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76 新生闇ギルド②

男は森を走り続けていた。

単純に逃げる為であるが先程エドガーから逃げた時とは状況は大きく変化している。

それは後ろから常に何者かが追ってくる気配を感じるのだが追跡者は気配をまるで隠さずに追って来ていた。

しかもその気配には濃密な殺気が籠り、追いつかれれば命が無いと断言できる。

そのため男は恐怖により精神を擦り減らしながらも走り続けた。

しかし、その命がけの鬼ごっこも終わりが訪れる。

突然前方に巨大な気配が現れ男は足を止めた。


(クソ、いつの間にか誘導されたか。)


そして足を止めた男を挟むように一組の男女が前後から現れた。


「こんばんわ。鬼ごっこは楽しかった?」


男の前に現れたのは笑顔を浮かべたノエルである。

しかし、その気配は笑顔とは逆に殺気が溢れていた。


「悪い冗談だな。何が目的だ?」


男は油断なく体の位置と向きを変えながら隙を伺う。

すると女はクスリと笑うと表情を変え冷たく鋭い視線を男に向けた。

そして、女の口から答えが返ってくる。


「何もないわよ。ただ、あなたが死んでくれるだけでいいの。」


その瞬間、男は「えっ?」と声を出して目を見開いた。

それは、何かの情報を得るためにしばらくは殺される事は無いだろうと考えていたためだが、男の期待は呆気なく裏切られた。

そして男が気付いた時にはもう一人の男、ロックがナイフを手に既に目の前まで迫っていた。

しかし、男は寸での所で自分もナイフを抜いてロックのナイフを受け止める。

すると受け止めたナイフから嫌な音が聞こえてきた。


『ピキ・・・ピキピキ』


「馬鹿な。何だそのナイフは?」


男のナイフにロックのナイフは次第によって次第に切り裂かれて行く。

その光景を目にして男は再び恐怖に顔を染めた。


「ああこれか。ある人物にちょっとお願いして作ってもらったんだ。このナイフの刃は目に見えないほど僅かに振動している。通常そんな事すれば手にも振動が来て使う事は出来ないんだがこの世界は凄いね。」


すると男はロックの言葉に驚愕する。


「貴様ら、もしや逃げ出した異世界人・・・。」


しかし、男の言葉は最後まで続かない。

その前に男のナイフがロックの超振動ナイフに切り裂かれてしまい首が飛んだからだ。

そしてロックがその場を飛びのくと血が周りに撒き散らされ辺りを汚した。

その後二人はその死体を放置してその場を走り去って行く。

後の始末は血の匂いに釣られた魔物たちがしてくれるからだ。


二人は全力で門へと戻り静かに城壁を飛び越えて町に入った。

そして二人は打合せ通り待機していた者に場所を聞き、屋敷へと向かって行った。


「今日はご苦労様。」


ノエルは屋敷に入ると周りの者に声を掛けて中に入って行く。

するとその声を聞いてリーダーのエドガーが顔を出した。


「それでどうでしたか?」

「ええ大丈夫よ。」


ノエルはそれだけ答えると奥にいるアリスと百合子の元へと向かって行った。

エドガーも何が大丈夫かは聞く必要が無いので何も言わないが、どうなったかは分かっている。

実の所、あの男から聞く事は本当に何もなかった。

今も聖王国にある闇ギルドから情報が入って来るので何故あの国が人攫いをしているのかもわかっている。

その理由の大半は召喚したと言う異世界人が逃げ出したことにあった。

あの国は異世界人がいなくなった穴を奴隷や傭兵で補おうと判断したようだ。

そして子供を求めるのは言う事を聞かせるのに都合がいいからであり、女を求めるのは傭兵を雇いそれの相手をさせるため。

そしてもうじき魔王が発生する時期でもあるためあの国がどの様な事を行い。

その裏で何を行うのか。

それらは闇ギルドだからこそ知っている。


しかし、エドガーはそんな組織の一員である事を今は嫌悪している。

だが自分たちでなければ救えない命がある事も同時に理解していた。

そのため今はこの町の闇ギルドのリーダーとして全力を尽くそうと誓う。


そして夜が明けるとアリス達4人はある場所へと向かって行った。

そこは城にほど近い場所に立つ屋敷でそこには一軒の奴隷商館がある。

すると彼女たちはその前に立ち止まり門番に声を掛けた。


「ここの主と話があるんだが入れてもらえるか?」


すると門番は無言で門を開くと「着いて来い」とだけ言って歩き始めた。

中に入ると奥へと進み、ある部屋の前で立ち止まる。

そして扉をノックして声が返って来るとノエルたちを中へと招き入れ扉を閉めた。

すると正面の机に一人の若い女性が座っており彼女は優しく話しかける。


「こんにちは、私はこの奴隷商館の主、リーリンです。今日はどのようなご用件ですか?」


そしてここでは代表してノエルが前に出るとリーリンへと自己紹介を始める。


「私はノエルと言います。後ろにいる男性は私の夫のロック。その横にいる背が高い子は私の娘でアリス。その横の子は娘の友人の百合子と言います。今日はある目的のためにここに来ました。」

「目的?」


リーリンは意味が分からずノエルへと聞き返した。

するとノエルは笑顔を浮かべ目的を口にする。


「ええ、実は先日。この町の闇ギルドを乗っ取る事に成功しました。それであなたをその幹部に付いてもらおうと思いまして。」


するとリーリンは一瞬驚いた表情を見せるがすぐに気を引き締め視線を鋭いものに変える。

そして4人を見渡して一人一人に目を向けた。

彼女は仕事柄多くの人を見て来た。

それは時にお金に困った者。

又は重犯罪を犯した者。

又は人に騙され仕方なくここに来た者。

しかし、リーリンから見た彼女たちは何処から見ても犯罪者には見えなかった。

後ろの子供二人の目は光を宿し普通の子供にさえ見える。

その横の男性も影は無く何処から見ても良き夫に見えた。

そして目の前の女性も悪人には見えない。

しかし、全員に何やら強い意志と決意を感じる。


「それで、なぜ私なの?」


そして、リーリンは考えた結果まず話だけでも聞いてみる事にした。


「実は先日、バストル聖王国に誘拐されそうな子供と女性を沢山助けたのだけど対応に困ってるの。今後の事を考えるとどうしてもそちらの専門家が必要でね。信用できる人を探している時にあなたの話を聞いたのよ。」


するとリーリンは椅子を蹴り倒す勢いで突然立ち上がった。

そしてノエルに走り寄るとその両肩を掴み声を荒げる。


「どういう事!?もしかしてあの国がこの国で奴隷狩りをしていたの?」


するとノエルはその反応に心の中で好感を感じる。

彼女を強く推薦したのは百合子なためノエルは彼女に会うのは初めてで殆ど情報もない。

しかし、この世界の住人に対して対応の冷たい百合子が珍しく自信をもって進めて来た人物である。

そのためノエルは他の候補を保留にして真っ先に彼女に会いに来たのだ。


「実際に攫っていたのはライルっていう名の貴族だけどね。そいつの取引相手が聖王国なの。」


するとリーリンは口元に手を当てて何やら考え始めた。

しかしノエルは更に重要な情報を彼女へと伝える。


「それに実行犯は第二王子からの命令で動いていたようよ」


ノエルの言葉にリーリンは目を見開き「第2王子。」と呟いた。


「それに自分が王位に就くために聖王国から強化系のアイテムと攫った人間を交換していたようね。だから闇ギルドのリーダーから聞いた話だと既に何度か取引があって連れ去られている人もいるみたい。」


するとリーリンは駆けだそうとするがその手をノエルは掴みその足を止めた。


「邪魔しないで。陛下にこの事を伝えないと。」


リーリンは手を掴むノエルを睨みつけ大声を上げる。

しかし、ノエルはリーリンに向けて首を横に振った。


「行ってどうするの。今行っても確かな証拠はないのよ。それに陛下の横には第2王子がいるでしょ。下手をしてら殺されるわよ。」


その言葉にリーリンは歯を食いしばって俯き涙を流す。

その涙には救えなかった人たちと、力の足りない自分自身への不甲斐なさが含まれている。


「それにあの国は数年後、神罰が下るのよ。そうすれば全員が解放されるわ。」


しかし、そう言ってもリーリンは神罰と言う言葉に若干反応するが表情は晴れる事は無かった。

それは彼女があの国での奴隷の扱いがどの様な物であるかを知っている為である。

あの国の奴隷の扱いはこの国とは大きく違う。

奴隷は物として扱われ簡単に殺され捨てられる。

昨日まで可愛がられていようと次の日には主人の気が変わり拷問を受ける。


その事をリーリンは泣きながらノエルたちへと伝えた。

すると表情を消した百合子から「知ってる」と言う声が洩れる。


「知ってるって。もしかしてあなたは・・・。」


リーリンは顔を上げ百合子に視線を向ける。

しかし、百合子は口を閉ざし何も言わずに横にいるアリスの手を握った。

だがその手は離れていても分る程震えている。

そのため彼女もそれ以上聞く事を止めて視線を外した。


「私達もまだここには来たばかりで彼らを助けられる力はないの。だからもしよければ私達に力を貸して。あなたが力を貸してくれれば悲劇を失くす事が出来るはずよ。」


すると、リーリンは視線をノエルに向けると「あなた達は何者なの?」と問いかけた。


「私達は新生闇ギルド。この世界を救うため異世界から来たのよ。」


そう言ってノエルは笑顔を浮かべてリーリンへと手を差し伸べた。

するとリーリンはその手を掴み立ち上がると苦笑を浮かべる。


「もしかして勇者なんて言わないわよね。」

「そっちはあと1年と少し先ね。私達の役目はそれまでに土台をしっかり作って彼らが背中を気にする事無く魔王と戦えるようにする事よ。」


そして、リーリンは今日何度目になるか分からない驚きの表情をしてノエルを見た。

するとノエルはクスリと笑うと繋いだままの手に力を入れる。


「まあ、証拠はないけどその間だけでもやってみない。後悔はさせないわ。」


その言葉に今度はリーリンも笑い頷いた。


「それともう一人誘いたい人がいるんだけど知ってる?この町だとかなり大きな商会長の奥さんでミランダっていうんだけど。」


するとリーリンは「ア~」と何処か納得したような顔になり机へと向かう。

そしてペンを取ると紙にサラサラと文字を書いて封筒に入れるとそれをノエルへと渡した。


「紹介状よ。これがあれば取り次いでくれるわ。でも彼女は一筋縄ではいかないかもよ。」

「かも?」


するとリーリンは苦笑して理由を答えた。


「彼女は勘が鋭いと言うか、凄く独特なの。だから早い時は一瞬で終わるけど気に入らない時はいくら言ってもダメなのよ。」

「それなら私と一緒ね。少し安心できるわ。それじゃ、近日中にまた来るからお願いね。」


そう言ってノエルたちは部屋を出て行った。

そしてリーリンは溜息を付くと救う事の出来ない者の事で悔しさを噛みしめ、救う事の出来る者がいる事を思いペンを取った。

数日後、彼女の元には多くの子供が訪れ、彼らはリーリンの手腕によって無事働き口を手に入れる。

また、一部の物は冒険者となるために闇ギルドのメンバーが戦い方を教え、無事冒険者となっていった。


そして、ノエルたちは紹介状を手にジョセフの店に入って行った。

すると彼女たちにエルフの美女?ララが無表情で近づいて来る。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件ですか?」


そしてララは初見でノエルたちの実力を見破り警戒感をあらわにする。

その証拠に通常の接客よりも距離を開け間合いを取っていた。

現在ノエルたちは誰も武装はしていないが、その身に纏う気配や魔力は隠しきれなかったようである。

又は隠していた事が逆に警戒を生んだのかもしれない。

ノエルは苦笑し手紙をアイテムボックスから取り出すとそれをララへと手首のスナップを効かせて放り投げた。

すると、ララもそれを指で見事に掴み取るとその名前を確認し一礼する。


「しばらくお待ちください。」


それだけ言うと手紙を持って奥へと入って行く。

そして数分すると奥からララと共に一人の女性が現れた。


「こんにちは私がミランダよ。リーリンからの紹介状は読んだけど用件は奥で聞くわ。」


そう言ってノエルたちを促し奥へと入って行く。

そして離へと入るとララが結界を張りララ以外が席に着いた。

ララはお茶の準備をした後は自然な動きでミランダの後ろの定位置に移動する。


「それで、用件は何?」


ミランダはとても軽い感じに問いかけてくるがその目に油断は無い。

その雰囲気からノエルたちは彼女もかなりの実力者であると予想を付ける。

しかし、ノエルは朗らかに笑いながらリーリンに話した内容をそのまま彼女に伝えた。

その間、ミランダもララも何も言わずただノエルの話に耳を傾ける。

そして話が終わるとノエルはミランダに問いかけた。


「それでどうするの?」


無駄な事は一切聞かずただ結果だけをノエルは求めた。

するとミランダは首筋を少し触りおもむろに頷きを返す。


「いいわ。その話受けましょう。」


そう言ってミランダは立ち上がりノエルへと手を差し出した。

するとノエルも当然の様にその手を掴み固く握りあう。


「ノエルと言ったわね。あなたも私と同じタイプなんでしょ。」

「ええ。理解してくれる夫が中々見つからなくて困ったわ。」

「私もよ。」


そう言って二人は笑い合い手を離した。


「それじゃ、情報は私、人材はリーリン、資金面はあなたで行くわ。資金調達の商品はこちらで準備するから売るのは任せたからね。」

「ええ。私達には国に太いパイプがあるから大丈夫よ。第2王子には気を付けるようにするから。」


そして、離から出るとノエルたちは家へと帰って行った。

ミランダはその背中を見ながら口元に笑みを浮かべこれから訪れる動乱を生き抜くための思考を巡らせ始める。

その姿にララは小さく溜息をつくが彼女の守りたい者は変わらない。

彼女はこの店とこの家族。

そして同胞を護るためにただこの身が許す全力を捧げるだけである。


そして、今日ここに新生闇ギルドは完成し本格的な活動へと入って行った。

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