49 二人の主神
天照は考えた末にある事を実行するためにハーデスへと声を掛けた。
「ハーデス殿。オーディン殿に言って円卓の招集に賛同していただく事は出来るだろうか?」
するとハーデスは天照の提案に目を見開き驚愕する。
それは他の3人の神も同様であった。
円卓の招集。
それは円卓会議とも言われこの世界の主神級の神々が集まる神の会議。
基本は世界の危機等で招集されるものであり前回開かれたのも数百年前にさかのぼる。
その時は地球規模で生き物を蝕む病魔が現れ神々で地上をどのように救うかを会議したのだ。
その時は億を超える犠牲が地上で発生したが、もし神々が何もしなければ地上は死の星になっていたかもしれない。
「一応話はしてみるがどうなるかは私も分らん。だが、一つだけそれを可能にする方法がある。」
ハーデスはそう言ってカグツチへと視線を向ける。
彼女は何故ここで自分が見られるのかが理解できず緊張で体が跳ねた。
するとハーデスはその姿を少し笑い説明を始めた。
「すまない驚かせてしまったか。別に君に会議に出ろと言うのではない。君の持つ酒を提供してくれないだろうか。」
カグツチはハーデスの言葉に胸を撫で下ろし肩の力を緩める。
しかし、なぜ酒なのかが分からず首を傾げていると追加の答えがもたらされた。
「主神級の神は皆酒好きなのだ。酒で釣れば絶対に来る。それも二人の主神級の神が絶賛した酒だ。飴にたかる蟻のように絶対に集まって来るだろう。」
カグツチはそこで毎年見る天照の社での惨状を思い出す。
しかも、つい先ほども見てきたところなのでどういう事にあるかは明白であった。
だが、彼女の蔵にはここ数百年、眠ったままの酒が飲み手を待ち続けている。
酒は貯める物ではなく飲む物。
カグツチはここで蔵の整理・・・。
いや、世界の為に酒を提供する事を決めた。
「分かりました。それならどうぞ蔵の酒を使ってください。」
「感謝する。恐らくこの事に対しては何らかの報酬があるだろう。しかし天照殿には何か思惑がある様子。自らの主神としっかり話し合い報酬を決めるといい。」
すると彼女は「思惑?」とつぶやいて天照へと視線を向けた。
するとなぜか笑顔で返され、天照は自身の口元へと人差し指を当てる。
どうやら思惑はあるがまだ内緒のようであった。
その後カグツチは自分の蔵へと向かい2メートルを超える瓶を一つ持つとハーデスへと渡した。
そして酒を持った彼は再び転移してオーディンの元へと向かう。
そして次の日それは現れた。
カグツチは再び出雲へとおもむき、周りの者は酒を飲んでいる。
そこにはカグツチが追加で渡した酒も含まれ周りは前日を超える泥酔者で溢れていた。
これは別に日ごろの生活が不謹慎とかそう言う事ではない。
彼らは楽しむために、酔うと言う現象を味わっているのだ。
有事の際や何かあれば彼らは体から即座に酒精を追い出し通常の状態に戻れる。
そんな中、途轍もない神気がこの空間を満たしていく。
その事に気付いた者たちは即座に酔いを醒まして立ち上がった。
そして天照の作り出した空間に暗雲が立ち込め境内の入口へと巨大な雷が落ち、そこから4人の神が現れた。
2人は先日現れたハーデスとヘル。
そして一人は巨大な槍を持つトーガに身を包んだ巌の大男。
そしてもう一人は巨大なハンマーを手に、バイキングの様な服装をした巌の大男である。
二人は同じように立派な白髭をしており、その神気はすさまじくスサノオと同等か一人は確実にそれ以上である。
すると神々が居並ぶ後ろで社の扉が開きそこから天照とスサノオが現れた。
「これは驚いた。まさかオーディン殿自らこちらにおいでとは。」
するとその声を聞いた神々は自然と前を開け社への道を作る。
するとオーディオは開いた道を力強い歩みで進み社の前までやってきた。
天照達も社の階段から下りて同じ地面で互いに向き合う。
それでも天照の身長はオーディンに比べれば1メートル近く低い。
そのため見上げるような形となるが互いにその事は気にしていないようである。
「それで、今日はどうされましたか?」
天照は昨日の今日でいきなり来るとは思ってはいなかったがおそらくは現れるだろうという予感はあった。
そのため周りの者とは違い、いつもと同じ対応をする事が出来ている。
そして、今日来た理由も簡単に想像がついたいた。
恐らく会議の事とそして酒だろう。
「白々しいぞ。お前が寄越した酒は我が誕生してから飲んだ酒では最も美味な物だった。しかもまだ大量にあると言うではないか。」
そう言ってオーディンは天照を睨みつける様に見下ろした。
しかし、そのような目にも天照は動じることなくいつもの様な爽やかな笑みを浮かべて対応する。
「そうですね。私のお酒ではないですが、もし会議が開かれるなら持ち主はその場にあの酒を提供してもいいと言っています。どうされますか。」
するとオーディンは悔しそうに拳を握り奥歯を噛み締めた。
彼の中では今、円卓を招集する手間と酒が天秤に乗せられ上下している。
しかし呆気ない程に酒が勝利を勝ち取り、反対に乗っていた手間という思考は心の彼方へと飛んで行った。
するとその途端に荒々しかった神気が収まり何処か爽やかな笑顔に変わる。
ハッキリ言って似合わないが周りにそれを指摘する者はいない。
「ははは、当然、根回しはこちらで行う事にしよう。ただし条件がある。」
酒に心を奪われても流石は主神である。
理性ある目を天照へと向けると条件を口にした。
「追加の酒をくれ。出来れば選ばせてくれるとなおいいのだが。それとこっちの神は雷神トール。あの酒を飲んでいると見つかってしまってな無理やり付いて来てしまったのだ。」
どうやら主神と言えども酒好である。
美味い酒には勝てなかったようだ。
そして追加で来たトールへと近づく神が一人横から現れた。
「よう、トール久しぶりだな~。」
そう言って前に出て来たのは雷神である。
彼らは同じ属性の神として面識があったようだ。
「雷神か。最近腑抜けていたらしいがもう問題なさそうだな。」
すると二人は厳つい顔で睨み合い拳を構える。
そして拳に神気を込め始め、互いの腕からは帯電するように雷がほとばしった。
その様子に周りの神は逃げる様に距離を取るために離れて行く。
そして、次の瞬間二人は雷速の拳をぶつけ合った。
するとその瞬間、激しい衝撃波と雷が辺りを包む。
そして衝撃が止んだ後には互いを中心に雷による熱で溶けた線のような跡が地面に残っていた。
ちなみに主だった者たちはその場から動く事無く自らの力で衝撃を相殺している。
すると主神二人はその二人の姿にため息がこぼれる。
雷神とトールは互いの肩に手を置いて笑いあっているからだ。
そして何も無かったかのように気にする事無くその場を離れて行った。
神々が互いの力を使い挨拶をするのはよくある事である。
それが武闘派の神ならばこのような事が起きても仕方がないと神々すら諦めているのだ。
幸い怪我人もいないようだし荒れた境内は力を注げばすぐに修復する。
そして天照は空間を修復するとオーディン達と共に今度はカグツチが住む社へと向かった。
そこで天照たちはこれからの事を話しあい事情をもう一度説明した。
そしていつもは時間のかかる話し合いもカグツチの酒のおかげで簡単に終了した。
どうやらこの世界で最大の勢力がある北欧の神々が今回の円卓会議の発起人となってくれる事となった。
またその際にカグツチの酒が提供されることによりほとんどの神が集まる事だろう。
これにより天照の計画が大きく前進した。
そして今回天照はその計画をオーディンへと打ち明ける。
当然この事は今は秘密であるため他の神は席を外している。
恐らく話しても反対する者はいないだろうが今は情報が洩れるのを防いでおく必要があると判断したのだ。
天照は姿勢を正し、オーディンへと計画を話し始めた。
「オーディン殿、実は歴史を一部変更しようと思うのです。」
するとオーディンは肩眉を上げて天照に視線を向けた。
そして手に持つ酒をテーブルに置くと確認のために問いかける。
「本気か?」
「はい。」
「どれくらい前からだ。」
「恐らく18年前程からです。」
その答えにオーディンは腕を組んで悩み始める。
実際歴史が変わるのは構わない。
世界には修正力と言うものがあり不自然のない範囲で上手く修正してくれる。
自分達の記憶も失われるわけではないが影響は0ではない。
しかし、今回の事にそれほどの価値があるのか。
オーディンは判断に迷っていた。
すると天照はそんなオーディオへと目的を話す。
「実はあちらに奪われた冬花と蒼士と言う者たちの魂が欲しくなりましてね。おそらく、この世界は今のまま鎖国の様な状態では今回の様なトラブルが起き続けます。しかし、彼らがこちらの世界に戻ってくれば・・・。」
「その対処も楽になるか。」
「ええ、ただ世界のルールで今のままでは彼らは帰って来られません。彼らは彼方のカティスエナによって殺されあちらの世界へと転生という形で送られましたので。そのため彼らを奪い返すためには彼らの死を無かった事にする必要があります。」
そこまで聞いてオーディンは半ば強制的に納得する。
確かにこちらが何を言っても今回のような事をする神は現れるだろう。
今までがたまたま運が良かったに過ぎない。
それに、今回は近くの世界だからよかったがもっと遠くの世界では交流もないため発見は困難になる。
しかし、備えておけば追跡は可能。
神が干渉する訳にはいかないがこちらから救助等の人員を送る事は可能となる。
恐らくハーデスがあちらから魂を回収すれば他の地域の犠牲者も確認できるだろう。
そうすれば反対意見はまずでないと予想できる。
そこまで考えオーディンは頷いて協力する事にした。
「分かった、協力しよう。ところで誰に任せるのだ。並大抵の者では歴史は変えられんぞ。」
歴史の流れにはそれを正そうとする強制力がある。
そのため人間の力だけではまず不可能である。
しかし、ここで丁度いい人材が存在する。
それは百合子である。
彼女なら雷神の協力のもと、この事実を過去の自分達へと伝えることが出来る。
神々は歴史が変わってもそれを自覚することが出来るのだ。
しかし、それが出来るのは現代の時間軸迄時が進んでからである。
過去の自分たちはまだ今の自分たちの事を知らない。
「私は今回の犠牲者である百合子を向かわせようと思います。ただ能力的には微妙な所ですね。」
するとオーディンはここである事実を伝える事にした。
これはアリスの為でもあり、ある意味狂わされた歴史を正す行為なので強制力の影響を最小限に抑えられると判断したためだ。
「実はもう一人の少女アリスの両親だが17年ほど前に死んでいるのだ。」
「それでその事と今回の事に何か繋がりが?」
天照はあくまでも冷静に判断するためにオーディンへと問いかけた。
一つの歴史を変えるだけでも、その後に大きな影響が出てしまう。
ここで無用な事をすれば歴史を変えるのがさらに困難になってしまうのだ。
「調べによればその者達は行方不明の娘を探して車で移動中に事故にあい死んでいるようだ。もしかしたら彼女が戻れば歴史が自然とあるべき姿に戻るかもしれん。」
すると、今度は天照が悩むように考え始める。
恐らく過去の自分達に今の情報を伝えれば彼女たちの役目はほとんど終わる。
その後はそれぞれの親の元へと帰れば彼女たちの事も一応は解決である。
それに確かに今のままではアリスに帰る場所は無い。
そのため天照も決断しオーディンの提案を受け入れる事にした。
「分かりました。最終的には個人の意思を尊重しますがその提案を受けましょう。」
そして、この時から歴史を改ざんするために二人の神は動き出した。




