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53 天罰②

聖王が灰になったころ、町では虐殺が行われていた。

だがこれは別にハーデスが意図した事ではない。

この町のある一定以上の年齢の者は、国の教育を無料で受けられる。

しかし、それは洗脳に近く、国の有事が起きた際には国民が命を掛けて聖王を護るように教育されている。

そのため多くの者がスケルトンに立ち向かい命を落としていた。


この時、ハーデスはいくつかの命令を彼らに与えている。

一つ、向かって来る者は容赦なく殺せ。

二つ、なるべく子供は殺すな。

三つ、奴隷は殺すな。

四つ、指揮官に従え。


この4つである。

ちなみに指揮官とはハーデスを頂点とした意志ある亡者たちである。

彼らの殆どは苦しい戦いを潜り抜けた者が多いため指揮官としても十分な能力を持っていた。

そんな彼らを中心に数に物を言わせて外壁の門を破り中へとなだれ込んだ。

すると武器を持った一般人が大量に押し寄せて来たのだ。

彼らは口々に神の為、聖王の為と叫んでスケルトンたちへと襲い掛かった。

しかし彼らの攻撃では何をしてもスケルトンたちにダメージを与えられず例外なく切り捨てられている。


そして指揮官の何人かは目的地があるようで住人や兵士を蹴散らしながら町の西へと向かって行った。

そこには煌びやかな店が並び裏には幾つもの館がある。

それらにスケルトンを連れた指揮官は突撃して行った。


「貴様は何者・・・」


指揮官の男は扉を蹴破って入るとそのままカウンターにいた男を捕まえた。


「ここにスカラがいるだろ。彼女は何処にいる?」


カウンターの男は指揮官の後ろにいるスケルトンに怯えなかなか答えようともしない。

しかし指揮官の耳を見たカウンターの男は突然、声を荒げた。


「汚らわしいエルフが俺に触るな。それよりもこんな事して生きて帰れると思うなよ。」


すると指揮官の男は拳を握り男を殴り付けた。

それは何度も続き男の心が折れるまで続いた。


「きょ、きょひょへやへす」(この部屋です。)


そう言ってスペアと思われる鍵を渡して来た。

すなわちそこには他の者がいると言う事である。


指揮官の男は急いで部屋へと向かう。

そしてカギに書いてある番号の部屋を見つけると鍵を使う事なく蹴破った。


「スカラ無事か?」


指揮官の男は扉を蹴破ると同時に中へと入り状況を確認した。

そしてそこには自分が今まで見て来た光景がまさに再現されていた。


ここは奴隷商館であると同時に拷問館でもある。

ここでは気に入った人種以外の奴隷を選び性欲ではなく破壊衝動を満たすのだ。

そのためここにいる人種以外の奴隷たちは客が来ると無理やり鎖に繋がれ客から拷問を受ける。

当然途中で高ぶった場合はレイプ紛いの性交も行われる。

そしてそれは精神が壊れるまで続き壊れた者は殺されて町の外へと捨てられるのだ。


現在、繋がれているのはエルフの少女である。

彼女はこの指揮官の娘で旅の途中に奴隷狩りに会い、男は殺され娘はこの町に売られてしまっていた。

男は死んだ後も娘を見守るためにずっと傍で見守っていた。

しかし、ここでのあまりにも酷い扱いに亡者となり今回の事で肉体を得て他を置いても娘を救いに来たのだ。

しかし、彼の目に飛び込んで来た光景は手に持った剣を振り下ろすには十分であった。

娘は両耳を切られ顔は判別が出来ない程に腫れ上がっている。

乳房は片方が切り取られ両足は揃えて糸で縫い付けられていた。

そして、少女は今にも死にそうな程か細い呼吸をしておりこのままでは本当に死んでしまうだろう。


「貴様よくも娘をーーー!」


指揮官の男は即座に動いて男の服を掴み後ろに投げ捨てた。

彼の後ろには先ほどから付いて来ているスケルトンたちがいるのだ。

そしてスケルトンたちは目の前に転がってきた男を敵とみなし剣で滅多刺しにした。

指揮官の男はそれを確認する事無く娘に駆け寄り鎖を外して地面へと下ろす。

そして魔法で深い眠りへとつかせると足を縫い付けている糸を抜き神聖魔法で回復させた。

しかし、彼の魔法では完全に回復させるまでには至らなかった。

そのため彼の顔には後悔と悲しみが浮かぶ。


そして彼は娘に顔を見せる事もなくその部屋をあとにした。

自分は既に死んでいる。

娘もそれを見ていたのだ。

そして指揮官の男はスケルトンたちに命令を下す


「この館を制圧せよ。奴隷紋を持つ者は殺すな。それ以外は皆殺しだ。」


男は娘を部屋に残し冷めきった声で冷酷な命令を下す。

そして、男は制圧が終わると数体のスケルトンを護衛に残し次の敵を求めて奴隷商館へと向かって行った。


そして別の所では兵士が子供を盾にスケルトンと戦っていた。


「おい、こいつら子供には攻撃が鈍るぞ。」


そう言って兵士は子供を片手にスケルトンの攻撃を躱していた。

しかし、問題は攻撃が鈍るのであって止まるのではない。

盾にされた子供は次第に体の傷が増えて行き瀕死の状態になっていく。

ちなみにこの子供は偶然通りかかった行商人の子供である。

そのため道の端では子供の両親が血を流して瀕死の状態で倒れていた。

彼らはこの町の者ではないため洗脳を受けてはいない。

その結果、子供を連れて行くのを止めようとして兵士に切られたのだ。

そんな所に二人の指揮官が現れる。


1人は剣を持った戦士の男。

もう一人は杖を持った魔術師の少女である。


二人は兵士の戦い方を見て顔をしかめ怒りで肩が震える。

彼らの中ではこのような連中を救うために魔王と戦ったわけではないという気持ちが渦巻いていた。

そして二人は兵士へと無言で近づいて行く。

するとスケルトンたちは自然と下がり兵士への道を作った。


「貴様らが今回の騒動の首謀者か!?」


兵士は子供を盾にしたまま二人へと剣を向けた。

そして周りの兵士たちも警戒するように剣を構え二人をゆっくりと包囲して行く。

しかし、子供の傷からは常に血が流れだしているため時間の猶予はない。

そのため二人は急いで勝負を付ける事にした。

男は剣を構え一気に子供を持つ兵士に突撃して行く。


「そんなに遅くちゃ此奴は助けられねえぜ。」


すると兵士もそれを予想していたのか右手に持つ子供を前へと突き出し盾とした。

しかし、それは二人も読んでおり少女は風刃を作り出し兵士へとはなった。

少女の放った風刃は迂回する様にカーブを描き、見事に兵士の腕を切り取り子供を開放する。


そして男はそのまま兵士へと剣を振り下ろし切り捨てると子供が地面に落ちる前に受け止め即座に少女の後方へと後退した。

すると少女は男が下がると同時に次の魔法を放つ。

それは鋭く硬い氷の刃。

少女はそれを無数に作り出すと一気に兵士たちへと解き放った。

それらは兵士たちを次第に切り刻み命尽きるその時まで降り注いだ。


そして、いくら強化されていようとも彼らにはこれにあらがう術は無く、数秒後には体中を氷で切り刻まれた哀れな死体へと変わる。


そして少女はすぐに子供の元へと駆け寄った


「見せて。すぐに回復するから。」


そう言って少女は子供に手をかざすと傷は瞬く間に回復し一命をとりとめる。

少女は更に両親の元へ行き、彼らも同じように回復させた。


「全員危なかったわ。あと少しで手遅れになる所だった。」


そして彼らはスケルトンに命じ彼らを町の外へと運ばせた。

しかし、時間と共に騒ぎは次第に大きくなるがそれに反比例するように悲鳴は減っていく。

また彼らは長い間、実体のない状態でこの町を見続けて来た。

そのため逃げる事も隠れる事も出来ない者達は次第に選別されある者は助かりあるものは殺されていった。

そして、町の上空からはハーデスが町から出てくる者達を見下ろし、最終審査を行っていた。

ハーデスの目は相手の魂から真実の姿を読み取ることが出来る。

そのため彼の目により弾かれた者達が出口から見えない所で死体となって積まれていた。

そして今もそんな人間がまた1人。


(もう少しで町を出られる。この亜人のガキも最後に役に立ったな。)


その男は行商人であったが出身はこの国である。

しかし、資金が乏しいため人を雇えず、仕方なく捨て値で売られていた獣人の子供を買い奴隷として働かせていたのだ。

男は周りの状況を素早く認識して少年を利用し、町の中から運よく逃げ延びている。

しかし、その幸運もここまでである。

ハーデスは出口で待機している指揮官に念話を飛ばした。


(聞こえるか?)

(はい、感度良好、ご指示をどうぞ。)

(今出て来た獣人の子供を連れた男。奴に助かる価値はない。すぐに始末しろ。)

(分かりました。)


ハーデスと指揮官は感情の籠らない声で淡々と言葉を交わした。

そして指揮官は理由すら聞く事無く命令を実行に移す。


「あの、そこのあなた大丈夫ですか?」


指揮官の男は優しい笑顔で男に近寄り労りの言葉をかける。

すると男は逆に警戒の視線を指揮官に向けた。

こんな事態だというのに笑顔を浮かべ他人を気遣う。

彼の中での常識ではありえない事であった。

彼の常識はこのような時、人は周りを蹴落として犠牲にしてでも自分の事を最優先にする。

こんな時に他人を気遣うなど出来るはずはない。


そう思い男は獣人の子供をいつでも盾にして逃げられるような位置へと動き子供の服を後ろから掴んだ。


(確かにこいつには生きる価値はないな。)


指揮官は男の動きから全てを読み取り自分の中でも決断を下す。

男はそんな指揮官の内心に気付く事無く普通を装い話しかけた。


「おう、兄ちゃん。俺達は今からどうすればいいんだ。何も持たずに逃げて来たからな。それにこいつも怖がってるから早くここを離れたいんだ。」


そう言って男は子供に視線を落とす。

すると子供は無言で頷き目に涙を浮かべた。

子供はこの国で奴隷となりこの男の所有物になっている。

もしこれがアルタ王国なら違う行動を取っただろうがこの国では奴隷とは主に絶対服従である。

そのため少年は男が命じた勝手に喋るなという命令に逆らえず涙を浮かべたのだ。

しかし、指揮官にはその目に救いを求める真実の思いを感じ取った。


「そうですか。それでしたらあちらへどうぞ。」


そして指揮官は城壁の右側を指さした。


「そうかありがとよ。」


男はそう言って子供を連れて走り去っていった。

そして新たな脱出者が彼の前に現れる。

それは先ほど助けられた3人の親子でありスケルトンたちに抱えられるように運ばれている。


「その人たちは彼方に運べ。慎重にな。」


そう言って指揮官は先ほどの男が行ったのとは逆の左側へとスケルトンたちを向かわせた。

そして遠くの方から男の悲鳴が聞こえてくる。

すると指揮官は声のした方へと動き出した。

彼が向かった先では。


「何だこりゃ。離しやがれ。」


男は地面から生えた骨の手に足を掴まれ動く事が出来なくなっていた。

ちなみに男の横には既に子供の姿はない。

男は子供を連れての行動は不可能と考え、ここに来る途中で動くなと命令し捨ててきたのだ。

すると彼の後ろに一人の男が現れた。


「ホント、生きる価値がない人ですね。」


その声に気付いた男は振り向いて指揮官を見る。

彼の横には先ほど捨てたはずの子供がおりこちらを睨みつけている。


「クソがーーー。騙しやがったな貴様。」


男は指揮官を睨み全力で叫ぶ。

そして横の子供に視線を向けると命令を下した。


「ガキ、俺を助けろ。そして俺の盾になれ。」


しかし子供に動く気配は見られない。

男は苛立ってもう一度命令をしようとした。

しかし、男が声を出す前に彼の首は体から切り離され地面へと落ちる。


「五月蠅い男です。すでに奴隷紋は解除させてもらいました。・・・と、もう聞こえませんか。お前たち。そいつの始末は任せましたよ。」


そう言って指揮官は子供を優しく抱えると門の方向へと歩いて行く。

そして男はスケルトンに運ばれ死体の山の一部となった。


そして本当の夜が訪れた。

空はいまだに厚い雲に覆われ星も月も見えない。

そのため人のいなくなった町は真の闇に包まれていた。

逆に町の外では助かった人々が炎を焚き魔法による明かりの中で静かに喪に服していた。

彼らはこの天罰で死んだ者達を悼み神への祈りを捧げている。

しかし、この中でカティスエナに祈りを捧げる者は誰もいない。

彼らは今回の事で彼女が自分たちを見捨てた事を理解しているからだ。


そして場所は移動してここは王城の中。

そこでハーデスは残った王族や貴族、重鎮や兵たちを見ていた。

そして彼は一人の年老いたメイドを指さすと自分の元に来させた。


「この中で生きる価値があるのはお前だけだ。お前は外に出ていろ。」


年老いたメイドはハーデスに言われるままその場から離れて行った。

しかし、それをよく思わない者達が声を上げる。


「なぜあいつだけ助けられるのだ。あんな年老いた者が助かるのはおかしいだろう。」

「そうだ、我らはあんな者よりも尊い血が流れているんだぞ。あいつが助かるなら我々も助かって当然ではないか。」


そう言って貴族や王族はハーデスへと叫び、時に罵声を浴びせた。

彼らはハーデスが神であるのは既に知っているはずである。

しかし、カティスエナを絶対神とした教育を受けた者達はハーデスを敬うどころか見下す者ばかりである。


しかし、ハーデスはここでもう一つだけの慈悲を一人の少女に与えた。


「貴様、前に出ろ。」


そう言われて一人の少女が顔に恐怖を張り付けてハーデスの前まで出てくる。

今ハーデスは極限まで神気を押さえているため少女は何とか彼の前まで進み出る事が出来た。


「貴様はあの者の娘だな。お前は彼女の行いを知っているはずだ言ってみろ。」


すると彼女は一度唇を強く噛み、視線を逸らしながら答えた。


「母は私達がお世話していたアリスから百合子へ差し入れを運んだりアリスの話し相手になってあげてたわ。」

「それでお前たちは?」

「そんなことしたら上から罰を受けるじゃない。出来るはずないでしょ。」


少女はハーデスの目を睨み目に涙を浮かべながら叫んだ。

しかし、ハーデスは小さく溜息を吐いて失望した顔を向けた。


「それでも彼女はそれをしたぞ。お前は彼女の背中を見た事はあるのか?」


するとその時、初めて少女はある事に気付いた。

自分の母は罰を与えられても百合子の元へと差し入れをしていた事を。

さらに、自分達はアリスからの願いを断り続け、碌な会話もせずに2年の間過ごしていた事に。

そして彼女の母は当然、罰として背中を鞭で打たれている。

そのため彼女は娘に絶対に背中を見せなかったのだ。


「救えんな。しかし、お前には彼女に免じて慈悲をやろう。」


そう言ってハーデスは少女の頭を掴み持ち上げる。


「やり直す機会をな。」


そして手に神気を込めて少女に送り込んだ。


「ギャーーーー・・・ああ・・はえ・・うう・・・。」


その瞬間、少女は悲鳴を上げる。

しかし、それも次第に意味がない物へと変わり次第に声すら上げなくなる。

そしてその頃には少女に大きな変化が現れた。

体は縮み少女は幼女と言っていい姿へと変わる。

そしてハーデスが彼女を地面に下ろした時、彼女は何も無かったかのように目を開いた。


「お兄さんは誰ですか?ここはいったい。お母さんを知りませんか?」


幼女となった彼女は記憶を失い周りの状況が理解できずに混乱し始める。

そして混乱が限界に来た時。


「ふ・・ふえ・・・お母ーーさんどこーーー!?」


と泣き始めてしまった。

その聞き覚えのある声に気付いた先ほどのメイドが、中を覗いてその姿に驚愕する。

そこには記憶にある幼い我が子が泣いているからだ。

すると彼女は周りを気にする事無く自分の娘を抱きしめた。


「ふえーーーんお母さーーーん!」


そして幼女も母に抱きしめ服を涙で濡らした。

しかし、次第に落ち着いてきた幼女は母の顔を見て首を傾げる。


「お母さん、なんだかお顔が違うよ。」


そう言って母の顔に手をやり優しく撫でる。

彼女の母親はこれまでの過酷な生活に耐えている間に数年でかなり年老いた顔になっていた。

それは記憶に残る母の顔とは大きく違い少女を困惑させる。

しかしそこに後ろから声がかかった。


「その者と共に今はこの城を離れるのだ。」


するとメイドは振り向く事も周りを見る事もなくただ娘を抱きしめて部屋を出て行った。

その際、ハーデスはもう一つの慈悲をメイドへと与える。

それに気付くのは彼女が城から出るころである。


メイドは城から出ると抱きしめたままの少女を下ろし手を繋いで歩き始める。

すると娘が嬉しそうに母へと話しかけた。


「お母さん、やっぱりさっきのは私の見間違いだったみたい。お母さんはやっぱり綺麗だね。」


すると母親はウフフと笑顔を浮かべて頬に手を当てる。

そしてその時初めて自分の手を見た彼女はそこにあるはずの物がない事に気が付いた。


(あれ、手に皴が無い。それに顔もとても滑らかで瑞々しいわ。)


そして彼女は空いている手で自分の背中を摩った。

するとこの2年で刻まれた鞭の痕が消えている事に気付く。


この時、彼女は初めて自分も娘と同じように若い姿に戻っている事を知る。

そして先ほどの恐ろしい神に向けて感謝の祈りを捧げ急いで城を離れて行った。


その祈りは神であるハーデスの元に届き彼は口元を僅かに綻ばせる。

そして彼は最後の仕上げを行った。

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