表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/148

51 アリスの決意

涙を流す彼女の前に一人の女神が現れた。

その女神に名前はヘルディナ。

つい先日ハーデスにより命を救われた女神である。

彼女はハーデスの指示によりアリスの両親の魂と共にこちらへとやって来た。

元々彼女はこちらの神であるためこのような行動を取っても何も言われる事は無い。

それを利用し、ヘルはアリスの夢へと入り死んだ両親と再会させたのだ。


しかし、これは100%の善意からの行いではない。

オーディンたちは歴史を変えるために今はアリスの力が必要だと判断したのだ。

形としてはアリスの気持ちを利用する事になる。

そのためハーデス自身は難色を示したが帰れば自然と知ってしまう事であった。

なので彼はこの機会に彼女と両親を再開させることにしたのだ。

そして、その効果は十分にあったようである。


「初めましてアリス。私は神のヘルディナ。あなたに話があって参りました。」


しかし、アリスはヘルに反応する事無く泣き続けている。

その姿はまだ幼い迷子の子供のようでその体も小さく縮んでいると錯覚させられるほどに弱々しい。

しかし、それも仕方がないだろう。

彼女は1年以上も感情を殺し、そして失ってきた。

そこで急激に感情が戻る事で慣れない悲しみによって心が強く反応し過ぎてしまっている。

しかし、そんなアリスもヘルの次の言葉に泣き止み反応を示した。


「また両親に会いたいですか?あなたがもし協力してくれるならそれも可能かもしれませんよ。」


するとアリスは途端に泣き止み鼻をすすると疑惑の目でヘルを睨みつける。

この二年、彼女は周りから裏切られてばかりで信じられる相手は殆ど居ない。

そのためヘルのあいまいな言葉に疑問を感じ信じる事が出来なかった。

しかし、信じたくなくても彼女の言った内容は今のアリスには聞き流す事が不可能である。

そのため疑いながらもヘルと会話をして本心を探ろうと考えた。


「あなたは自身を神と言った。ならあなたはどちらの神ですか?私はこんな運命を与えたこの世界の主神が殺したいほど憎い!」


アリスは言いながらも自然と殺気が溢れ出す。

しかしヘルはその姿を見て笑顔を浮かべ、彼女が手が届くほど近くまで近づいた。


「私は先日までこちらの主神に仕える神でした。しかし、今はあなたと同じ世界にいるハーデス様に仕える者の一人。それに私もこの世界の主神に全てを奪われ一度死にかけた身なので私もこの世界の主神が大嫌いです!!」


ヘルの言葉にアリスは何故か共感者を得た時のように心が軽くなるのを感じた。

それは彼女も同じくこの世界の主神を嫌い、言葉の最後の方ではアリスですらヤバいと思えるほどのオーラを纏っていたからだ。

そんなヘルと話すうちにアリスは彼女の気持ちに嘘は無さそうだと感じ始めている。

そして、幾つかの話が終わった時、自然な流れでアリスは本題へと入って行った。


「さっき、私が協力すればまたパパとママに会えるかもしれないって言ってたわよね。あれはどういう意味なの?」


この瞬間ヘルは会話によりアリスから少しは信用された手ごたえを感じる。

実のところ、ヘルはアリスがまだ自分を信用していない事が分かっていた。

何せ普通の人間には逆らう事さえ出来ない存在の不注意により、今の様な境遇に落とされたのだから。

ここに来てやっとヘルは本題に入れると初めて真面目な顔になり説明を始めた。


「今あなたの世界では神々がある事を計画しています。それはこの世界にいる冬花という少女と蒼士という少年をあちらの世界に呼び戻す事。そのためには誰かを過去に送って歴史を変えないといけません。でも世界には修正力と強制力が存在するので並みの人間を送っても歴史は変えられない。だからあなた達が過去に行って歴史を変えるのです。」


するとアリスは何故そこで自分の両親が関係するのかに疑問に思い首を傾げた。


「私はその二人を知らないわ。どうしてその人たちを助ける事がママとパパを助ける事に繋がるの?」


するとヘルは笑顔を浮かべて首を横に振った。


「彼らを助けてもあなたの両親は助からないわ。あなたの両親を助けるのはあなた自身よ。」

「どういう事なの?私には訳が分からないわ。」

「そうね。それじゃ。ちゃんと説明するからしっかり聞いてね。」


そう言ってヘルはイメージを映像化してアリスの前に映し出した。


「まずはあなたにとってこの世界に来て2年しかたっていないけどあちらでは19年の年月が過ぎてるのは知ってるわね。」


アリスは先程両親から聞いた言葉を思い出し頷いて答えた。


「あなたは今この19の所にいるけど時間を遡ってそれよりも前に戻るのよ。そうすればあなたの両親が死ぬ日まで時間があるからその前に百合子と協力してあちらの神に冬花と蒼士を助けてもらう様に伝えるの。そうすればあとは自由にしてもいいわ。」

「伝えるだけでいいの?」


アリスはあまりにも簡単な仕事なためつい疑ってしまう。

彼女の中ではもっと命が掛ったり危険がある物だと思っていたからだ。

これなら両親を救う事も簡単かもしれない。

そう思った時、ヘルが真剣な顔になりアリスへと次の話を伝える。


「確かにあの二人の事はあちらの神がどうにかしてくれるから簡単よ。この事で苦労するのは百合子だけど、彼女には神に伝があるから問題ないわ。でも神にとって運命を変えるのは簡単だけど人の身で運命を変えるのは命を賭けても難しいのよ。それにチャンスは一度だけ。あなたは一人でそれに挑まなければいけないの。」


そこで初めて自分が行く道がどういう物なのかを悟った。

そして、自分に運命を変えるだけの力があるのか不安を感じ始める。


しかしアリスは0ではない可能性に掛けてみる事にした。

もし、失敗しても今度は家族一緒である。

悔いを残して生きるよりも、悔いが残らない様に足掻こうと決意した。


「私は過去を変えてパパとママを救って見せる。だからお願い。私を過去に送って!」


アリスは力強く瞳を燃やし、ヘルに告げる。

するとヘルは笑顔を浮かべて頷いて返した。


「分かったわ。まずは元の世界に帰る事ね。今その世界には私が仕えているハーデス様という方が降りているわ。あの方があなたをこちらに送ってくれるから恐れずに言う事を聞くのよ。」


アリスはベルを見詰めハッキリと頷いて返事を返した。

すると次第にヘルの姿が薄まり陽炎の様に消えていく。

それと同時に自分も意識が曖昧になり次第に夢の中にいるような気分になっていった。

そして、突然意識が現実に引き戻され気が付いた時には知らないベットの上に寝かされていた。


アリスは少し傷む頭を押さえて体を起こし周囲を観察する。

部屋は暗く窓からの光がない事からすでに夜なのだと気付いた。

するとその時ベットの横の椅子に誰か男が座っている事に気が付き、彼女は咄嗟に飛び起きて拳を構える。

アリスは油断なく男を見つめ警戒を続けた。

すると男は立ち上がり移動すると壁にある明かりをつけて部屋を照らし出した。


明かりが灯され、男の姿が光に浮かび上がりその顔を確認することが出来るようになる。

するとその顔は先程戦った少女の横にいた人物であった。

アリスは目の前の男がガイアスでなかったことに安堵し僅かながら緊張と解く。


ならこの男は誰で自分は今どういう状況なのか?

あの後にガイアスはどうなったのかという多くの疑問が込み上げて来た。


すると男は椅子に再び座りアリスの疑問に答える様に話し始めた。


「俺の名前は蒼士、一応君と同じ世界出身なんだ。君の事は百合子から少し聞いていてね。しばらくの間は百合子と一緒にここで保護する事になっている。」


そう言われアリスはいろいろな事を思い出し、疑問も解消されていく。

それと同時に拳を下ろし構えと警戒を解いた。

しかし、彼女にはまだ大きな懸念が心を支配している。

それは気を失うまで自分の後ろで五月蠅く喚いていたガイアスの存在であった。

それに自分はお金など持っていない。

ここでの生活資金はどうするのかが彼女の中ではとても気になる事でもあった。


「助けていただいた事、ありがとうございます。それと・・・、一緒にいた男はどうなりましたか?それと・・・その・・・、私はお金とか持ってなくて。」


アリスは暗い顔をして俯き素直に自分の中の懸念を話した。

その様子に蒼士は少し勘違いを起こしてしまう。


「もしかしてあの男は殺さない方が良かったか?見た目はあんなでも裏ではいい奴だったとか?」


するとアリスは慌てて手と首を横に振りガイアスの事を否定した。


「いえいえ違います。あいつは正真正銘の屑でした。おそらく事情が無ければ私は今頃純潔ではいられなかったでしょう。それであの男はどうなったのですか?」


蒼士は引っかかる事はあったがまずは彼女の疑問に答える事にした。


「死んだよ。殺したのはハーデスという神だけど血の一滴も残さずこの世から消えた。その時の映像なら見れるが見てみるか?」


するとアリスは少し悩んだ末に頷いた。

彼女としては言葉だけではどうしても納得が出来なかったのだ。

映像だろうとあの男の死を確認する。

それでやっとあの男の呪縛から解放されるような気がした。


そして蒼士は魔法を使いあの時の事を頭に思い浮かべ映像として映し出した。

それは何度見ても悲惨な姿である。

群がる亡者、捥がれる手足、引き出される内臓。

そして激しい痛みの中でも気を失うことが出来ず死ぬことも出来ない。

そんなあちらの世界では放送禁止確定の映像をアリスは顔色一つ変える事なく見つめている。

それが彼女のこの世界での過酷な生活を物語っているようで蒼士は僅かに胸に痛みを感じた。

そして映像が終わるとアリスは大きく息を吐いて笑顔を浮かべる。


「ありがとうございます。これで安心出来ました。あいつがいると奴隷の私には自由などなかったので。」


その時になって蒼士は不意に言い忘れていた事を思い出して頭を掻く。

あの時アリスには意識が無く、というより心臓も呼吸も止まっていたためその事を知らないのを失念していた。

その態度にどうしたのかとアリスは疑問に思って首を傾げた。


「すまない、言うのを忘れていた。君の奴隷紋はもう消えてるんだ。」


その直後、アリスは素早く胸元の服を捲り奴隷紋を確認する。

するとそこにはこの二年、鏡を見るたびに映っていた奴隷紋が跡形もなく消え失せていた。

それを確認した途端、彼女はその場にストンと腰を落として座り込むと目から涙を溢れさせて静かに泣いた。

彼女はこの時、本当の意味で身も心も自由になったのだった。

そしてアリスは落ち着くと座り込んだまま涙を拭い笑顔で蒼士を見上げた。


「本当にありがとうございます。こんなに嬉しいのはこの世界に来て初めてです。」


しかし、笑顔のアリスと違って蒼士は苦笑を浮かべ微妙な顔になる。

それは蒼士は冬花がどの様にして奴隷紋を解除したかを知っていたためだ。

冬花はあの時、確実にアリスを一度殺している。

そのため奴隷紋が奴隷の死を認識して解除されたのだ。

しかし、こんな喜んでいる少女に今、そんな事を伝えるのは酷である。

そのため、蒼士はその事を伏せて何も言わない事にした。


「ああ、気にしなくてもいいよ。解除したのは君と戦った勇者である冬花だから。」

「そうですか。やはりあの強さは尋常ではなかったのですね。奴隷紋まで消し去れるとは、勇者とはすごい方なのですね。」


アリスは目を輝かせて今はいない冬花に尊敬の眼差しを向ける。

そして、蒼士は上手く勘違いしてくれたと感じてそのまま放置する事にした。


「それとお金の件だけど、それは国が保証してくれる。国も百合子から大量の貴重なアイテムをタダ同然で譲られてるから問題ない。まあ、問題があるとかほざいたら剣を片手に押し掛ければ大丈夫だろう。」


蒼士はそんな物騒な事を言って笑った。

そして一旦の不安が無くなったアリスは途端に眠気が襲ってくる。

どうやら彼女もまだ本調子ではなかったようだ。


「アリスも今日はもう寝るといい。ハーデスはバストル聖王国の首都を滅ぼしに行ったから数日は余裕があるだろう。その間に体調を整えるといい。」


そして蒼士は最後にアリスへと爆弾を投下した。


「え・・・。あの・・・。どういう事ですか?」


アリスは蒼士の言葉が理解できなかった。

いや、理解は出来たがスケールの大きさに自分の耳を本気で疑ったのだ。

そんなアリスに蒼士は真剣な顔になり知っている事を伝える。


「これはある神から聞いた話だがこの世界の主神が俺達の世界の神に天罰を行う許可を出したらしい。それにより君たちを連れ去られた神々が怒り、あの国に天罰を執行するようだ。さっきの映像はその一環だろうね。ただ、どのような物になるかは実際に分からない。心清い者には手を出さないと言っていたからそれほど悲惨な事になる事はないと思うけど。」


しかし、アリアは話を聞いてある確信が持った。

恐らく殆どの者が死ぬだろうと。

あの国は自分たち以外の人種を迫害し、それを当然と思っている。

そのため生き残るのはまだその辺の事を理解していない子供と何割かの奴隷たち。

それと本当に一握りの人々だろう。

しかし、それに気付いたアリスもそれを伝えるかどうか悩んだ。

彼女はあの国で奴隷をしており、その苦しみを知っている。

また、あの国にいい思い出が一つもないためどうしても言葉が出てこなかった。


結局アリスは何も言わずその日は眠りについた。

しかし、あんな話を最後に聞いたというのに、彼女はこの世界で初めて落ち着いて眠れることに安堵し、毛布の柔らかさを感じながら眠りへと落ちて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ