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69 修学旅行 ②

俺たちはまず定番の清水寺へと向かう。

そして3人で清水道を通り本堂を目指す。

古い街並みを歩くのはいつもと違う気分になれるためただ歩くだけでもとても楽しい。

そして本堂に入り有名な舞台に着くとそこは美しい緑とその後ろに京都の町が見渡せた。


「蒼君天気が良くてよかったね。」


すると冬花ははしゃいでいるのか舞台の端まで行き笑顔で言った。

カグツチもそれを微笑ましそうに見ながら風景を楽しむ。

少し前まで冬花の方がお姉さんと言った雰囲気だったが今はカグツチの方がお姉さんに見える。

変われば変わる物であると少し考えたがそれを起こしたのは自分であるため、その事を思い出して少し笑う。

するとそれに気付いたカグツチがこちらへと視線を向けた。


「何かあったのか?」

「いや、最近カグツチも綺麗になったのと思ってな。」


そしてカグツチの問いかけに素直に返して笑顔を向けた。

すると、途端にカグツチは顔を真っ赤にして顔を俯かせしまい口をモゴモゴしている。

しかし、それも長く続かず不意に俺へと顔を向けると赤い顔に笑顔を浮かべ「そう言ってくれると嬉しい。」と答えた。

その顔に今もドキリと鼓動を跳ねさせるが顔には出さず互いに見つめあった。

その光景は映画のワンシーンのようで舞台を背景に絵になる物だったがここで一人の乱入者が現れた。


「は~い、私もいるんだからね二人で世界を作らないでね~。」


そう言って冬花は俺の腕に抱き付いて抗議を述べた。

それでも俺とカグツチの間ではなくその反対側からというのが冬花の優しさだろう。

そしてカグツチも俺の反対側から腕を組み更に顔を赤くしてしまう。

すると冬花は俺の手を引きカグツチと一緒に笑いながら道を進んで行った。

そして舞台の下にある音羽の滝で水を飲み祈りを捧げる。

特に恋愛成就では冬花とカグツチに挟まれてしまい周りからの目がとても痛かった。

しかし延命長寿の所では逆に深刻な顔で祈る事から周りの老人たちから少し声を掛けられたほどであった。

俺たちは彼らに礼だけ言ってその場を離れたが彼らの顔はあまり晴れなかった。

そして次は気分を入れ替えて金閣寺、銀閣寺を周り嵐山へと向かった。


そして途中で冬花が「舞妓さんになりたい!」と言い出したため可能な店を検索して足を運んでみる。

向かった先は少し古いが歴史のある雰囲気のあるお店である。

俺達が店に入ると客はおらず、店内にはお婆さんが一人だけで椅子に座っている。

しかし冬花とカグツチが店に入ると目つきが変わり急に立ち上がったかと思うと二人の手を取った。


「あんたらこっちにおいで。」


そう言ってお婆さんは返事も聞かずに二人を奥へと連れて行ってしまう。

そして1時間ほどで完璧な舞妓の姿になり俺の目の前に現れた。

それに続いて出て来たお婆さんもやり切った顔をしている。

しかし、その顔が若干何かを企んでいる様に見えるのは気のせいだろうか

まあ、お婆さんの事は置いておくとして、俺は二人に近づくと「綺麗だよ」と声を掛けた。

もちろん、ありきたりな言葉だと分かっているがそれ以外に言葉が見つからない。

しかしお婆さんはそれが気に入らないようだ。


「あんたもこんな可愛い子を連れてるならもう少し勉強しとくんだね。」


俺は心の中で「もっともです。」と頷きお金を払うために財布を出した。

するとお婆さんは手でそれを止め代わりに和傘を取り出し冬花とカグツチに渡す。


「この傘を差して歩いてくれればお金はいらないよ。」


そう言って綺麗な模様の傘だがそれには控えめにこの店の名前と連絡先が書いてある。

てっきり客が居ないので商売っ気が無く趣味でしているのかと思ったら、意外と逞しくて抜け目が無いみたいだ。


「これを差して町を歩いておくれ。時間も気にしなくていいけど今日中には帰って来るんだよ。」


どうやらこのお婆さんは2人を広告塔にしたいという俺の予想は当たっていたようだ。

お金には困っていないが冬花もカグツチも面白そうだと了承し俺たちは店を出て行った。

そして嵐山が近づき人が増えてくると、その目は当然二人の少女に向かう。

しかし、今は男からの視線も多いが断然女性からの視線がキツイ。

女性は二人を見るなり傘に書いてある連絡先を発見し携帯片手に離れて行く者や一緒にいる男性に何かをお願いしている者も居る。

恐らくあのお婆さんの目論見は成功したとみて間違いないだろうが成功しすぎてあのお婆さんの悲鳴が聞こえるようだ。


そしてまず渡月橋を渡りながら周りに見える美しい緑の山々を堪能する。

新緑の緑が美しく秋とはまた違った趣を感じる。

そしてそのまま竹林へと向かうと冬花は横に止まる人力車を指さした。


「蒼君あれに乗りたい。」


そう言って冬花に催促されるままに俺達は人力車に向かって行った。


「すみません大人二人で。」


すると二人を見た若い男が殺到して周りを取り囲んだ。

そして冬花とカグツチを誰が乗せるかで言い争いが始まった。

しかし、そこで彼らの後ろから声が轟く。


「カーーーーツ!」


その声と共に男は全員が黙りゆっくりと後ろを振り向いた。


「馬鹿者が!お嬢さんたちを困らせるんじゃねえ。」


そして彼らを掻き分け齢かさの男が二人の前に姿を現した。

その男の腕は逞しく周りの男とは体つきが一回り大きい。

しかし男は二人の前に立つと頭を下げて謝罪をした。


「すまねえな~お嬢さん方。お詫びに俺がこの嵐山を案内してやるよ。坊主、お前もこの二人の連れだろ。着いてこい。」


そして有無を言わせぬ勢いで周りを黙らせ、男は二人を人力車に乗せ歩き出した。

男はその逞しい腕で車を操り窪みを躱し揺れを最小限にして進んで行く。


「坊主、お前もこんな別嬪さんを連れてるんだ。しっかり面倒見てやれよ。」


そして先ほどのお婆さんから聞いたようなセリフを聞きながら再び「もっともです。」と呟いて進んで行った。

人力車に乗り少し進むと二人は思い出したかのようにたたんでいた傘を開いて広告塔を再開する。

するとそれを見て男は突然笑い出した。


「ははは。お前ら俺の上さんの客だったのか。」


どうやらあの家のお婆さんはこの男と夫婦のようだ。

そして男が言うには若い時に結婚をして、昔から今まで互いの仕事を一生懸命に行って来たらしい。

しかし、お婆さんの店は最近多くの似た店が登場したため観光客は皆あちらに流れてしまったそうだ。

だが、それも昨日までだろうと俺は心の中で呟きを零す

そして男に頼んで記念撮影を行い片道が終わった所で下車してお礼を言った。


「「「ありがとうございました。」」」

「気にするな。俺もあんた達みたいな子を乗せれて楽しかったぜ。」


そう言って互いに言葉を交わし、俺たちは次の場所へと転移して行った。


「あ、そう言えばお土産頼まれてたな。」


そのため急ではあるが京都タワーへと行く事になる。

しかし、向かうのは上ではなくその足元。

そこに美味しい赤福屋があるのだ。


「あ、あったあった。」


そう言って俺は赤福屋の店でお土産を買った。

ここの赤福は甘い漉し餡に包まれた餅が美味しく、両親からのオーダーであるが俺自身も大好物である。


「蒼士、私も欲しいのだが。」


すると、カグツチも欲しいというので数を増やし予備として更に増やす事で結局10箱も購入した。

どちらにしても荷物はカグツチの異空間収納である。

腐らないためいくら買い込んでも問題はないが他のお客の事を考えて個数を控えめにした。


すると今度は冬花が次のお土産屋を指定した。


「蒼君、丁度家で食べるお漬物が切れてるの。だからこの際に京漬物を買って帰ろ。実は二条城の横にいい所があるの。」


冬花の誘導で向かったそこは、昔を思わせる作りの建物だが外観は綺麗であった。

そして中に入ると色々な漬物があり数人の客がどれにするか悩んでいるのが目につく。

俺も何かないかと樽を覗くとそこにはナス、キュウリ、白菜、大根、カブ、緑菜、ゴボウ、ニンジン、沢庵が数種類と並び、更に千枚漬けなども置かれていた。


俺はそれらを眺めていると冬花はお土産用と自分達用をカグツチと相談しながら選んでいく。

そして、それは意外に時間がかかり結局かなりの数を買う事になった。


(俺は二人が作る漬物も好きなんだが。)


そう心で思っていると冬花が寄って来て俺に説明した。


「これからは暑くなるからお漬物の管理が大変なの。だからここで美味しい漬物を買っておけば匂いも出ないから家が臭くならないんだよ。」


冬花は俺の心の声を言い当ててカグツチの元に戻って行った。

そして最初は心を読まれた事に驚いたがすぐに苦笑を浮かべ納得を示す。


(まあ、食に関して俺は役に立たないからな。二人に任せよう。)


ある意味で胃袋を完全に掴まれている俺は諦めて二人の買い物を待った。

そして買い終わり店を出ると次は二条城に向かって行く。


そして敷地内に入ると中にはそれなりの人がおり、俺たちはゆっくりと歩いて行った。

しかし少し行くとカグツチが袖を引き何かを知らせる様に顔を向けた。

そして、その理由は俺と冬花も既に気付いている。

どうやら折角の修学旅行だというのにお客さんのようだ。

そのため周りからは人がいなくなり俺達だけとなっている。


「おい、折角の思い出作りなんだ。邪魔しないでくれ・・・天照。」


すると俺たちの前に二人の神が現れた。

1人は先に告げた天照。

もう一人は月読である。

そして天照はいつもの様な笑顔を浮かべ、月読は瞳を閉じて無表情にしている。

そしてその対照的な顔をこちらへと向けるといつものように天照が話し始めた。


「奇遇ですね。まさかこんな所で合うとは。」


そして、驚いている様な表情を浮かべ、月読と揃って口元に手を当てている。

しかし、言ってはなんだが二人とも大根役者な様で、どちらも顔が全く驚いていない。

なので俺は顔の前に手を持って行って左右に振った。


「嫌々どう見ても神為的だろこれ。この世界の何処に修学旅行中に神に会う高校生がいるんだ。」


俺は即座に突っ込みを入れて天照の言葉を否定する。

そんなのは小説か漫画の中だけにしてもらいたい。

すると天照は苦笑を浮かべて溜息をつくと用件を話し始めた。


「まあ、その通りですが。今回はあなたにも関係がある事なのですよ。」


すると途端に俺達は真剣な顔に変わり天照の言葉に耳を傾ける。

別にこれはコイツを信用しているからじゃない。

今までの事で天照は自分の目的の為なら犠牲を厭わず、簡単に何も知らない他人を巻き込むと知っているからだ。

コイツが俺に関係があると言うなら関係者が巻き込まれたか、巻き込んだんだろう。

どちらにしても天照から言わせれば一緒の事だ。


「先程伏見の稲荷から連絡がありました。この京で巨大な妖が復活したと。そして月読はそれに君のお友達が巻き込まれるのを見たそうです。どうしますかこの依頼を受けますか?」


すると俺は即座に携帯を取り出し加藤に連絡を入れた。


(どうした蒼士?)

「今どこにいるんだ!」


普段と変わらぬ加藤の声に俺は急いで場所を問いかけた。


(???。どうしたんだ急いで。もしかして別行動がバレたのか?俺たちは今伏見に・・・。)

「おい、どうした加藤!」


そして言葉の途中で通話は途絶え電子音のみが鳴り続く。

俺は天照を睨むと急いで話を促した。


「今回の相手は何だ!?」

「今回の相手は土蜘蛛です。急いだほうがいいですよ。土蜘蛛は男は餌に女は苗床にします。」


そこまで聞いて俺はカグツチへと視線を向けた。

そして俺達は即座に私服に着替えると転移を行い伏見稲荷へと飛んだ。

その様子を天照は笑みを途絶えさせる事無く見つめて月読へと問いかけた。


「今回はどうですか?」

「確実に成功します。」


その声に天照は頷くと二人そろって消えていった。

すると二人が消えた事で術の効果が消え、その場所には再び通常の風景に戻って行く。


そして伏見稲荷に到着した俺たちは即座に山の異変に気が付いた。


「これは、何かの結界か?」


俺は山を包むように存在する薄黒いドームを見て感じた事を口にした。


「おそらく外との連絡を絶ち人の感覚を惑わせる類のものだな。」


俺は結界に触れながらそれを分析しカグツチが肯定を示す。

それに出入りには問題がないようで、今も何人もの人がこの結界を出入りしている。

しかし、俺は携帯を操作して顔を歪ませた。

いまだに加藤とは連絡が付かず鳴らしても電波が届かない。

なので俺たちは警戒しながら中へと入って行った。


「中は普通だな。」

周りを見回し警戒しながら鳥居を潜り進んで行く。

例え邪神を倒したとしても相手は人間ではないので油断が死に繋がる可能性もある。

敵が死に絶えるまで気を緩めるつもりはない。


「きゃああああーーーー。」


すると突然女性の悲鳴が響き渡る。

その悲鳴に気付いた俺たちは今も声の響く方向へと走り出した。

すると歩道のすぐ横で蜘蛛の巣に囚われた女性が一人、必死に振り解こうと暴れている。

しかし、逆に蜘蛛の巣が絡まり身動きが出来ない状態になっていった。

だが、目の前であれだけ女性が声を出しているのに周りは何も気付いていない様に通り過ぎて行く。

この異常な光景に誰もが視線すらも向けていない。


「誰か、誰か助けてーーー!」


そう言った彼女のすぐ目の前を一人の男が通り掛かる。

しかし男は隣の女性と笑い、声も姿も無視して歩き去って行った。

それでも女性は諦める事なく動き叫び続けるがそれに答える者は一人もいなかった。


「お願いだから誰か気付いてよ・・・。」


次第に涙を浮かべ懇願するようになる女性。

すると樹上に巨大な影が差し、女性の前に4メートル以上はある蜘蛛の妖、土蜘蛛が降り立った。

それを見た女性は半狂乱になり叫び声を上げる。


「な、何なのコイツ!だ、誰か、誰か助けて!イヤ、来ないで。イヤーーーー!」


すると、土蜘蛛は女性に更に糸を飛ばして女性を繭のように包むと芋虫のように動くそれを持ち樹上へと消えていく。

その様子を俺たちは見つからない様に影から見つめ土蜘蛛の後を追って行った。

そして土蜘蛛は参道から外れた斜面にある穴へ着地すると中へと入って行く。

俺たちもその後に付いて土蜘蛛を追い真っ暗な穴へと突入する。


穴の中は少し進むだけで日の光は届かず、暗闇に包まれているが俺達はそれぞれの力で闇を見通し昼間と変わらぬ視界を維持して進んで行った。

そして100メートルほど進むとその先には広い空間に行きつき足を止める。

その空間をそっと覗き込むとそこで土蜘蛛は連れて来た女性を壁に固定し、繭の表面へと何かを産みつけた。

それは遠目から見れば黄色く長細い虫の卵の様なもので大きさは30センチ程ある。

そしてそれを産みつけると土蜘蛛は他に何もする事なく離れ、出口があるこちらへと戻って来た。

俺たちは周りを見回すが隠れる所は無くこのままでは鉢合わせしてしまうのは確実だ。

それならばと剣を抜くと通路から飛び出し土蜘蛛へと切り掛かった。

俺達は3方向に広がり俺を中央に左がカグツチ、右が冬花である。

するとまずは冬花が土蜘蛛へと切り掛かりその足へと剣を振り下ろした。


「ぎゃぎゃーーー。」


すると冬花の剣はあっさりと土蜘蛛の足を切り飛ばして相手の移動力を削いでいく。

しかし、今の俺達なら余程の相手でなければこんなものだろう。


「蒼君この子凄く脆いよ。」


それに冬花は前回の邪神戦を思い出している様で斬り応えの無さに驚いてる様だ。

しかし、それは仕方のない事だろう。

強力と言っても所詮は妖で邪神とでは強さの次元が違う。

もし、これが邪神戦の前ならばもう少し歯応えがあっただろうが、スキルを手に入れた俺達には既に敵になりえない。

しかしそんな俺の脳裏にフと疑問を感じた。


(なんでこんな奴の相手をするのに天照と月読が一緒に来たんだ?)


しかし、疑問は最後まで晴れる事なく呆気なく土蜘蛛を始末し討伐を終了した。

そして卵を破壊し繭に囚われている人々を救い出すとカグツチが記憶を消して参道の近くに送り届けた。

その際、助けた者達の中に加藤と白崎がいなかった事を確認して俺と冬花は胸を撫で下ろした。

そして、参道を下りていると偶然、加藤と白崎に出くわし急いで声を掛ける。


「加藤!」

「よう蒼士。ここに来てたのか?」


加藤はいつもの調子で返事をしている。

どうやら何も無かったか思っていると。


「いや~参ったぜここの参道で巨大な蜘蛛の幻覚を見てよ。つい二人で気を失っちまったんだ。目が覚めると何もいなかったんだけどな。」


そして俺は白崎の顔を確認すると確かに朝見た時よりも顔色が悪い。

それに何やら怯えているように僅かに肩を震わせている。


すると加藤は白崎の傍に向かいその手を握って笑いかけた。


「大丈夫だって。でも今日は疲れたからそろそろ旅館に帰ろうぜ。蒼士たちはどうするんだ。」


加藤は白崎の事を心配し帰る事にしたようだ。

俺もどうするか一瞬悩んだがまだこの伏見稲荷をちゃんと周っていない事を思い出して首を横に振った。


「俺達はもう少しここを見てから帰るよ。お前らも一度倒れたなら気を付けて帰れよ。」


そう言って俺は二人を送り出して冬花たちの元へと戻って行った。

やっぱりあの程度の魔物にあの2人が来たのがどうしても気になる。

不穏な気配は感じないが念のために見回りをして帰ろう。

もしかするとまだ何か潜んでいるかもしれないからな。


「一応ここの観光もかねてもう一度見て回ってから帰ろう。」


俺の提案に冬花とカグツチは頷いて答え、腕を組むと気配を探りながら山へと登って行った。

しかしこの時は何も発見できず探索を終えるが一つの事を見逃していた。

それは後になり一つの事件をもたらすが、それを知るのはごく一部の神だけである。

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