47 死の神、現る
その様子を城門の上から見ていた人々はその余りの惨状に声も出ない。
しかし、実はこの映像はここだけで流れている物ではなかった。
現在はこの王都全域。
この王都の多くの人々が今の映像を目にしていた。
そして当然王城でも今の映像は映され王都中で大変な事になっている。
しかし映像が切り替わり、そこには先程の事を行ったハーデスが映し出された。
それにより人々はその場から逃げ出そうと走り始める。
しかし、どこに行っても目に入るため次第に人々は逃げるのを諦め映像に目を向ける。
そして、それを見ているかのかのようにハーデスはタイミングを合わせて話し始めた。
「人間たちよ、落ち着いて我が声に耳を傾けよ。我はお前たちには手を出さない。我がこのたび地上に現れたのはバストル聖王国という愚かな国が我が管理する魂を持ち去ったためである。我はこの世界の主神が責任は全て地上の者にあると言う言葉の通り、彼の国へと神罰を執行する。恐らく多くの者が死に至るだろう。だが神の怒りがどのような物かを理解してもらうために我は今から彼の国へと向かう。この映像を見ている者よ、心清くあれ。さすれば我の神罰はその者へ死を与える事はない。」
そこまで言うとハーデスは背中を見せて歩き始めた。
そして、次第に離れて行くと全ての映像は消え、いつもの街の風景へと戻る。
すると次第に落ち着いてきた人々は、次第に信じられない事実に気付き始めた。
彼の言葉はなぜかあの恐怖の中でも自然と耳に入り記憶に残っている。
そのためあの神の言葉を聞いた多くの人々が一つの答えへと行きついた。
もしかして、この世界の主神は自分達を見捨てたのではないか。
そのような思考に行きついた人々は自分達が神と呼ぶ者に対して疑問を持ち始めた。
そしてこの情報は商人や冒険者を経由して世界各地へと拡散していく。
その後、これは世界が変わる一つの大きな流れとなる。
しかし、なぜこの世界へハーデスが来たのか?
それを知るには少し時間が巻き戻る。
数日前、天照たちはカティスエナを脅し・・・。いや、オハナシをしてあの世界の人間たちへ神罰を下す許可をもぎ取った。
その後、一行はそのまま少し寄り道をした後に出雲へと向かい転移を行った。
しかし、転移した先には予想外の光景が待ち構えていた。
転移した直後、天照以外の3人の神。
スサノヲ、雷神、カグツチは凄まじい気配を感じ戦闘態勢を取る。
そして、周りを見回せばいつもは既に始まっているはずの宴会の声は聞こえてこない。
さらにこの空間は天照の力により常に空は晴れているはずなのに黒く厚い雲に覆われ夜の様に暗くなっている。
3人は天照を囲むように隊形を組みスサノオを先頭に進んで行った。
そして4人が社へと上がる階段の前に差し掛かった時。
社の扉の一つが音もなくゆっくりと開き、そこから一人の神が姿を現した。
その神物は社から出るとこちらへと歩み寄り軽く頭を下げる。
「すまない。私は北欧の神ハーデスという。我は冥界の王にして死を司っているゆえ、あなたを待つ間に少しこの空間に影響を与えてしまったようだ。許していただきたい。」
そしてその姿にスサノオ達は警戒は解かないまでも攻撃態勢は解除した。
その姿にハーデスは苦笑いを浮かべるが彼にとってはいつもの事なので気にはしなかった。
ただ、少し寂しい感情が心を過る。
その様子にあえて触れず天照は言葉を返した。
「いえ、気にしては居りません。この空間も私が戻った事でしばらくすれば元に戻るでしょう。それで今日来られたのはもしや行方不明の魂に心当たりがあっての事ですか?」
実は今回召喚された者で百合子の方は時期も分っていたためすぐに確認が出来た。
しかし、アリスの方はいまだに確認が取れていない。
そのため天照は自分達が管理する地域だけでなく、他の地域や世界にも問いかけて確認を取った。
すると名前は違うが他の世界でも似たようなことがこの1000年の間に何件か確認されている。
しかし、その中にアリスと言う名前は無く、いまだに捜索中であった。
そしてハーデスは天照の問いに頷くと状況を話し始めた。
「ここ1000年ほど魂が数名。我の管轄から盗まれる事態が続いている。そして19年前にもアリスと言う少女が行方が分からなくなっていた。念の為に周りの世界にも問い合わせたがどの世界の神もこちらからは召喚していないと言ってな。半分諦めていたのだ。」
すると天照を含め事情を知っている3人の神は納得して頷いた。
そしてその頃には天照が言ったように雲は晴れ、日が差し始めて5人を照らし出した。
その光景はまるで、この1000年の悲しみが終わるのを祝福するようである。
「分かりました。それでしたら少し場所を変えましょう。ちょうどこちらとあちらの世界の狭間に部屋が用意してあります。そこで今こちらで分かっている事をお話しましょう。少し中の者と話してきますのでお待ちください。」
そう言って天照は急ぎ足で社へと入って行く。
そして、そこに居る妹に声を掛け再び出かける事を伝えた。
「月読、私はあちらの神と出かけてくるのでここの事は任せましたよ。」
そう声を掛けると、とても優しく透き通るような声で「お任せください。」と言う声が聞こえ、天照が再び社から出てくる。
そして今度は何故かカグツチへと近づいて声を掛けた。
「カグツチ、あなたの所のお酒はとても美味しいと聞きました。もし持ってるなら彼らに提供してもらえませんか。彼の気に当てられている者も多いので盛り上げるにはいい切っ掛けにになるでしょう。」
カグツチは頷くと社へと入って行き、異空間にしまってあった酒を取り出して周りへと配って回る。
すると先程まで葬式の様な顔をした者達は彼女の酒を飲んだ瞬間に狂喜乱舞した。
みな、口々にその酒を褒め称え次々と飲み干していく。
その様子に捕まると面倒な事になると気付いたカグツチは、逃げる様にして天照の元まで戻って行った。
そして、気付が利きすぎた事を中の声から察した天照たちも急いで転移を行いその場から離れるのであった。
部屋に着くと天照は話をする為に椅子とテーブルを作り出し、全員に座るように勧めた。
そして宴会に参加し損ねたスサノオは自分の懐からここに来る前に出雲の社でくすねた料理を取り出して並べて行く。
ちなみに日本の神々は服の空いている所に異空間の入り口を作る。
スサノオの服は前がゆったりしているので懐から。
カグツチは巫女の様な服を着ているので袖から出す。
ちなみに一部の趣味神はポケットから出したりする
天照はそんなスサノオに微妙な顔を向けるが、今回は意外な所で役に立っているためあえて何も口にはしない。
そしてスサノオはテーブルが埋まるほどの料理を取り出すと笑顔でカグツチに手を伸ばした。
するとカグツチも半分予想していたのか素直に酒を取り出し彼に渡しす。
「おお、さすが分かってるな。これはあれか。あの時のあの酒と同じか?」
あのあのと言っているが、それは自身が正気を失う程に美味かった酒かと言う事だろう。
そしてスサノオは目を輝かせ今にも酒の瓶にキスをしそうな勢いで問いかけている。
その様子に皆、呆れが多大に含まれた視線を向けるがスサノオにとってはいつもの事なので気にはならない。
それよりも手の中にある酒の事が重要であるためスサノオはカグツチの返答を待たずに瓶の栓を抜いた。
すると部屋一面に芳醇な香りが広がり酒をよく飲む4人の男神は無意識に喉を鳴らす。
そしてその様子にスサノオはニヤリと笑うと当然準備してあった4つの盃にそれぞれ注ぎ彼らの前に置いた。
当然カグツチはお酒を飲まないので彼女の前には何処から持ってきたのかファ〇タと書かれたボトルが置いてある。
これこそまさに現代ファンタジー。
そしてそれぞれが盃を持つと、まずは乾杯を行い酒に口を付けた。
その途端スサノオ以外の3人は動きが止まり次に感嘆の溜息をこぼした。
「これは美味しいですね。日本のお酒とはまた違った味がします。」
「そうだな。我々が呑むネクタルと言う神専用の酒があるが、これはそれを凌駕している。」
「ははは、こりゃ社では壮絶な奪い合いになっておるかもしれんなあ。」
そう言って雷神は笑っているが天照は確実に起きているだろうと確信が湧いて来る。
そして心の中でそんな状況を作り出してしまった事と、それを任せてきた月読へ密かに謝罪をする。
天照はある程度食が進んだ頃を見計らい話を切り出した。
「ハーデス殿、それでアリスと言う少女に心当たりがありますか。」
「おそらく私が見ている地域の者だろう。19年前に魂ごと行方不明になっているのでおそらくその子だろうな。しかし、まさか異世界にいるとはな。私が問い合わせた時は本当に知らないようだったがどういうことなのだ。」
そして天照は彼の問いに答えるために自分が持つ情報を全て伝えた。
17年前に勇者として冬花と言う少女があの世界へと呼ばれた事。
つい先日、同じ世界の神がその冬花を手伝わせるために蒼士と言う少年を連れて行った事。
その手段がこちらの世界の神の決まりを無視した行いであった事。
さらに、彼らが行った世界で今問題になっている百合子とアリスを発見しこちらに連絡してきたこと。
召喚したのは神ではなく、神より与えられた召喚術を悪用している人間による物である事。
そして、その世界の主神より人間に天罰を与える許可を既に取っている事。
ハーデスは全ての説明が終わるまで腕を組んで静かに聞いていた。
しかし、最後の所で首を傾げて「何・・・?」と声を漏らす。
きっと、どの世界の神だろうとまともな神ならそんな反応をしてしまうだろう。
どのように受け取ってもこれは召喚陣を与えた神の怠慢であり、責任はその神個人にある。
確かにまったく無いとは言い切れないがそれでもそこはその世界の神が責任を持って対応する所だ。
しかしカティスエナは謝罪も誠意もなく、ただ全ての責任を人間に押し付けた。
ちなみに神はとてもしぶとい。
たとえその時は滅んでも信仰などから力を得て復活する。
しかし、神が人間に怒りをぶつけると手加減しても死ぬ。
しかも魂ごと消滅してしまうかもしれない。
そのため神は自然災害を使って天罰を与えるのだ。
そうすれば死んでも魂は冥府へ帰り輪廻の輪に戻って行く。
一部はそのまま冥界に残り自分たちの仕事を手伝っている者もいるがそれは完全な例外である。
そう言った者たちはある理由から魂が変質しており輪廻の循環に加われなくなっている者たちなのだ。
「そんな神が主神でよくやって来れたな。」
ハーデスはそんな感想を口にして呆れと共に溜息をこぼす。
「それで天罰はどれほどの規模を考えているのだ。」
「こちらでは問題の二人の回収もありますがもしかすると魂だけでも回収できるかもしれません。そのため神選を進めていますがいまだに丁度いい神が見つかっておりません。我が国の神は極端な者が多いので。」
するとハーデスは目を瞑り考え始める。
しかし、それほど時間をかける事なく目を開くと天照へと提案をした。
「それなら俺が行こう。俺ならたとえ魂だけの者達であろうと亡者として連れて帰れる。それにこれは勘だが、おそらく召喚された者の大半は恨みを持ったままで彷徨っているだろう。そんな者達が相手だろうと俺なら彼らを容易に回収できる。」
するとハーデスの提案に天照は悩み始める。
恐らく今回の事で日本の神では彼以上の適任者はいないだろう。
それに百合子は雷神が迎えに行くとしてもアリスは北欧の神々から誰か迎えに行ってもらう予定でいた。
そして天照は自分の考えをハーデスへと伝える。
「それならついでにあの国への天罰、アリスと魂の回収をお願いしてもいいですか?」
「アリスと魂の回収は構わないが天罰までこちらでしてもいいのか?そちらもかなりあちらの世界には思う所があるようだが。」
ハーデスはそう言って雷神に目を向ける。
雷神は天照が説明をしている最中に時々かなりの怒りと殺気を漲らせていた。
恐らく今回連れていかれた百合子と言う少女がこの神の関係者ではないかと予想する。
しかし、それを踏まえて天照はハーデスに追加で説明をし始めた。
「確かに、召喚された百合子は彼の直属の巫女です。しかし、彼が行くと歯止めが利かず、人類を皆殺しにするかもしれません。彼もそうなれば堕ちてしまうかもしれませんからね。今回は彼女が無事戻って来る事で我慢してもらいます。」
「そうか、それなら有難くその話を受けよう。」
そう言ってハーデスは立ち上がると扉へと向かう。
「今から我らが主神のオーディンに説明をしてくる。明日には戻るのでその時にまた会おう。」
そう言って扉から出ると転移して去って行った。




