77 とある構成員
俺の名はドラム。
王都から数日の距離にある町に住んでいる。
俺はこの町で闇ギルドの一員として情報を集め、王都の本部に情報を送る仕事をしていた。
だが、俺は好きでこんな組織に加入したわけじゃない。
どうしても金が必要だったからだ。
俺には故郷の村に幼馴染の惚れた女がいる。
そいつは数年前にウルフに襲われて腕と顔に大きな傷を負った。
当然王都に行けば治す事は出来るがそれには巨額の治療費がいる。
しかし、あいつの為にそんな大金を出してくれる奴は一人もいなかった。
いや、持っている奴がいなかったが正しいか。
それが原因で彼女は腕を失い顔には大きな傷痕が残ってしまっている。
そして、そいつは怪我をした日から笑わなくなってしまった。
あんなに綺麗な笑顔だったのに常に泣きそうな顔で俯いている。
それに仕事も失い今は俺が少ない仕送りをする事で生活している状態だ。
だが、それもそろそろ限界だろう。
俺じゃないく、アイツの家族がだ。
しかし、俺もこんな仕事じゃあいつを呼ぶ訳にもいかない。
何より余裕がない。
それにこんな仕事をしているのを知られるのが何よりも怖かった。
考えてみてくれ。
アイツの為に町を飛び出したのに今は犯罪者の一員だ。
しかも最近では子供や女まで攫い始めていると聞く。
そんな所にあいつを呼べる訳がない!
しかし、俺がこんな事を思うのももうじき死ぬからかもしれない。
俺は仕事中によく分からない連中に捕まって森の中にいる。
周りはどうやら闇ギルドのお仲間みたいだ。
見知った奴もいれば初めて見る奴もいる。
そして周りに目を向けていると突然声が聞こえた。
「あなた達にはしばらく訓練を兼ねてここで過ごしてもらいます。」
「武器は無いのですか?それに魔物は?」
「そんなのは自分たちでどうにかしなさい。それと逃げたら殺すのでそのつもりで。死んだら魔物寄の餌として放置する様に。」
なんだそれは。
新手な拷問か何かか。
これは訓練じゃねえ、ただの虐待だ。
「それではサバイバル開始です。ちなみに私達も一緒に居るので心配はいりません。」
何が心配ないだ。
それじゃ逃げる事も出来ねえじゃねえか。
しかも開始と同時に奴らは離れ、すぐに魔物が襲ってきた。
「全員固まれ。」
するとすぐに一人の男が声を張り上げ密集隊形を指示した。
そしてある者は木の棒を手に取り、ある者は足元の石を拾い握り締めた。
俺も近くにあった棒を手に取り隊列に加わる。
「おいお前良いもの持って来たな。」
すると横の奴が棒に手を掛けた。
俺は最初奪い取るつもりかと警戒したがそいつは先端を噛んげ尖らせると槍の様にしてくれた。
「これで少しはマシになったな。」
すると先ほどから指示を出していた男がこちらを見て声を掛けて来た。
「お前の槍が今は最大の武器だ。前に出てウルフを牽制しろ。お前らこいつが前に出たら石を投げつけろ。」
俺は押し出されるように先頭に立ち槍を構えた。
実際ウルフは魔物の中では弱い部類に入る。
特に単体ならこの槍でも十分勝機はある。
しかも、後ろから石とはいえ牽制の助けがあるんだ。
負けるはずはない。
そして俺は後ろからの援護を受けてウルフの懐に入り槍を突き刺して掻き回し引き抜くと更に喉に一撃をくらわせて止めを刺した。
「ワーーーー!」
その途端、後ろから歓声が上がり俺たちは今日の夕食を手に入れた。
しかし、戦いはここで終わりじゃない。
またいつ別の魔物が現れるとも限らないんだ。
俺達は急いで周りから武器に使えそうな棒や石などを搔き集めた。
すると、見計らったかのように再びウルフが現れる。
俺達は先ほどと同じようにウルフを始末し、仲間が作った石のナイフでウルフを解体する。
「解体なら俺に任せろ。」
そう言ったのは髭を生やした中年の男だ。
頭には光る物があるがそれは剃っているだけだと主張している。
そして、その日はそれ以上の襲撃は無く火を囲み車座になって眠りについた。
テントなんて洒落た物もシェルターを作る暇もなかったため仕方ない。
そうやって過ごしていくと次第に連帯感が生まれてくる。
そして数日した頃、そいつらは現れた。
「お父さん。」
そう言って現れたのは子供たちだ。
どうやってここに来たのかは分からないがどうやらあいつらの仕業らしい。
子供達の後ろには俺達をここに連れて来た奴らの他に二人ほど武装した少女がいる。
状況から考えて奴らの仲間だろうな。
そして見ていると子供たちは俺達にパンを配り始めた。
数人の子供はすぐに父親と思われる奴に駆け寄っている。
そして、そいつに一番にパンを渡すとほ笑顔で他の仲間にも配り始めた。
俺達もここ数日で連帯感が生まれているため仲間の子供を邪険にはしない。
だが、慣れていないのか後ろめたい気持ちからか誰もが微妙な表情を浮かべている。
そうしていると俺の前にも一人の少女がパンを持って現れた。
そいつは他の子供と違って誰にも駆け寄る事が無かった奴だ。
そして震える手でパンを俺に差し出してくれる。
俺は少しイラっとしてつい「チッ」と舌打ちした後にパンを受け取った。
どうも子供は苦手だ。
故郷にいた時はそうでもなかったがこの組織に入って目つきが悪くなったおかげでよく怖がられる。
そして、子供たちは1時間ほど親と話をしたり、周りの者もそれに混ざったりして過ごすとここを離れて行った。
そんな事が数日おきに行われ、なぜか俺には毎回同じ少女がパンを渡すようになった。
そうすると次第に少女も慣れたのか怖がらずに俺に話しかける様になってくる。
そんな事が続いたある日、その少女が顔を見せない日が訪れた。
俺は周りを見回し何度も確認したがやはりあの少女はいない。
仕方なく他の子供からパンを受け取り食べるが何故だかいつもより美味しくない。
俺はこの時あの少女との一時の会話に救いを与えられていた事に気付く。
そして、俺はすぐにあいつらの元へと向かい問いかけた。
「いつものあいつはいないが何かあったのか?」
すると女は俺に目を向けるとすぐに答えを教えてくれた。
「あの子は少し熱を出してしまってね。今日は休んでもらったのよ。まあ、あの子は孤児だから薬は無いけど安静にしてれば直るでしょ。」
その言葉にドラムは衝撃を受けた。
彼はここの仲間たちから王都で孤児たちを攫っていた話を聞いている。
そして、あの少女も孤児なら当然その標的になっていたかもしれない。
しかし、それ以上に寝床で苦しむ少女の姿が思い浮かび頭から離れなかった。
すると、今日の子供たちとの時間も終わりドラムは狩りの為に森へと入って行った。
最近では実力も上がり数人でチームを組んで森を探索している。
そんな中、ドレムは少女の事を思い仲間と共に歩いていた。
すると目の前の茂みの下に一つの薬草を発見する。
それは幼馴染から教えてもらった熱によく聞く薬草だった。
ドラムは周りを警戒するのも忘れて薬草に駆け寄り手を伸ばすと薬草を掴んだ。
すると後ろから突然声が掛けられる。
「おい、馬鹿待て!」
しかし、男の制止も間に合わず、ドラムは腕に激痛を感じた。
そして腕を見た時その顔を青く染める。
ドラムの腕には茂みから顔を出したウルフが噛みつき、食い千切ろうとその首を振っていたのだ。
「クソ、離れやがれ。」
しかし、腕が食い千切られるよりも早く、後ろから槍が突き出されウルフを追い払う。
だがドラムは自分の腕を見て絶望の表情を浮かべた。
(この傷じゃあ腕はもう使い物にならない。こりゃ切断だな・・・。)
するとその時、故郷に残して来た幼馴染の顔が浮かぶ。
ドラムはこの時初めて彼女の気持ちが理解できた。
体の一部を失う事への絶望、後悔、不安。
色々な感情が浮かんでは消えていくがそれらがループし酷い喪失感をもたらした。
(確かにこれじゃ笑顔もなくなるな。)
しかし、そこでドラムは出血により意識を失い仲間に運ばれて行く。
そしてドラムは夜になってからようやく目を覚ました。
するとドラムは起きると同時に噛まれた右腕を確認する。
「あ、ある!でも何でだ。傷も綺麗に消えてる。」
そんな事を考えていると彼の前に一人の少女が現れた。
その顔には見覚えがありここに来ている子供たちを護衛している奴の片割れだ。
「いったい何の用だ?」
すると少女は視線をドラムに向けてアイテムボックスから一つの薬を取り出した。
「酷い傷だったけどこれのおかげで傷は回復したよ。後で料金は請求するから死なないようにね。」
それだけ言うと背中を向けて去って行った。
しかし、その背中を見てドラムは奥歯を食いしばり俯いた。
(ここでも金かよ。)
するとドラムはイライラする思いをぶつける様に地面に拳を叩きつける。
そして数日が経ち、再び子供たちが彼らの前に現れた。
ドラムはその中から一人の少女を探す。
すると、少女は自分からドラムの傍まで走り彼へと頭を下げた。
「お兄ちゃんありがと。お兄ちゃんが取って来てくれた薬草のおかげで熱も下がったよ。」
そう言って少女は笑顔をドラムに向けた。
するとドラムは一瞬頭に?を浮かべるが傍にいた仲間が小声で教えてくれる。
「お前が怪我をした腕でずっと薬草を握ってたんだよ。取るのに苦労したぜ。」
すると、ドラムはあの時の事を思い出して咄嗟に少女に顔を向ける。
確かにあの時は薬草の事しか見えていなかった。
しかも掴んだことは確かに覚えているが、その後は腕の傷に目が行って薬草をどうしたかは覚えていない。
しかし、どうやらあいつらは薬草を何も言っていないのにちゃんと此奴の所に持って行ってくれたみたいだ。
金の亡者かと思ったが、想像していたよりも悪い奴等じゃないのかもしれないな。
しかし、少女を見ているとその表情が途端に曇った。
「でも、そのせいで怪我をしたって聞いたよ。もう大丈夫なの。」
するとドラムは苦笑を浮かべて怪我をした方の腕を伸ばし少女の頭を撫でる。
「この通り大丈夫だ。心配は無いからそんな顔をするな。」
少女はドラムの腕を見て傷が無いのを確認すると反対の腕もチラリとみて再び笑顔を浮かべた。
「お前今、俺を疑ったな。」
その声と共に少女に撫でていた手は乱暴になり少女の頭をグルグル回す。
「痛い痛い。ごめんなさい~。」
そう言って笑い合う二人を周りにいる者は温かい目で見つめ笑顔を浮かべている。
そして楽しい会話の時間も終わり、少女は名残惜しそうな顔を浮かべて町へと帰って行った。
しかし、数日後状況に変化が訪れた。
「それじゃ町に帰るわよ。」
「「「「は?」」」」
それは突然の事で皆が呆れた顔を女へと向ける。
しかし、ここで複数の者達が表情を曇らせた。
(そうか、それじゃもうアイツには会えないんだな。)
ドラムは今日までパンを持ってきてくれた少女の事を思い出した。
彼はまさかこんな気持ちになるとは思わず、住んでいる孤児院の場所も知らない。
しかも彼は少女に一度も名前を聞いた事もなかった。
しかし、後悔しても仕方がない。
ドラムはそのまま仲間たちと共に町へと帰って行った。
実際、彼は何度か少女の居場所を聞こうとした。
しかし、断られるのが怖くて傍まではいくが話しかける事は出来なかった。
(俺はいつもこうだ。肝心な時に根性がねえ!)
そして、王都に着くと全員が一つの建物へと入って行く。
(ここは・・・。)
中に入ると広い部屋に人数分の椅子が置いてありそこに座る様に言われる。
そして全員が椅子に座ると女は前に立ち、説明を始めた。
「私はノエル。今日から闇ギルドを取り仕切る者です。」
俺は驚いて周りを見回すが誰も何も言わない。
それを見てノエルと名乗った女は話を続けた。
「今日からこの組織は新生闇ギルドとして新たな一歩を踏み出します。その目的は情報の収集と国民の保護。特に子供や女性は最優先で守ります。これはなぜかは言わなくても分るわよね。」
すると一人の男が立ち上がり叫んだ。
「俺達に今までと真逆の事をしろと言うのか?俺達は闇ギルドだぞ。」
すると女は頷いて「そうよ」とそれだけを答える。
「それに別に闇だからって悪さをしないといけないと誰が決めたの。私が上に立つ以上そんな事をしたメンバーには遠慮なく死んでもらいます。まあ、前まで子供を誘拐してた王都の者で生き残ってる者はこれが冗談でないと知っているわよね。」
すると周りの半分以上が顔を青く染めて頷いている。
その様子を見てノエルが本気で言っていると知った全員が口を閉ざした。
しかし、理由はそれだけではない。
この1ヶ月の生活で子供と触れ合い極限状態を生き抜いた者達は心のどこかで今の彼女のセリフに納得している。
「それじゃ、今後はエドガーを通して指示を出すから今日の所は解散。」
そして、全員が部屋から出て行くと俺は再び自分がいた街へと帰って行った。
俺はそこでいつも通り情報を集め、それを王都へと伝える。
いつもと変わらぬ仕事をこなし、家に帰り一人で飯を食い眠る。
そんな事が続いたある日、家に客が訪れた。
ノックの仕方から同じギルドの者だと判断する。
しかし、それでも慎重に扉に近づき覗き窓から外を確認した。
するとそこには二人の少女がおり二人とも知っている顔だった。
「集金に来たよ。」
そう言ったのは俺が腕を怪我した時にポーションをくれたらしい少女だ。
らしいと言うが俺は意識は無かったので知らない。
しかし、腕の怪我が完全に治っているため否定はできなかった。
そしてもう一人は俺にいつもパンを渡してくれていた少女だ。
俺は逸る気持ちを押さえてゆっくり扉を開けると周りを確認して二人を中へと招き入れた。
「まだ名乗ってなかったけど私は百合子。この子は・・・名前知ってるよね。」
しかし、俺はその言葉に顔を歪め首を横に振る。
すると百合子は呆れた表情を浮かべると溜息を吐いた。
「あんなに仲良かったのに名前も聞いてないの。ホント何やってんだか。」
「返す言葉もない。」
しかし、ドラムは素直に頭を下げ少女に視線を向ける。
「俺の名前はドラムだ。問題なければ名前を教えてくれないか。」
すると少女は恥ずかしそうに顔を俯け小さな声で名前を告げた。
「私はマ、マーラです。」
「マーラ。森ではありがとな。お前と話せて結構楽しかったよ。」
するとマーラは更に俯いて顔を隠してしまう。
その様子に俺は疑問を感じたが、それよりもなぜ二人がここに来たかが気になった。
そのためその事を聞こうとすると百合子が先に話し始めた。
「実はこの子もう少しで孤児院を出ないといけないの。だから誰か一緒に住んでくれる相手がいないかを探してるの。それで仲が良かったあなたの所に来たのだけどどうかな?」
そう言われてドラムは一瞬悩む。
しかし、すぐに現状を思い出して首を横に振った。
「ダメだな。この通り俺は独り身だしそれに金を貯めないといけない。子供でも養うだけの余裕はないんだ。それにお前に薬代を払わないといけないだろ。あれだけの怪我を治すポーションだ。さぞ高いんだろ。」
すると百合子は表情を変える事なくアイテムボックスからから袋を取り出した。
「はいこれ。」
それだけ言って百合子は無造作に袋をドラムに渡す。
そしてドラムはその袋を開けるとそこには大量の金貨が入っていた。
「それ今月の給料ね。来月また支給されるけど無駄使いしちゃだめだよ。」
しかし、ドラムは金貨の袋を開けたまま動く気配がない。
だが、それも仕方のない事である。
彼がこの町で闇ギルドとして仕事をしている時の報酬はこれの数十分の一程度しかない。
そのため足りない分は副業をして稼がなければならなかった。
それに情報を手に入れるにはどうしてもお金がかかる。
生活も苦しかったがこれだけあれば故郷の幼馴染の治療費を貯める事も夢ではない。
しかし、そんな事を考えているドラムへ向けて百合子は手を差し出した。
「薬代頂戴。」
すると、ドラムは先ほどまでの事が吹き飛び顔を曇らせる。
しかし、手元には大金が有り、払わない訳にもいかないのでその金額を聞いた。
「いくらだ?」
「5000G」
「・・・は?」
百合子の言った金額にドラムは開いた口が塞がらない。
これは通常のポーションの値段であるためその安さに驚愕しているのだ。
しかし、百合子にとってはただのポーションの材料で作った普通のポーション。
その常識の違いが今の状況を生み出していた。
しかし、ドラムは袋から金貨を取り出すとそれを百合子へと渡した。
すると百合子はそれをアイテムボックスに仕舞うと再びドラムに視線を戻した。
「それで、この子はどうするの?このままだとこの子、住む所もないから野宿だよ。」
するとドラムはマーラへと視線を移し少し悩んでから決断をした。
そして膝を付き視線の高さを合わせると金貨の入った袋を足元へと置く。
恐らくは捕まりあの森での事が無ければどちらも絶対にしなかっただろう。
そして、自分でも驚く位に自然に笑みを浮かべ証書の手を両手で握り締める。
「お前が良ければ・・・ここで一緒に暮らさないか?」
するとマーラは目に涙を浮かべて笑顔で頷いた。
そしてドラムはそんな彼女の頭に手を置いて優しく撫でその体を抱き寄せる。
すると百合子は何かを思い出したように出口に向かい扉を開けた。
「やっと来たみたいだね。中に入って。」
百合子は扉を開け外から誰かを招き入れる。
するとそれを見ていたドラムは入って来た人物を見て驚愕した。
「サーシャ!なんでここにいるんだ!?」
そこには故郷の街に残して来た幼馴染のサーシャが立っていた。
しかも、失った腕は元に戻り顔の傷も綺麗に消えている。
その姿に驚いていると彼女は昔の様に綺麗な笑顔を浮かべてドラムへと駆け寄った。
そしてマーラを挟むようにしてドラムの胸へと飛び込んで来る。
「ドラム、今までありがと。あなたのおかげでなんとか生活できたしあの子が薬を持ってきてくれたから傷も綺麗に治ったのよ。」
その言葉にドラムはすぐに百合子の方に視線を向ける。
しかし、彼女の姿はすでに無く、扉もいつの間にか閉まっていた。
その間もサーシャは色々な事を話しているがドラムの耳には届いていない。
彼は今初めて掴んだ幸せとそれをくれた彼女たちに感謝して目に涙を浮かべるのだった。




