50 アリス
社の蔵の前でオーディンとトールはカグツチが扉を開けるのを待っていた。
彼らは天照に出した要望どおり、蔵の酒を選べることになったのだ。
そして今、彼らの前に凄まじい光景が広がる。
カグツチが酒を収めている蔵は無限収納と腐敗防止がついた蔵である。
そのため蔵を開けた途端に先が見えないほどの空間が広がり、その両サイドの棚には巨大な酒瓶が並んでいた。
その光景にオーディンは目を輝かせ蔵へと突撃して行った。
そして、カグツチから見たその姿はまさに子供のようであり、とても主神には見えない。
しかし、少しするとオーディンの雰囲気ががらりと変わる。
「こちらから儂を呼ぶ声が聞こえる。」
そう言って突然走り出し200メートルほど行った所でぴたりと止まる。
そして目の前にある瓶を無言で見つめ何かに納得したように首を縦に振り頷いた。
「カグツチよ。儂はこの子にするぞ。」
オーディンはまるで我が子のように優しく瓶を撫でるとそれを自分の異空間へと仕舞う。
その頃には同じようにトールも酒を決めたのか更に奥から帰って来た。
彼らは周りの酒に気を使っているのか互いに能力を使う事なく自らの足で入った時同様に蔵から出て行く。
そして、恋人と別れるような寂しい顔を蔵の中へと向けると閉まる扉を名残惜しそうに見つめていた。
ハッキリ言って重傷である。
しかし、彼らの選んだ酒は蔵の中でも特にいいものであった。
酒好きもここまで行けば飲まれる酒も満足するだろう。
そしてカグツチはその姿を見て。
「また機会があれば取りに来てください。」
と言って笑顔を浮かべた。
カグツチからすれば酒を減らすために軽い気持ちで言った事だったが、彼らからすればそれはまさに天の声であった。 (彼らより上に天は無いが)
するとオーディンとトールはカグツチに視線を合わせるために膝を付き目に涙を浮かべて喜んだ。
「おお、女神よ。何と優しいのだ。この恩は絶対に忘れんぞ。」
「そうとも、何かあれば言ってくれ。力になろう。」
そしてこの時、カグツチは巨大な後ろ盾を手に入れた。
そして、それから数日が経ち、狭間の部屋では天照たち4人と、ハーデスとヘルがあちらの世界の映像を見ながら地上に降りる機会をうかがっていた。
「そろそろ頃合いでしょうか?」
天照は画面上で強力な魔法により軍が壊滅したのを見て周りへと声を掛ける。
「いや、どうやら指揮官の男がアリスを使って最後の戦いを挑むようだ。今私が降りれば彼女を殺してしまうかもしれん。」
そして戦いは終わり無事にアリスを回収した姿を確認してハーデスは彼方の世界へと降りて行った。
そして蒼士に依り代を貰い無事に地上に顕現した事でハーデスはバストル聖王国へと向かって行く。
そして、町に戻った蒼士たちは今ジョセフの店でアリスをベットに寝かせている。
彼女は百合子と違い体に傷は見当たらない。
しかし、たった2年であそこ迄強くなるには百合子のように苦しい人生を送って来た筈である。
蒼士たちは今はそっと眠らせておこうと部屋をあとにした。
アリスは冬花に心臓を止められた直後から夢を見ていた。
それは幼いころから始まり走馬燈のように進んで行く。
そこには当然生き別れた両親も映し出された。
そして、その夢を映画のように見ていたアリスは膝を抱えて涙を流していた。
「パパ、ママ。ごめんなさい。私帰れなかったよ・・・。」
そして映像は次第に2年前まで到着しようとしていた。
そこではアリスの両親が笑顔で彼女を送り出している。
この日は彼女の誕生日。
アリスは友達が誕生会を開いてくれるというのでその子の家まで向かっていた。
帰れば母親が作ってくれたケーキを囲み夜は家族3人で過ごす事にしている。
そんな時、彼女は突然闇に包まれた。
そして次に見た光景は何処かの石造りな建物の中。
彼女は突然の事に混乱し辺りを見回した。
先程迄は青空の見える歩道を歩いていたはずだったのにここは何処かの地かだろうか。
すると突然、後ろから何者かに組付かれ地面へと押し倒された。
「キャーーー!いったあー。何するのよ!」
そう叫んで後ろを見ればそこには鎧を着た男が必死の形相で自分を取り押さえていた。
それに続く様に更に数人の男が飛び掛かりアリスを縛り上げて行く。
「痛い。離して。どういう事。ここは何処なの。」
しかし、アリスの声に答える者は誰もいない。
そしてそこに一人の男が現れ厭らしい目でアリスを舐める様に見つめる。
すると男は何かの液体をアリスの頭へと垂らしアリスの左胸を鷲掴みにした。
「いや、何するのよ変態。離して!」
アリスは突然胸を掴まれたことに動揺し暴れるが、縛られた上に屈強な男たちに捕まれた四肢はビクともしない。
そして次の瞬間、自分の中に何か途轍もなく不快でドロドロした物が流れ込んでくるのを感じた。
アリスは未知の感覚に恐怖し顔を青ざめさせる。
「なによこれ。止めて・・・イヤ・・・イヤーーーーーーーー。」
その叫びは儀式が終わるまで続きアリスは喉が枯れるほどの大声を響かせた。
そして儀式が終わるとともに男たちは離れアリスはその場に解放される。
アリスは叫び疲れて息を乱し自分の胸を腕で隠して目の前の男を睨みつけた。
「何をしたの?あなたは誰!?」
すると目の前の男は初めて声を出し質問に答えた。
「私はガイアス。今日からお前のご主人様だ。」
アリスは何を言ってるんだとガイアスと名乗った男を睨みつける。
そして絶対にこんな奴の言う事は聞かないと決意した。
しかし、そんな意思とは関係なく彼女はこの後、絶望を味わう事になる。
「言っておくが俺の言う事は絶対だ。そうだなそれを証明してやろう。お前の名前を言え。」
するとアリスはきつく唇を噛みしめて口を閉ざした。
しかし、次の瞬間。
「アリス。アリス・シルフィード。」
(!?)
「何、私・・・なんで・・・口が勝手に。」
困惑するアリスの前でガイアスは更に命令を告げる。
「何故胸を隠す。主の前で胸を隠すな。」
すると、アリスの意思とは関係なく彼女の手が勝手に動き出す。
しかも手を下ろすだけではない。
勝手に服のボタンをはずし服を下ろしブラを外し始めた
そして14歳には思えない大きさの胸をガイアスへと晒していく。
「いや、やめて・・・止めてお願い!」
手が進むにつれアリスは涙を流し次第に懇願するような声に変わっていく。
それをガイアスだけでなく周りの兵士も厭らしい目で見つめ視姦した。
しかし、それが分かっていて頭では全力で胸を隠す様に命令しているのに腕は言う事を聞いてくれない。
そしてアリスは自分の胸に見覚えのない刺青を発見する。
「なにこれ。私・・・こんなの知らない。」
するとガイアスは顔を愉悦に染めてアリスへと告げた。
「それは奴隷紋だ。それがある限りお前は俺からは逃げられん。そして、それはお前が死ぬまで俺の物である証。光栄に思え。貴様は俺の所有物になったのだからな。」
そう言ってガイアスは高笑いを上げ。そのままの状態でアリスを聖王へと紹介するために城の中を歩いていった。
その間胸を隠せないアリスは羞恥に顔を染めて涙を流す。
そして、王への紹介が終わるとガイアスはアリスを連れて部屋へと案内していった。
そこは貴族が使うような部屋で中央には一人で使うには大きすぎるベットが置いてある。
それを見てアリスはこれから起きる事を想像して顔を青くする。
そしてガイアスが振り向いて目が合うと次第に近づいて来てその手がむき出しの胸を揉み始めた。
アリスはそれを不快に思ったが先ほどガイアスから危害を加えるなと命令されているため何もできない。
「い・・・いや、やめて。」
言っても無駄だろうとアリスは思ったがつい声が出てしまう。
しかし、予想に反してガイアスは素直に手を離した。
「まあいい。時間はたっぷりある。胸も隠していいぞ。」
それだけ言ってニヤけた顔でアリスの横を通過し部屋を出て行った。
アリスは地面に腰を落とすと胸を隠す事なくその場で泣き崩れる。
その後も性的な嫌がらせを数多く受けたがガイアスは全くアリスを犯そうとはしなかった。
何度か寸前まで行く事はあったがガイアスは自らを殴り付け、何かをブツブツ言いながら部屋から出て行った。
そして今より2ヶ月ほど前。
ガイアスがある事をアリスへと漏らした。
それは異世界人を生贄とし、勇者の呪いを解くと言う物だった。
そこに名前が挙がったのは何度か会った事のある少女、百合子。
ただ彼女の扱いは自分とは雲泥の差だった。
彼女は毎日寝られないほどの仕事をこなし、部屋もなく、犬のケージのような所に毛布もなく寝かされている。
そして見る度に増えて行く傷と疲労の色。
何度も助けようと差し入れをしたがその度に百合子はそれが理由で鞭で打たれていた。
しかし、彼女はそれを恨む事無く毎回僅かな笑みと声の出ない口で感謝を述べてくれた。
そんなある日、事件が起きた。
アリスが討伐に向かった先で兵士がミスを犯し怪我人が大量に出たのだ。
彼女はそのチャンスを活かし破損した武器や魔石などをアイテムボックスに放り込んだ。
いつもは周りの兵士が行う事だが今は人手が足りていないため目立たない様に動き少量の素材を手にすることが出来た。
そしてそれを城に帰り彼女に渡した。
時間も隙も限られていたため僅かしかない素材。
これで何か作れるかは不明だが渡した次の日彼女は姿を消した。
アリスはその事を聞いて表情を出さずにガイアスが慌てている姿を眺めた。
彼女にとって喜怒哀楽とはすでに大半が失われて久しい。
彼女もこの二年でそれだけの闘いとガイアスからの過剰な嫌がらせを受けて来た。
恐らくこのまま行けば1年以内に心は壊れ、奴隷紋で動く人形の様な存在になっていた事だろう。
そして彼女の走馬燈は終わろうとしている。
彼女は目の前の同い年位の少女と戦い負けた。
そして今ここでなぜか走馬燈を見続けている。
すると、最後に心臓への一撃を受けて意識が途切れた所で映像は終わった。
そして、周りは闇に包まれ自分だけが存在する空間へとなる。
アリスは膝を抱えたまま空間を漂い眠る事の出来ない時間を過ごした。
しかし、時間の経過も曖昧な闇の中で唐突に背後から声がかかる。
「アリス。こっちを向いて。私の可愛いアリス。」
すると、アリスは聞こえるはずのない懐かしい声に顔を上げ後ろを振り向いた。
そこにはこの二年の間、会いたかった者達が優しい笑顔を浮かべて闇に浮いている。
すると、今まで虚ろだった彼女の瞳に感情の色が戻り始め口からは声が洩れた。
「パパ・・・ママ!」
そう言って彼女は振り向いて手を伸ばし名前を叫び続ける。
しかし、その手が彼らに届く事は無くその姿は次第に遠ざかって行った。
そして、その間にも彼らはアリスへと声を掛ける。
「少し大きくなったわね。最後にあなたに会えて嬉しいわ。」
「そうだな。これで俺達も安心して行ける。」
その声にアリスは激しく反応し叫ぶように声を上げる、
「パパ、ママ!何言ってるの!?これからはずっと一緒にいてよ。」
すると二人は悲しそうに首を横に振ってアリスの言葉を否定した。
「それは出来ないわ。だって私達はもう死んでいるのだから。」
するとアリスは目を見開き両親を見つめる。
そして涙を流して首を何度も横に振った。
「いや、なんで・・・たった二年で何があったの?」
「あなたにとっては二年でもこちらではすでに19年の時間が経過してるのよ。まあ、私達が死んだのはあなたが消えて2年後の事だけどね。こちらの神様が少しお慈悲をくれて最後にあなたに会わせてくれたのよ。」
そこ迄話した時には既にアリスと両親の距離は絶望的なまでに離れていた。
そして彼らは最後に。
「ごめんねアリス。もうあなたを撫でてあげられないの。でも希望を捨てないで。きっと神様が力を貸してくれるわ。」
「アリス。もう一人の友達を大事にしなさい。同じ境遇の者などそうはいないからな。二人で力を合わせればなんだってできる。父さんたちはもう消えるがお前の幸せを願わない日は無かったぞ。」
「待ってパパーーーママーーー!まだ話したい事が沢山あるの。だからまだ行かないで!!」
しかし、その言葉も虚しく二人は蝋燭の炎のように掻き消えた。
そして、この短い時間で感情を取り戻した彼女は声を押さえる事なく泣きわめいた。
どれほど泣いただろうか。
もしかしたら一生分の涙を流しきったかもしれない。
そしてそんな彼女の前に一人の女神が舞い降りた。




