そこまでには多くの見張りや騎士がいたが隠密系のスキルを揃えた彼らを発見できる者はおらず、二人は楽々と寝室に侵入した。
するとベットに忍び寄り、国王の口に布を当て口を塞ぐとその衝撃で国王は目を覚ました。
国王は目を見開き二人を見るがノエルは自分の口元で指を立て声を出さない様に伝える。
すると国王も渋々その指示に従い頷いて答えた。
そして口から手が離され自由となると体を起こして二人に目を向ける。
「それで、お前たちの目的は何だ?私を殺しに来たにしては対応が温いな。」
するとノエルとノックは互いに顔を向かい合わせてクスリと笑った。
「私達は別にあなたを暗殺に来たわけではないのよ。ただ少しお話がしたくてね。それにこれはあなたにとっても重要なお話なの。信じなくてもいいけどその場合は第二王子がそう遠くない未来で死ぬ事になるかもしれないわよ。」
すると国王の表情が急に変化し、その鋭い視線でノエルたちを射抜く。
しかし、ノエルとロックもその視線を気にする素振りも無く、微笑を浮かべたままの表情で軽く見返した。
「どうやら話くらいは聞く価値がありそうだな。それで、アイツはやはり何かを企んでいるのか?」
「ええ、どうやら内乱を起こして国王の座を無理やり手に入れようとしてるみたいね。そのために配下の貴族に強化系のアイテムを集めさせているみたいよ。」
すると国王は俯いて大きな溜息を吐き首を左右に振った。
それだけで数年は置いた様に見えるので今までも余程苦労して来たのだろう。
自分達が言える事ではないがしっかりと教育をしないからそう言う事になるのだ。
「何を馬鹿な事を考えているんだ。アイツには内政の才能が無いから国王にはなっても国が破綻するだけだと言うのに。それで、相手は誰なのだ?儂の方ではまだ何かを企てている事しか知らん。」
すると二人は雰囲気を変え真面目な顔で答えた。
「相手はバストル聖王国。しかも買っているのではなく子供と女性を対価にして交換をしていたわ。既に何度か取引は行られ、あの国で奴隷として働かされているはずよ。今回は未然に防いだしこれからもそんな事はさせないけどね。」
ノエルの言葉を聞いた国王は途端に拳を握り締めそこからは血が零れ落ちる。
そして顔を憤怒に染めると誰もいない壁に目を向けた。
「儂の事はいいからすぐに今の話の裏を取れ。取れたなら儂に報告をしろ。手段は選ぶな!」
すると壁の向こうから小さな返事が届き何者かが離れて行く。
その様子をノエルたちは驚く事無く見つめ国王に視線を戻した。
「優秀な部下がいるようね。」
そう言ってノエルは国王に声を掛ける。
しかし、国王は溜息をつくと苦笑を浮かべて視線を二人に向けた。
「よく言うわ。気付いておったろう。どうやら今のこの国にはお前らをどうにか出来る者はおらんようじゃな。」
「まあ、あなたが今のままの賢王なら私達は何もしないわ。むしろ助けてあげる。それと私達はこの国の闇ギルドを掌握したの。メンバーにはリーリンとミランダがいるから何かあったらその二人に話を持って行って。それとこれを渡しておくわ。」
するとロックが国王に二つの腕輪を差し出した。
「これは何だ?」
国王は腕輪を受け取りそれを見つめて問いかけた。
自分の鑑定のスキルでは詳しい事は分からないので確認は後でするつもりだが嘘を言わないかの確認は出来る。
こういう一つ一つの小さな積み重ねが相手に対する信頼に繋がり、又は性格を知るための情報となる。
「まあ、あまり他人には鑑定をしてほしくないんだけど治癒の腕輪と強化の腕輪よ。かなり強力らしいからギルドにとって重要な人物には渡してるの。」
すると国王は頷くとそれをあえて無造作に腕に嵌め魔力を流した。
別に信頼したつもりではないが内心の一つを言い当てられては仕方がない。
「ちょっと、そんなに簡単にはめてもいいの?私達の事信用しすぎじゃない。」
すると国王は初めて1本取ったとニヤリと笑いかけた。
「儂も少しなら鑑定できる。それに呪われたアイテム系なら腕を切り落とせば外せる。それにしてもこれは凄いな。この歳でここまでの充実感を味わえるとは思わなかったぞ。」
そして更に国王は枕の下からナイフを取り出した。
どうやら護身用の武器はちゃんと傍に置いていたようである。
そして国王はナイフを指に当てサッと走らせて切り傷を作った。
するとそこからは血が溢れ布団の上を数滴の血が染める。
しかし、国王が腕輪に魔力を流すと瞬時に血は止まり傷痕も残さず回復した。
「これも凄い効果だな。しかも・・・。」
国王はベットから降りると体を動かし調子を確認している。
「執務で痛めた腰も最近悲鳴を上げ始めた膝も若返ったように痛みが消えたぞ。これは良い物を貰った。これだけでもお前たちを信じた甲斐があったというもの。」
すると国王は屈伸、シャドー、剣の型を一通り行うと真面目な顔をしてノエルたちへと視線を戻した。
「それで頼みがあるのだが。もし、息子が最後の手段に出た場合の対処は儂にさせてくれんか。」
するとノエルとロックは苦笑を浮かべて首を縦に振った。
「もとからそのつもりよ。悪い事をした子は親がしっかり叱ってあげて。」
「感謝する。」
そう言って国王は二人に対して頭を下げた。
そして国王が顔を上げた時には二人の姿は何処にもなく、静かに窓だけが開いていた。
その数日後、国王はこの夜の話が全て真実であった事を知る。
その際、国の密偵にはノエルたちが捕らえた貴族のライルが差し出され、彼らによる拷問が行われた。
そしてライルは諸々の罪を言い渡され死刑とされる。
しかし、家族は何も知らない事は立証されたため家の取り潰しは免れその息子が当主となった。
しかし、一部の使用人はこの事実を知っていたため厳しい処分となる。
厳しい物で死罪となり軽くても犯罪奴隷となった。
ちなみに仲介をしていた執事の男はその健脚が評価され闇ギルドの伝令として毎日死ぬほど走らされている。
しかし、死ぬよりはましな事と数年で奴隷から解放されると言う恩情付きの条件により日夜走り続けている。
そして舞台は整い時間は急速に流れて行った。




