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71 二人の新たな道

俺たちが旅館に帰ると既にパニックは沈静化していた。

割れた窓は修復され、いなくなった白崎は家庭の事情で先に帰宅した事になっていた。


そして旅館に帰った俺はすぐに冬花とカグツチを呼んで事情を説明した。


「そういう事だったんだね。突然いなくなるからびっくりしたよ。」

「そうだぞ。出来ればすぐに連絡してほしかった。」


そして俺は次に颯へと改めて二人を説明した。


「冬花は知ってるが俺と同じ一応人間だ。今はもう微妙だけどな。そしてこっちは剣神カグツチ。天照と同じ神だけどアイツと違っていい奴だから緊張しなくていいぞ。それと二人とも既に俺の嫁だ。同棲もしてる。」

「は?」


すると颯は口をポカンと開けて魂が抜けたような顔になる。

きっと棒付きの飴を舐めていればポトリと落としてしまっただろう。

どうやら俺の話はコイツの許容量を大きくオーバーしたようだ。

これで本当にこちら側の人間になっても大丈夫だろうか?

今になって急に心配になって来たな。


まあ、話しの流れやコイツの状況から手伝わないという選択肢は無いけどな。

しかし、今考えるとこうなる様に誘導された気もしてくる。

恐らく未来を予知できる月読と一緒ならそれも可能だろうからな。


そして今日の所はそれぞれ分かれて部屋へと帰って行った。

すると部屋に帰って我に返った颯は周りを見回し自分の部屋であると気が付いたようだ。

しかし自信が無さそうな目で羨む様な表情を浮かべ俺に向けて来る。


「どうしたんだ?」

「お前ら3人がなんでいつも一緒にいるのか分かった気がするよ。俺も明美とそんな感じで一緒に居れるようになるかな?」


颯は力なくその場で俯くと心の中にある不安を打ち明けた。

しかし、そんな弱音は俺にとって意味のない物だ。

俺にとっての運命とはオール・オア・ナッシング。

全てを手に入れるか失うかしか選択肢がない。

そのため颯の弱音を聞いて額に青筋が浮かんだ。

そして颯の後ろに立つと凄く手加減したチョップを脳天にかます。


しかしそれは常人には途轍もない威力となり颯は床に倒れこんだ。


「イッターーー!何するんだ蒼士!?俺を殺す気かよ!」


すると俺は颯を見下ろして冷たい目で睨みつけた。

こんな弱音を吐く様な心でこれからの事に挑めば確実に失敗する。

だから俺はあえて厳しく、そして真実をハヤテに突き付けた。


「そんな弱気なら死ね。その方が白崎も諦めがつく。一つ言っておくが今からはお前しか白崎を本気で守れる奴は居ないからな。あまり天照を信用するなよ。」


そう言って俺は表情を緩めて颯を立たせた。


「それに俺でも目に見える範囲しか助けられる自信はない。それに今でも力不足なんだ。下手をすれば冬花は遠くない未来に確実に死ぬ。だから俺は弱音を吐く気はない。だからお前もそんな事を考えるくらいなら顔を上げて一歩でも進め。じゃないと、もう一生白崎には会えなくなるぞ。」


すると颯の顔は引き締まり俺の胸を拳で突いた。


「分かった。もう弱音は吐かない。これから頼むぜ蒼士。」

「ああ、もちろんだ。」


そして俺達は明日に備えて眠りについた。

余り追い込みたくはないが他にも幾つか理由がある。


もしアイツが人でないと言うのが周囲に知られればアイツは全てを失うかもしれない。

それは友達、家族だけでなく人としての人生さえもだ。

そんな時に信頼できる相手が傍に居ないとアイツは潰れてしまうかもしれない。

颯の役割と存在は本人が思っているよりもずっと大きい

まあ、白崎は冬花の友達なので今回に関してはどうにかするけどな。


次の日の朝になると俺たちは新幹線に乗り帰路についた。

そして家に着くとさっそく鬼狩りに向けて出発して行く。

移動は当然カグツチの転移だが俺や冬花もこれだけ頻繁に転移しているのでそろそろスキルとして習得出来そうな気がしていた。

しかし、今はそれよりも颯と白崎である。

俺はカグツチの案内でとある場所へとやって来た。


「蒼士あれを見ろ。」


俺はカグツチに言われた場所に視線を向ける。

するとそこには青い空、青い海、そして海岸には蜘蛛の体に牛の顔を持ついわゆる牛鬼と言う5メートルはある妖が犇めいていた。

奴等さえいなければ今にもプールの時のリベンジで海に繰り出したいところだ。


「聞いてるのか?蒼士!」

「ああ、すまない。」

「もう、しっかりしてくれよ。」


まあ、水着は家に帰ってからの楽しみにしておこう。

最近の冬花とカグツチは成長が著しくて見る度に成長している気がする程に綺麗になっている。

きっと今年の夏は更に・・・おっと、そろそろ話をしっかり聞かないと怒られそうだ。

カグツチも最近は更に冬花に似てきて怖さに・・・ゴホン、愛に磨きが掛かっているからな。


「ここは毎年この時期になると牛鬼が湧くのだ。日ごろは神々が始末して被害を防いでるのだが今年はこちらから立候補して譲ってもらった。これだけいれば少しは足しになるだろう。」


そしてカグツチは俺から颯に視線を移した。


「お前の持つその鬼切丸は鬼に対して絶対の威力がある。だから恐れず行ってこい。だが鬼を殺してその血を浴びると言う事はその鬼の邪気を浴びると言う事。無理をせず定期的に蒼士に邪気を浄化してもらえ。さもないとお前自身が心も体も鬼になるぞ。」

「おう分かったぜ!」


そして本番になり颯も覚悟を決めて刀を手に牛鬼へと向かって行った。

その横にはサポートの為に俺と冬花も続く。




そしてその頃、天照に連れていかれた白崎は月読と面会していた。


「あなたが白崎ですね。私は月読と言います。今日はあなたにお願いがあって来てもらいました。」

「私に何をさせたいんですか?」

「あなたに私の眷属になってほしいのです。」


すると白崎は月読の予想外の言葉に驚き目を見開く。

しかし、今の彼女にはあまり選択肢がない。

そのためまずは理由を問いかけた。


「どうして私なんですか?私はまだ子供で何の力もありませんよ。」


すると月読は彼女の顔を見てその瞳を開き白崎へとその目を見せた。

すると白崎は美しくもガラス玉の様な目を見てある事に気が付いた。


「もしかして目が見えないのですか?」


すると月読は「ええ」と小さく頷いて瞳を閉じる。

月読の目には確かに白崎が映ってはいたがその視線は彼女から少しずれ何もない所を見ていた。

それにまったくと言っていい程眼球に動きが無くそこには何も映っていない印象を受けた。


「それで私があなたの眷属になるとどうなるのですか?」


白崎は先ほどの彼女の目を見て少し月読が怖くなった。

人は感情が目に出るが月読からは感情が一切読み取れない。

例えるなら波紋一つない巨大な湖を見ているようで幻想的ではあるが現実感が無のだ。

空は映しているがそこには空は無く、永遠に触れる事の出来ない得体のしれない存在に見えた。

そして月読は静かな声で彼女の質問に答えた。


「あなたは視力を代償にして未来を見る力を手に入れます。それはこれからの世界には必要な事です。そのためあなたにはその様な存在になってもらいました。」


すると白崎は突然立ち上がり月読に向けて声を荒げた。


「あなた達は私に起きる事を知っていたのね!それで今の私は貴方たちの思惑通りの化け物にされたって事なの!?」


しかし、それでも月読は変わらぬ声、変わらぬ態度で告げた。


「それは違います。あのまま私達が何もしなければあなたは土蜘蛛として蒼士に殺されていました。彼は破壊は得意ですがその逆は性質上苦手ですから。しかし、私達には今のあなたが必要だった。ただそれだけです。」


月読の返答に白崎はただ茫然となりその場に座り込んだ。

昔ならここで涙を流して泣いていただろう。

しかし、今の体になり少しづつ彼女は心も変化していっている。

それは人によっては強くなっていると捉える者もいるだろうが彼女は心が死んで何も感じなくなっていっているように感じた。

それでも颯への思いだけは今も変わらず残っている。

いや、他の感情が希薄になっている分、彼への思いは前以上に大きくなっていた。

彼女の思いは土蜘蛛になってからも変わらなかった事から、その思いは既に魂にまで刻まれているのかもしれない。


「それに眷属になって視力を失うのはあなたの額にある8つの目だけです。人としての目には今までと変わらない視力が残るので生活には困らないでしょう。それに眷属になるならすぐに彼の元に返してあげてもいいですよ。あなたの役目は蒼士たちが帰ってきた後なので今はゆっくり力を馴染ませる予定ですから。」


すると沈んでいた白崎の顔が勢いよく上がり月読へと向ける。

しかしこれまでの事からまだ信じ切れていない様で、その目には疑いの色が混ざっている。


「本当に!?」

「ええ、あなたも早く彼に会いたいでしょ。まあ、悩んでもいいですがそれだと彼に会うのはしばらく先になるでしょうね。」


すると白崎の中に光が生まれ彼女は悩む事無く頷いた。

そして姿勢を正して正面から向かい合うと月読に真直ぐな視線を向ける。


「分かりました。あなたの眷属になります。だから私を早く彼の元に行かせてください。」


すると月読はここで初めて笑い体から神気を放出した。

それは次第に高まり、白崎の中に流れ込んでいく。

そして白崎は先ほどまで自分の中に燻っていたドス黒い物が消えていき暖かい物で満たされていくのを感じた。

すると昔のように心が、感情が感じられるようになっていく。

その感覚を感じながら彼女は自然と涙を流した。

そして月読が神気を押さえると白崎の中には月読と繋がる確かな物を感じられるようになった。


「これであなたは私の眷属となりました。あなたの中に残っていた妖気も私の神気で掻き消え人としての感情も戻ったはずです。」


すると白崎は涙を流しながら額が床に付きそうな程に下げお礼の言葉を口にする。


「月読様・・・。どうもありがとうございます!」


すると突然後ろの扉が開き天照が笑顔で入ってくる。

そして白崎を見た後、視線を月読へと向ける。


「月読はいつも説明が足りないのですよ。それでなくても表情が乏しいのですからしっかり説明してあげてください。」


すると天照はいつもの笑顔ではなく呆れた顔を月読へ向けて溜息を吐いた。

その様子に横で見ていた白崎はポカンと口を開けて何も言えず固まっている。

すると月読も負けずと反撃をした。


「それはあなたも同じでしょう。あの少年に持たせた鬼切丸はこの日本では最強の鬼殺しの刀。あれがあって蒼士たちが付いていれば早くて数日後には目的を達成できますよ。」


そう言って月読もクスクス笑って話をしている。

どうやら説明が足らないのは兄妹揃って同じのようだ。


すると白崎も戻って来たばかりの感情でクスリと笑うと次第に胸が軽くなるのを感じる。

そして彼女はここで颯が迎えに来てくれるのを待つ事に決めた。

その運命の時も刻一刻と迫り、彼らの想像を超える速度で現れることになる。




俺達は牛鬼に攻撃を加えても止めは刺さず足だけを切り落としている。

そして颯が動けなくなった牛鬼の首を跳ねて止めを刺しその体に絶え間なく血を浴びさせていく


すると颯は少しづつ力が増しているが体に穢れが付着し精神が蝕まれているのが分かる。

この様子ならやはり100匹に到達する前に理性を持たない魔物に変貌してしまうだろう。

そうなった時は天照と違い俺達では救う方法はない。

その為、俺が定期的に浄化し、冬花が血を魔法で綺麗に落とす事でペースを落とす事なく安全に討伐数を100を稼いでいる。


そしてもう少しで100になろうかと言う所で海から1匹の巨大な牛鬼が現れた。

その牛鬼は他の牛鬼の優に3倍はあり妖気の強さも桁違いだ。

それでも俺と冬花には雑魚も同然。

しかし、颯の討伐数が丁度99になった時。

俺と冬花はこの巨大な牛鬼を最後の仕上げとして颯に任せる事にした。


「周りは俺達に任せろ。最後にこのデカ物を倒して白崎の所に向かうぞ。」


すると颯の目に今までに無い程の闘志の炎が燃える。

そして巨大な牛鬼に向けて一直線に走り出した。

愛は盲目と言うが相手は15メートルはある大物だ。

力の高まりと同時に精神昂っているのだろうがまさか正面から突っ込んで行くとは思わなかった。


「任せろ蒼士。こいつを倒して明美に名前を呼んでもらえる男になって見せるぜ。」


しかし心配にはなるがやる気は今までになく有る様なのでここは言った通りに任せる事にする。

それにここまでに見たあの刀の性能はハッキリ言って異常としか言えないので大丈夫だろう。

なにせ一般人でちょっと体の能力を上げただけなのに牛鬼の首をキュウリでも切るみたいに簡単に落としてたからな。

途中からは相手の攻撃も防御も無視してスパスパ斬っていたので多分大丈夫だろう。


そして、予想は的中し颯は巨大牛鬼の攻撃を軽く剣で切り裂いた。

それには奴も驚いたのか弱点である頭部がガラ空きだ。

颯は巨大牛鬼の懐に入り大きく飛ぶと首を落とし決着は決着をつけた。

それによって100匹切りを達成し、すぐに俺たちの所へと戻って来る。

しかし、見た目は何か変わっているようには見えない。

するとカグツチは久しぶりに右手の指で輪を作り颯の魂を鑑定した。


「うーんと・・・。あ、人でなくなってるな。今のお前は鬼人になってる。多分髪の中に少し出っ張りが出来てるんじゃないか?」


颯はカグツチに言われて頭を触り何かないか確認した。


「あ、ありましたカグツチさん。角みたいな出っ張りがあります。ほんの少しだけですが。」


すると周りの者は一仕事終えた事により肩の力を抜いて息を吐き出す。

ここで一度休憩を入れたいが天照に連れて行かれた白崎が心配だ。

なので目的を達成した俺達は寄り道をせずに天照の元へと向かった。


するとそこには笑顔でお茶をする天照と月読と白崎の姿が目に飛び込んで来る。

そしてこちらに気付いた白崎は笑顔で立ち上がると颯に向かい駆け寄って来た。


「加藤君もう来たんだね。大丈夫だった?」


そう言って前回とは違い加藤の前で立ち止まる白崎。

その様子に少しホッとした顔を見せる颯だが次の瞬間彼は自分から白崎を抱きしめた。


「良かった・・・いつもの明美だ!」


そう言って優しく抱きしめられた白崎はパニックになりながらも暴れる事なく颯の腕の中で首だけをワタワタと動かしている。

その様子をここにいる者は皆、笑顔で見守り次の言葉を待っていた。


「明美・・・。」

「何かな、加藤君?」


颯は少し恥ずかしそうだが真面目な顔で白崎に告げた。


「明日、いや、今から俺の事は颯と呼んでくれ!」


すると白崎は少し口を開きながら迷うような素振りを見せるが最終的に颯の目を見つめて頷いた。


「わ、分かったよ。颯・・君。今日から改めてよろしくね。」

「ああ!」


すると颯は白崎の腋に手を入れるとそのまま持ち上げて嬉しそうにクルクル回りだした。

あるで大人が幼い子供にするような姿だけど白崎はそこまで小さくない。

それを軽々と持ち上げると言う事はそれだけ力も増しているのだろう。


「ちょ、ちょっと危ないよ颯君。下ろして~。」


白崎は真っ赤な顔になりながら懇願するが颯は嬉しそうに回り続け止める様子はない。

それどころか次第に速度まして周囲に風が吹いている。


「大丈夫だ明美。お前は軽くて可愛いから絶対に落とさないよ。」

「もう~、子ども扱い禁止~。」


そう言って白崎は手から糸を飛ばして颯を拘束してしまった。

しかし、使い慣れていない能力を使ったため二人とも巻き込まれてしまうと言う哀れな結果となる。


「きゃ!失敗しちゃった~。」

「ははは、これは助けが居るな。」

「あ!颯君、動かないで。当たってるから!」


そう言って白崎は真っ赤な顔になるが颯は動くのを止めない。

本当にここは神域で神前だと言うのに何をやってるんだか。

結局、最後は俺が糸を切り裂いて解放したけが二人が楽しそうなので10分ほどは放置してから手を付けた。

きっと二人の中もこれから更に進展して行くだろう


そんな中で解放された白崎はそっぽを向いて頬を膨らませ、その横では颯が笑いながら手を合わせている。


「もう颯君のエッチ!」

「ははは、ゴメンゴメン。」

「・・・次は二人だけの時にしてよね。」

「え?今なんて・・・。」

「し、知らない!」

「ええ~!教えてくれよ~。」


そんなラズベリートークが周囲へと広がり俺達から苦笑が向けられる

そして二人は新たな道へスタートラインから一歩を踏み出し険しい道を進み始めるのだった。。

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