64 意外な真実
次の日の朝、アリスは起きると外に出てユノを呼び寄せた。
「ユノ。いい子にしてるのよ。パパとママならきっとあなたを飼う事を許してくれる・・・筈よ?」
「おい我が主。なんだか我はデジャブを感じるのだが大丈夫なのか?しかも最後が疑問形だったような。」
ユノは昨日の自分を棚に上げてアリスへとジト目を送る。
しかしアリスも昨日のユノのように視線を逸らして対抗した。
いらない所で似ている主とペットである。
そして扉を開けるとそこには既にノエルとロックが待ち構えていた。
するとアリスは咄嗟にユノを庇おうとするがユノは素早く前に出ると腹を見せたりゴロゴロ転がって可愛さアピールを始めた。
そこに昨日までのあの勇ましい姿の欠片も感じられない。
するとノエルは突然指を動かしてユノへと指示を無言で与えた。
まずはクルクル、そしてゴロゴロ、最後にバキュン。
それらを読み取りユノは命令通りの行動をこなした。
ちなみに中身は冥界の門を守護するケルベロスである。
だが彼はハーデスの下僕。
これ位出来なければ主に格好がつかない。
そしてユノはやり切った顔をノエルへと向け、ノエルも頷いてロックと小声で会議を始めた。
ユノはそれを伏せの状態で静かに待ち続ける。
そして話し合いは終わり二人はユノの前に立ち視線を向ける。
「点数は10点中7点です。」
その途端ユノは(ガーーーン)と擬音が付きそうな顔をノエルへと向けた。
どうやら満点だと確信していたようだ。
「しかし、努力賞として飼う事は認めましょう。今後も精進するように。」
するとユノは一声吠えて返事をするとアリス達の周りを走り回った。
そしてその夜、ユノはノエル特製の晩御飯を堪能していた。
(何なのだこれは。美味い、美味すぎるぞ。)
(こら貴様狡いぞそれは私が最後に取っておいた・・・。)
(何を言う。これは最初から3つしかないのだからこれは元々俺の物だ。)
そしてご飯を食べ終わったユノは
(((俺もうこの家の子になる。)))
という感じにノエルにより見事な餌付けをされていた。
そして百合子はこの期間、かなり苦労をしていたがアリスにはハッキリ言ってやる事が無い。
そのため夜の庭で密かに訓練をするくらいしか何も出来なかった。
アリスには蒼士たちの様な異界が無いため、訓練の時間も場所もなかったのである。
ただ、最低限の勘を鈍らせないだけの訓練で精一杯だった。
しかし、アリスの両親は良く二人で外出を行い短ければ数日。
長ければ何週間も家を空ける事があった。
その間はアリスは可能な限り全力で体を動かし鍛錬を行った。
しかし、そんな姿もアリスの両親は当然知っていた。
そして、アリスが今も時々何かに怯え夢の中で苦しんでいる事も。
そんなある日、とうとう運命の日が訪れた。
アリスは支度を済ませると両親に2重の意味での挨拶を行う。
「それじゃ、パパ、ママ行ってきます。」
アリスは友達が開いてくれる誕生日会へと出かけて行った。
そして何も知らない両親は家でアリスの帰りを待ち続ける。
筈であった。
アリスが出て少しするとノエルの前に一人のマントを被った男が突然現れる。
するとノエルは即座に戦闘態勢を取り男の行動に備えた。
「お前たちの娘がもうじき異世界に攫われる。それでもいいなら帰らぬ娘をここで待つがいい。」
それだけ言ってフードの男は忽然と消え失せた。
しかしノエルは瞬時に判断を下し大声を上げる。
「ロック、コードオメガ。すぐに準備して。」
そう言うとノエルはその場で服を脱ぐと壁の裏からライダースーツを取り出して瞬く間に装着した。
そして今度はタンスを蹴ると下からスーツケースが飛び出し、それを手に取ると外へと走り出した。
そしてそれにロックも続き手に持つ発信機を見つめる。
「ノエル、コードオメガってホントか?アリスの身に何か危険が・・・。」
「分からないわ。でもさっき突然現れた男が言ったのよ異世界に攫われるって。今はそれを信じろと私の直感が言ってるわ。」
するとそれだけでロックは納得したように口を閉じた。
そしてアリスの反応は自分たちが走る道の先にある。
すると少し前にアリスの姿を発見する。
しかしアリスの足元には何やら光り輝くサークルが地面に刻まれ彼女を包んでいた。
「ノエルあそこだ。」
「ええ、急ぐわよ。」
しかし、二人がアリスを見つけた時にはすでに体は半分が消えかけていた。
そして手を伸ばした瞬間。
まさに後数十センチという所でアリスはその場から消え失せた。
「アリス何処なの返事して!」
ノエルは消えてしまったアリスを探す様に周りを見渡しあらん限りの声で叫ぶ。
しかし帰って来る声もなく、ノエルの声は虚しく響くだけであった。
そしてそんな状況でも冷静に分析を怠らないロックは周りの異常に気付く。
現在は昼でありこれだけ叫べば誰かが出てきてもおかしくはない。
それなのに車道には車は通過せず人は誰も現れない。
その異常な光景に警戒しロックは周りに意識を向けた。
すると自分たちの家の方から巨大な何かが歩いて来る足音が聞こえ始めた。
「これは・・・もしかして。」
そして目を凝らせば巨大な四足獣の怪物が二人の前まで歩いて来て止まった。
その怪物はあの夜、アリスと会話をしていたユノであった。
「お前たちは我の事を最初から気付いていたな。」
ロックとノエルは目の前の怪物が突然喋り出しても驚く事無く真剣な顔で見つめ返す。
「我は今から契約により主のもとへと向かう。もしお前たちがその気があるなら美味い飯の礼に今閉じた門を開きお前たちも送ってやろう。しかし決断は早くせよ。すでに門も消えかかっている。時間は無いぞ。」
すると二人は迷う事無く頷きあうと答えた。
「「もちろん行く。」」
すると先程消えた光が再び地面に浮かび上がった。
「さあ、それに乗るがいい。そうすればすぐに娘の元に辿り着ける。」
そして二人が光に入るとユノも小さくなって二人に続く様に自分も光に飛び込んだ。
すると一瞬の浮遊感の直後、周りを石壁に囲まれ地下の様な空間に移動していた。
そしてそこには先程消えた最愛の娘と、それを囲むように鎧を着た複数の兵士たちが目に飛び込んできた。
ノエルとロックは即座に行動に移りケースを開ける。
するとそこからはサブマシンガンが飛び出し、それを手に二人は突撃して行った。
「貴様らか!家の娘を攫った奴らは。」
「死になさい、死んで娘に詫びなさい!」
その姿はまさに鬼神のごとく。二人はオーバーキルを気にする事無く玉が尽きるまで兵士たちに鉛の玉を打ち込んだ。
そしてその姿に驚愕しフリーズしていたアリスも兵士たちがハチの巣にされ切った所でようやく意識が回復した。
「パパ、ママどうしてここにいるの!?」
すると両親は顔に付いた血を無造作に拭うと笑顔をアリスに向けた。
そしてそのままアリスに近寄ると強く抱きしめた。
「ここにはユノが送ってくれたんだ。そのおかげでここに来れた。」
「それにフードを被ったいかにも怪しい男があなたが異世界に攫われるって教えてくれたのよ。」
するとアリスの横に来たユノが補足する。
「それはハーデス様だ。どうやら日本の神から連絡があたようでな。あの方はああ見えてお優しいのだ。きっとしばらく親に会えないお前に気を使ってくれたのだろう。」
するとアリスの中で今度は別の疑問が湧いて来た。
両親がなぜこんな武装をしているかである。
「パパ、ママ。どうしてこんな武装持ってるの?私そう言えば二人のお仕事聞いた事なかったよね。今聞いてもいい?」
二人は顔を見合わせた後、互いに苦笑を向けあい話し始めた。
「私達の仕事は分かりやすく言えば国の諜報員。まあ、映画で言う所のスパイね。そのためにありとあらゆる資格や戦闘技術を習得してるの。」
「そうだな、それでスパイ活動の時は良く家を空けたりしていたんだがお前の事はホームカメラで見守ってたから大丈夫だ。それにお前の動きが1年ほど前から変わった事も知っているぞ。」
するとクレアは再び驚愕するが色々バレている事に気付き後で説明をしようと心に決めた。
そんな3人と1匹の前に一人の男が現れた。
「な、なんだ。この有様は。」
そこに現れたのはアリスの最も嫌悪する男、ガイアスである。
そしてその顔を見てアリスは反射的に体が震え「ガイアス」と名を呟く。
するとアリスの両親は途端に表情を消して腰に差していたナイフを引き抜き、そのまま無造作にガイアスへと歩み寄って行った。
「貴様らここから逃げられると思うなよ。まだまだ兵はいるんだ。」
するとガイアスの後ろから再び兵士が何十人も現れガイアスを護る盾となった。
それぞれが剣を構え半包囲隊型でアリス達を取り囲む。
しかし、ノエルもロックもそんな事はお構いなしに兵士へと近づいて行った。
そして後3メートルといった所で二人はナイフを手に突撃して行く。
兵士はそれを迎え撃つべく剣を突き出し二人へと攻撃を仕掛けた。
しかし剣の間合いに入る瞬間二人の姿は霞のように消え去り、その代わり剣を構えていた2人の男の首が飛んだ。
そして更にその横の者が2人。
そして戦線は次第に混乱を極めて行き隊列は崩壊し始める
兵士たちは二人を捕らえることが出来ず、捕らえたと思った次の瞬間には霞の様に消えてしまう。
そして次第に人数が減って行き半数の首が飛んだ時、戦線が完全に崩壊して兵士たちは無防備な背中を向けて逃げ出した。
しかし兵士たちが出口に着くまでに逃げ出した彼らは背後から順に殺され誰も出口までたどり着いた者はいなかった。
その様子をガイアスは一人部屋の中で見つめ恐怖に足を竦ませている。
ちなみにノエルたちは特殊な歩法で残像を残し、この世界に来た事で手に入れたステータスによる強化で高速の移動を行い、相手を翻弄しながら首をはねただけである。
二人の戦闘スタイルはもともと銃による攻撃ではなく気配を消しての暗殺がメインであった。
その培った経験と魂にまで刻まれた技がこの異世界でかみ合い大きな力となったのだ。
二人は周りが静かになったので再びガイアスに近づき声を掛けた。
「あなたがアリスが良くうなされている悪夢の現況ね。あなたからは今まで私達が始末してきたゴミと同じ匂いがするわ。」
「そうだねノエル。こういうのに時間を与えると周りも一緒に腐らせるからここで始末しておこうか。」
そして互いに出した決断は同じであるため二人はガイアスの首を落とすためにナイフを構えた。
すると後ろにいるアリスから二人に声がかかった。
「パパ、ママ待って。この世界にもう一人攫われた子がいるの。だからそいつからその居場所を聞きださないと。」
その声に反応し二人はそちらに耳を傾けるがガイアスから視線は外さない。
そして二人は殺害から拷問へと思考を切り替える。
しかし目の前のガイアスは命の危険が無くなったと思ったのか突然笑い出した。
「ははははは、そそいつなら今頃、別の部屋で奴隷になってる頃だ。」
するとノエルは顔色一つ変える事なく手に持つナイフでガイアスの足首を切り離した。
「ぎゃあああーーー何するんだ。もう一人の召喚者が殺されてもいいのか?」
ガイアスは足首を押さえながらノエルへと叫んだ。
しかし、そんなガイアスの言葉に彼女は顔色一つ変える事は無い。
「あなたは今、逃げる気だったでしょ。足が3ミリ下がったわよ。それに死ぬのは確定なのだから早く居場所を吐いた方がいいわよ。そうすれば痛み無く・・・。いえ、痛めつけて殺すだけで勘弁してあげる。」
するとガイアスは怒りをあらわにして怒鳴りつけた。
「何が痛めつけるだけだ。今と何が違う。馬鹿にするのも大概にしろ。」
すると今度はロックがそれに答えた。
「この世界の拷問技術がどれほどか知らんが俺たちは殺さず、死ぬほどの痛みだけを何日も与える手段を知っている。それに比べれば今の痛みなどたかが知れているぞ。」
すると痛みに碌に耐性のないガイアスは呆気なく心が折れて百合子の場所を話し始めた。
しかし、その直後、出口の通路に眩い閃光が迸る。
そしてそちらに目を向ければ数名の兵士が黒焦げになって倒れているのが目に入った。
すると出口の向こうから一人の少女が現れこちらへと手を振ってくる。
その少女は先ほど居場所を聞き出そうとした百合子であり、その体には雷の様なスパーク光が見える。
どうやら彼女は一人で警備の兵を突破し、ここまでたどり着いたようだ。
「アリスさん見つけましたよ。それじゃ早くここから逃げましょう。」
そして百合子は緊張感のまるでない声でアリスへと声を掛けた。
しかし助けようと思っていた相手が逆に助けに来てくれた事にアリスは困惑してしまう。
そしてアリスは両親と共に百合子に駆け寄るとその姿を確認した。
「百合子、少し見ない間に強くなったのね。」
「ああ、これですか。これは体に雷を纏ってるんです。だから今は触っちゃだめですよ。」
すると横で聞いていたノエルとロックは驚いた顔で百合子を見つめる。
「百合子ちゃんあなたはアリスのお友達?」
すると百合子は笑みを浮かべて頷いた。
「はい、私達は運命共同体です。あのもしかしてあなた方はアリスさんのご両親ですか?二人ともどことなくアリスさんに似ています。」
「ええそうよ。私達も荒事には慣れてるから一緒に戦えるわ。それよりもあなたそれは痛くないの?」
ノエルは雷を纏う百合子を見て心配する。
通常雷は受ければ筋肉は痙攣し肉が焼ける。
そして百合子の様に纏えば入り口の前で死んでいる兵士たちの様に黒焦げである。
「まあ神様から耐性を貰っているので大丈夫です。でも痛いのはいたいですね。でも慣れているので。」
そしてふと百合子の目にガイアスの姿が映り彼女はアリスへと目を向けた。
「アリスさんあれはどうしますか?」
そう言って百合子はガイアスを指さした。
ガイアスもそれに気付いたのか「ヒィー」と声を漏らしてその場に蹲る。
しかし、その姿に同情する者は一人もいない。
そしてとうとうアリスは剣を抜いた。
そして自分が最も得意とする突きの構えを取るとまさに一瞬でガイアスの首を断ち切りその命を刈り取った。
しかし、その結果にアリスは剣を手に首を傾げる。
どうやら何か納得出来ない事があるようだ。
アリスは百合子の元へ戻ると確認のために問いかけた。
「なんだか前よりも速い気がするんだけど気のせいかな?」
すると百合子はアリスの言葉に首を傾げてしまう。
しかし、ある事に気付いた百合子はアリスにその事を言っておく事にした。
「私はアイテム特化の加護なので今はまだ分かりませんが、もしかしたらアリスさんは戦闘系の加護を2重に受けた事になるのではないですか?」
するとアリスも「そう言えばそうかもしれない」と納得して剣を収めた。
そして彼らはノエルとロックの先導により城から脱出し逃亡を開始した。




