52 天罰①
ハーデスは歩きながら後方でヘルが無事に地上から離れて行った事を感じ取り安堵の溜息をこぼす。
彼はもしかしたらカティスエナがちょっかいを出すのではないかと心配していたがそれは杞憂だったようだ。
そして、ハーデスはバストル聖王国へと向かっているがヘルの事も無事確認できたため転移による移動を行った。
そして彼は瞬時に首都の近くの空まで移動すると周辺を見回す。
すると、そこには予想通りの光景が広がっていた。
上空から見た街はとても美しく区画や街並みが綺麗に整理された平安京のような作りをしている。
しかし、それは人の目から見た場合。
彼の目にはこの国を恨む、目に見えぬ無数の亡者に取り囲まれた呪われた町の姿が映し出せれていた。
「やはりな、予想はしていたがここまで酷いとは。しかし、これならば我が来て正解だった。他の神が来れば亡者を御せずに暴走させたかもしれん。」
そして、状況を確認したハーデスは地上へと降りて押さえていた神気を解き放った。
それはとても禍々しく黒い霞の様なオーラは地上も空も町も飲み込んでいく。
すると空は雲に覆われ太陽を遮り、亡者たちはその気配に導かれるようにハーデスの元へと進み始めた。
そして空が完全に分厚い雲に覆われ黄昏時のようになる頃、ハーデスの周りには亡者の群れが取り囲んでいた。
しかし、亡者たちに先ほどまでの無秩序さは無くそれぞれが口を閉ざしハーデスの言葉を待っている。
そして準備が整ったかのように彼は亡者達へと告げた。
「この国に恨みを持ち捕らわれる亡者たちよ我に従え。さすれば貴様らにそれを果たす機会を与えよう。」
するとハーデスの前に数十人の強力な亡者が歩き出た。
「俺達はこの国に奴隷にされた勇者や召喚者だ。頼む俺達に復讐を果たす機会をくれ。」
「私はこの世界に召喚された者よ。あいつら魔王を倒せば開放すると言ったのに魔王を倒して帰ると今度は性奴隷のように扱われて殺されたの。あの国の王族は皆殺しにするまでこの恨みは消えないわ。」
そう言って一部の意思を残した亡者たちは口々に恨みを吐き出していく。
ハーデスはそれを一人一人丁寧に聞いては頷いたり声にして答えた。
そして最後の亡者の恨みを聞き終わるとハーデスは笑顔を向けた。
「お前たちの苦しみも怒りもよく分かった。それではお前たちに仮初の肉体を授ける。付いて来るがいい。」
そう言ってハーデスは亡者の群れを引き連れて歩き出した。
そして城壁から少し離れた場所に到着するとその足を止める。
「ここがいいなここの土には人間の血肉が多く含まれている。これならお前たちの体を作るのに丁度いい。」
ハーデスが土の質を確認していると先ほどの意志ある亡者たちの半数以上が前に出てあらゆる場所に散らばって行く。
そして一番近い亡者がハーデスへと告げた。
「俺達の体もこの下に眠っているんだ。頼む体を作るなら一部でもいい。それを材料に使ってくれないか。」
亡者たちは皆、涙を流しながら懇願する。
するとハーデスは彼らに優しく微笑み、彼らへと腕をかざした。
すると大地から突然骨の手が突き出し、人数分のスケルトンが発生する。
「おおおお、これは俺の骨だ。」
「こっちは私のよ。」
亡者たちは歓喜の声を上げスケルトンを見つめる。
どうやら亡者たちには自分の骨である判別がつくようだ。
しかし、ハーデスの細工はここでは終わらなかった。
ここの土には彼らを含む多くの人間の血肉が含まれているのだ。
そのため彼はその土を使って骨を包み人の形を作り出した。
「さあ、その体に触れてみろ。」
そしてハーデスに促されるままに、一人の亡者が土人形に触れると、亡者は吸い込まれるように中へと入って行った。
すると人形の体に小さなひびが入り始め、卵の殻が剥がれるように次第に形を変えて行く。
そして数分後には生前の体を取り戻した姿で一人の亡者が立っていた。
「こ、これはいったい!?あなたは何者なのだ?」
「我はこの世界の神ではない。お前たちと同じ別の世界から来た神の一人であり冥界の王ハーデス。この度はお前達の無念を晴らし、あの国により攫われた魂たちを故郷に返すためこの地に来た。」
そして周りでは残りの者達も土人形へと入り人の姿へと変わって行く。
すると次第に増えて行く者たちを見てハーデスは再び亡者の群れへと振り向いた。
「お前たちは体が無いのか?」
すると一人の亡者が涙を流しながらその理由を語った。
「俺はあの国の奴らに人体実験をされて骨すらまともに残っていないんだ。だから俺に彼らの様な生前の証は無い。」
「私は魔物の群れの前で囮として見捨てられたわ。だから体はとっくに大地に帰ってるの。」
するとハーデスは一つの頷きを返す。
そしてその直後、自らの腹を突き刺して体の中から一つの巨大な骨を取り出した。
ハーデスが骨に力を籠めるとその骨は粒子のように細かくなり、あたりに散らばっていく。
すると、そこから残りの意志ある者たちと同じ数の土人形が出来上がった。
「先程の骨は我が依り代としたドラゴンの骨だ。我が神気を帯びているから十分お前たちの力に絶えられるだろう。だが、お前たちの生前を知らぬ故、姿は自分たちで作るがいい。」
すると残りの者達も土人形に走り寄り、好きなように入って行った。
そして、先ほどと同じように人の姿となり体の調子を確かめている。
するとハーデスは残りの亡者たちにはスケルトンの体を用意した。
彼らは明確な意思は消えており、ただ恨みを晴らす事しか考えていない。
そのため強力な肉体を与えると無用な犠牲が出ると判断したため低級な体を与える事にしたのだ。
しかし、通常ならアンデットとしては低位の魔物だが、このスケルトンは神であるハーデスが神力を注いで作り出したものである。
彼らの性能は並みの魔物を遥かに凌駕していた。
そして体を与えたハーデスは次に武器や防具を与えた。
スケルトンには剣と盾だけだが、意思ある者達には生前使っていた物に出来るだけ近い物を与え魔導士には杖を、戦士には剣や槍を与える。
そして準備が整うとハーデスは首都の上空に飛び上がり、町の者すべてに神の意志を伝えた。
「これよりこの町に神罰を執行する。その理由は言わなくても分るだろう。お前たちは神の怒りに触れる行いを1000年にも渡り続けた。これは汝らの神、主神カティスエナも承認している事である。汝らに逃げる場所は無い潔く神の裁きを受けよ。」
そしてハーデスは全ての亡者に突撃を命令した。
ここはバストル聖王国の玉座の間。
ここには今、聖王が突然の異常事態により対応を行っていた。
「軍に緊急警戒を指示しろ。それと念のために町の者達にも準備をするように指示を出せ。」
そう言って聖王は各所に指示を出し、緊急時に備えさせた。
現在は異世界人という最大戦力がいない状態である。
更に精鋭の兵士1000もおらず、戦力的には心もとない。
もし、この機を狙い魔族が攻めて来たのだとすればかなり厳しい戦いとなると聖王は判断した。
「聖下、カティスエナ様に神託をいただいてはどうですか?」
文官の一人が玉座の前に来て聖王に進言を行う。
しかし、聖王の顔は歪み奥歯を噛みしめた。
「それは既にしている。しかし、何の反応もない!いつもならばすぐに表れるのだがこんな時にどういう事なのだ。」
そう言って聖王は玉座に拳を叩きつけた。
その様子に進言した男は顔を青くし逃げる様に下がって行く。
すると玉座の間に一人の兵士が現れ挨拶もなく報告を始める。
「聖下、大変でございます。町の外にスケルトンが溢れております。その数は万を下らないそうです。しかも全てのスケルトンが武装しております。」
すると周りで聞いている者に留まらす聖王自身も「あり得ん!」と呟き絶望を顔に浮かべた。
そして次の瞬間、町全体へとハーデスの声が響き渡る。
それにより彼らは更なる絶望へと叩き落された。
これが事実ならば自分たちは建国以来、絶対神と崇めて来た神に見捨てられたことになる。
通常ならこんな戯言を信じる事はない。
しかし、町の外の状況とカティスエナが自分たちの問い掛けにまったく答えない事が先ほどの事に大きな信憑性を持たせた。
すると大臣の一人が声を大にして聖王へと進言する。
「お逃げください聖下。きっとこれは何かの陰謀です。あの方が我らを見捨てるはずはありません。」
その言葉に周りにいる者たちは何かの希望を得たように頷く。
しかし、聖王はその姿に焦りを感じていた。
この男は知っているのだ。
この国に生まれた者は王族を除いてそうなるように教育されている事を。
彼らは叶わぬ希望を持って進言している事を。
するとその時、部屋の外から争う音が聞こえ始めた。
「馬鹿な、もうここまで攻め込まれたというのか。警備の兵は何をしている。」
大臣の一人は慌てて兵士たちを罵倒した。
しかし、これは兵士たちが怠けていたためではない。
意志ある亡者の中にはこの城で殺された勇者や召喚者たちが含まれている、
そのためこの城の隠し通路を知っている者がその中には複数存在していた。
そこを使い数名の精鋭による奇襲を彼らは行ったのだ。
しかも彼らは誰もが魔王を倒すだけの実力がある猛者ばかり。
一般の兵ではどんなに百合子のアイテムで強化しようとも物の数ではなかった。
そして慌てているうちに外とを隔てる巨大な扉に剣線が走りバラバラに切り裂かれた。
そこから入ってくるのは人の姿をした男が二人に女が一人。
「貴様何者だ?ここを何処か分かっているのか?」
大臣は侵入してきた者に罵声を浴びせ周りの兵士へと命令を下す。
「ええい、何をやっている!賊はたかだか数人。早く始末しろ!」
その声に従い周りの兵士は侵入者へと剣を手に突撃して行った。
しかし、兵士が剣を振り下ろそうとした瞬間。
彼らは前に踏み出し兵士を一刀のもとに切り裂いた。
そして、それは兵士がいなくなるまで続き、強化により力を増しているはずの者達はまるでただの藁人形のように呆気なく体を切断されていった。
しかし、それを行った彼らは何処となく不満そうに剣を持つ手を見つめ、足元の死体を確認する。
「やはりこの体だとこんなものか。」
「仕方ないわ。体があるだけでもいいとしましょ。」
「そうだぜ。それにしても昔に比べてこいつら弱くなってないか。俺の時代だともっと強い奴がゴロゴロいたぞ。」
彼らは自分の体と切り捨てた兵士たちを見て自己分析を始める。
しかし、それを聞いていた周りの大臣たちは何が起きたのか理解が出来ない。
そしてある者は腰を抜かし、またある者は死を覚悟して神への祈りを捧げている。
しかし、そんな中で聖王は張りぼての威厳を保ち彼らへと問いかける。
「お前たちは何者だ?よもや士官しに来た者ではあるまい。」
「当然だろ。まあ、俺達を一言で表すなら英雄という所か。」
聖王の言葉を聞いて、先頭に立つ男はあえてぼかした返答を返した。
これには彼らにとって大きな意味があるが、それに気付く者は自分達の他にはいなかった。
そして聖王は何を勘違いしたのか彼らへ交渉を持ちかけた。
「お前たちの力はよくわかった。その強さがあれば外のスケルトンの群れを倒す事も出来るであろう。どうだ、我が国に雇われないか?出来る限りの褒賞を約束するぞ。」
すると彼らは皆、落胆したような、悲しみをこらえるような顔になり聖王を見つめる。
しかし、その目の奥には暗い怒りの炎が燃え上がっていた。
「お前・・・。俺達の事が本当に分からないのか?」
「何を言っておる?我はお前たちに会うのは初めてだぞ。」
聖王は彼らの言っている事が本気で分からず首を傾げるばかりである。
「そうか。お前たちにとって俺達は所詮、実験動物や性奴隷か。」
彼らは自分たちの行った偉業が少しは残っていればとわずかでも期待してこの場所に来た。
しかし、彼らの事を知る者は誰もおらず、結局は無駄な希望であった事を知る。
たとえ知っていたとしても彼らが聖王を助ける事は絶対にないが、苦しまない様に殺してやろうという優しさはあった。
「それなら仕方ないな。お前たちには全員死んでもらう。」
その瞬間、彼らは走り出し周りの者を切り捨てて行く。
聖王はそれをただ見るだけしかできず、気が付けば周りで生きているのは自分一人となっていた。
「なぜだ!なぜ身代わりのアイテムが機能しない!?」
聖王は一刀の元に切り捨てられていく者達を見て驚愕する。
通常なら攻撃を受ければ一度は助かるはずである。
それなのに兵士たちは抗う事も出来ず紙屑の様に斬り捨てられ、立ち上がる者が1人も現れない。
そんな聖王に向け、彼らは呆れた様な顔で答えを教える。
「そんな事も知らないのか。身代わりと言っても万能ではない。耐えられる攻撃には使われている素材によって変化が起きる。これを作った者は一級品だが材料が粗悪品過ぎる。こんな物では俺達の攻撃は防げんよ。」
そしてそう答えた男は聖王の腕を無造作に切り落とした。
「ぎゃああああ!私の腕がーーーー!!」
さらに次は聖王の前に笑顔の女性が立ち、彼女は表情を変えないまま優しく剣を振り下ろした。
その速度は遅く、しかし避ける事の出来ない速さで、肩に当たると刺身を着る様にゆっくりと腕を切り落としていく。
「ああああああ!やめてくれーーー!このままでは死んでしまう!!」
すると今度は3人目の男が聖王の横に立ちその腕を治した。
「これでまた腕を切れるな。」
しかし、そう言いながらも彼は聖王の腕を両手で掴むと遠慮の欠片もない動作で引き千切った。
「やめてくれーーー!私が何をしたというんだーーー!?」
聖王は痛みに苦しみながら彼らへ叫んだ。
しかし、その問いに帰って来たのは冷たい視線と怒気を孕んだ殺気だった。
「貴様ら王族が行った人体実験で死んだ者たちはこの程度の苦しみではなかったぞ!俺も何度も生きたまま腹を裂かれ目を抉りだされ何度も治癒されて地獄を味わった。知らないとは言わせんぞ。その成果が貴様なのだからな。」
そしてその時初めて聖王は彼らが何者なのかを思い出した。
聖王が過去の資料に目を通した時に見た似顔絵の資料に彼らは乗っていた。
彼らはこの国の奴隷であり、魔王を倒した後に人体実験に使った勇者たちだ。
男は実験の材料にし、女は実験の結果を確認するために王族で徹底的に犯しつくし結局子供を産ませることが出来なかったため実験の材料にした。
そして肉の一片、骨の一欠けらも残さず処分された者達である。
聖王はそれに気付いて顔から血の気が引いて行く。
「どうやら理解したようね。あの時、私は今のあなたのように止めてと何度も叫んだのよ。でもあなた達は私を犯し続けた。さらに最後は意識のあるまま解剖して殺したでしょ。勇者はね。普通の人と違って死ににくいのよ。あの時は苦しかったわ。」
彼女は笑みを浮かべているがここに来て笑みを絶やした事はほとんどない。
すると絶望のどん底に突き落とされた聖王は手足の骨を砕かれ、身動きの出来ない状況にされる。
そして最後に聖王は彼らの魔法によって焼かれていく。
しかも火刑のように足元からゆっくりと。
その痛みに悶えながらもがき苦しみ最後の最後まで苦しみぬいて殺された。
これを思えば周りで死んでいる大臣たちは幸せだったかもしれない。
彼らは気付けば死んでおり、痛みも苦しみも感じる事無く逝けたのだから。
そして、彼らが周囲を見ると死んだ者達を亡者が綺麗に消し去り、最初に踏み入れた時の様な綺麗な姿へと戻っている。
唯一、玉座の周りだけは焼け焦げているがそれ以外には血の跡すら残っていない。
そして今度は城の中を進んで行き、生き残りと残っている兵士たちを始末しながら外へと向かって行った。




