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57 アリスの悩み

ハーデスがアリスの話をしようとした時。


「待ってくださいハーデス様。それはもしかしてアリスさんが今秘密にしている事ですか?」


百合子はハーデスの言葉を遮って問いかけた。

しかし、それはとても失礼な事である。

だが、百合子は分かっていても今はそれを聞くわけにはいかなかった。


「すみませんハーデス様。その話をするのは少し待ってもらえませんか?私はもう一度彼女と話をしないといけないのです。」


するとハーデスは無言で横に座る百合子を見つめその思いを読み取る。

そこにあるのは強い意志により生み出された決意。

そしてそれらを支える大きな優しさを感じた。

どうやら自分が余計な事をしなくてもこちらには踏み込む勇気があるようだ。


「分かった。私はしばらくここで待とう。存分に話してくるといい。アリスは今狭間の部屋にいるはずだ。」


そう言ってハーデスは薄く笑顔を浮かべた。


「はい、ありがとうございます。」


そして百合子は雷神と共に狭間の部屋へと転移した。

そして、中に入るとそこには膝を抱えたアリスがたった一人で座り込んでいる。

百合子はそれを見て急いで駆け寄り声を掛けた。


「アリスさん大丈夫ですか!?」


しかし、アリスから返事が返って来る事は無く無言で顔を上げると百合子へと視線を向けた。

だが、そこには数日前の様な明るさは無く、まるで迷子の子供のように今にも泣きそうな顔で百合子を見ている。

百合子はその顔に即座に決断し彼女を自分の家に連れ帰る事を決めた。

彼女はアリスの了承を取る事無く雷神に声を掛けて自宅の前に転移して行く。

そして家に入るとアリスを風呂場へと無理やり連れて行き服を脱がせるとそのまま浴槽へと叩き落した。


「うわっぷゴホ、ゴホ何をするの百合子。ふざけるにしては酷すぎるわよ。・・・?ここは何処?な、なんで私は裸なの???」


どうやらアリスは百合子と会ってここに来るまでの間の記憶が無いようである。

しかし、さすがに浴槽で溺れかけた事により正気を取り戻したようだ。

すると百合子は肌を晒したまま仁王立ちしアリスへと言い放った。


「日本には古来より裸の付き合いと言う物があります。そしてこれには互いを信頼し隠し事をしないというルールが存在します。だからアリスさんも隠し事をせず私に全てを話してください。」


そう言って百合子はゆっくりと浴槽に浸かり、壁に背中を預けると足を延ばした。

そしてアリスに対してチョイチョイと手招きを送り反論を許さず自分の横へと座らせた。

ちなみにここの風呂はこの家自慢の大浴場である。

そのため2人が足を延ばして並んで入っても十分な余裕があった。


そして二人はしばらく並んで入っているが互いに会話は無く静かに時間だけが過ぎて行く。しかし、意を決したように百合子が話し始めた。


「私の目的は前に話しましたよね。」

「ええ・・・。」


百合子の言葉にアリスはぶっきらぼうに答え浴槽の淵に両手を掛け背中を伸ばした。

するとそれによりアリスの立派な胸が強調され百合子は不意に目を奪われる。


(うう・・・、なんで2歳しか違わないのにこんなに差があるの?)


そして百合子は首を振って雑念を払うと話を続けようとした。

しかし、彼女の嫉妬の炎は無意識に手を動かさせた。


『ツン』


すると、なんと百合子はアリスの逸らした胸の先端を人差し指で突いて押し込んだ。


「ヒャアッ!何をするの!?」


アリスは百合子の予想外の行動に驚き手で胸を隠した。

しかし、百合子は笑顔を作りアリスへと言い放った。


「子供のいたずらです。それにスイッチがあったら押したくなるじゃないですか?」

「最後がなんで疑問形なの。」


アリスは胸を隠したまま警戒し百合子へと喰ってかかる。


「まあ、遊びはこの辺にして話を続けましょう。」


そして百合子は勢いに任せてこの話を打ち切りにかかる。


「お、覚えてなさいよ~~~。」


アリスは悔しがるがそこで百合子から予期せぬ言葉が再び告げられる。


「ふふふ、私に突くほどの胸はありません。」

「・・・・・。」

「あの、何か言ってください。」

「フフ・・・。」


そして最後は百合子が自爆しアリスから鼻で笑われる。

しかし、彼女たちは今のやり取りで警戒感は増したが肩の力は抜けて次第に話し始めた。


「それで実はつい先ほどもう一つ目的が出来ました。」


百合子は先ほどまでと違い真剣な顔でアリスへと告げた。

アリスは先ほどのやり取りの事を思い百合子の胸に目を向ける。

そしてそこには多分に憐みの色が宿っていた。


「そっちじゃないです。そもそも真面目な話です。」


そう言って体を逸らして胸を隠した。

やはりかなり気にはしているようである。


「実は私には弟がいるのですが。その弟が今日帰ると自殺して死んでたんです。」


アリスは百合子の突然の告白に驚愕しようやく真剣な顔になる。


「その理由が私を異世界から救うためだったらしいです。ただその基になったのはその時読んでいた小説らしいですが。ただ私があちらに行かなければ弟は死んでなかったのかなと思って。」


そして百合子は俯いて水面に浮かぶ自分を見つめた。


「とても自分勝手な思いなのは分かってます。でも大事な弟だからこんな事で死なせたくないんです。だから過去に戻って成功したら弟が死なない様に手を貸してあげたくて。」


そこまで言うと百合子は俯いて話を終えた。

その姿にアリスは自分も同じであると感じる。

しかし、まだ自信がないのか口は動かそうとするが声にならず、口も次第に動かなくなっていった。

しかし、ここで一人の乱入者が現れた。


{スパーン}

「イッターーー。」


突然アリスは頭上から現れた神にはたかれて頭を押さえる。


「もうグチグチまどろっこしいわね。そんなんだとモテないわよ。」


そこに現れたのはハーデスの下僕であるヘルディナであった。

彼女は姿を隠してアリスたちがこの神社に帰って来てからずっと見ていたのだ。


「あんた両親が最後になんて言ったか忘れたの?そんなだと彼らも浮かばれないわよ。」


するとアリスはハッとなりあの時の事を思い出した。

あの時はただ必死であったため遺言ともいえる両親の言葉を忘れてしまっていたのだ。

しかし、アリスはその事を思い出すことが出来た。

そして、決意を胸に百合子へと自分の目的を話す事にした。


「実は私の両親も私があちらに行っている内に死んでしまってもういないの。」


そして今度は百合子が驚愕してアリスを見つめる。

するとアリスは百合子へと顔を向けて視線を合わせた。


「そう、私の目的も百合子と同じなんだ。私の両親は私を探している途中に命を落としたらしいの。だから私は必ずもう一度生きて帰ってパパとママを助けたいの。」


そしてアリスは再び強い決意を胸に瞳に力を宿す。


「だからお願い。私に力を貸して!私は人の身で歴史を変えないといけない。だから百合子の力が必要なの。」


アリスが話し終わると二人はしばらくの間見つめ合った。

すると百合子は笑顔を浮かべて頷いた。


「当然です。実はこんな事もあろうかと大量のアイテムを既に作成済みです。一緒に歴史を変えて大事な家族を救いましょう。」


百合子はそう言って右手を握り締めて前に出す。

そしてアリスもそれに答える様に拳を作り百合子の拳とぶつけた。


「頼むわね相棒。」

「任されました相棒。」


そう言って二人は笑い立ち上がった。

しかし、ここで二人に声を掛ける新たな神物が現れた。


「ふふふ、どうやら話は付いたようだな。」


その声は風呂場に面した外壁の外から聞こえる。


「アリスよ。もしお前が望むなら少しだけ我も力を貸してやろう。落ち着いたら外に来るがいい。」


しかしここで思考が停止するほど二人の2年は甘くはない。

百合子は丁寧にハーデスへと話しかけた。


「ハーデス様。いつからそこで聞いていた、いえ見ていたのですか?」

「???そんなのは最初からに決まっているだろう。それではさっきの場所で待っているぞ。」


そして、その傍には少しだけ開いている窓がありハーデスの身長なら覗く事も可能だ。

ただ、相手は神であるので飛ぶ事も出来ればその気になればこんな壁くらいは透視できるだろう。

しかも見ていたと言い換えても否定しなかった事から真実は既に見えている。

そしてハーデスはまるで散歩でもする様に歩き始めその場から立ち去って行く。


「ちょ、まて変態。乙女の話を盗み聞きしておいてそれだけか?」

「ははは、さすが異世界帰りは元気がいい先程迄とは大違いだ。」


すると途端にアリスは先ほどまでの自分を思い出して顔を真っ赤にする。


「うるさい、変態。さっきはさっき、今は今よ。」

「ははは、我を笑わせるとはなかなか骨のあるやつだ。もし無事に帰ったら笑いの神にでも頼んで加護でも与えてやろうか?」

「そんなのいらないからもっと役に立つ物を寄越しなさいよ!」


どう見ても今の二人は売り言葉に買い言葉である。

特に互いの姿が見えないため言葉のヒートアップが止まらない。


そして、もしこれが人間同士の事ならばハーデスは美幼女と美少女と美女が入る浴室の裏で聞き耳を立てるまさに変態。

そしてここにお巡りさんがいれば即ギルティーの事案発生であっただろう。


そのため裸で言い合っているアリスを百合子は無理やり浴室から連れ出し風呂場をあとにした。

その後もアリスはグチグチとハーデスの悪口を言っているが先ほどと違い元気になったため百合子は笑いながらその姿を見ている。

そして髪をわざとのんびり乾かしてハーデスを余分に待たせるという細やかな意趣返しを行ってからアリスと百合子は再び外へと出て行った。

そして先ほどのベンチへ向かうとハーデスは宣言通り先ほど百合子と分けれたベンチに座り二人を待っていた。


「遅かったな二人とも。我は待ちくたびれたぞ。」


実際ハーデスはここで1時間以上はベンチに座って待っている。

だがその時間は神にとっては大した事が無いはずだがあえて人間の感覚に合わせて愚痴を洩らした。


「女の子の準備には時間がかかるのよ。それよりもあなたは私達に何をしてくれるの?」


アリスもいまだに不機嫌な顔を変える事なくハーデスに問いかけた。

その様子にハーデスは苦笑を浮かべてヤレヤレと首を横に振る仕草を見せる。


「せっかちな奴だ。まあいい、これは我の気まぐれだ。」


そう言って彼は準備してあったのか異空間から巨大な骨を3本取り出した。

そしてそれを軽々と抱えるとそれを全てアリスに差し出した。


「なにこれ。もしかしてさっき言ってた骨があるって言葉に掛けたジョークのつもり。それとも3本の骨を束ねればそう簡単には折れないとかいう日本の格言でも伝えたいの。」


(アリスさんそれは3本の矢です。)


百合子は心の中でアリスの間違いを無言で修正する。

そしてアリスは先ほどのハーデスとのやり取りを思い出しながら骨を見た後ハーデスを睨んだ。

だが、その骨には強い力を感じるためアリスは文句を言いながらもその骨を受け取り、何の骨かが気になり受け取った骨を見つめる。。


「ちなみにそれは私の骨だ。」

「ぎゃっ・・ゴホン。きゃーーー。」


するとアリスは驚いて受け取った骨から手を放し地面に落とした。

ちょっとだけ乙女らしくない悲鳴も混ざっていた様だがそこは誰もが聞かなかったフリをしている。

そしてそれを見たハーデスはニヤリと笑いを返した。


「あんたなんて物乙女に渡してんのよ!もう、手が穢れちゃったじゃない。」


アリスはハーデスへときつめな罵倒を浴びせるがそれもある意味では間違いではない。

この骨はハーデスが依り代にしたドラゴンの骨の一部であるが、この骨には冥界の王であるハーデスの神気が宿っている。

そのため普通の者ならば触るだけで死んでしまうかもしれない程に危険な物だ。

そのような物であるので彼女のセリフも的を射ているのだ。


しかし、そんなアリスの服を百合子が優しく引っ張る。

すると、それに気が付いたアリスは手についた水を払う様に振りながら隣の百合子に視線を移した。


「どうしたの百合子。」


そう言ってアリスは百合子に視線を向けるがそれはハーデスへと向ける物とは違い優しさを宿している。

そして相棒である百合子へと優しく問いかけた。


「アリスさん。きっとそれは本物のハーデス様の骨じゃないですよ。だって一つの大きさだけで1メートルはあるんですから。きっと揶揄われたんですよ。」


するとアリスは地面に転がる骨とハーデスを見比べる。

そして冷静に考えれば確かに百合子の言う通りであった。

それに、先ほどからハーデスは自分を見てクツクツと笑っている。

それに気付いたアリスは顔を赤く染めてハーデスを睨みつけた。


「騙したのねあんた。変態なうえに嘘つきなんて最低。もう知らない。」


そう言ってアリスは背中を向けてしまいハーデスと顔を合わせようとしない。

しかし、そんな事はお構いなしとハーデスは説明を始めた。


「まあ、揶揄うのはこの辺にしておこう。だがその骨があれば必ずお前の助けになる。過去に行く時には必ず持って行くといい。お前が本気で両親を救いたいのであるならな。そしてそれを貴様の家の庭に埋めるのだ。きっといいことがあるぞ。」


それだけ言ってハーデスは二人の前から消えていった。

そしてその後ろにはいつの間に現れたのか、先ほど浴室に置き去りにしたヘルディナがおり、ハーデスに続く様に消えていった。


アリスはハーデスが消えた後、微妙な顔で足元の三つの骨を見つめる。

しかし、あんな男でも神である事に間違いない。

しかもあの蒼士が認めるほどの強力な神だ。

アリスはハーデスではなくこの骨を信じてアイテムボックスに仕舞うと百合子と共に家に入って行った。


そして家に入った二人の鼻にとても美味しそうな匂いが届く。

どうやら撫子は二人の為に夕食を準備してくれていたようだ。

そして二人はそれをお腹一杯になるまで食べた後に布団を並べて仲良く眠りについた。

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