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73 異世界へ

円卓会議が終わりその日のうちにカグツチは天照に呼び出しを受けていた。


「カグツチよく来ました。明日、冬花たちをあちらに送り出します。」


すると彼女は寂しそうな顔を向け上を見上げた。

そして、その目には涙が浮かびそれは一筋の雫となって頬を流れる。


「カグツチはもう挨拶は済ませましたか?」

「はい。彼らがいない間の家の管理も任されましたし問題ありません。」


すると突然天照は頭に「?」マークを浮かべて首を傾げる。

そして話が噛み合っていない事に気付いた彼はポンと手を叩き、何かを思い出したような顔になった。


「そういえば、言うのを忘れていました。蒼士と冬花にあなたも着いて行くのですよ。」


するとカグツチは涙に濡れた瞳を天照に向け「へ?」と間抜けな声をもらす。


「そ、それは本当ですか!?」

「本当です。しかし、もうあまり時間がありませんから早く準備なさい。」


するとカグツチは元気よく頷くと踵を返して笑顔で走り出した。

そしてその時に丁度現れたスサノオに酒蔵の鍵を渡す。


「これは家の酒蔵のカギだ。管理を頼むぞ。」

「おい、管理って飲んでもいいのか!?」


するとカグツチは花が咲いたような笑顔で頷き告げた。


「ああ、自由に飲んでくれ、それと時々オーディン様たちも来るから仲良く分けるんだぞ。」


そう言って再びカグツチは走り出した。

その様子を見て昔との変わりようにスサノオは珍しく微笑みを浮かべる。

そして天照の部屋に入るとスサノオは声を掛けた。


「それにしてもお前も酷いな。もう少し早く教えてやれなかったのか?」

「仕方がありません。あそこまで上手く行くとは思いませんでした。今回の条件で確実にカグツチを彼らに付けることが出来ます。もし、失敗しても一緒に死ねるなら彼女も本望でしょう。」


するとスサノオの目が途端に鋭くなる。

そこには先程まで笑っていたとは思えない程の不穏な気配が立ち上り、今にも暴れ出しそうだ。


「もしかして失敗すると思ってんのか?」

「それは分かりません。月読の未来予知はこの世界限定です。そのための切り札の一つが白崎ですが彼女の成長が間に合うかどうか。」

「ん?あいつは冬花たちが帰ってからが出番じゃなかったのか?」

「もしも間に合えば彼らもあちらに送ります。そのために私達が送り回収するように決め、送る人数も指定しなかったのですから。」


するとスサノオは納得し大笑いを始めた。

そこまで考えて話を進めていたのかとスサノオも知らなかったからだ。

もしそれに条件が合うなら自分が乗り込めば良いだろうとも考えているかもしれない。


「天照よ。それだから陰で腹黒なんて言われてるんだぜ。」


すると天照は笑顔を作り「それは最大の誉め言葉ですね」と答える。

そしてスサノオは酒蔵のカギを手に蔵へと向かうためにその場を去って行く。

その後には豪快な笑い声が響きそれを聞いて天照も声を上げて笑った。




そして場所は蒼士の家。

カグツチは家に着くなり扉を勢いよく開き中へと駆け込んだ。

そしてリビングで寛ぐ俺を見つけるとその胸に飛び込み、顔を上げてニコニコと嬉しそうに見上げて来る。


「どうしたんんだカグツチ。出かける前と違ってご機嫌だな。」


するとカグツチは抱き付いたまま「フフフ」と怪しく笑い始める。

こんな嬉しそうな顔は滅多にしないので余程の事が有ったみたいだ


「実はな、私も蒼士たちに付いてあちらに行ける事になったのだ。だからずっと一緒に居られるのだ。」


大興奮のカグツチは笑顔でまくし立てながら足をバタつかせる。

まるで嬉しさを我慢できない子犬か子供のようだ。

そして俺はその話を聞いて優しい笑顔を浮かべるとカグツチの頭を優しく撫でてやる。

すると冬花も近づいて来てカグツチの肩に優しく手を置いた。


「そうか、それじゃこれからもずっと一緒だな。頼りにしてるぞ。」

「そうね。あなたとあちらを旅するのは初めてね。一緒に戦えて心強いわ。」


そう言って二人は彼女の参加を歓迎した。

そしてカグツチは部屋に戻ると異空間にお気に入りの衣類等を押し込んで準備を終えると再び俺達のいるリビングに下りて来た。


「あ!でもそれだとこの家の管理はどうするのだ?」


元々ここにはカグツチが残る予定であったのでそちらの準備は何もしていなかった。

しかし、引き落とし口座には十分なお金はいれてあるし新聞や牛乳などの定期購入品も取ってはいない。。

そのため集金などの心配はなくただ防犯の面でだけ心配が残る。

それに俺たちは何年もこの家を空けるつもりはない。遅くても1年以内には魔王を倒してここに戻ってくるつもりだ。

これは未来の俺からもたらされた記憶により、魔王が何処にいるかが分かっているから言える事である。

それにあちらに向かう前からの修行により面倒なレベル上げ(修行)も必要ない。

そのためここで不運?な事に2人の人物に白羽の矢が立った。

なので俺は早速携帯を取り出しその2人に電話を掛ける。


「おお、どうしたんだ蒼士。明日出発だろ。」

「ああその事なんだが実はあちらにカグツチも行く事になったんだ。だからお前らに家の管理をお願いしたい。生活費は出してやるから頼まれてくれないか?」


すると電話口からの反応は止まり向こう側から小さな声で何かを話し合う声が聞こえる。

そして次に声が聞こえた時、その相手は白崎に代わっていた。


「喜んで受けさせてもらいます。『ん~~!』それで今から向かってもいいですか?『んん~!』」

「ああ、部屋は前に用意した愛部屋を使ってくれ。掃除洗濯も使った場所だけでいいから。」

「分かりました。すぐに向かいますね。『んんん~~!!』」


そして電話が切れると俺はグッと親指を立てて問題が解決した事を二人に伝えた。

すると二人も喜んで夕飯の準備を始める。

しかし電話の向こうからなんか変な声が聞こえていたがアレは何だったん?

なんだか切実な悲鳴にも似ていた気がするが・・・。


そしてしばらくすると颯たちが家に到着し呼び鈴を押した。


「来たぞ蒼士。それじゃまずは説明を頼む。今しか時間は無いんだろ。」

「そうだな、まずは・・・。」


そう言って俺は家の事で必要と思える事を説明していった。

それにしても颯は普通の顔をしているな。

さっき聞いたような気がする悲鳴は何だったんだ。

やっぱり俺に聞き違いか?


そして説明の内容も凄く単純な物だったため彼らはすぐに納得して了承してくれた。

恐らく一番難しいのは生活費の管理だろう。

それ以外は全て二人でこなせそうだ。

なんたってこの二人は一緒にキッチンに立てるのだからな。

ここだけは俺がこの二人を羨む部分だ


そして俺たちは食事、お風呂を終えると早めに部屋に戻り眠りにつくのだった。



次の日の朝。

支度を済ませた俺達は転移して天照の元へと向かう。

そして、そこには天照、月読、スサノオ、オーディン、アテナ、ハーデスが見送りに来ていた。


するとアテナは一人前に出て冬花の前に立つとその肩に手を乗せた。


「頑張って来い冬花。私の加護を得た以上、負けたら許さないからな。」


そして全員からそれぞれ激励を受けると俺たちは彼方の世界へと旅立って行った。

その先にあるのは希望か絶望か。

少しづつ変化して行く歴史に望みを託し俺達は目的地の分からない道を歩き始めた。




そしてここでアリスサイドに移行する。


今はアリスはバストル聖王国より脱出して2週間ほど経っていた。

彼女たちは目撃者を皆殺しにしているため顔が割れておらず、気ままな旅を続けている。


「アリスさん、なんだか前回とはえらい違いですね。」


そう言っているのはアイテム作成担当の百合子である。

彼女は前回、城から抜け出した後は心無い商人たちに騙され極貧生活を送っていた。

しかし、今回は情報関係に強いアリスの両親がいる。

彼女たちは鑑定能力を駆使して市場の市場価格を把握し、百合子のアイテム(本人からすれば失敗作)を適正価格で売り資金を調達していた。

しかし、そんな中でも当然こちらを見下し吹っ掛けて来る者はいる。

するとそう言う者はその日の夜には一切の証拠のない状態で制裁を与えられていた。

その容赦の無さは娘のアリスですら若干引きそうになるが、ノエルとロックは娘に諭すように(刷り込むように)教えていった。


「アリスちゃん。こんな世界だと舐められたら終わりなのよ。こんな時はまず一番に考えるのは身内の事。それにあんなのが蔓延ってると他の人に犠牲者が出るのよ。」


そしてバストル聖王国では大量の犠牲者を出して百合子たちはようやくアルタ王国へとたどり着いていた。

当然アルタ王国でもアリスの両親は同じように制裁を加えて行く。

しかし、その頃には教育(洗脳)されたアリスも加わり制裁は加速して行った。


そしてある時アリスの両親はある情報を入手し動き始めた。


「皆聞いて。やっと目的のギルドの情報を掴んだの。」


ノエルはそう言って部屋に集まる他のメンバーに華やいだ笑顔を見せる。

しかし、情報関係を全て両親に任せているアリスと百合子は何の事か分からず首を傾げた。


「ママ、何を掴んだの。もしかして悪の組織の親玉とか。」


アリスは冗談半分でノエルに告げるが意外な事にノエルは「正解」とウインクしながらアリスを褒めた。


「さすがアリスちゃん。私達の娘。その通りよ。実はこの世界に蔓延している影の組織、裏ギルド。別名闇ギルドの存在とその拠点の位置を掴んだの。」


するとアリスはポカンと口を開け言葉を失った。

彼女たちがこの世界に来てまだ3週間も経っていない。

しかし、アリスの両親はその短い間に自分たちよりもこの世界に馴染んでいた。

そしてノエルは更に話を進める。


「それでね。今回はその闇ギルドを支配して私達の流儀で裏の世界を牛耳ろうと思うの。」


するとノエルはアリスと百合子にとんでもない宣言を告げた。

そしてその横ではロックが何度も頷いて肯定を示している。

しかし、なぜそうなるのかが分からず理由すらも想像できないアリス達はノエルへと問いかけた。


「ママ、どうしてそうなっちゃうの?」

「それはね。この世界の情報はその闇ギルドが殆ど握ってるからよ。情報は時にダイヤモンドより貴重なの。もし二年後にお友達の勇者たちが来るなら可能な限りの情報と彼らを護る下地を作っておかないとダメ。きっと私達をここに送ったあの男も同じことを考えてたのよ。それに世界を見て回るだけじゃつまらないでしょ。」


そう言って人差し指を立ててアリスに再びウインクした。

最後に微妙に本音が出ているが話が大きすぎてアリス達はそこには気付かない。

そしてノエルたちはアルタ王国の首都に着くと潤沢な資金で拠点を購入し行動を開始した。

しかし、基本そっち関係で動くのはノエルとロックである。

アリスと百合子は冒険者として活動するために王都のギルドへと向かった。

すると入るなり目つきの悪い男達が二人を嘗め回す様に見つめる。

アリスはそれを不快に思いながらも人が並んでいない受付に向かった。


それは偶然にもジェシカの受付であったが二人は彼女を知らない。

そして彼女は目の前に立った二人の美少女に受付としての職務を全うする。


「良くお越しくださいました。今日はどのような用件ですか。」


すると二人はギルドカードを取り出しジェシカへと渡した。


「私達は今日移動してきたばかりです。しばらくこちらで活動するので拠点登録をお願いします。」


するとジェシカはカードを確認すると頷いてカードを魔道具に認識させて二人へと返した。

拠点登録とはその冒険者が町ごとで活動する際にする届け出である。

これを基にして緊急招集などが掛けられるため町を移動すると冒険者はこの届出をする義務があるのだ。

そして確認と登録が終わりジェシカはカードを二人へと返却する。


「はい、終了しました。ランクE冒険者のアリスさんと百合子さんですね。ようこそアルタ王国首都へ。このランクの掲示板は彼方にありますので受ける際には剥がして持ってきてください。もし不明な点がありましたら遠慮せず聞いてください。」


「「ありがとうございます。」」


そして二人は礼を言って掲示板へと歩いて行く。

するとそれを見ていた3人の男たちは立ち上がり二人へと近づいて行った。


「よう嬢ちゃんたち、俺達がこの辺案内してやるよ。来たばかりでなんも分からねえだろ。」


そう言って先頭の男はアリスの肩に気安く手を乗せ、露骨に胸へと視線を落とした。

そして、3人は彼女たちを囲むように位置を取り、いやらしく笑う。


するとアリスは溜息を付くとハエを払う様に男の手を振り払った。


「やめてくれる。私達こう見えても忙しいの。ナンパなら他所でやってくれる。」


その言葉に横の百合子も頷いて同意すると露骨に嫌な顔をして手でシッシッと無言の拒絶を見せた。

すると男たちは顔を見合わせると懐からギルドカードを取り出す。

そして、そこにはCランクを示す文字があり、それがハッキリ見える様にアリス達へとかざした。


どうやら男たちは先ほどのジェシカとの話を盗み聞きしていたようだ。

そのため低位の冒険者と思いちょっかいを掛けに来たようである。

もしこれが普通の一般人ならばEランクの駆け出し冒険者の少女が2人で挑んでも、Cランクの冒険者1人と戦ったとしても勝ち目はない。

しかし、彼女たちはランクが上がっていないだけでその実力は強化しなくても今やSランク上位に匹敵する。

その事を知っているアリスはそのカードのランクを見て鼻で笑った。


「あんた馬鹿なの?もしかして実力の違いも分からないとか。」


するとそのあからさまな馬鹿にした態度が癪に障ったのか、男たちは顔つきを変え怒り始める。

しかし、最近逞しくなってきた百合子は更に彼らを煽る。


「アリスさん。ママさんが言ってたじゃないですか。馬鹿は言っても聞かないけど拳なら効くって。」

「あ、そうだったわね。それにこんな奴らを無事に返したら、後でママとパパに怒られちゃうわ。」


すると二人はさっき迄あっち行けと言っていたのを、現実に掌を返してカモ~ン(掛かって来い)に変えた。


その姿に男たちは脆い堪忍袋の糸が切れ素手で構えると殴りかかった。

すると怒りから最初の男は大振りになりアリスは完璧なクロスカウンターを決める。

一人目はその一撃で意識を失い倒れるとその後ろから次の男が殴り掛かった。


「小娘がーーー!ラッキーは2度は起きないぜ。」


男はアリスを射程に収めると先ほどの男とは違い腋を閉めアリスの顔面を狙った右のジャブを放つ。

だが、男はこの一撃で倒せるとは思っていない。

しかし、冒険者になったばかりの女なら、痛みとショックで戦意を失うか、更なる隙を作るはずであった。


しかし、アリスはそのジャブを今度はスウェーで躱し、伸び切った腕を取るとそのまま捻りを咥えて地面へと投げつける。

それにより相手は手首、肘、肩がねじれて脱臼しうめき声を上げる。

そして追い打ちとして彼女は男の頭を蹴り飛ばして意識を刈り取るともう一人の男に向きを変えた。

しかし、そこには悪夢が広がっていた。


戦闘開始直後、百合子は急ぐことなく一番後ろの男に駆け寄った。

しかし、強化もしない状況では百合子のスピードなどたかが知れている。

そのため、百合子を見た男は彼女を侮り無駄な口をたたいた。


「なんだ、俺の相手はこのチッパイお嬢ちゃんか。」


すると百合子の動きが突然変わる。

突然紫電を纏うと瞬時に男に近寄りその足を蹴りで切り取った。


「ぎゃああああーーーー!な何が・・・!?」


しかし、男が言葉を言い終わるよりも早く百合子は丁度いい高さまで下がった男の首を掴むと、死なない程度の電撃を浴びせ続けた。

そして百合子は薄く笑うと男を見て言った。


「この胸は小さいのではなく慎ましいと言うのです。それに私はまだ12歳です。今からアリスさんの様に大きな実になるんですよ。」


そう言って百合子は男が気を失うと電流を流し、起きれば電流を流すを繰り返した。

そして限界が来るとポーションを振り掛け回復させると再び電流を流し続ける。

しかし、百合子もアリスも気づいていない。

実はポーションで欠損部位が治る事は今のこの時代では殆どありえないのだ。

もしあるとすればそれはエルフの秘薬位である。

しかし、それは秘薬と言うだけあって門外不出であり、一般人がお目にかかる事は不可能なため情報だけの存在であった。

しかし、百合子の使ったポーションは男の足を再生させている。

それを見たジェシカは一瞬鋭い目を百合子へと向けた。


そして気が済んだのか百合子は男から手を放し、その場に捨てるとトボトボとアリスの元へと戻って行く。


「行きましょうアリスさん。今日の目的は果たしました。」


そう言って百合子はギルドの出口へと歩き出し、その後を追う様にアリスも着いて行き拠点へと帰って行ったのだった。

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