48 ハーデスの新たな下僕と世界の真実
ハーデスはオーディンへの説明を終えて次の日には狭間の部屋へと戻って来た。
するとそこには見覚えのない女神が1人待ち構えていた。
その女神は身長140程で青いショートヘアーに幼い顔立ち。
しかも神格が低いのか既に力を失いかけていた。
「お前は誰だ。貴様程度の神が俺に近づくと1時間と経たずに消えてしまうぞ。」
ハーデスは忠告のつもりで女神へと声を掛けた。
しかし女神は逃げる事もせずにその場に立ち続けている。
そして、ハーデスの予想通り次第に立っている事も辛くなったのかその場に膝を付いて顔色を悪くし始めた。
「貴様は何がしたいのだ。死にたいなら他所でやれ。」
すると女神は苦しそうな顔で絞り出すように声を出した。
「私は、彼方の世界で不要になった神の一人です。主神であるカティスエナに言われてここであなた達が何をしているのか見てくるように言われました。」
するとハーデスは苛ついたのか押さえていた神気が漏れ出しはじめる。
そしてそこに宿る死の気配に当てられ女神は更に苦しそうに顔を歪める。
「お前にはもう頼ってくれる者はいないのか?」
「はい・・・、私は既に忘れられた神。どちらにしても大人しく消滅するか魔王に堕ちて地上で災いとなる選択肢しかありません。」
するとハーデスは女神の言葉に一つの疑問がわいた。
そして、あちらの事情を知るいい神材である事に気付くと口元に笑みを浮かべる。
ハーデスはある事を決断すると女神へと近づいて行く。
「う・・、ぐぅ・・。」
しかし、それだけで女神の口からは苦しそうな声が洩れる。
ハーデスからは常に死と言う概念を含んだ神気が流れ出ており弱い存在はそれだけで死へと近づいて行く。
そのため彼が近づく事で強まった神気を浴びてしまい消滅に加速がかかった。
このまま放置すれば彼女はもってあと数分だろう。
そんな状態の彼女は既に仰向けに倒れ目は焦点を結んではいない。
そしてすでにもがくだけの力もないのか彼女はただ天井を見つめていた。
しかし、ハーデスはそんな彼女の顔を覗き込んで問いかける。
「お前はこのまま消えたいか?」
女神は今にも消えそうな意識の中でその問いの答えを探す。
彼女は地球で言う所の土地神としてこの世に生まれた。
少しの信仰を元に神としての最下層を細々と生きて来た。
そしてある時バストル聖王国がカティスエナの教会を彼女がいた村へと建てた。
すると彼女の信者は瞬く間に取られてしまい全ての信者を失うのに10年とかからなかった。
その後は残った力を節約して本当に最底辺の生活をして来た。
しかし、それももう少しで終わる。
既に手足の感覚は無くなり痛みも引いてきた。
彼女は穏やかに先ほどの言葉に肯定し消えようと考えた。
しかし、そんな彼女の思いをハーデスの言葉が切り刻む。
「カティスエナが主神の座から落ちる所を見たくないか?」
ハーデスは彼女へと悪魔の様な囁きをかけた。
すると彼女の心に最後の炎がともる。
目を見開き必死に何かを伝えようと足掻く。
それは彼女の最後の灯だ。
女神は持てる力を全て注いでハーデスに視線を向ける。
そして、既に声を出す力もなくした彼女は最後に
{い・き・た・い}
と口だけを動かして答えた。
しかし、そこで彼女は力を使い果たし、手足の先から分解されるように消えていく。
それに気付いた女神は目から一筋の涙を流した。
しかし、彼女の前にいる神はその光景を見て悲しむどころか笑った。
そしてハーデスはそこで先ほど思いついた事を実行に移す。
「お前の意思は受け取った。ならば貴様に新たな力を与えよう。それを使い我に尽くせ。」
そう言ってハーデスは女神の胸に手を当てるとそのまま突き刺した。
それにより女神は目と口を限界まで開き声にならない悲鳴を上げる。
そしてその直後、女神の姿に異変が起きた。
空の様に青い髪は闇夜の様な艶のある黒い長髪に変わり、幼かった顔立ちは大人の色気を纏う。
身長も160後半まで伸び、会った時の健康的な肌は病的なほどの白さへと変わった。
そして体には今までに感じた事のない程の力が漲り、先ほどまでの死にかけていた少女は上気した顔でハーデスを見つめている。
「ああ、なにこれ。今まで感じた事のない感覚。ああ~~~、ダメ。こんなの初めて。」
彼女は胸に刺さるハーデスの腕を両手で愛しく包み先程迄は無かった豊満な胸に包み込む。
しかし、そこでハーデスは女神の胸から腕を無造作に引き抜いて立ち上がった。
「ああ~、そんないきなり・・・!」
女神は息を荒げ虚ろな瞳でハーデスを見上げる。
しかし、ハーデスはそんな事には頓着せず女神へと手を差し出した。
「もう大丈夫だろ。立って我が問いに答えろ。」
すると女神は笑顔を浮かべハーデスの手を取ると言われるままに立ち上がった。
そしてその時初めて自分の変化を実感し体のいたる所を確認し始める。
(力もだけど何このグラマラスな体。こ、これは夢にまで見た谷間。それにこのボン・キュ・ボン。もしかしてこれは彼の趣味!私もしかして、この方の色に染められちゃったの・・・。)
そんな事を密かに考えていた女神だが先ほどのハーデスの言葉を思い出しそちらに顔を向ける。
しかし、女神はハーデスの顔を見た途端に顔が赤くなり熱で顔がほてるのを感じた。
元が真面目な彼女は顔を赤くしながらもハーデスの顔を見つめ続ける。
実際はただ見ていたかっただけであるが。
するとハーデスは早速幾つかの質問をすることにした。
「まずはお前の名前を教えろ。まだ互いに名乗っていないからな。」
すると女神は確かに名乗っていない事を思い出した。
だがそれも仕方のない事である。
ハーデスと出会ってからの彼女はその巨大な神気に当てられ今とは別の意味で胸を締め付けられる様な思いを味わっていたのだから。
「申し訳ありません。私の名前はヘルディナと言います。ヘルとお呼びください。」
「分かったヘル。我は冥界の王、死を司る神でハーデスと言う。お前にはしばらくの間、俺の傍でしっかり働いてもらう。覚悟しろよ。」
するとベルは凄く嬉しそうに「はい!」と答えて笑顔を向ける。
しかし、大きな疑問を感じてしまいハーデスへと確認のために幾つか質問をする。
「ハーデス様。いくつか聞きたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
するとハーデスは「構わん」と答えて頷いた。
ハーデスは彼女に力を分け与えた事で新たに生まれた神だと思えるほどに変化している。
その事についてだろうと思い許可を出した。
「体が成長したようですがこれは?」
「恐らく我の力が強すぎてそれに見合った姿へと変化したのだろう。」
「この胸はハーデス様の趣味ですか?」
「?いや、それはお前が成長すればそのようになる予定だったのだろう。」
「先程迄ハーデス様がとても恐ろしかったのですが今は怖くありませんこれは?」
「我の力を受けて神としての存在自体が変化し我に近づいたのだろう。そのため我が神気の影響を受けなくなったのだろうな。」
「それでは最後なのですがこの胸のドキドキは何でしょうか?私はこんな経験は初めてなので教えてください。」
「・・・・・。」
「あの、ハーデス様?」
「それは他の女神にでも聞くといい。」
そう言ってハーデスは背中を向けると出口へと向かって行った。
恐らくあちらでは神が一人、消滅した事になるだろう。
そしてこちらでは新たな神が生まれた事にする。
そんな真面目な事を考えながら歩いていると言うのに後ろではヘルが子供の様に同じ質問をしている。
どうやら彼女はかなりの天然さんだったようでこれからの事が気がかりなハーデスであった。
しかし、彼はその神としての特性から誤解を受けやすいが内面はとても優しい神であった。
そのため突然背中から「あ・・・」と声が聞こえた時、咄嗟に振り返った。
そして変化したばかりの体になれないヘルが地面に躓いて倒れそうになった時。
彼は咄嗟に腕を広げて彼女を優しく抱き留める。
その途端にヘルの顔は茹蛸のように赤くなり動く事が出来なくなったがハーデスは優しい笑顔で「気を付けろ。」と言ってヘルの手を取り一緒に歩いて行った。
それは何も知らない者から見れば仲睦まじい恋人の様である。
そして二人は連れ立って出雲へと転移して行った。
二人が出雲へと到着し天照のいる異空間へと入るとそこは前日来た時とはかけ離れた光景が広がっていた。
そこでは辺り一面に酔い潰れた神々が寝転がり酒瓶を抱いて寝言を言っている。
そして、昨日ここを離れる直前までは静かだった社も中からはドンチャン騒ぎの様な音が鳴り響き、笑い声や歌声なども聞こえてくる。
ハーデスはその陽気さに笑顔を浮かべるとヘルに視線を移した。
「ヘルよ。我が入ると折角の良い雰囲気が壊れるかもしれん。中に入って天照と言うこの地域の主神を呼んできてくれないか。」
「分かりました。少しお待ちください。」
そう言ってヘルは社へと入って行く。
すると中から
「おお、お客さんが来たぞ。」
「ごっつ別嬪さんじゃのう。」
「おう、こっちに来て一緒に酒でも呑まんか。」
などと聞こえ始めた。
ハーデスは少し心配になるがそんな中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「お前ら、そいつには絶対に手を出すなよ。そいつからはハーデスと似た気配がする。おそらくあいつの使いだろう。嬢ちゃん、悪かったな。要件を言ってくれ。」
「はい、外でハーデス様が待っております。出来れば場所を移動してお話したいとの事です。」
「分かった。すぐに向かう。悪いがここは酔っ払いの巣窟だ。外で待っていてくれ。」
「分かりました狭間の部屋でお待ちしております。」
そう言ってヘルは社から出て来た。
そしてハーデスへと今のやり取りを伝え再び狭間の部屋へと移動する。
ハーデスたちが部屋で待つ事数分。
扉を開いて昨日の4人が姿を現した。
そして昨日と同じように椅子に座ると今日は机の上にはクッキーなどの茶菓子とお茶が置かれた。
ヘルはそれを遠慮しながらも一つ掴み口へと運んで小さく遠慮がちに齧る。
すると口の中にサクサクの歯応えとしっとりとした風味と滑らかな甘さが広がった。
そして、ヘルは次々にクッキーを食べて笑顔を周りに振りまいた。
その姿に周りで見ている者は同じように笑顔を浮かべて自分達もお菓子を食べながらお茶を啜る。
そして雰囲気が落ち着いたところで天照が話を切り出した。
「それでそちらの女神は誰ですか?この席にいると言う事は重要な者であるよですが。」
「ああ、彼女は元あちらの女神の一人だ。ついさっき消滅しかかっていた所を拾った。おそらくあちらの情報が聞けると思ってこの席に同席させているのだ。」
すると天照たちはヘルを見て微妙な顔をする。
今の彼女は頬張り過ぎたクッキーをのどに詰まらせ勢いよくお茶を飲んでいる。
しかもとても暑いお茶を。
当然あまりの暑さに火傷するほど神の体は軟ではないが驚いて余計にむせている。
そしてその様子を見かねたカグツチが背中を摩りながら介抱している最中である。
天照たちは警戒よりも役に立つのかと疑問の目をヘルへと向けていた。
実際ハーデスも彼女の天然には気付いている。
しかし、彼女も曲りなりにの女神なのだからと信じて・・・。
いや、信じる事にしている。
「大丈夫だと思いたい。まあ、彼女も女神なのだから大丈夫だろう。聞きたい事があれば色々聞いてみてくれ。実は私も名前以外はまだ何も知らないのだ。」
「そうか感謝する。丁度あちらの神について色々調べようとしていた所なので助かる。」
そう言って天照はヘルへと視線を向ける。
彼女はカグツチの手厚い介護の結果、無事にクッキーを飲み込みのんびりお茶を飲んでいるところだ。
しかし今までの会話はまったく耳に入っていないだろう。
そして天照が見ている事に気付き背筋を伸ばして姿勢を正した。
その姿はとても美しく、出来る女と言った雰囲気を纏っている。
それゆえに先ほどの彼女の姿が残念でたまらない。
人によってはギャップ萌えしそうな程の変化だが天照たちにはそんな属性は無かった。
「それでは君に聞きたい事はいくつかあるが最初に聞きたいのは何故あの程度の神が主神なのかと聞きたい。我々はあの女神に主神としての器が無いと感じている。何か理由があるのかな?」
「それでしたら大した理由ではありません。これは人間側には秘匿されていますが、あの世界の主神の座とは信者の数で決まります。あちらには数多くの種族がおり、それぞれ崇める神が違います。しかし、最も多いのが人種と言われる者達でその者達はほとんどがカティスエナの信者なのです。あちらの神は信者の数で力が増減するので今もっとも力を持つ彼女が主神としてあの世界を取り仕切っています。」
ヘルの返答に天照たちは納得する。
そのようなシステムでは確かに分不相応な者が偶然主神になってしまう可能性がある。
それに主神と言ってもあの程度の力しかないのではあの世界はこのままでは滅びてしまうのではないかと危惧し始めた。
「分かった。それでは次の質問だが彼女の権能は何なのだ。予想は付くが念のために聞いておきたい。なにせ多くの信者にある程度とはいえ能力を幅広く与えているのだ。性格はああでもそれなりの神なのだろ。」
「そうですね。簡単に言えばあ『才能』でしょうか。ただ彼女の場合、広く浅くなのでその恩恵は少ない物となります。ただ、どの神から恩恵を受けても最初のスタートラインはほとんど変わらないので殆どの人が勘違いして彼女の信者になります。しかし、スタートラインは一緒でも成長すれば大きな変化が生まれます。その結果も努力次第なので一概には言えませんが。」
するとスサノオは納得したように頷いた。
彼はカティスエナが蒼士に力を与えた時、目の前で見ていた。
彼女は確かに蒼士へと才能を与えてあちらの世界に送り出している。
恐らく勇者にはそれ以上の力が込められているだろう。
「それで、彼女は勇者には多くの力を注ぎ『天才』にして地上へと送ります。そのため多くのスキルを短時間で手に入れ魔王にぶつけるのです。」
するとそこでハーデスが何かを思い出したような顔をして手を上げた。
「そう言えば先ほど堕ちた神が魔王になると言っていたな。あれはどういう意味なのだ。」
すると今度は天照たちが新たな情報にハーデスを見た後、視線は自然とヘルへと集まる。
しかし、そこには疑問の色は無く自分たちの知識としてある堕ちると言う言葉に反応しての事である。
こちらの世界では堕ちるとは邪神になると言う事。
そして、そうなった神はとても強く人間では太刀打ちできない。
そのためそう言った神が出た場合、こちらでは神々が手を組み滅ぼしているのだ。
だが滅ぼすと言っても消滅するのではない。
彼らは死んでも神話と言う形で世界に広がり新しく生まれ直すのだ。
それによりリセットされ、邪神ではなく新たな神として浄化された状態で生まれてくる。
その際には当然ある程度の記憶も引き継いでいる。
「それは信仰を失った神の心が闇に染まると邪神になるからです。ただそのままでは天界に被害が出るため、今の主神が地上に落としています。勇者はその魔王となった神と相性のいい魂を見つけて連れて来るのです。ただ邪神との戦いで多くの勇者は邪神の魂と共に対消滅を起こしてこの世から互いに消滅する事が多いと聞いています。生き残った勇者は運が良かったか実力が圧倒的に上の者達のみらしいですね。」
ヘルの言葉に周りで聞いていた者達は絶句する。
どうやら歴代の勇者たちはこちらの世界で邪神と言える存在と戦わされていたようだ。
しかも、もし冬花が魔王と戦えば対消滅を起こす可能性がある。
もしそうなれば恐らく世界はその場で助かるが、キレた蒼士によってあちらの世界が滅びる事になるだろう。
さらに魂ごと対消滅すれば完全に消滅してしまう可能性が高い。
それでなくても忘れ去られた神である。
元から復活する可能性は限りなく少ない。
今いる神であちらの事を気にする者はいないがそれはあまりにも哀れである。
あちらの者達は実際にこれらの事実を知らないのだから。
あえて言えば責任は全てあの女神にある。
それだけはここに集まる神たちの共通認識であった。
「これは少しこちらから対処する必要がありそうですね。」
そう言って天照はハーデスへと視線を向けた。




