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66 二人の思い

俺はカグツチを助けた後、泣き止まぬ彼女を連れて冬花と共にプールを後にしていた。

そして冬花と俺は予約していたホテルに入るとそのまま部屋へと入って行く。

部屋はそれなりに広いが当然、冬花とカグツチとは別々の部屋を取っており彼女たちは隣の部屋で寝る予定である。

しかし、今は泣き続けるカグツチの為に3人が部屋に揃っていた。


すると冬花は少し離れ備え付けのお風呂にお湯を張り始めた。

ここは冬花が予約をした部屋で部屋も広いがお風呂も広い。

そして浴室から出て来た冬花は俺にお風呂へ先に入る様に言って来た。


「蒼君、カグツチは私が見てるから先にお風呂入って来て。私達は後で入るから。」


俺はカグツチへと視線を向けるが今は出来る事が無く、ここは女性同士の冬花に任せる事にした。

そして浴室に向かい服を脱ぐとシャワーを浴びて体の汚れを落とし浴槽に浸かった。

すると落ち着いた事で先程の事を思い出し奥歯を強く噛みしめる。


(クソ、俺がもっと早く動いていれば!)


俺は強い後悔を胸に感じ痛みに耐える様に目を瞑った。

すると頭の中に先ほどのカグツチの泣いた顔が浮かび胸をさらに抉る。


(ああ、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。昔は冬花が泣く度にこんな気持ちになってたな・・・。)


そしてこの時、俺は自分の思いに気付き目を見開いた。


(そうか、俺は・・・カグツチの事も・・・。)


そう考えた時、脱衣所から布の擦れる音が聞こえた。

それはとても小さな音だったが静かな浴室にはハッキリと聞こえる。

最初は服を着替えに来たのだろうと思ったがなんだか様子がおかしい。

服を着ようとしないし体に大きなバスタオルを巻いている。

そして俺が視線を向けていると擦りガラスの向こうに人影が近付いて来た。


俺はその人物が誰であるのかは既に分かっていたが何も言わずそのまま待ち続けた。

すると引き戸を開けてカグツチが浴室へと入って来る。

彼女は体にバスタオルを巻き俯いたまま浴槽に入ると俺の隣にそっと並んだ。


そして、何も言わず互いに黙ったまま時間だけが過ぎて行った。

しかし、その沈黙を破る様にカグツチはポツリポツリと少しずつ話し始める。


「今日のために、蒼士に秘密で水着を買いに行ったんだ。でもどんなのがいいか分からなくて悩んでると冬花が選んでくれた。そして私と色違いの水着を一緒に買ってくれたんだ。あの時はなんだか凄く安心した。」


するとカグツチははにかむ様な顔をして膝を抱える。

俺は以前にカグツチから聞いたが、彼女が人間の社会に深く関わるのは今回が初めてらしい。

その為、冬花が色々と世話をして常識を教えたり、世話を焼いたりしている。

もちろん俺も色々とサポートしているが今回の事は完全に俺の油断と不注意だ。

俺がもっと早くに動いていればこんな事は起きず、カグツチも今日の思い出を涙で終わらせる事も無かったはずだ。


「それに今日は蒼士が背中にオイルを塗ってくれた。最初は怖かったけどお前の手の温かさが気持ちよくて胸が凄くポカポカした。それにウォータースライダーの時。お前を背中に感じられた時は心臓が口から飛び出しそうな程ドキドキした。でも同時に蒼士も私を意識してくれてると分かって凄く嬉しかった。」


そしてカグツチは膝に額を当てると肩を抱いて震え出した。

俺はそれが嫌で咄嗟にその小さな細い肩に手を伸ばし自分の胸に抱き寄せる。

こういう時は男に出来る事は少ないと実感する瞬間でもあった。


「でもお前以外の男に体を触られた時、凄く嫌だと思った。まるで泥沼の中のように不快で汚された気がしたんだ。その瞬間、蒼士が凄く遠くに行ってしまう様に感・・・。」


そしてカグツチは大粒涙を流し始め俺の胸に顔を埋めた。

涙は水面に落ちて水音を上げ不規則に波紋を作る。

俺は苦い物が口いっぱいに広がるとカグツチの体を強く抱きしめた。


「蒼士・・・蒼士ーーー。もっと強く抱きしめて!あの時の記憶が消えるほど強く!!」


そう言ってカグツチは体を覆うタオルが外れるのもいとわず、背中に手を回して腕に力を込める。

そして、二人は生まれたままの姿で互いに抱き合い温もりを確かめあった。

すると次第にカグツチも落ち着きを取り戻し腕の力をゆるめていく。

そして俺もそれに合わせる様に抱きしめるのではなく包み込む様に力を緩めた。


するとカグツチはここに来て初めて俺に視線を向けてくれる。

しかし、俺から見たカグツチの瞳はまだ不安と悲しみに染まっている。

だがこの時の俺は先程のカグツチの話を思い出し行動に移した。

俺はカグツチの細し腰を両手で掴むと彼女を持ち上げる。


「な、何をするのだ蒼士。その、見られて嫌ではないが・・・心の準備が・・・。」


そして恥じらうカグツチを無視してウォータースライダーの時の様に自分の足の間へと彼女を座らせた。

そして腕は肩ではなく後ろから腰を通して彼女のお腹を支える様に抱きしめる。

すると途端にカグツチは顔を赤くしてしまうが暴れる事なくなりそのまま身を委ねてくれる。

そのため、俺の胸にはカグツチの背中が当たり、その鼓動は直にカグツチへと伝わる様になった。


「背中に・・・蒼士の鼓動を感じる。」


そう言って更に体の力を抜いて俺に身を委ねてくる。

そしてその鼓動が次第に激しくなるのを感じた彼女はこちらに視線を向けてニンマリと笑った。

そこには先ほどまでの悲しみと不安の影は無く何処か猫の様な印象を感じる。


「どうしたのだ蒼士。胸が高鳴っているぞ。」


カグツチは揶揄う様な顔で言っているがその表情を笑顔に変え、俺の手を取って自分の左胸へと押し付けた。


「カグツチ!?」


しかし俺は咄嗟に手を放そうとするが彼女の手がそれを許さない。

そしてカグツチはその手を両手で包み思いを口にする。


「私もさっきからドキドキが止まらないんだ。でもこのドキドキはとても心地いい。お前だけだな。こうして触られても幸せな気分になれるのは。やはり私もお前を愛してしまったようだ。」


その告白に俺は驚く事無くカグツチを見つめた。

今のカグツチは体を無防備にさらし俺に全てを委ねている。

未来の俺ならともかく今は超鈍感系主人公ではない。

今はあくまでただの鈍感系主人公にランクダウンしているのだ。

そのためカグツチの思いにも当然気付いてはいたし今日の事で自分の思いにも気付いている。

そして俺は一度大きく深呼吸をするとその思いに答えた。


「カグツチ、お前の思いはとても嬉しい。でも一つ謝らせてくれ。」


するとその言葉に彼女は肩を跳ねさせ不安に揺れる瞳で見上げて来る。

しかし、その瞳に柔らかい笑顔を返すと話を続けた。


「お前の気持ちには前から気付いてはいたんだ。でも冬花の事もあって俺はお前の思いに気付かないふりをしていた。そして今日の事で俺は確信した。」


そこ迄話すと今までに無い程の激しい鼓動がカグツチの背中に伝わり、その振動は否応なくカグツチの期待を高めて行く。

そして俺は初めて告白するような気持でカグツチへと思いを伝える。


「俺は冬花を愛している。」


俺の言葉にカグツチは一瞬落胆し目を逸らそうとする。

しかし、胸に伝わる激しい鼓動がそれを引き留めてくれる。


「そしてカグツチも同じくらい愛している。」


するとその瞬間にカグツチは目を見開き俺を潤んだ瞳で見つめて来る。

そして次第に頬が赤くなり、それは顔全体に広がって行く。

すると彼女は体を捩り互いに向かい合う形になると、ゆっくりと目を瞑りながら口付を交わした。

それは唇同士が触れ合う程度の軽いものだが今の俺達にはそれが精一杯だった。


しかし、俺も若い男である。

好きな相手からキスされれば下半身はどうしても反応してしまう。

そしてそれを下半身に感じ取ったカグツチは蒼士を見てクスリと可愛らしく笑った。


「私は別にここで純潔を捧げてもいいのだが。」


するとさすがの俺も我慢には限界がある。

その手が彼女に伸びようとした瞬間。


「冬花に不義理だからな。ここはキスだけで我慢してくれ。」


そしてそれを聞いた途端に俺の精神は完全に立ち直った。

他人から見られればフラワーロックかとツッコミを入れられそうだ。

すると先程のように脱衣所から服を脱ぐ音が聞こえバスタオルを巻いた冬花が乱入してきた。


「カグツチ、もう大丈夫みたいだ・・・ね?」


冬花は遠慮する事無く浴室に入ると俺とカグツチの体勢を見てその動きを止めた。

なんだか浮気現場を目撃されたような気分になるがこうして冬花よりも先にカグツチが来たと言う事は今回も公認のはずだ。

しかし俺は次第に額に汗が浮かび、ゆっくりと振り向いて冬花へと視線を向ける。

するとその先では冬花は俯き、肩を震わせて何かを小声で呟いていた。


「・るい。・・・狡いよカグツチ。タオルは取っちゃだめって約束したでしょ。もういい。私も裸で入る!」


そう言ってタオルを取るとその美しい裸体を晒し浴槽へと飛び込んだ。

その際、見たいが見てはいけない場所がかなり見えたが俺は溢れ出る煩悩を必死に抑えてこの混浴を乗り切った。

恐らくは今回の事で生き残ったとしても今日の事は大きな苦難の一つとして記憶に残るだろう。

俺は自身の予想を超える良識と根性をここを乗り切った後で密かに称えてやる事にした。


そしてその日の夜、蒼士も眠る丑三時。

二人の少女は目を覚まし今日の事を話し合っていた。


「冬花。私はやっと蒼士に受け入れられたぞ。」


そう言ってカグツチは華の様な笑顔を浮かべて手足をバタつかせる。

その様子に冬花も笑顔で祝福し互いに次のステップについて話し合った。


「それじゃ、私達とうとう最終ステップだね。」

「そうだな。しかし、初めては冬花に譲ると蒼士に宣言した手前、そちらが進まんと私も進めんぞ。」


すると冬花はニヤリと笑い宣言した。


「大丈夫。私達は二人とも蒼君とは相思相愛。今年中には絶対ゴールインして見せる!」

「お~~~!『パチパチパチパチ』」


冬花の宣言にカグツチは拍手で称賛を送る。

しさしこの夜の会談は実は隣で起きていた蒼士に丸聞こえであった。

それにより彼は再び眠れぬ夜を過ごすがそれは本人のみの秘密である。


(いっそのこと夜這いでもかけてやろうか!)


そんな事を蒼士が思っていた事も本人だけの秘密である。

そして3人は次の日には無事に家路につくのであった。


その日の夜に、あるプールで原因不明の重体者が大量に出たとニュースで取り扱われたが驚くほど早く沈静化し。世間の記憶からアッと言う間に抹消される。


その後3人は今日の事を反省し夏はプール、ではなく修行を兼ねて山でキャンプを行うようになった。

しかし、平和な時は長くは続かない。

その夏が終わる頃、二人の元に天照からの呼び出しがありカグツチの転移によって彼の空間へと向かった。


「カグツチ、今日の呼び出しは何なんだ?」


俺は到着するなりカグツチへ今日の要件を確認した。

ここに来る前は3人とも行きつけの喫茶店でお茶をしており、その最中に天照から突然の呼び出しがカグツチに届いた。


そのため急いで出雲に向かったためまだ何も聞いていない。

しかし、今回の事は彼女もまだ何も聞かされていないようだ。

カグツチも首を傾げて「また無茶な依頼じゃないか?」と言っている。


ちなみに蒼士と冬花はこうして天照から修行の一環として時々指令が来る。

最初は熊を無傷で連れて来いとか迷子の捜索など簡単な物だった。

しかし、それも次第にエスカレートし、あの台風は大きすぎるから散らして来いとか地震で津波が起きるから津波を押さえてこいなど無理な事ばかり言って来る。

そのため後半に関しては行きはするが達成率はそれほど良くない。

なので手が足りない所は神々が代わりに抑えてくれたりしている。

というよりもカグツチ曰くこれはもともと神々がする仕事らしい。

俺も冬花もそれを聞いた時、神の力の大きさを知り大きな溜息を吐いた。


そして社に到着するとそこにはいつものように天照にスサノオ、それと今日は珍しく月読も来ている。

ちなみに月読がいる時の指令は無茶な物だと相場が決まっている。

彼女は予知能力があるらしく少し先の未来が見えるそうだ。

そう言う神は世界各地に存在しているらしく、その声に従い神々はこの世界を護っているそうだ。

そして今日はその問題の月読から話は始まった。


「明日、この世界に異世界の邪神が現れます。」


俺たちは神々から初めて聞く言葉に首を傾げ天照へと視線を移る。

言葉の上では知っているがどういう存在なのか見当もつかないからだ。

すると彼はいつもの笑みで説明を始めた。


「まあ簡単に言うと邪神とは神がマイナスの感情を制御しきれず堕ちてしまった神の事だよ。そしてこれはどの世界の神にも当てはまり当然私達にもその可能性がある。いつもは私達で始末するんだけど今度はちょっと事情があって君たちにも参加してもらいたい。」


その指示に俺は真面目な顔で天照を見ると確認を始めた。

ここで情報収集を誤れば命が危うい可能性がある。


「それは俺達は断れないのか?」


すると天照は冬花に一瞬視線を向け悩む素振りだけして答えた。


「う~ん、断ってもいいですよ。もともと人には無理な仕事ですから。でもその場合、あちらで魔王と戦う際に冬花が消滅してしまうかもしれませんね。」


すると天照の言葉に冬花は不安からから俺の手を強く握ってくる。

そして俺はどういう事だと鋭い視線を天照へと向けた。

すると天照は何でもない事のようにあっさりと事情を話してくれた。


「どうやらあちらの魔王とはこちらで言う所の邪神らしいのです。それで、冬花があちらに呼ばれるのはその邪神と魂の相性がいいかららしいのですが、どうやらあちらの主神は邪神と冬花の魂をぶつけて対消滅を起こす事で倒そうとしているそうです。すなわち今のままあちらの邪神と戦えば・・・。」


天照は言葉を切って何も言わずただ笑顔でこちらを見ている。

しかし、何も言われなくてもここまで説明されればその先が何なのかは馬鹿でも分かる。

そして俺たちはこの時、未来を手にするために覚悟を決めた。


「分かった。俺達も今日の討伐に参加する。」


そして俺と冬花の二人はスサノオに連れられてその場を離れて行った。

すると天照は横に座る月読へと確認をとる。


「彼らは成功しますか?」

「今のままでは9割9分9厘失敗します。」


月読は瞳を閉じたまま感情を感じさせない声で答えた。

それに対して天照は僅かに笑みを曇らせるにとどめる。


「そうですか。それなら残りの1厘に期待しましょう。」


そう言って二人も立ち上がり出陣して行った。

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