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67 死闘の先に

俺と冬花はスサノオに連れられ何処かの島に転移していた。

そこには草木一本生えていない不毛の大地が広がり周りは海に囲まれている。


「スサノオ、ここは何処なんだ?」


俺は隣のスサノオへと場所を聞いてみる。

すると彼は口を歪めて僅かに笑った。


「ここは俺達が邪神を討伐する際にいつも使ってる島だ。それに異界の邪神がここに現れる様に世界でここの上空だけ空間を歪めてやつらが入りやすくしている。そしてここは周りを神々の力で覆ってるから逃げられる心配もないし人間からは見えない仕組みになっている。だから存分に暴れても大丈夫だ。」


そう言ってスサノオは剣を抜き空を見上げた。

俺たちもその視線を追い空へと目を向けるとそこに突然巨大な気配が沸き起こる。

そして空間に巨大な亀裂が生じ、そこから黒いオーラを放つ禍々しい人の形をした者が現れた。


「ぎゃぎゃぎゃーーーー。」


そして理性を感じさせない声を周りに放ち、それは亀裂を飛び越え島へと飛び降りた。


「蒼士、冬花。あれが邪神だ。この世の全てを呪い周りに呪詛を振りまく。大半の者には理性が無く会話もできない。気を引き締めて行けよ。じゃないと命の補償はしねえぞ!」


そう言ってスサノオは邪神へと走り寄り剣を振り下ろした。

その一撃は邪神の体を切り裂き、黒い血を流させる。


「ぎゃぐぎがーー!」


切られた邪神は悲鳴を上げ怪我を負わせたスサノオを睨みつける。

しかし切られた場所は瞬時に再生され邪神もスサノオへと攻撃を開始した。

それは武器を持たない獣の様な攻撃で爪を振るい牙を剥く。

時に自身の黒いオーラを纏めて固めるとそれを放って来た。

それらをスサノオは余裕で躱し、捌き、そして隙をついて反撃をした。

しかし、その余波は凄まじく俺や冬花ではそれだけで近づく事さえ難しい状況に立たされていた。


スサノオはそんな蒼士たちを見て。

(やっぱ、まだ早かったか。でもこの機会を逃せばいつまたチャンスがあるか分らん。ここは命を賭けてもらうぜ。)


そしてスサノオは剣を振り邪神をワザと弾き飛ばすと俺たちの後ろへと飛んだ。


「蒼士、冬花。見てるだけじゃ何も掴めないぞ。今からはお前たち二人でそいつの相手をしてみろ。」


その途端に俺と冬花は邪神を前にして体中から汗が噴き出した。

もちろんここに立つまでには厳しい訓練を積んでいるし何度も死にかけた事もある。

しかし、俺達は未だにスサノオを本気にさせた事が一度も無い。

それに、この邪神と向かい合った時それらとは違う何か得体のしれない恐怖を感じた。


それは自分達とは絶対的に違う存在に対する絶大な恐怖と言えば良いだろうか。

それらが俺たちを縛り、動きを著しく低下させている。

しかし、これは神と戦うならば避けては通れない試練だ。

恐らくはこれを突破できなければ俺達に明るい未来はないだろう


そしてそれを最初から知っているスサノオは今は静観に徹いる。

すると邪神は二人に目を向けると御しやすい相手と判断し、ニタリと顔を歪めて笑った。

そして獣のように駆け寄り長く鋭い爪を振り下ろした。


「ぐうううーーー」

「きゃあーーー。」


俺はその一撃を剣で受けるが受けきれず後方へと弾き飛ばされる。

それは冬花も同じでまるで風に吹かれる木の葉のようだ。

初めて邪神の一撃を受けたがここまでの力の差があるとは思わなかった。


「くそ、なんて力なんだ。」


しかし、それでも助ける者は誰も現れない。

そのため俺達は生き残るために剣を手に突撃を仕掛けた。

そして俺は左から、冬花は右から剣を振り下ろす。

しかし、その渾身の一撃は邪神は爪ではなく掌で受け止めると同時に蹴りを放った。


「ぐふーー」

「かはーー」


俺達は相手にとっては遊びの様は蹴りを受けると後方へと大きく吹き飛ぶ。

そしてそれを追う様に邪神は俺へと向かってきた。


「冬花、こいつの狙いは俺だ後ろに回り込んで攻撃しろ。」


そして地面に足が着くと同時に冬花へと指示を出す。

冬花もそれに従い素早く地面を蹴って横に飛ぶと邪神の後ろに回り込んだ。

しかし、ここで邪神は完全に俺をターゲットにして攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃は苛烈を極め一撃ごとに体に深い傷を刻む。

そして、邪神の後ろでは剣を振り邪神に切りつける冬花がいるが彼女の攻撃は邪神の皮膚すら切り裂けずにいた。


「蒼君、攻撃が通用しないよ!」


冬花は焦りの声を上げ叫ぶ様に伝えて来る。

俺と冬花の実力は今ではそんなに差がある訳では無い。

その攻撃が通用しないとなると俺が全力で攻撃を放ってもダメージにすらならないだろう。

それ以前にこんな攻撃を冬花に向かわせる訳には・・・。


その頃には俺の体はいたる所を切り刻まれ片腕は失い、血をまき散らしていた。

そしてその腕はと言うと、邪神の口内で咀嚼され胃へと飲み込まれていくところだ。

その直後、限界が訪れた俺はその場に倒れこんでしまった。

見ればいつの間に足も深く切り裂かれたようでそこからは大量の血が流れだしている。


「蒼君!」


冬花は倒れた俺に目を向けると位置を移動し邪神から庇う様に剣を構えた。

すると邪神は俺への攻撃を止め今度は冬花を攻撃し始めた。

その途端、冬花の体にも傷が刻まれていき、それはまるで遊んでいるようである。

そのすぐ後ろに居る俺は庇ってくれている冬花の血飛沫を体に浴びながら、ただ見詰める事しかできない。


(クソーー、動け!動け俺の体!何のために力を得たと思ってるんだ。今動かないでいつ動くんだ!!)


俺は潰れて声の出なくなった喉を鳴らして全力で叫んだ。

そして目の前で傷付いていく冬花を見つめ何も出来ない自分を呪った。

すると冬花もとうとう限界が訪れその場に膝を付いてしまう。

その姿は俺より酷く、片目は潰れ両腕も失っている。

すると邪神は醜く顔を歪めると冬花を手に掴み持ち上げた。

そして一気にその服を切り裂いて裸体を晒し笑い声をあげる。


その時邪神は俺に顔を向け悍ましい笑顔を向ける。

それだけで俺はこれから何が行われるかを感じ取った。

邪神は冬花を両手に握るとゆっくりと体から新たな手を生やし鋭い爪を伸ばす。

それを冬花の晒された胸に押し当てゆっくりと心臓に向かって押し込み始めた


(やめろ・・・、やめろーーー。クソ、スサノオは何してるんだ。動け。動けーーーー。)


するとその瞬間世界がセピア色に変わり時間が止まったように動きが止まる。

そして彼の前に一人の男が現れた。


「よう蒼士。苦戦してるなー。」


そう言って俺の前に現れたのは自分自身であった。


「お前は誰だ?」

「俺は未来のお前だよ。」


そう言って未来の俺はクククと笑った。

その姿は俺とは別人の様で映像にあった俺とも違っている。

もしかしてあれからさらに何かがあったのか!?

そして、未来の俺は暗く笑いながら言葉を続けた。


「今回百合子たちの頑張りで歴史が変わり俺はこっちに帰って来れた。だが、帰って来たのは俺一人だ。」


その途端、今の俺は目を見開き未来の俺を見つめた。


「この戦いの目的はスサノオの加護の覚醒と神殺しをお前たちにさせる事だった。これによりあちらに行った時にスキルとして神殺しが付いていればかなり戦いが楽になる。」


しかし、未来の俺は溜息を付いて冬花を見た。


「しかし、結局計画は失敗。冬花はもうじき心臓を貫かれて死にかける。それに覚醒も出来ず神殺しも手に入らなかった。」


その言葉に俺は冬花に視線を向ける。

しかし、動かぬ体、かなわぬ敵。

何処に行っても行き止まりな状況に俺は絶望を感じた。

しかし、目の前で未来の俺は力強く叫んだ。


「だから俺が来たんだ。今の俺は魂を最小限にしてここに来た。だからお前に力を渡せばお前の中で俺は消える。それに幾つかの記憶も持って来た。ハッキリ言って今のお前には覚悟が足りない。だからこれを見て覚悟を決めろ!」


そう言って未来の俺は俺の体へと入って行く。

するとその瞬間、巨大な憎しみと悲しみが巻き起こった。

それは冬花を守れなかった後悔。

そしてこの時、未来の俺の記憶が現在の俺へと流れ込んでくる。


俺は今のように動かぬ体で最後までその瞬間を見ていた。

戦いは既に決しかけている。

仲間は全て倒れ冬花も満身創痍だ。

そんな中、冬花は俺に笑顔を向け魔王へと走り出し、魔王へとその体と魂をぶつけ激しい光に包まれる。

そして冬花が消滅した後、魔王も消滅したかに思われた。

しかし、そうはならなかった。

魔王は冬花の自爆に耐えきり再び立ち上がった。

しかし、それを見た俺はようやく覚醒し弱り切った魔王を殺した。

これにより俺は大事な者を失い遅すぎるスキル覚醒と神殺しを得た。

そして日本に戻るとカグツチにある事を頼みその場で首を跳ねた。

するとカグツチは泣きながら最後の頼みを聞き、魂を切り刻んでそれを今の俺に送ってくれた。


未来の結末を知った俺は心の底から吠えた。

愛した女を泣かせた自分に腹が立つ。

守れなかった自分を嫌悪する。

今の弱い自分を憎悪する。

そして目の前の冬花を汚そうとする邪神が憎い。


そして今、俺は彼方の世界に行くまで手に入らない筈の職業とスキルを手に入れた。

その瞬間、世界は再び動き出す。

まずは瞬速再生で体を治療し立ち上がった。

するとそれを見た邪神は冬花を投げ捨て秋田玩具にでも手を伸ばす様に緩慢な動きで爪を振るった。

しかし、俺はそれを何とか受け止めスキル覚醒を使用する。

すると心にマイナスの感情が溢れ出しその心を闇に染めていった。


「ぐう、怒りが沸き起こる!心が・・怒りに染まる・・・。」


すると次の瞬間、俺の心は怒りに呑まれ邪神を弾き飛ばした。

そしてその刃は邪神を次第に切り裂き先程とは違い形勢は完全に逆転する。

しかし、その攻撃は荒々しく、理性を感じさせない物へとなっていた

しかも体には限界を超えた負荷がかかり、骨は折れ筋肉は破裂を繰り返している。

それをスキルの瞬速再生が癒し、今の形勢をギリギリで維持していた。


実はこの覚醒とはスサノオの加護を極限まで引き出す事である。

その真の加護とは怒りによる無限のブースト。

そのため今の蒼士は先程迄の怒りが暴走し制御できない状態になっていた。


俺は剣を振るい邪神の腕を飛ばし足を落とし体を切り刻む。

しかし、それでも邪神は次第に再生し傷を回復させる。

すうと突然一つの光が現れ俺の中に飛び込んできた。

そしてその光は俺の中にあるの二人の蒼士の魂へと語り掛けた。


「蒼君・・・。蒼君・・・。」


それは今は聞こえない愛しの少女の声。

それを聞いて二人の蒼士の魂が目を開ける。


「と・う・か・・・。冬花なのか!?」


いち早く反応したのは消えかけている未来の俺だ。

彼は冬花に顔を向けるとその目に涙を流した。

そして目の前の冬花は今と似ているが少し女性らしさが増している。

恐らく彼女は消滅したはずの未来の冬花なのだろう。


「冬花、君は魔王との戦いで消滅した物と思っていた!」

「そうだね私もそう思ってたんだけどカグツチが私の魂の残骸を集めてくれたの。だからここにいるのは残留思念位の力しかないかな。」


そう言って今と変わらない優しい微笑みを浮かべる。

しかし、その笑顔は今にも消えそうで儚さを感じる。


「蒼君。だからお願い。怒りを抑えて力を制御して。蒼君ならその方法を知ってるでしょ。」


すると未来の俺は笑顔を浮かべ頷くとこちらへと叫んだ。

この変わり身の早さは未来も今も変わらない様で安心する。

それでけ未来の俺も冬花を愛していたという事だからな。


「蒼士。怒りを抑えるのは俺達にとっては簡単だ。冬花を思え。そしてカグツチを思え。あいつらと過ごした楽しい時間を、護る気持がスキルを制御するコツだ。スキルに使われるな使いこなせ!」


そして俺はその言葉の通りに思い出す。

3人で楽しんだ思い出を。

入学式、隣同士の席、修行の日々に、先日のプール。


すると目の前の未来の自分がポツリとこぼした。


「そう言えば冬花とカグツチとベットで愛し合ったのはこの数日後だったな。」


すると突然、俺の目に炎が宿り雄叫びを上げた。


「うおおおおおーーーーー!なんでそれを早く言わないんだーーーーー!!」


その瞬間、暴れる様に戦っていた俺の目に光が戻り理性を取り戻した。

そして冬花の魂は笑顔を浮かべ「また一緒だね。」と言って倒れている冬花の中に消えていく。

きっと彼女もこの時間の自分と同化する事を選んだのだろう。

するとその途端に冬花にも劇的な変化が起きる。

自分の魂を取り込み職業とスキルに目覚めた彼女は職業に勇者が、スキルに蒼士と同じ天才が付きその力を格段に成長させる。

そして失った腕も傷も再生して立ち上がった。


「蒼君。未来の私からは事情は聞いたよ。今なら此奴を倒せる!」

「それなら止めは冬花が差すんだ。俺は既に神殺しのスキルがある。次はお前だ!」


そう言って俺は理性を取り戻し覚醒と同時に神殺しのスキルも発動する。

するとその後に邪神に付けた傷の再生が止まりその傷は次第に増えて行った。

俺と冬花は先ほどまでの劣勢が嘘のように互角以上の闘いをしている。

邪神が爪を振ればそれを剣で逸らし、又は受け止める。

そして、その出来た隙をついてもう一人が攻撃を仕掛ける。

そしてとうとう最後に瀕死の状態の邪神を一刀両断し冬花は職業とスキルに神殺しを手に入れた。


すると俺達の前に天照たちが転移して現れた。

その中には当然カグツチや月読も含まれる

そしてカグツチは俺の胸に飛び込み涙を流し始めた。


「すまない蒼士。助けに行きたかったが止められてしまって・・・。」


そう言いって何度も謝ってくる彼女の頭を撫でてやりながら優しい笑みを向ける。


「気にするな。力の制御が出来たのは冬花とお前のおかげだ。ありがとう。」


するとカグツチは涙を拭いて笑顔を見せてくれるとその額を俺の胸に当てて「良かった。」と呟いた。


そして俺は次に天照たちへと鋭い視線を向ける。

今回の状態はかなり危なく、彼らは冬花を見捨てていた。

今は未来からもたらされた魂の記憶がある。

彼が来なければ確実に冬花は目の前で慰み者にされてたことだろう。


しかし、天照は苦笑を浮かべるのみで何も言わない。

すると横にいる月読が先に今回の件について説明を始めた。


「実はああなる事は途中から見えていました。そのため我々は手出ししなかったのです。」


月読は表情筋を一切動かす事なく、簡潔な説明を行った。

しかし、こんな説明で冬花の事で納得するほど俺は出来た人間ではない。

すると天照が間に入り話に割り込んでくる。


「まあ、今回はそういう事だから許してくれないか。君たちには後日、ちゃんとした報酬を払うからさ。」


俺は仕方なく不機嫌ではあるが自分の力不足が大きな原因なため、今日の事は水に流す事にした。

そして全員が家に帰って数日後、天照からの報酬が届いた。


「まさかこんな物を寄越すとはな。」

「そうだね。でもこれこそ愛の巣だよ。話によれば中は見た目よりもずっと広くなるようにしてくれてるみたいだし。これならカグツチを呼んでも問題ないよ。」


そして俺と冬花は目の前の家を見上げ互いに喜び家を見つめる。

すると後ろから二人に声を掛ける者が現れた。


「蒼士、私もここに住んでもいいか?」


そう言って来たのは何やら暗い顔のカグツチである。

どうやら彼女は今来たばかりで冬花の話を聞いていなかったようだ。

しかし俺達はカグツチの傍に行くと左右から優しく抱きしめた。


「当然だろ。お前がいないと俺も冬花も寂しいだろ。」

「そうだよ。一緒に蒼君の傍に居よう。」


するとカグツチは少しはにかみながら頷いた。

そして3人で家に入ると自分の部屋を決めて荷物を運びこんだ。

ちなみに家具もかなりそろっているので最低限必要な物を買い足せばすぐに住む事が出来る。

それにやっぱりと言うか今回も宝くじを当てているので資金も十分にあり、あちらに行っている間の管理は任せてもいい事になっていた。


だがここである一つの問題が発覚した。

冬花は料理が得意でなぜかカグツチも料理が出来る。

しかし、今の俺は全く料理が出来ず台所を破壊してしまう程の料理音痴になっていた。

いや、クッキング・デストロイヤーと言っても良いかもしれない。

何処の怪獣映画だよと言いたい気もするが久しぶりに台所に立つとそうなっていたのだから仕方ない。

俺自身がその現実に困惑しショックを受けている程だ。

そのため俺さっそく修復スキルのお世話になり何とか破壊した台所を治すことが出来た。

そうでなければ新築で新品のキッチンを破壊した事で冬花からどんなお叱りを受けていた事か・・・。


(未来の俺、ありがとう。)


この事件により俺は台所から追い出された挙句、立ち入り禁止となってしまった。


しかし、料理が出来ない事を彼女たちは文句どころか喜び、毎日美味しいご飯を作ってくれている。

そして冬花とカグツチが料理を作ってくれるので俺は建築スキルで家具などを作り二人に送るなどしてバランスを取っていた。

そして季節は冬となりもうすぐクリスマスである。

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