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7 ギルト登録

蒼士と冬花がギルドに入るとそこは殺気に満ち溢れていた。


(なんだこの殺気は。前回来た時にはここまであからさまな事は無かったんだが。)


俺は現状が理解が出来ず、冬花は俺にとっての一回目を知らないので気にしていないようだ。


すると冬花は花が咲いたような綺麗な笑顔で俺の手を引くとジェシカの元へと案内してくれる。


「いらっしゃい冬花。その人が昨日話していた大事な人?」


どうやら今回のジェシカは冬花とはとても仲良くしているようだ。

今も互いに笑顔を向け合いジェシカは揶揄い半分に話しを振っている。

しかし、そんなジェシカに冬花は笑いながら首を横に振った。


「違うよジェシカ。」


そのため予想が外れた事にジェシカの頭に?が浮かぶ。

(じゃあこの人は誰?どう見てもこの子の彼氏だよね。)


しかし冬花は顔を赤らめながらギルド中に聞こえる声で爆弾を投下した。


「蒼君は私の旦那様になる人だよ。どんな時でも私を助けてくれるの。」


ジェシカは冬花の斜め上を行く答えに口を開けたまま視線を俺と冬花を行ったり来たりを繰り返し、周りからも一切の音が止んだ。

なので今聞こえてくるのは外の喧騒と彼らの呼吸する粋図解だけだ。


『カン、カラカラ・・・。』


そして誰かがコップを落とした音を合図に一気に殺気と声が爆発した。


「誰だあいつは!いきなり来て彼女を横取りか。」

「くそ、奴を殺して俺が旦那になる!」

「ああ~、もっと早く俺の思いを伝えておけば」

「くそ、もっと早く襲っておけばよかった!」

「酒でも奢って連れ込んで既成事実でも作っておけば。」


すると1つの音がきっかけで後ろから様々な声が聞こえ始める。

そして後半のよろしくない事を言った相手を俺は視線を向けて確認してみる。


(あいつらはああ言ってるが、冬花の記憶では現実で実行に移した奴等だな。)


俺はそいつ等の顔を確認するとそっと冬花にも確認してみる。

あまり思い出したくない出来事だろうが冬花の安全には変えられないからな。


「あいつらの記憶はあるか?」

「え?話した事はあるけどそれだけだよ。」

「そうか、ありがとう。それじゃまずは登録するか。」

「うん。ジェシカお願いね。」


そして、俺は視線を前に戻してジェシカに向ける。

すると前回に見た水晶が既に置かれ、準備が整っていた


「ええ、まかせてそれではこちらの水晶に手を置いてください。」

「ああ、分かってる。」


俺は言われた通り水晶に手を置いく。

前回はそれで水晶は軽く光り、俺のステータス情報を簡単に読み取って表示していた

しかし次の瞬間、水晶はカメラのフラッシュの様に激しい光を一瞬放つとその表面に亀裂が走った。


『ビシビシビシ!』


そして水晶に大量の罅が入りその場で粉々に砕けカウンターの上に山になって広がって行く。

するとそれを見たジェシカは書類を手にしたまま固まってしまい周囲からも再び音が消えてしまう。

そして、冬花はと言うと俺の手を取り真剣な顔で傷が無いかを確認しているようだ。


「大丈夫みたいだね。よかった。私の時も割れちゃうから驚いたよ。」

「そうか。それじゃ、俺達お揃いだな。」


そんな周囲の沈黙を無視して俺達はマイペースに語らい笑顔を向け合う。

しかし、目の前のジェシカ再起動したはいいけど現実を受け止められていないようだ


今も・・・

「おかしいな~。この間届いた新品なのに・・・」とか。

「ラブラブパワー?」とか。

「業者の奴、不良品を買わせやがって。」とか。

色々言っている。


その結果、ジェシカは仕方なく自己申告で確認することにした。


「すみません。こちらの用紙にご自身で記入をお願いします。」


その声に俺はジェシカへと視線を戻した。

普通ならもっと冬花の笑顔を見ていたいが、登録を今日中に終わらせないと逮捕されてしまう。

そうなると逆に冬花を悲しませてしまうので今は断腸の思いであちらを優先させよう。

そして俺は羽ペンを受け取り記入しようとすると横から冬花が袖を引っ張るのを感じた。


「どうした冬花?」


俺は一度ペンを置くと冬花に視線を戻す。


「私が書いていい?」


すると冬花はお菓子をねだる子供のような表情で俺の顔を上目遣いに見上げて来る。

その破壊力はまさに火山が噴火した様なインパクトを持ち、俺は頷く事しか出来なかった。


「それじゃ、お願いしようかな。」


そして、ペンを手渡し用紙の前を空けるとそこに嬉しそうな冬花が滑り込み用紙を記入し始める。

名前を書き、魔力はありに丸を付ける。

しかしそれからは本人しかわからないため冬花は再び俺に視線を向けた。


「蒼君。職業とスキルを教えて。」

「ああ、分かった。」


そしてステータスを開き確認した後に俺はワザと冬花の耳元に顔を寄せると小声で優しく呟いた。

すると冬花は顔を真っ赤にしてペンを握り潰すと俯いてしまった。


ちなみにこの時言った職業は「冬花のナイト」である。

その様子にジェシカはクスクス笑いながら「ご馳走様」とつぶやいていた。


「もう、蒼君、真面目にして!それで剣士で良いんだよね!?」


冬花の言葉は怒っているように見えるが顔を真っ赤にして嬉しそうに笑っているのでまったく怖くない。

俺ももひとしきり揶揄うと真面目に答えることにした。


「ああ、剣士でいいよ。それと魔術師と僧侶を頼む。」


だがその言葉に何故かジェシカは驚いた顔になり身を乗り出すと小声で確認を取ってくる。

しかし、ギルドの顔である受付嬢が顔を引きつらせるとはまだまだ修行が足りないな。


「あの・・・もしかして職業に賢者とかないですか?」


しかし俺はあえて黙っていた事を言い当てられ内心で驚きの声を上げる。

スキルも職業もこの世界に来る直前に確認しただけなのでどれがどのタイミングで取れたのか俺自身は分かっていない。

だから問題なさそうなのを言ったのだが選択を間違ったようだ。


しかし、あちらは確信がありそうなので今回の事は諦めて小さく頷きを返す。

彼女はそれを見て目を見開いたが溜息をついて説明をしてくれた。


「賢者は全ての属性の魔術を扱え、更に複合魔法と神聖魔法を使える人間に付きます。通常、あなたの様に若い方ではあり得ないのですが水晶が割れたのはどうやら不良品ではなかったと言う事ですね。」


だがその時、ジェシカの言葉に聞き逃せない者がある事に気付く。


(若い?俺は35歳の中年のはずなんだが皆には俺が若く見えてるのか?それともこの世界の人間は35歳くらいはまだ若く見られるのだろうか?)


俺は周りを見て手ごろな相手を見つけると確認のためにジェシカに問いかけた。


「ちょっと聞きたいんだがあいつは若く見えるか。」


まずは酒場で水とパンで昼食を取っている15歳ほどの少年を指さす。


「ええ、彼は先日成人したらしく登録したてで15歳らしいですね。」

「じゃあ、あいつは?」


次に指を指したのは自分と同じくらいの男の戦士だ。

顎には髭があり頬には深い傷が刻まれている。

髪には白髪が混ざり、俺より少し上の40代くらいに見える。


「あちらの方はもうかなりの年ですね。この世界の一般の寿命は60歳ほどですから。」


そして、最後は自分に指をさすと年齢を聞いてみる事にした。

先程からの確認でジェシカの常識が俺と大差ない事が分かったからだ。


「じゃあ俺は?」

「あなたはあの少年と同じ位若く見えますが、もしかしてエルフの血が入っていて実はすごく高齢とか?」

「いや、俺は純粋な人間だ。」


すると、横から冬花が鏡を取り出すとそれを差し出して来た。


「どうしたの蒼君。はい、これ。」

「ああ。ありがとう。」


どうやら冬花は女性だけあって鏡を持ち歩いているようだ。

ただアイテムボックスがあれば割れる心配も無いので当然かもしれない。

俺は鏡を受け取るとは恐る恐る自分の顔を映し確認してみる。

そして自分の姿を確認すると大きく溜息を吐いて鏡を下ろした。


(おかしい。俺は18で冬花を失い17年探し続けた。俺の年齢は最低でも35は過ぎているはず。なのにこの顔は18歳の俺だ。もしかして俺は若返ってこの世界に転生したのか?)


そしてもう一度鏡を確認してため息を吐き出した。

やっぱり何度見ても鏡に映っている姿に変化は無さそうだ。

これが魔法の鏡で若い時を映す物でない限りこれが答えなんだろう。


「冬花。すまないが説明は後でするよ。今は手続きを終わらせよう。」

「分かったわ。それじゃスキルを教えて。」

「ああ、剣士と僧侶で頼む。」


そしてジェシカのアドバイスにより職業は剣士と僧侶。

スキルは剣術と魔法のみ記入する事にした。

しかし、この事はギルドマスターには報告しておくとの事なので同業者にはともかく、ギルドの上層部には知られる事になる。


実は冬花も職業・勇者と書いてしまったらしく最初は大変だったそうだ。

しかも水晶が割れた事から信憑性が増し、一部では公然の秘密として扱われている。

さらに3人は知らないが国の上層部だけは魔王が現れた事を神託により把握しているため冬花の事を気にかけている。


そして登録が終わると蒼士はカードを受け取り説明は冬花がすると言う事でギルドを後にしようとした。

しかし、それを待ち構えていたかのように5人の男が俺の前に立ちはだかった。


「おい、冬花。俺たちの誘いは断るのにそんなひょろい奴と組むのかよ。」

「そんな奴とよりよ~、今から俺達と依頼に行かね~か。」

「こっちに付いて来ればいい思いをさせてやるからよ~。」


そう言って男たちはゲラゲラと笑ってこちらに近寄ってくる。

すると冬花は先程までの笑顔が嘘のように冷たい目になり俺の前に出ようとした。

しかし、俺はそれよりも早く前に出て冬花を背中に庇う。


「おい、どけよ。死にてーのか?」

「お前さっきから生意気だな。取り返しのつかない怪我をするまで理解できねーのか?」


男たちは殺気を含んだ視線を向けて脅しにかかってくるが、スサノオとの戦いを生き延びた俺にはそよ風にすら届かない。

俺は男達を前にしながらトラブルを未然に回避するためにジェシカに視線を送る。

するとジェシカはその視線に気が付くと頷きを返して奥へと走り去っていった。

あれで巻き込まれるのが嫌で逃げたのでなければ誰かこの状況に適切な人物を連れて来てくれるだろう。

そして次に俺は冬花に顔を寄せると小声で問いかける。


「この場合どうすればいい?」


すると俺の余裕な表情に冬花も任せてくれるようだ。

それにここで力を示しておけば今後は絡まれる心配が格段に減少すると考えて良いだろう。

所詮、今の俺は実績のないポッと出の若造にしか見えないだろうからな。


「相手が剣を抜いたら殺しても事故として取り扱われるわ。今は相手が素手だから、素手同士なら殺しても事故だよ。でも、正当防衛には相手グループに先制攻撃を譲らないといけないの。」

「一人でも手を出せばいいのか?」


すると最後に冬花は頷いて後ろに下がった。


それを合図に俺は怒りも殺気も抑えて男に視線を向ける。

この男たちは俺の中では既に始末する予定の者ばかりだ。

夜道で襲った者に酒を飲ませて酔ったところを襲おうとした者。

そして強制依頼で冬花と共に町を出て襲おうとした者たち。


俺は目的の幾つかが達成でき、冬花の身の安全が上がる事を思うと自然と顔に笑みが浮かぶ。

だが男たちはそれを自分たちが侮られている。

または馬鹿にされていると感じたらしく激昂して先頭の男が襲い掛かってきた。

俺はその拳を何の構えもなく無造作に顔で受け止める。

そして殴られた事で半歩ほどフラつき、足を踏み締めて目の前の男を睨みつけた。

実はこの時、男の拳の骨は何本か折れている。

だがそれを悟られない様に俺が魔法で治しているので痛みはないはずだ。

そのため男は再び容赦なく拳を叩きつけてくる。

そしてそれを見て蒼士を侮った残りの4人も周りを囲む用にして殴る蹴るの暴行を加始めた。

俺は傍から見れば棒立ちで彼らのサンドバックになっているように見えるだろう。

しかし、コイツ等の攻撃は俺の防御力を突破出来ず、手や足に打撲や骨折を繰り返している。

それを俺が常に回復しているので今の状況となっているだけだ。

そうでなければ今頃は手足が使えなくなり床に蹲っているだろう。


そして俺は横目でジェシカが帰って来たことを確認するとその横の人物にも視線を向けた。

そこには何やら政治家のような雰囲気の初老の男性が立っている。


ジェシカは俺の視線に気付くと僅かに頷いて合図を送ってくる。

どうやら演技はそろそろ終わらせても言い様だ。


俺はジェシカの合図を受けると男達の攻撃を掻い潜り距離を置いた。

男たちは突然の行動に唖然となり、俺の顔や体に目立った傷がない事を確認すると警戒して動きを止めた。

この時に止めていればよくても厳重注意で済んだだろうに。

しかし興奮した奴等に止まるという思考は既に存在しないようだ。

あるのは目の前の生意気なガキを殺してその女を奪うというゲスな考えのみ。


そして俺は奴等が一線を越える様に更にガソリンを投下した。


「フン、雑魚が他愛無い。カスはカスらしく黙っていればいいんだよ。」


するとその安い挑発にとうとう男たちは剣を抜いた。

そのと同時に周りで笑って見ていた野次馬が距離を取り、数人が外へと走っていく。

どうやら衛兵を呼びに行った者がいるようだ。

しかし、逮捕なんて温い結果を俺が選ぶはずはない。

そんな事をして逆恨みでもされては更に冬花が危険になってしまう。


俺は笑みを浮かべ、心には鬼を宿すと腰の剣を抜いた。

そして今まで抑えていた怒り、殺気、魔力の全てを男達へと全開でぶつけてやる。

すると男たちは体を竦ませ顔中に汗を浮かべ始める。

そして呪詛を唱えるようにその罪を告げてやる。


「俺は知っている。お前たちが冬花を傷つけた事を。そして冬花から笑顔を奪ったことをな!」

「こ、こいつ何言ってやがる。頭を強く殴り過ぎたか?」

「そんな事よりやるぞ。一斉に襲い掛かれ。」


すると男たちは恐怖を感じながらも、もう引けないと俺を再び取り囲み始める。

そしてそれぞれの位置に付くと全員同時に剣を振り下ろした。


しかし剣が当たる直前、男たちの視界から相手の姿が消え、代わりに冬花が立つ方向から「キン」という剣を鞘に納めた音が聞こえてくる。

男たちは一斉にそちらに視線を向け、そこに居る俺の姿を確認すると再び取り囲もうと動き出した。


しかし、男たちが大きく動いたとたんに視界が赤く染まり意識が薄らいでいく。

そして、薄れ行く意識の中で自分の血だと気付いた時、男たちは頭頂部から股にかけて真っ二つに切断されて絶命した。

おそらく斬られた者は痛みを感じなかったであろう程の見事な太刀筋。

この時、それが見えた者は冬花を除いて他には誰もいなかった。

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