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6 本当の再開

俺は街道に辿り着くと急いで愛用の剣を腰から引き抜いた。

そして前回出会った親子を強く思い剣を倒してみる。

すると剣は左に倒れ王都の方向を指し示した。


ヤバイ、もう通り過ぎてやがる。

俺があいつらと出会ったのはこの道を歩き始めて1時間くらいだ。

急げばまだ間に合うかもしれない。


そう判断した俺は全速で街道を走り抜けた。

その速度は馬を遥かにしのぎ、通り過ぎた後には大量の土埃が舞っている。


すると数分で前方に馬車とオオカミの気配を感じ始めた。

遠目から見てどうやら襲われる直前のようだ。


しかし、もう少しと言う所でオオカミは森から出て馬車へ接近し始めた。

最初は伏せながらそっと近づき、ある距離まで近づくと一気に立ち上がり走り出し急速に距離を詰める。


「お父さん!左からオオカミが来てる!」


だが、それに気付いたティファは急いでジョセフに声を掛ける。

そしてジョセフは一瞬左をみて確認すると馬に鞭を入れ大急ぎで逃げ出した。


「ティファ、しっかり荷台に捕まりなさい。絶対離すんじゃないぞ。」


するとティファも言われた通り馬車にしがみついて必死に踏ん張っている。

しかしその数秒後、俺は勢い余って馬車を追い抜いてしまった。

ジョセフはいきなりの事に驚きそちらへと意識を向ける。

そして俺は地面を抉りながら急停止すると必死の表情のジョセフと互いに視線がぶつけ合う。


「助けてくれ。報酬は払う。」


今回は布は貰えなかったが俺はもともと彼らを助けに来たのだ。

そのため、細かい事は気にする事無く剣を抜くとオオカミへと向かって行った。

そして間合いに入ると同時に常人では捉えきれない速度で剣を振るいその首へと剣線を走らせる。

するとオオカミは俺が攻撃した後もしばらく走り続けたが、突然首が地面に落ちると血を吹き出しながら転倒した。

それを見たティファとジョセフは驚きに固まってしまい言葉を失ってしまう。

そして俺が近づいて声をかける事でやっと現実へと復帰した。


「やあ、こんにちわ。大丈夫だったか?」


するとジョセフはハッとして肩を震わせようやく返事を返して来た。


「あ、ああ、大丈夫だ。本当に助かったよ。君は凄い剣士なんだな。」

「まあ、死ぬ気で修業したからな。」


しかし、こうして話していると今も俺は途轍もない違和感を感じていた。

この二人とは初対面ではないのに彼らからすれば俺は初対面になる。

死んだら全てやり直しとなると人との付き合い方がかなり難しそうだ。

もしかすると冬花が全ての人を避けていたのはこれにも関係してるのか?


俺はフと今後の事に不安を感じると心の中で溜息を零した。


そう言えば、あの女神は俺たちを見てる的なことを言ってたな。

もしかして叫んだら希望が通るかもしれないな。

今度冬花と話し合って試してみるか。


そして俺がそんな事を考えているとジョセフの方から話しかけてきた。


「私はジョセフ、この子は娘のティファだ。親子で商人をしている。ところであの魔物を解体しないのかい?」


すると前回と同様にジョセフは自己紹介をして魔物へと視線を向けた。

それに彼らは解体に慣れている様なので今回も任せる方向で話を進める事にする。


「ああ、すまない俺は解体の知識が無いんだ。よければ買ってくれるとありがたいんだが。」

「そうかそれなら助けてもらったお礼に色を付けて買い取ろう。当然報酬も別で支払わせてもらう。大事な娘も無事だったからなお礼をしないとな。」


そう言うとジョセフは馬車から降りてティファにも解体を手伝うように指示を出した。

彼らはオオカミの腹を裂き内臓などを事前に掘った穴に埋め魔石をこちらに持ってきた。


「皮は持って帰ってからだな。魔石は俺達は扱えないから町の冒険者ギルドで買い取ってもらってくれ。それとこれは料金だな3匹で30000Gだ。それとこれがお礼の20000Gだ。それから俺たちはこの先の王都まで向かっているのだが一緒に乗っていくかい?」

「ああ、頼む。始めて行く所だからあまり地理に詳しくなくてな。」


すると俺の言葉にジョセフは少し考え込むような素振りを見せると懐から前回貰ったものと同様の布を取りだした。


「助けてもらったお礼にこれを君に渡しておくよ。」


俺はそれを受け取ると布を広げて前回と同じ物かを確認する。

そして見た目が同じなので今度はくれた本人へと確認を行っておく。


「これは?」

「それは私がやっている店の商紋だよ。困った事があったらそれを頼りに家に来なさい。微力ながら力を貸そう。」

「分かった。何かあれば頼らせてもらう。」


そしてジョセフはオオカミに近づくとアイテムボックスに収納しティファと馬車に乗り込んだ。

先程と同じくジョセフは御者席に乗りティファは荷台に乗り込む。

俺はジョセフに用があったのでその隣へと座った。


そして俺達は馬車を走らせ王都へと向かって行く。


「ジョセフ、すまないがアイテムボックスについて教えてくれないか?」


俺は今後は必要になるスキルだろうと一回目の時から感じていた。

しかし、自分のスキルを理解していなかったのであの時は聞かずに別れてしまっている。

今度はもしかしたら習得できるかもしれないので希望を持っての質問だった。


「構いませんよ。これは商人なら多くの者が持っているありふれたスキルですから。それに冒険者の方でも持ってる人が多くいるくらいですから隠すものでもありません。ただ容量は人それぞれのようで少ない人はこの馬車1台分ほど。多い人では大きな豪邸が丸々入るとか、いっぱいになった事が無いという人も居るらしいです。」


そう言われて俺は後ろを見て馬車の大きさを確認する。

どうやら最低でも5畳分の収納が可能な様だ。

しかし、実際に俺が習得できたとしてどれくらいの量を入れられるようになるかは分からない。

個人差があるようだがそこにも何か理由がありそうだ。


「それでジョセフはどれくらいのアイテムボックスを持っているんだ?」

「私はこの馬車なら100個は入りますね。入れる時は先ほどの様に手で触れて念じれば入れる事が出来ます。出すときは覚えていれば念じるだけで出ますし、ステータス画面でも確認できます。それと鮮度の劣化を止めたりもしてくれますね。ちなみにスキルの習得方法ですが本当に必要と思っている人は自然と身に付くそうですよ。」

「わかった。ちょっと試してみるよ。」

「試す?ははは、習得できるといいですね。」


するとジョセフは声を上げて笑い茶化すように言って来るが、俺は習得のために本気でアイテムボックスのスキルを求めている。

するとその鬼気迫る程の雰囲気にジョセフはもしかしたら習得できるかもしれないと思い始める。

そして、その話を聞いていたティファも同じように期待を込めた瞳で蒼士を見つめていた。

実はティファはいまだにアイテムボックスにを持っていない。

だが、父親の店を継ごうとすれば必ず必要になるので目の前の光景から目が離せないでいた。


まず俺は腰に下げた財布を手に取り試し、ステータス画面を確認する。

しかし、これではアイテムボックスの習得には足りないようだ。


続いて腰の剣を一つ外し思いを込めてみる。

するとステータスのスキル欄にアイテムボックスの文字が追加された。


そして、ついでにとベルから貰った大事な指輪も試してみる。

これは俺にとって冬花にプレゼントできる唯一の物だ。

今の俺にとっては命の次に大事な物と言っても過言ではない。


それにこれは愛する人に永遠を誓うための指輪だ。

次に会ったらこれでもう一度結婚を申し込む。


するとアイテムボックスの文字に(無限)の文字が追加され性能が飛躍的に向上した。


(うお!なんかすごい事になったな。もしかしてこれの容量って大事な物を入れると成長するのか。ちょっと聞いてみるか?)


「ジョセフ。スキルの習得に成功したんだが・・・。」


その言葉にジョセフは驚き、前を見ていた視線を勢いよく向けてくる。

どうやら多くの者が持っているとは言っても簡単に習得できるスキルでは無いようだ。


「昔から馬車が100台も入ったのか?」


するとジョセフは驚きながらも顎に手を当て、昔を思い出しながら考え込む。


「いや、そんなには入らなかったな。俺も昔は馬車数台位だった。」


その答えに俺は確信をもって頷き先程気付いた仮説を伝える事にした。


「もしかして大事な物を使う程スキルの習得がしやすいのかもしれない。しかも心から大切な物を入れる時に容量が拡大する可能性もある。」


その仮説にジョセフは再び考え込む様に顎に手を当て視線を下げた。

現代なら運転しながらそんな事をすれば事故の元だが、今は馬が馬車を引き町へと向かっている。

それに通り慣れた道なのか道に沿って大人しく歩を進めているのでジョセフが御者として指示を出さなくても大丈夫のようだ。


「たしかに私のアイテムボックスが大きくなり始めたのは妻と結婚してからが顕著だった気がします。それと娘へのプレゼントを入れた時ですね。しかし・・・。」


ジョセフは真剣な顔で悩みながらゴクリと唾を飲み込み視線を上げた。

どうやら、この仮説は誰も気付いていないか、気付いていても秘匿されている事のようだ。


「これが事実なら大発見です。この仮説が本当なら誰もがアイテムボックスを習得することが可能になります。スキルの有用性を考えるとこの情報の価値は計り知れない。」

「なら、この情報はあんたの好きにしてくれ。俺は必要な相手にだけ伝えるだけだ。それにこれは確定事項じゃないからそちらで試せる相手を見つけて検証してくれると助かる。」


その提案にジョセフは悩むが、もしもの時はもっと上に任せようと考え頷くことにした。

別に規制されていたり禁止されている訳では無いので自分の所である程度の検証を終えてからでも遅くはない。

それにアイテムボックスを持つ者が自分の商会に増えれば利益も大きくなるという考えもあったからだ。


「わかった。もし結果が出た時、君に伝える手段があれば教えよう。検証はまずこの子で試そうと思う。この子もアイテムボックスを必要としているからな。」

「人選はそちらに好きにしてくれ。それとそろそろ町が見えて来たみたいだぞ。」


そして、俺の言葉で全員が前を向いて王都をその視界に捉える。

どうやら話に夢中で周りが見えていなかったようだ。

だがジョセフの胸中は複雑な気持ちでいっぱいだろうな。

これからの検証の人選。

もし手に余るような事になればどの相手に報告するか。

この事が事実であった時の世界的な影響。

そして自分の商会の利益。

蒼士が考えている通り、ジョセフは街に付いた事への安心が吹き飛ぶほどの思いである。

最悪、その秘密を話した相手が自分の利益の為に自分達を暗殺する事まで考慮しなければならないからだ。


そして、俺達は門に到着すると前回と同じような対応を行い兵士と交渉を行う。

しかし今回はジョセフの様子に落ち着きが無かったため少し時間がかかってしまった。

それでもなんとか無事に町に入ることが出来たのはジョセフの日頃の信頼があったからだろう。


それにこの町へ到着してから俺の心臓は破裂しそうな程に高鳴っていた。

表面上は落ち着いたフリをしているがあの白い部屋で鍛えられた感覚がすぐ傍に冬花の存在を知らせてくれるからだ。


俺は馬車から降りてジョセフとティファに簡単な別れの挨拶をすると周囲を見回し冬花を探す。

するとすぐにその姿を見つけ一直線に駆け寄って行った。


そして、その姿は俺の記憶にあるままの姿で、前回の様に逃げる素振りも無く潤んだ瞳で見詰め返してくれる。

その姿に前回の自分の死が無駄でなかったことを確信し目から自然と涙がこぼれた。


そして堪えきれずにその場で冬花を抱きしめそこに居る冬花の存在をしっかりと確認する。

すると冬花も俺の背中に手を回し抱きしめ返して来る。

俺は心に空いた穴が塞がるのを実感し自然と言葉が口から零れ出した。


「待たせてすまない。これからはずっと一緒だ。」


そして俺は冬花を抱きしめたまま思いを告げた。

それに愛しい相手の存在全てを取り戻した喜びに心が満たされていく。


「私もずっと一緒よ。もう何があっても離さないでね。」


そして俺達は互いに視線を合わせると互いに顔を近づけ長いキスをする。

その姿を見た周りの者は拍手をしたり口笛を吹いてはやし立てるが今の俺達には何も聞こえない。。

聞こえるのは互いの鼓動の音だけだ。


そしてどちらともなく唇を放すと俺は冬花を見つめた。


「例え死が二人を分かとうともずっと一緒だ!」

「はい。」


そして俺達は昔の様に腕を組んで歩き出す。

まずはギルドに向かい登録を行うの必要が有る。


するとその後ろで先程別れたジョセフは彼らを祝福するように笑顔を向け。

ティファは顔を手で隠しながらも指の間からバッチリ二人の一部始終を見つ続けて、あわあわ言っている。

どうやら子供には刺激が強すぎた様だ。


そして、ここからやっと二人の魔王討伐の一歩が始まる。

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