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63 突然の転校生

家に戻るとそこには既に天照の手が伸びていた。

俺と冬花は学校主催のホームステイに行き今日帰宅する事になっていたのだ。

それは学校も同じで教師から生徒まで全ての者がそう思い込んでいる。

そのため単位も問題なく留年の心配もなくなっていた。

そして次の日、俺と冬花は一緒に登校しながら昨日の事を回想している。


「それにしても神って言うのは出鱈目だな。」

「そうだね。でもこれで上手く行けば卒業も出来るね。」

「そうだな。まあホームステイと言っても間違いじゃないか。ただ言った場所が神の領域だっただけで。」


二人はそんな他愛無い?話をしながら登校して席に着いた。

しかし、設定では一月ほど学校を休んでホームステイしてきたと言う事になっているにも関わらず、話しかけてくる者は誰もいなかった。


(おかしいな、これも神の仕業か?)


するといつも話をよくしている加藤が教室に入るなり俺に話しかけてきた。

どうやら虐めで無視されていた訳ではなさそうだ。


「よう蒼士。ホームステイお疲れ様。ところで聞いたか?今日このクラスに転校生が来るらしいぞ。しかもそいつは凄い美少女らしい。」


そう言ってニヤつくと目の前の席に加藤は腰を下ろし先程聞いたばかりだという情報を話し始めた。

そう言えば、周りでも何人か同じ内容の話で盛り上がってるな。


「しかも何処かの神社の神主の娘さんでお嬢様らしいんだよ。ああ、早く来ねえかな~」


しかし、そう言われても俺は冬花以外にさして興味がない。

そのため話を聞いても「ふーん」位にしか思わなかった。

そしてその反応もいつもの事なので加藤もいつもの様に溜息を付いて返した。


「は~。お前はいつもそれか。まあお前には秋月 冬花さんという未来の花嫁がいるからな。その反応も仕方ないか。くそ~俺も早く彼女を見つけてお前に自慢してやるからな~」


そして、加藤は負け惜しみの様な言葉を残して俺の前から去って行った。

すると近くに居た他のクラスメイトに今の話を伝えて盛り上がっている。

その様子に昨日までの事が嘘のように感じるが自分の中にある力を感じてあれが現実であったと実感する。


(そう言えばスサノオと修行した後にすぐに天照から呼ばれたからカグツチとは最後に会えなかったな。拗ねてないといいけど。)


俺がそんな事を考えていると予冷が鳴り教室に担任の女教師が入ってくる。

そして黒板に名前を書いて外へと声を掛けた。


出雲イズモ 加具土カグツチさん中に入ってきてください。」


(グホーーーなんじゃそりゃ?)

(何々、もしかして来ちゃったとか?)


二人は転校生の名前に心当たりが有り過ぎて心の中で叫び声を上げる。

そして扉の向こうからはここしばらく毎日感じていた気配を感じる事からその確信を強めた。


そして扉が開くとそこには蒼士にとっては予想外の、冬花にとっては予想通りの少女が現れた。


「「「「「うおおおおーーーーキターーーー!!!」」」」」


そしてその少女を見たクラスの男どもは歓声と雄叫びを上げて入って来た少女に目が釘付けになり女性陣もそのお淑やかな見た目に溜息を吐いた。

そして俺はカグツチの変わりように目を見張った。

何故なら最後に見たカグツチは身長140程のよくて小学生高学年くらいの外見だった。

しかし今は身長は160位まで伸び絶壁だった胸は服の上からでも分かる程の見事な膨らみを見せている。

またその肌は雪のように白く美しく、目元は鋭く凛々しいが何処か温かみを感じさせた。

その姿はこの学年でトップクラスの冬花と見比べても遜色なく、何故か似た雰囲気を内包している。


「はーい男性諸君、少し黙ろうね~。それでは出雲さん自己紹介をお願いします。」

「はい。私は出雲カグツチという。不束者だがよろしく頼む。見ての通りあまり世間慣れしていない。よければ色々教えてもらえると助かる。それと・・・」


カグツチの言葉にクラス全員が集中し次の言葉を待つ中、カグツチの視線は確実にある一点に向けられた。

そして手を前に出すとその指で一人の男を指さして声を掛ける。


「蒼士、弛んでるぞ。なぜ私かこの建物に入った時にすぐに迎えに来ない。お前なら校門に足を踏み入れた瞬間に『私』を感じ取ってもおかしくない筈だ。」


彼女の言葉にクラスの冬花以外の全員の視線が一斉に俺へと注がれる。

しかし、その視線はどれも冷たく、中には殺気すら孕んでいる。

そして、それぞれが今の言葉から憶測を思い浮かべ周りとヒソヒソと話し始めた。

いや、ヒソヒソとは聞こえない話の事だろう。

クラスメートたちは明らかに俺に聞こえる音量で会話を始めた。


「渡辺君と出雲さんて知り合いなの!?もしかして浮気!」

「それよりも感じ取るってもしかしてそんな関係なの!」

「それじゃ冬花はどうなるの!もしかしてこれが有名なトライアングル・・・。」


「くそ~冬花さん以外興味ない顔してるから油断してたぜ~。後で校舎裏だな。」

「おのれ妬ましい。どうして奴ばかり~トイレでもよくね?」

「があああーーー。嫉妬で人が呪えたら~~。俺は屋上がいいと思うぜ。」


そんなクラスメイトの言葉を聞き流しながら俺は驚いたままの顔でカグツチを見つめる。

するとそれを見た冬花も少し嬉しそうに微笑んだ。


(もしかして冬花公認?)

(これは後で問い詰めないといけないわね?)

(これってもしかしてハーレムってやつ!?)


すると担任が突然手を叩き周りを見回した。

それにより一旦全員が前を向き会話が止まった事で教室が静かになる。


「それじゃ、そろそろ席についてもらいます。分からない事はクラス委員か知り合いにでも聞いてちょうだい。」


そしてクラス担任もここでクラスに爆弾を放り込んだ。

今現在分かっている知り合いは蒼士一人だけ。

そのため担任は名前こそ言わないが蒼士を指名したのも同然である。

その事に再びクラスの男子たちから嫉妬と怨嗟の声が洩れた。


「はーいお前らいい加減黙ろうな。それじゃこの機会に席替えでもやるか~。」


するとクラス中から再び歓声が上がり男子が率先してクジを作り始めた。

そして箱に番号の書いてある紙を投入するとクジを引き始める。

しかしここでなぜか俺は男子たちのバリケードに阻まれクジを引くのは一番最後になってしまう。

そしてクジを引いてそれぞれの席に戻ると一斉にクジを開き移動を開始した。


その間にもいろいろな所から男子たちの悲鳴が聞こえてくる。

そして俺が引いた場所は一番後ろの左から2番目。

ここは出口からは反対方向にあり日当たりもそこそこである。

クラス内でも人気の高い場所であった。

しかしここは次の瞬間からクラスで一番人気の高い場所へと変貌する。


「あ、蒼君私この窓際だよ。しばらくよろしくね。」


そう言って冬花はカバンを机に掛けて席に座る。

そして反対には。


「き、奇遇だな蒼士。私はここの席になったようだ。私も冬花同様しばらく頼む。」


そう言って俺の右側の席へと座った。

それを見たクラスの男子達は今にも血涙でも流しそうな勢いで俺を見るが教師の言葉で全員が前を向いてホームルームを続けた。


しかし、俺はこれが偶然でない事を知っている。

先程みんながクジを引き始める際にカグツチが小声で何かを唱えていた。

そして、それと同時に神気が滲み出るのを感じた事から彼女が今回のクジに細工をしたのは確定である。

そのために俺はクラスの男子全員を敵に回してしまうが左を見れば笑顔の冬花がおり、右を見ればまた笑顔のカグツチがいる。

すると、まあいいかと俺も笑顔になって他の事はどうでもよくなってしまった。


そして休憩時間になると冬花とカグツチは女子に囲まれ質問攻めにあい、俺は男子に囲まれ袋叩きにされた。

しかし、誰もが本気で殴っている訳ではない。

まあ、本気で殴られても今の俺は痛くもないが全員がそれくらいの配慮はしていた。

しかし、問題なのは左右の二人である。


冬花の方は

「え、当然知り合いだよ。彼女と知り合ったのはついこの間だけど蒼君ともとっても仲良しなの。」

「え、蒼君を取り合いになる?それは大丈夫だよその時は二人で仲良くするから。」


そしてカグツチは

「そ、蒼士の事か。当然信頼している。アイツになら命を預けてもいい。」

「え、奪い合いになったら?いやそこは既に話し合いは済んでいる。その時はい、一緒に・・・。」


などと話しているため袋叩きが終わらない。

しかもなんだか次第に強くなっている気がする。


そして俺はチャイムに救われ再び全員が席に戻って行った。


そんな事がしばらく続き次第に平穏が訪れる様になっていった。


(本当に平穏になったのか?)


しかし、俺の懸念は当たり、どんなに席替えをしてもこの位置から3人が動く事は無かった。

しかも誰もその事を不思議に思う者はおらず、ただ嫉妬だけが向けられるというおかしな状態がずっと続いた。

そしてそんなある日、カグツチから真面目な顔である事が知らせられた。


「百合子があちらの世界に召喚された。」


その知らせを聞いて俺たちは急いで百合子の実家に向かった。

するとそこには涙を浮かべる事なく春樹と撫子が佇んでいた。


「皆さん来ていただいてありがとうございます。でも大丈夫です。娘はしっかり勤めを果たし、準備も整えて向かいました。だから後は娘の無事を祈り帰りを待つだけです。皆さんも2年先にはあちらに行かれると聞いています。どうかお気を付けて。」


そう言って撫子と春樹は頭を下げた。

そして俺たちも2年後を待ってそれに備えていく。


そして時間は数ケ月、遡りここはアリスの実家である。

アリスもまた無事に20年前に到着する事が出来ていた。

そして彼女もカレンダーを見て今が20年前の世界である事を確認する。

するとアリスは両親の元へと走って行った。


「パパ、ママ。」


そう言って部屋に飛び込むとそこには夕食の片付けをする母のノエルとそれを手伝う父のロックの姿があった。

アリスは二人を見つけるとその胸へと飛び込み涙を流した。


「あらあらどうしたのアリス。そんなに慌てて寝ぼけるにはまだ早いわよ。」

「そうだぞアリス。ついさっきまで一緒にご飯を食べてたじゃないか。」


そう言ってノエルはアリスを抱きしめロックもアリスに近寄り泣き止むまで頭を撫で続けた。

その後、ロックは片付けをノエルに任せアリスを抱えるとソファに移動する。

そしてアリスを膝の上に乗せてソファーに座ると笑顔でアリスの顔を覗き込んだ。


「どうしたんだいアリス。君が泣くなんて珍しいじゃないか。」


ロックは優しく語り掛けるがアリスは口を閉ざしたまま一向に答える気配は無い。

そのためロックはあえて聞くのを止めた。

代わりに手元に作りかけのパズルを寄せて解き始める。


「アリスはパズルが好きだったね。今少し困ってるんだ。よければ手伝ってくれないかい。」


するとアリスも少し笑うと一緒にパズルを解き始めた。

そして、それを見たロックは娘の変化に気付き始める。


(この子の目の動き。これは・・・。)


そしてノエルが食器を洗い終わる頃には既にパズルは組み終わり一つの絵を作り出していた。

その頃にはアリスも落ち着きを取り戻し少しだが笑顔を見せる様になり二人は安心して息を吐きだした。

そして夜も遅くなり3人はそれぞれの寝室に向かう。

アルスは少し前に初めて自分の部屋を持つことが出来ていた。

それは13歳の誕生日プレゼントでとても嬉しかった事を覚えている。

しかし、1年後にあんな事になるとは夢にも思っていなかった。


そして過去を思い出していると不意にハーデスの憎たらしい顔が浮かんだ。


(なんでこんな時にあいつの顔が浮かぶのよ。)


アリスは途端に目が覚めて頭の中のハーデスに鼻で笑われる。


「あ、思い出した。」


すると過去に来る前にハーデスから渡された物があった事を思い出す。

しかし、あんな得体のしれない骨をこの大事な思い出の部屋で出すわけにはいかない。

アリスはハーデスに言われた事もあり裏にある倉庫へとパジャマのまま歩いて行った。


(たしかシャベルがこの辺に・・・。あ、あった!)


アリスは倉庫に着くとシャベルを見つけ出して庭へと出た。

そしてそのまま地面に1メートルほどの広さの穴を掘り地面に骨を埋める。


(???何も起きないわね。)


しかし、しばらく待っても何も起きないためやはり自分はハーデスに揶揄われたのではないかと思い始めた。

しかし、それは少し早計であった。

アリスは突然巨大な気配を地面の奥底から感じその場を離れる。

そして家の陰に隠れるのと同時にそれは地面を突き破って現れた。


「ワオオオオオオーーーーーー!」


そこに現れたのは体長5メートルにもなりそうな犬の怪物である。

さらにその怪物には首が3つあり一つの骨を取り合っている。

そして真ん中の首が睨みを利かせると左右の首は諦めて引き下がった。

するとその二つの首は鼻を鳴らしアリスの隠れている所へとその獰猛な顔を向ける。


「そこの娘、居るのは分かっている。出て来い。」


その声にアリスはアイテムボックスから剣を取り出し手に持つと怪物の前に飛び出した。


「あなたは何!?どうしてここに現れたの?」


すると先ほどとは反対の首が笑い声と共に言葉を発した。


「はははは、分かっているではないか。」


そう言って首の一つがアリスへと顔を近づけ手に持つ物に嚙り付いた。


「え、いったい何を?」


と言って怪物が咥えた物に目を向けるとそれは剣ではなくハーデスから貰った骨の一つだった。

その時アリスは再びハーデスが笑っている顔が浮かび地団駄を踏みそうになるが今はそんな時ではない。

すると骨を咥えていない最後の首が話しかけていた。


「娘よもう一つないのか?これでは私だけが骨を齧れぬ。」


そしてアリスは仕方なく最後の一つを出して怪物に与えた。

すると三つ首の怪物は嬉しそうに尻尾を振りながら骨に齧り付いた。


そして1時間ほどしてやっと骨を食べ終わった怪物は立ち上がると3つの首でアリスを見下ろしてくる。


「娘よここまで美味い骨は初めてだ。だが、これには我が主、ハーデス様の神気を感じた。お主は何者だ?」


そしてアリスはかなり悩んだ。

この怪物はあの・・・あのハーデスを主と言う。

そんな相手に自分の事を話して良いものだろうか?

しかし、今の所ハーデスのおかげで上手く行っている事が無いわけではない。

そのためアリスは慎重に事情を話す事にした。


「私は未来のあなた達の主に言われてこの時代に来たの。その骨はその時に貰った物よ。彼はこれが私の助けになると言っていたわ。でもそれは今はあなたのお腹の中。あなた達は彼に変わって私を助けてくれるの?」


すると怪物は3つの顔を見合わせて何やらゴニョゴニョと話し始めた。

そして結論が出たのか互いに頷いて再びアリスに顔を向けた。


「貴様の持っていた骨には確かにハーデス様の神気が宿っていた。」

「しかもこの世界の生き物では考えられないほどの歯応えと美味さであった。」

「神気は無くとも再びこの骨を食わせてくれるならお前が死ぬまでの間だけ力を貸してやろう。」


すると怪物とアリスの間に目に見えない繋がりが構築され始める。


「「「我は冥界の門を守護せしケルベロス。さあ主よ、我に名を授けよ。さすれば我は如何なる場所に居ようとも汝の前に馳せ参じよう。」」」


そしてアリスはいきなり名前と言われてもと悩み始める。

しかし、ここで時間を掛けるのも面倒になったアリスは適当に名前を付けた。


「それじゃあ名前をつけてあげる。お前の名前はユノにするわ」


そしてアリスが名前を付けると繋がりは完全な物となり構築された。

しかし、アリスはユノを見て悩み始める。


「あなたどう見ても大きいわよね。家じゃ飼えないわ。」

「その心配はない。この体はここでは我にとっても都合が悪い。待っておれ、今小さくなるからな。」


ユノがそう言ったとたん体が縮み始め、最終的には中型犬ほどにまで小さくなると止まった。

しかし、そこには何処から見ても3つ首の犬が佇んでいた。


「どうだ、見事な変身であろう。」

「・・・・・・何処が見事な変身よ!?首が3つあれば小さくても怪物は怪物よ。」


アリスは見事な突っ込みをユノにかますと息を荒げた。

しかし、それにユノは鼻で笑って返し自信満々に告げた。


「それは主たるお前だからそう見えるのだ。他の者にはただの犬にしか見えん。・・・筈だ。」

「ねえ、最後に何か付け足さなかった?」


アリスはジト目でユノを見つめるがユノは目を逸らしてそれに対抗した。


「まあいいわ。明日パパとママに頼んでみるからそれまで大人しくしてて。」


そしてアリスはユノを置いて家に入ると眠りにつくのであった。

しかし、この時のアリスの行動は両親によってバッチリ目撃されていた。

彼らは用意していた収音マイクにより全ての会話を拾いアリスの現状を理解する。

その事が後でどのような事になるのかはまだアリスは知らなかった。

ちなみにこの収音マイクだがアリスはその存在さえ知らない。

本人達に聞いても恐らくは「娘の為だ」の一点張りだろう。

しかし、その理由ももうじき明らかとなる。

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