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56 帰還、そして

朝になり、とうとう帰還の日が訪れた。

百合子はベットから起き上がると身支度を整え帰還に備える。


そして部屋を出ると偶然アリスと廊下で顔を合わせた。


「おはよう、アリスさんとうとう今日だね。」


百合子は久しぶりにしっかり睡眠をとったため元気いっぱいに挨拶をする。

しかし、百合子はアリスの顔を見て不安に感じる。

彼女はやっと帰れるというのにとても不安そうにしておりなんだか空気が張り詰めている。

それに目の下にも大きなクマが出来ておりとても体調がいい様には見えなかった。

しかし、そんな状態でも彼女はちゃんと挨拶を返した。


「おはよう百合子。」


しかしアリスは元気なく声を出すとその場を去って行った。

その様子に百合子は更に心配になるが無理に聞くわけにもいかずとうとう帰還の時が訪れた。


蒼士は庭に雷神をイメージした銅像を作りその時を待つ。

すると途端に空を雲が覆い、巨大な一筋の雷が銅像を貫いた。

それにより銅像は真っ赤に赤熱しドロドロに溶けてしまう。

しかし、溶けた後に金属はスライムのように流動し再び人の姿に戻る。

そしてそこには百合子がいつも見ているお爺さんの姿の雷神が現れた。

彼には百合子の前に現れる時には大きな拘りがあるようだ。


雷神は体を冷やすと百合子へと歩み寄りその頭を優しく撫でた。

それはとてもほのぼのとしており何処から見てもお爺ちゃんと孫である。


そして次に現れたのはハーデスであった。

彼は前回、蒼士から譲られた依り代を使い地上に顕現する。

どうやら気配を押さえるのにも慣れたようで普通の者が彼に近づいても問題なく二人を見送れそうである。

そして、ハーデスはアリスに近づくとその瞳を覗き込んだ。


そして思いを感じ取って鼻を鳴らし、背中を見せて呟いた。


「お前はそれで本当にいいのだな。」


それは周りの者が聞いても分らない内容だが、いまだに悩んでいるアリスからすれば心に突き刺さる言葉だった。


しかし、その言葉は今の彼女に更なる不安を与えるだけである。

結局アリスは百合子に何も相談しないまま自分の世界へと帰る事になった。


「それではまず狭間の部屋に行くぞ。」


雷神の合図で百合子とアリスは蒼士たちの前から姿を消した。

そして狭間の世界に戻るとそこには天照、スサノオ、カグツチ、ヘルディナが待っており彼らはそれぞれ帰還を祝福した。

そして代表して天照が今後の予定を告げる。


「二人ともよく戻りました。これから2日後にあなた達を過去に送ります。二人とも会いたい相手がいるなら今の内に済ませておきなさい。もし成功したならあなた達の周りの環境は大きく変わります。しかし、失敗した場合最悪あなた達はもうこちらの世界に帰って来る事も出来ないかもしれません。心して挑みなさい。」


「分かりました。お爺ちゃんお願いします。」


そう言って百合子は雷神と共に部屋を去って行った。


すると、神々もそれぞれの場所へと戻り、部屋にはアリスが一人取り残されることになった。

そして、アリスは部屋の壁に背中を預けるとそのまま座り込み膝を抱えて蹲る。


「もし過去に行っても失敗したらこんな風にずっと一人で生きて行くのかな。」


するとアリスは急に胸を締め付けられるのを感じて目に涙を浮かべた。

そして体に言いようの無い寂しさと体を凍てつかせるような寒さを感じ始める。

それが一人のアリスを更に苦しめ彼女は耐える様に自分の肩を強く抱いた。


「寒いな。」


そんな事を囁いた時、彼女に声を掛ける者が現れた。


「馬鹿な娘だ。」


するとアリスは突然聞こえた声に驚き顔を上げる。

しかし、その時彼女は自分が泣いているのを思い出して咄嗟に顔を隠して涙を拭った。

だが、自分が泣いていたのを見られたのは明白である。

そのためアリスは涙を拭い目元を少し赤らめながらも再び顔を上げた。

するとそこには自分をここに連れて来てくれた神のハーデスが一人で立っていた。


「女性の涙をのぞき見するなんて趣味が悪い神様ですね。」


アリスは恨みがましくハーデスを睨んで辛辣な言葉を放った。

しかし、そんなアリスの言葉をハーデスは無視して彼女の瞳を見ながら話を続けた。


「なぜそんなに人を頼らん。人間とは弱い生き物なのだから一人で出来る事には限界がある。百合子という少女もお前が頼ってくれるのを待っているぞ。」


ハーデスは百合子の思いもアリスの思いも分っている。

そのため百合子がアリスに遠慮して話を聞かないのも。

アリスが百合子に遠慮して話さないのもどうしてそうなるのか理解できなかった。

おそらくどちらかが強く踏み込めばこんな事にはなっていないだろう。

しかし、それが人の心と言うものである。

そしてアリスはいまだに自分の殻から抜け出せないでいた。


「そんな事わかってる!」


するとアリスは大声で叫び、更にきつくハーデスを睨み付けた。


「それでも私の事情に彼女を巻き込みたくないの。私はあちらではいつもあの子に助けられてばかり。あの子のアイテムに助けられ、彼女のおかげでこうしてパパとママを取り戻すチャンスまで貰えたわ。これ以上彼女に迷惑は掛けられない。」


するとハーデスはそのまま背中を向けて歩き出した。

その足取りは自然でアリスはやっとまた一人に成れると思った。


(これでいいのよ。これは私一人の問題なんだから。一人でもパパとママは私が絶対に救って見せる。)


すると、出口へと向かっていたハーデスは突然足を止め、顔だけをアリスへと向ける。


「ならば好きにするといい。私も好きにさせてもらう。」


そう言ってハーデスは扉を開けて転移して消えていった。


「何なのよ。もう、意味が分かんない。」


しかし、アリスが叫んだある事に思い至った。


(まさか・・・。まさかまさか・・・。アイツ私の事を百合子に話すつもり!?)


その事に思い至ったアリスは全力で走り出して扉を開けた。

しかし、そこから飛び出そうとしたアリスは目の前の風景を見て咄嗟に踏み出そうとした足を止める。

アリスの目の前には遥か遠くに見える町の夜景と目の前を過ぎ去る薄い雲が飛び込んでくる。

その光景にさすがのアリスもここから飛び降りる事を諦めた。

恐らく蒼士ならば躊躇する事無く飛び降りた事だろう。

しかし、アリスにはそこまでの覚悟が無かった。

扉を手にアリスはその場にしゃがみ込んで懐かしくも虚しい夜景を見つめる。

そして、部屋から出る事を完全に諦めたアリスは扉を閉めて再び一人となった部屋で壁を背に座り込んだ。


時間は少し戻り雷神と共に転移して行った百合子は自宅のある神社の境内で周りを見回していた。


「ホントにこちらでは私とは違う時間が過ぎてたんですね。」


百合子は境内の各所を見回すと寂しそうに呟いた。

彼女は帰るなり境内にある予定表を覗き込む。

するとそこには自分があちらに召喚された年から19年の歳月が経過している事が分かった。

また、境内にある木々はその間に大きく成長し自分の記憶と大きく異なっている。


そして、それらから視線を外すと、百合子は自分の家へと向かって行った。

そこには玄関の横に近江という表札があり家には明かりが灯っている。


百合子は何度も深呼吸を行い呼び鈴を鳴らした。

すると中から「はーい、今行きます。」という懐かしい声が聞こえて来た。


百合子はソワソワしながら扉の開かれるのをその場で待ち続ける。

そして、玄関の明かりが灯り扉の鍵が開くと中から一人の女性が現れた。


「どちら様で・・・・・。」


そこに現れた女性は百合子を見て言葉が止まってしまう。

そして百合子ははにかんだ顔を浮かべると万感の思いを伝える。


「お母さん・・・、ただいま。」


そう、その女性は百合子の母の撫子である。

すると彼女は百合子へと手を伸ばしその顔と頭を撫でその存在を確認した。


「幻じゃないわ。本物の・・・百合子・・・。」


そう言って撫子は涙を流して百合子を強く抱きしめた。

そして、「お帰りなさい。」と彼女は耳元でささやく。

すると、百合子の目にも涙が浮かび撫子の背に手を回して抱きしめた。


そして、なかなか戻らない撫子を心配し、今度は父親の春樹が奥から顔を出した。

すると百合子は涙を流しながら胸に痛みが走った。

撫子は少し年を感じさせるがそれでも思っていたほど老いを感じさせず、いまだに若さを保っていた。

しかし、春樹は違った。

百合子の記憶の中の父親は髪に白髪は無く皴一つない顔立ちであった。

しかし、今の春樹は髪には多くの白髪が混じり顔にも多くの皴が刻まれている。

そのため彼女は19年の重みを感じ嬉し涙に悲しみの色が混ざる。


しかし、春樹はそんな事を感じさせない明るい笑顔を浮かべて撫子ごと百合子を抱きしめた。


「お帰り百合子。あまり大きくなってないがちゃんと食べていたのか?」


春樹は二人と同じように涙を流しながら百合子の体の心配をした。

しかし、それも仕方ないだろう。

実際に百合子はこの2年で数センチしか身長が伸びていない。

それは19年ぶりに再会した春樹にとってはどうしようもなく心配な事であった。

しかし、そんな春樹の思いを知ってか知らずか百合子はあからさまに視線を逸らした。


「う・・・うん。多分食べてたよ。ネズミとか、蜘蛛とか百足とか?」


百合子は誤魔化す様に疑問形で答えるが、出てきている食料で誤魔化せてはいない。

しかし、両親はこれは聞かない方が娘の為だろうと思い話を変えた。


「そ、そうか。ここで話してても落ち着かないだろう。まずは入って話そう。お前の部屋はそのままにしてあるから今からでも使えるぞ。」


そう言って春樹は百合子と撫子を連れて中へと入って行った。

そしてここで彼女は信じられない話を聞く事になる。


居間に座ると彼女は周りを見回してもう一人の家族を探す。


「そう言えば弟の伊織はどうしたの。あの子ももう28歳くらいだよね。もう立派になってここの仕事手伝ってるんでしょ。」


しかし、百合子の問い掛けに両親は俯いて何も言わなくなってしまった。

そして、先程までは嬉しさに幸せいっぱいだった顔は見る影もなく消えていた。


「どうしたの二人とも・・・。もしかして伊織に何かあったの?」


すると二人は顔を見合わせて少し言い難そうに話し始めた。


「実はな、もう10年にもなる。ある日伊織はお前はきっと異世界にいると言い出してな。そして、その数日後にお前を探してくると言って家を飛び出したまま帰って来てないんだ。でも、こうやってお前も帰って来てくれたんだ。アイツもきっと帰って来る。父さんは信じてるぞ。」


そう言って春樹は無理やり笑顔を作った。

しかし、二人の反応を見るに強がりである事が分かる。

すると百合子は立ち上がり「すぐに帰ってきます」と言って出て行った。


実は百合子の傍にはずっと雷神が待機している。

そして彼は百合子に「アイツの居場所なら分かる。」と伝えた。

しかし、その顔は完全に歪みそれが何を意味するのかは容易に想像ついた。


百合子は外に出ると雷神と共に転移し伊織がいるという場所まで飛んだ。

しかし、そこは暗い森の中。

明かりは無く木々にはツタが絡まっている。


しかし、その内の一つは自然の物ではない事に百合子は気付いた。

それは大きな木に括りつけられたロープで先端が輪になっている。

しかし、そのロープはとても古く表面には苔が生え、今にも朽ちて切れそうであった。

そしてその下には一目で人の物とわかる骨が散乱していた。


「これが伊織じゃ。」


雷神は先ほどと同じように顔を歪めて百合子へと告げる。

そしてどうしてこうなったかを話し始めた。


「伊織が高校生の時。異世界召喚を題材にした物語が流行しての。それに感化されたこ奴はお前が異世界に召喚されたといいだした。実際には事実じゃったが伊織はその時に読んでいた本は死んで召喚される物だったんじゃ。そのため伊織はお前を連れ戻すためにここで首を吊って死んだのじゃ。すまん。儂が少し目を離した隙にこんな事になってしもうたんじゃ。」


そう言って雷神は一筋の涙をこぼした。

するとその横で百合子は伊織であった髑髏に手を乗せて優しく撫でた。


「ありがとう伊織。過去に行く理由がまた一つ出来ちゃったけどみんなのために私頑張るよ。」


そして百合子は可能な限り骨をアイテムボックスに入れると再び雷神と共に転移して家に帰った。


「ただいまお母さん。お父さん。今から大事な話があるの。だから真剣に聞いて。」


すると両親は百合子の顔を見て姿勢を正し、聞く体制を取った。

普通は子供がそんな事を言っても真面目に聞く大人は少ないだろう。

しかし、今の百合子には子供とは思えはい迫力とそれを感じさせるだけの何かを両親は感じていた。


そして百合子はアイテムボックスからトレイを取り出すと、その上に伊織の骨を少しずつ取り出した。

これは突然全部の骨を出すのは刺激が強いだろうと思っての百合子の優しさである。

しかし、両親は半分も出さない内にそれが何なのかに気付き顔を青く染めた。

そして、当然最後にはこれが人の者である事を示す髑髏を取り出して積み重ねた骨の頂上に乗せる。


「さっき雷神様から伊織の場所を教えてもらいました。それで、これが伊織です。」


両親は一瞬茫然とするが自分たちの信じる神が言うなら間違いはないだろうとその目に涙を浮かべる。

その姿に百合子は伊織が死んだのは自分の責任であると感じこれから自分が行う事を全て話した。

両親は当然驚き、話の間二人は百面相のように表情を変える。


「それで、お前が過去に行くというのか?」

「うん、これは神々の決定事項だからもう変えられない。そして成功すれば伊織も助かるかもしれない。だから待っててね。私達がみんなを助けて見せるから。」


すると撫子は目を鋭くして百合子へと問いかけた。


「それで、そのアリスって子は大丈夫なの?」


百合子はここ数日の彼女の様子を思い出し顔を僅かに曇らせる。

しかし、その僅かな表情の変化に撫子は鋭く気付いた。


「百合子、まだ時間はあるのでしょ。もう一度その子としっかり話しなさい。あなたも巫女の修行をした身なのだから分かるでしょ。心と体は一心同体。雑念は時に大きなミスに繋がるわ。そうね。可能ならその子をうちに招待しなさい。」


そう言って彼女は台所へと向かって行った。

そして百合子は雷神に頼んでアリスと打ち合わせの際に教えてもらった場所へと行くために外へと出た。。


するとそこにはここにいない筈の神物が一人闇の中に佇んでいた。


「ハーデス様どうかしましたか?」


百合子は突然のハーデスの来訪に首を傾げて問いかける。

するとハーデスは百合子へと歩み寄ると「話がある」と言った。


百合子は何だろうと疑問に思ったが二人の神を連れて家から離れ境内にある休憩用のベンチに腰掛けた。


「それで、どうされましたか?」

「実はアリスの事だ。」


そう言ってハーデスはアリスの事について語ろうとしたのだった。

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